本記事の内容
本記事は有限アーベル群の基本定理の証明を順を追って解説する記事です。
本記事を読むに当たり、アーベル群、位数、同型、中国式剰余定理について知っている必要があるため、以下の記事も合わせてご覧ください。
↓アーベル群の記事
↓位数の記事
↓同型の記事
↓中国式剰余定理の記事
今回から数回に渡ってやること
今回から数回に渡って何をするかというと、結論としては、以下の定理を証明します。
定理0.(有限アーベル群の基本定理)
GGが有限なアーベル群ならば、整数e1,…,en≥2e1,…,en≥2が存在して、i=1,…,n−1i=1,…,n−1に対してei|ei+1ei|ei+1を満たし、 G≅Z/e1Z×⋯×Z/enZ となる。また、この条件を満たすe1,…,enは一意的に定まる。ただし、n=0のときはG≅{0}と解釈する。有限アーベル群の基本定理は何を言っているのか?
要するに、有限アーベル群の基本定理は何を言っているのか、というと
ということです。
もっと平たく言えば、「有限なアーベル群は”いい具合に”商群の直積に分解することができる」ということです。
証明の流れ
主張を言い換えてみます。
e≥2を整数とすれば、相異なる素数p1,…,ptによりe=pa11⋯pattと素因数分解できます。
ここで、中国式剰余定理を使います。
定理1.(中国式剰余定理)
m,n≠0が互いに素な整数ならば、 Z/mnZ≅Z/mZ×Z/nZ である。定理1.(中国式剰余定理)の証明は【代数学の基礎シリーズ】群論編 その28を御覧ください。
中国式剰余定理を使うことで、
Z/eZ≅Z/pa11Z×⋯×Z/pattZ
です。
したがって、有限アーベル群の基本定理のGは位数が素数べきの巡回群の積で表されることになります。
そこで、有限アーベル群の基本定理の代わりに、次の定理を証明することにします。
その証明の跡で、有限アーベル群の基本定理が以下の定理から従うことを示します。
定理00.(有限アーベル群の基本定理2)
Gを有限なアーベル群とするとき、次の1.、2.が成り立つ。- 素数p1,⋯,pt(重複を許す)と正の整数a1,⋯,atが存在して Z/eZ≅Z/pa11Z×⋯×Z/pattZ となる。また、pa11,⋯,pattは順序を除いて一意的に定まる。
- 素数pに対して、G(p)をpi=pであるi全てに属するZ/paiiZの直積とすると、Gは全てのG(p)の直積であり、G(p)はGのシローp部分群である。
定理00.(有限アーベル群の基本定理2)の証明の流れ
- 同型写像の存在
- |G|がpベキであることの証明→今回
- Gが巡回群の直積となることの証明
- 同型写像を作る。
- 存在する整数の一意性
- 上の分解が直積因子の順序を除き一意的であることの証明
- 一般の場合の直積因子の一意性の証明
今回は1.-1.を示します。
いざ、証明(Part.1)
群Gの演算は加法的に+と書き、単位元も0と書くことにします。
|G|=n=pamとします。
ただし、pは素数、a>0で、pとmは互いに素とします(m=1の場合も含みます)。
g∈Gとすると、位数がそれぞれpa、mの約数の要素x,yが存在して、g=x+yと書けることを示します。
pa,mは互いに素なので、paα+mβ=1となるような整数α,βが存在します。
x=mβg、y=paαgとすると、
g=(paα+mβ)g=x+y
となり、
pax=nβg=0,my=nαg=0
です。
よって、x,yの位数はそれぞれpa,mの約数です。
H={x∈G|pax=0},K={x∈G|mx=0}
とすると、H,Kは部分群です。
z∈H∩Kならば、paz=mz=0なので、z=(paα+mβ)z=0yとなります。
故に、H∩K={0}です。
ここで、次の事実を使います。
命題2.
Gが群、H,K⊂Gが正規部分群でH∩K={1G}、HK=Gとする。このとき、Gは直積H×Kと同型である。命題2.の証明は【代数学の基礎シリーズ】群論編 その28を御覧ください。
先程、H+K=Gとなることを証明したので、命題2.からG≅H×Kです。
もし仮に、|H|がpベキでないならば、|H|はp以外の素数qで割り切れます。
Hのシローq部分群(【代数学の基礎シリーズ】群論編 その27をご覧ください)をFとすれば、Fは位数がqb (b>0)という形の要素wを含みます。
paw=qbw=0であり、pa、qbは互いに素なので、先程と同様の議論でw=0となって矛盾です。
故に|H|はpベキです。
m<nなので、|G|に関する数学的帰納法により、Kは位数が素数ベキの群の直積となるわけです。
追記:証明(Part1)の別証明
別証明をご紹介します。
今回証明することを主張の形で明示すると、以下になります。
命題3.
有限なアーベル群Gの位数|G|が命題3.の証明
群Gはアーベル群というだけなので、演算はどのように書いてもOKです。
ここでは、表記の見てくれが(個人的に)スッキリしていると思う加法+を使うことにします。
クドいようですが…
群Gの演算を加法的に表すということは、x,y∈Gに対して、xとyに演算を施した結果をx+yと書く、という意味です。証明は、mに対する数学的帰納法で証明します(mは|G|の素因数の数)。
m=1のときは、そもそも|G|が素数のベキになるということ、つまりはG自身がシロー部分群になってしまう、ということなのでOKです。
ここで、
L={x∈G|(pa22⋯pamm)x=0}
とします。
条件式(pa22⋯pamm)x=0は、「xをpa22⋯pamm回足す」という意味です。
ちなみに、群の演算を+でなく×とすれば…
L={x∈G|xpa=1}となります。①LはGの部分群
(pa22⋯pamm)0=0となるため、0∈Lです。
任意のx,y∈Lに対して、
- (pa22⋯pamm)(x+y)=(pa22⋯pamm)x+(pa22⋯pamm)y=0+0=0
- (pa22⋯pamm)=(−x)=−(pa22⋯pamm)x=−0=0
となります。
したがって、x+y∈Lかつ−x∈Lです。
②|L|=pa22×⋯×pamm
各t≥2に対して、G(pt)⊆Lです。
実際、G(pt)は位数がpattの群であるため、任意のz∈G(pt)に対して(patt)z=0となるから、G(pt)はLの部分群です。
また、①によりL⊂Gだから、G(pt)⊆L⊂Gとなります。
ここで、ラグランジュの定理の系を使います。
系4.
Gを有限群とするとき、次の1.、2.が成り立つ。- HがGの部分群ならば、|H|は|G|の約数である。
- g∈Gの位数は|G|の約数である。
系4.の証明は【代数学の基礎シリーズ】群論編 その15を御覧ください。
系4.から|L|はG(p2)の位数、G(p3)の位数、…、G(pm)の位数、すなわちpa22、pa33、…、pammのすべてを約数に持ちます。
したがって、
|L|=pc11⋅pa22⋯pamm
という形しかありえない、ということになります。
では「c1は?」という話ですが、仮にc1≥1だったとすると、|L|の素因数としてp1が出現することになります。
ここで、次の事実を使います。
命題5.
|G|の素因数pに対して、Gは位数pの要素を含む。命題5.の証明は後日行い、本文に明示します。
さて、命題5.を認めれば、Lは位数p1の要素を含まなければいけません。
しかしながら、位数p1の要素はp1の倍数でない限りは0になりえません。
故に、c1=0でなければなりません。
したがって、
|L|=pa22⋯pamm
ということになります。
すると、帰納法の仮定が使えて、L≅G(p2)×⋯×G(pm)となります。
③G≅G(p1)×L
もしこれが示されれば、G≅G(p1)×⋯×G(pm)となります。
さて、φ:G(p1)×L⟶Gをφ(x,y)=x+yで定めます。
ちなみに、x∈G(p1)、y∈Lですが、P1⊆L⊂Gであるため、x,y∈Gだから和を取ることができます。
Gはアーベル群ですので、φは群の準同型写像です。
もし、このφが単射であれば、φは有限集合から有限集合への写像であって、しかも、双方の要素の数が(今回は位数)pa11⋯pammで一致しているため、全射でもあります。
すなわち、φが全単射ということになり、φは同型写像となるわけです。
そこで、φの単射性を証明します。
(x,y)∈Ker(φ)とすると、φ(x,y)=x+y=0、つまりx=−yです。
今、x∈G(p1)でありy∈Lであるため、x=−y∈G(p1)∩Lです。
再度系4.からG(p1)の位数は、pa11の約数であり、Lの要素の位数はpa11⋯pammの約数です。
つまり、位数が1ということです。
位数が1ということは、x,yはともに単位元、すなわち(x,y)=(0,0)です。
故に、任意の(x,y)∈Ker(φ)が(x,y)=(0,0)ということから、Ker(φ)は単位元のみからなる集合だ、ということがわかります。
ここで、次の事実を思い出します。
定理6.
準同型写像ϕ:G1⟶G2が単射であるための必要十分条件は、Ker(ϕ)={1G1}となることである。定理6.の証明は【代数学の基礎シリーズ】群論編 その3を御覧ください。
定理6.から、φは単射です。
φの定義域と値域の要素の数(今回は位数)を確認すれば、ともに
pa11⋯pamm
となっています。
そして、φは有限集合から有限集合への写像であって、しかも要素の数が一致しているような単射であるから、全射でもあります。
故に、φは全単射のため、φは同型写像です。
したがって、G≅G(p1)×Lとなります。
命題3.の証明終わり
ちなみに
この部分の証明は龍孫江様の証明を参考にさせていただいております。皆様のコメントを下さい!
数回に渡って、古代ギリシャで生まれた数学(特に幾何学)がデカルトの出現により大きく変化したということについて少々語ります。
前回は、記法により数学が、特に代数が質的に変化した、という話をしました。
幾何学的量の演算の制限を取り除き、幾何学の問題を代数的に捉えてそれを記号を用いて解くことは、フランスの哲学者であり数学者であったデカルトにより行われました。
デカルトは、「方法序説」(1637)の中で、単位の長さ(数の1に当たる)を固定し、2つの線分の掛け算と割り算を、その結果が再び線分となるように定めたのです(図では1が単位の長さを持つ線分を表します。)
その際、比例の理論が重要な役割を果たしました。

直線lを固定し、その上に2点OとEを取ります。
このときOEを単位の線分とするこ とにより、lは加減乗除の演算を持つ系(代数系)と考えることができます。
例えば、A,Bをlの点とするとき、lの点C,DをOC=OA+OB及びOD=OA⋅OBとなるようにそれぞれ選び、足し算A+Bの結果をC、掛け算A⋅Bの結果をDとして定めれば、加法と乗法が直線l上で定められます。
減法、除法も同様にして定められます。
さらに平方根も定めることが可能であり、このことから直線と円の交わりを求める問題は2次方程式に帰着します。
特別な点O,Eはそれぞれ数における0と1の役割を果たしています。
この固定された直線lにより、ユークリッド幾何学の問題はすべて代数の問題に帰着すること、これがデカルトが考えたことなのです。
今回はここまで。
感想など是非コメントをお待ちしています!
結
今回は、有限アーベル群の基本定理の証明の一部を解説しました。
有限アーベル群の基本定理は、「任意の有限アーベル群が巡回群の直積に同型である」という主張の定理です。
つまり、極端に言えば有限で、かつ可換な群であれば”いい具合に”商群の直積に分解できる、ということです。
次回は今回の続きとして、Gが巡回群の直積となることの証明を行います。
乞うご期待!
質問、コメントなどお待ちしております!
どんな些細なことでも構いませんし、「定理〇〇の△△が分からない!」などいただければお答えします!
お問い合わせの内容にもよりますが、ご質問はおおよそ一週間以内にお答えします。
コメントをする
H={x∈G│p^ax=0}なら│H│=p^aではないでしょうか。後半で、│H│がpべきでなければ、とあるのはどうしてでしょうか。ここでは群を加法的に考えているのですよね。
H={x∈G│p^ax=0}なら│H│=p^aではないでしょうか。
この主張は、ヤフー知恵袋での、同じ雪江先生の教科書で、K={x∈G│mx=0}に対して│K│=mと回答者が答えているのを踏まえています。
リンクを貼っておきます。
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q13268734493?__ysp=6Zuq5rGf44CA44Ki44O844OZ44Or44CA5Z%2B65pys5a6a55CG
naru様
まとめてお答えします。
まず、
>H={x∈G│p^ax=0}という表記がわかりにくいです。加法的ではなく乗法的に表すとH={g∈G│g^n=0}みたいな感じなのでしょうか。でもこれは巡回群を表しているとは言えないし…
とのご指摘ですが、群Gの演算を加法的に書いたのは、今回の場合は乗法的に書くよりも加法的に書く方がスッキリとした表現だと感じているからです。
もちろん、加法的でなければならないわけではありません。
ちなみに、pax=0の意味は、「xをpa回足し合わせたもの(今回のGの演算は加法としている為)が0と等しい」という意味であり、これをあえて乗法的に表すとするならば、「xをpa回掛け算して単位元と等しい」ということですので、H={x∈G|xpa=1}という表記になります。
このように書いてしまうと、xの肩に更に指数が乗ることになり、表記としてあまり見やすくないと感じています。
これは好き好きですので、本ブログではこの表現(つまり加法的な表現)のままとさせていただきます。
次に、
>H={x∈G│p^ax=0}なら│H│=p^aではないでしょうか。
とのご質問ですが、結論から申し上げて、おっしゃる通りです。
証明の該当部分、すなわち「|H|がpべきでなければ、…」の部分は、結局の所、|H|がpべきであることを証明しています。
naru様は
H={x∈G|pax=0}
を見た瞬間、「|H|=paだから|H|はpべきだよね」と直ちにお思いになったのではないでしょうか。
そのため、「なぜあえて|H|がpべきでない場合を考える必要があるのか?」という考えに至ったのではないでしょうか。
本ブログの文章としては、Hを定た後に「Hがpべきである」ということを「|H|がpべきでないならば…」と背理法で証明している、というわけです。
P.S. たしかにこの記事の証明はあまり分かりやすいとは言えないかもしれませんので、他の方の別証明を追記致します。
H={x∈G│p^ax=0}という表記がわかりにくいです。加法的ではなく乗法的に表すとH={g∈G│g^n=0}みたいな感じなのでしょうか。でもこれは巡回群を表しているとは言えないし…
H={x∈G│p^ax=0}という表記は何を表しているのでしょうか。ここで、3次対称群の乗法的な場合を考えてみます。
H={σ∈S_3│σ^2=1}とします。
すると、H={(1)、(12)、(13)、(23)}となり、これはGの部分群とは言えないのではありませんか。
naru様
①>H={x∈G│p^ax=0}という表記は何を表しているのでしょうか。
とのことでしたが、これは以前お答えしている通りです。
pax=0の意味は、「x∈Gをpa回足し合わせたもの(今回のGの演算は加法としている為)が0(単位元)と等しい」という意味です。
ちなみに
これをあえて乗法的に表すとするならば、「xをpa回掛け算して単位元と等しい」ということですので、H={x∈G|xpa=1}という表記になります。
したがって、H={x∈G|pax=0}は「Hは、pa回だけ足し合わせたときに単位元と一致するようなx∈Gの集合である」という意味になります。
今回は群Gの演算を加法としておりますので”足し合わせた”という表現を使っていますが、群Gの演算を加法としないのであれば、「Hは、x∈Gにx自身をpa回だけGの演算で施したとき、Gの単位元と一致するようなx∈Gの集合である」と言うこともできます。
②>H={σ∈S_3│σ^2=1}とします。すると、H={(1)、(12)、(13)、(23)}となり、これはGの部分群とは言えないのではありませんか。
とのことでしたが、まず、この記事で扱っている群はそもそもアーベル群(可換群)です。
対称群は一般にアーベル群ではありません(簡単に確かめられます)。
したがって、対称群は有限アーベル群の基本定理の理解のための例にはなりえないということを、ご注意下さい。
さて、集合GおよびHを
G=S3
(すなわち、3次の対称群)、および
H={σ∈G=S3|σ2=1}
で定めます。
ただし、σ2はσとσ自身の合成写像σ∘σを、1は{1,2,3}から{1,2,3}自身への恒等写像を表します。
このとき、naru様のご指摘の通り、
H={(1), (1 2), (1 3), (2 3)}
となり、HはG=S3の部分群とはなりえません(実際、(1 2)(1 3)∉H)。
本記事において考察している群Gは、アーベル群であるため、HがGの部分群となります(簡単に確かめられます)。
つまり、何がいいたいかと言うと、
G=S3、H={σ∈G=S3|σ2=1}のときはHはGの部分群にはならない。
しかし、本記事ではGがアーベル群でるためH={x∈G|pax=0}(ただしGの演算は和と捉えている)はGの部分群となる。
ということです。