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「4次方程式の解の公式(もはやお手上げなほど長い公式)」【代数学の基礎シリーズ】群論編 その10

代数学

本記事の内容

本記事は4次方程式の解の公式を解説する記事です。
本記事を読むにあたり、3次方程式の解の公式について知っているとより理解が深まると思われますので、以下の記事も合わせてご覧ください。

本記事を読む前に…

本記事の目標は4次方程式の解の公式を導出し、紹介することです。
その他に、3次方程式と4次方程式の解の公式の歴史についても紹介しようと思います。

「4次方程式の解の公式が早く知りたい!」という方は4次方程式の解法まで飛んでください。

3次方程式と4次方程式の解の公式の歴史

2次方程式の解の公式は古くから知られていました。
3次方程式のベキ根による解法は、デル・フェロ(del Ferro)、タルタリア(Tartaglia)、カルダノ(Cardano)、フェラーリ(Ferrari)により、15世紀に見つけられました。
4次方程式のベキ根による解法はフェラーリにより同時期に見つかられました。
3次方程式の開放に関してカルダノとタルタリアの間で激しい争いがあった、というのは数学界隈では有名な話です。

当時のイタリアでは数学に関して金銭を賭けた公開討論会のようなことがなされていました。
そのような場合、方程式の解法を知っていることはとても有利に働きました。
そのため、当事者が数学的事実を発見してもすぐに公表されることはありませんでした。

3次方程式のベキ根による解法を最初に見つけたのはデル・フェロであると言われています。
デル・フェロはこの公式を発表することなく亡くなってしまいましたが、公式は弟子に託していました。
その一人フィオルはこの公式を使って公開討論会に勝ち続けていました。
3次方程式に開放があるという噂をもとにタルタリアは独力で3次方程式の解法を発見し、フィオルとの勝負でも勝利しました。

これを聞いたカルダノは、タルタリアから3次方程式の解の公式を教えてもらいました。
しかし、後にカルダノはデル・フェロがすでに3次方程式の解法を得ていたという噂をもとにボローニャに行き、デル・フェロの養子のナーヴェに愛、デル・フェロの遺稿を見せてもらうことになります。
その時点でタルタリアが3次方程式の解法の最初の発見者でないと判断したカルダノはタルタリアとの約束を守る必要がないと考えて、著書『アルス・マグナ(Ars Magna)』を発表しました。
これは当然タルタリアを激怒させましたが、カルダノは著書の中で、3次方程式の解法はデル・フェロが見つけたものであり、また、タルタリアも独立して解法を発見していて、自らはタルタリアから解の公式を教わったことを書いています。

故に、現代的な価値観から言えば、カルダノの態度は責められないかもしれません。
ただ、この公式が「カルダノの公式」として世の中に流布したのは、ある意味では間違ったことです。
このせいでカルダノは悪者として扱われることも多いのです。
この辺の事情に関しては、『カルダノの生涯』が詳しいです。

なお、タルタリアというのは「どもる人」というあだ名であり、本当の名はフォンタナといいます。
彼は子どもの頃、フランス軍による襲撃を受けて、その負傷の後遺症でどもるようになりました。
後には彼自身「タルタリア」を名乗るようになりました。

4次方程式の解法

では、4次方程式の解法について説明します。

どういう状況を考えるか?

これは3次方程式の場合と同じです。
【代数学の基礎シリーズ】群論編 その9と合わせてご覧いただくと良いと思います。
\begin{eqnarray}
f(x)&=&(x-\alpha_1)(x-\alpha_2)(x-\alpha_3)(x-\alpha_4)\\ \tag{1}
&=&x^4+a_1x^3+a_2x^2+a_3x+a_4
\end{eqnarray}
とします。

なぜこの場合、すなわち4次の項の係数が1の場合を考えるかというと、3次方程式の場合と同じです。
4次方程式\(ax^4+bx^3+cx^2+dx+e=0\)において、「4次方程式」という仮定から\(a\neq 0\)です。
故に
$$
ax^4+bx^3+cx^2+dx+e=0\Longleftrightarrow x^4+\frac{b}{a}x^3+\frac{c}{a}x^2+\frac{d}{a}x+\frac{e}{a}=0
$$
となるため、
$$
a_1=\frac{b}{a},\quad a_2=\frac{c}{a},\quad a_3=\frac{d}{a},\quad a_4=\frac{e}{a}
$$
と書き直すことで、(1)の状況を考えれば良いことになります。

目標の確認

3次方程式のときと同様に、簡単な計算で
\begin{eqnarray}
&&a_1=-\sum_{1\leq i\leq 4}\alpha_i,\\
&&a_2=\sum_{1\leq i<j\leq 4}\alpha_i\alpha_j,\\
&&a_3=-\sum_{1\leq i<j<k\leq 4}\alpha_i\alpha_j\alpha_k,\\
&&a_1=\alpha_1\alpha_2\alpha_3\alpha_4
\end{eqnarray}
となります。

目標は、3次のときと同じで

\(\alpha_1,\alpha_2,\alpha_3\)を\(a_1,a_2,a_3,a_4\)を用いて表すこと。

です。

計算しやすいように新たな変数を用意して、3次方程式に帰着させる。

\begin{eqnarray}
&&\tau_1=\alpha_1\alpha_2+\alpha_3\alpha_4,\\
&&\tau_2=\alpha_1\alpha_3+\alpha_2\alpha_4,\\
&&\tau_3=\alpha_1\alpha_4+\alpha_2\alpha_3
\end{eqnarray}
として、
$$
g(x)=(x-\tau_1)(x-\tau_2)(x-\tau_3)
$$
とおきます。

このとき、以下が成り立ちます。

命題1.

\(g(x)=x^3+b_1x^2+b_2x+b_3\)と表したとき、 $$ b_1=-a_2,\quad b_2=a_1a_3-4a_4,\quad b_3=-a_4\left(a_1^2-4a_2 \right)-a_3^2 $$ である。

命題1.の証明

$$
-b_1=\tau_1+\tau_2+\tau_3=\sum_{1\leq i<j\leq 4}\alpha_i\alpha_j=a_2
$$
です。

\(b_2,b_3\)は
\begin{eqnarray}
b_2&=&\tau_1\tau_2+\tau_1\tau_3+\tau_2\tau_3\\
&=&\sum_{\substack{1\leq i<j\leq 4\\ k\neq i,j}}\alpha_i\alpha_j\alpha_k^2\\
&=&\left( \sum_{1\leq i<j<k\leq 4}\alpha_i\alpha_j\alpha_k\right)\left( \sum_{1\leq l\leq 4}\alpha_l\right)-4\alpha_1\alpha_2\alpha_3\alpha_4\\
&=&a_1a_3-4a_4,\\
-b_3&=&\tau_1\tau_2\tau_3\\
&=&\left( \sum_{1\leq i\leq 4}\alpha_i\right)\alpha_1\alpha_2\alpha_3\alpha_4+\sum_{1\leq i<j<k\leq 4}\alpha_i^2\alpha_j^2\alpha_k^2\\
&=&a_4\left( a_1^2-2a_2\right)+a_3^2-2a_2a_4\\
&=&a_4\left( a_1^2-4a_2\right)+a_3^2
\end{eqnarray}
となります。

命題1.の証明終わり

方程式\(g(y)=0\)のことを4次方程式\(f(x)=0\)の3次の分解方程式といいます。
3次方程式の解はベキ根で表せる、ということは前回示したことで分かっていることですので、\(\tau_1,\tau_2,\tau_3\)はベキ根を使って表すことができます。

\(a_1=0\)としても良い事がわかる。

変数変換\(\displaystyle x\to x-\frac{a_1}{4}\)によって、\(a_1=0\)とできます。
実際、

  • \(\displaystyle \left( x-\frac{a_1}{4}\right)^4=x^4-a_1x^3+\frac{3a_1^2}{8}x^2+\frac{a_1^4}{16^2}-\frac{a_1^3}{16}\)
  • \(\displaystyle \left( x-\frac{a_1}{4}\right)^3=x^3-a_1x^3-\frac{3}{4}a_1x^2+\frac{3}{16}a_1^2x-\frac{a_1^3}{64}\)
  • \(\displaystyle \left( x-\frac{a_1}{4}\right)^2=x^2-\frac{a_1}{2}x+\frac{a_1^2}{16}\)

であるため、
\begin{eqnarray}
f\left( x-\frac{a_1}{4}\right)&=&\left( x-\frac{a_1}{4}\right)^4+a_1\left( x-\frac{a_1}{4}\right)^3+a_2\left( x-\frac{a_1}{4}\right)^2+a_3\left( x-\frac{a_1}{4}\right)+a_4\\
&=&x^4\color{red}{-a_1x^3}+\frac{3a_1^2}{8}x^2+\frac{a_1^4}{16^2}-\frac{a_1^3}{16}\color{red}{+a_1x^3}-a_1^2x^3-\frac{3}{4}a_1^2x^2+\frac{3}{16}a_1^3x-\frac{a_1^3}{64}a_1\\
&&a_2x^2-\frac{a_1a_2}{2}x+\frac{a_1^2a_2}{16}+a_3x-\frac{a_1a_3}{4}+a_4\\
&=&x^4+\left( -\frac{3}{8}a_1^2+a_2\right)x^2+\left( \frac{3}{16}a_1^3-\frac{a_1a_2}{2}+a_3\right)x\\
&&+\frac{a_1^4}{16^2}-\frac{a_1^3}{16}-\frac{a_1^4}{64}+\frac{a_1^2a_2}{16}-\frac{a_1a_3}{4}+a_4
\end{eqnarray}
となるため、\(x^3\)の項が消えます。
そこで、新たに
\begin{eqnarray}
&&A_1=0,\\
&&A_2=-\frac{3}{8}a_1^2+a_2,\\
&&A_3=\frac{3}{16}a_1^3-\frac{a_1a_2}{2}+a_3,\\
&&A_4=\frac{a_1^4}{16^2}-\frac{a_1^3}{16}-\frac{a_1^4}{64}+\frac{a_1^2a_2}{16}-\frac{a_1a_3}{4}+a_4
\end{eqnarray}
とすることで、もとの式は
$$
x^4+a_1x^3+a_2x^2+a_3x+a_4=x^4+A_2x^2+A_3x+A_4
$$
と書き換える事ができます。

そして、\(A_1=a_1\)、\(A_2=a_2\)、\(A_3=a_3\)、\(A_1=a_4\)と書き直して、\(a_1=0\)の場合だけ考えれば良いという話になります。

\(a_1=0\)という仮定のもとでは、
$$
b_1=-a_2,\quad b_2=-4a_4,\quad b_3=4a_2a_4-a_3^2
$$
となります。

まとめる。

\(\alpha_1+\alpha_2=t\)、\(\alpha_3+\alpha_4=s\)とおくと、\(t+s=-a_1=0\)です。
$$
ts=\alpha_1\alpha_3+\alpha_2\alpha_4+\alpha_1\alpha_4+\alpha_2\alpha_3=\tau_2+\tau_3
$$
なので、\(t,s\)は2次方程式\(x^2+\left( \tau_2+\tau_3\right)=0\)の解です。
故に、
$$
\alpha_1+\alpha_2=\sqrt{-(\tau_2+\tau_3)},\quad \alpha_3+\alpha_4=-\sqrt{-(\tau_2+\tau_3)}\tag{2}
$$
としてOKです。
同様にして、
\begin{eqnarray}
&&\alpha_1+\alpha_3=\sqrt{-(\tau_1+\tau_3)},\quad \alpha_2+\alpha_4=-\sqrt{-(\tau_1+\tau_3)},\\ \tag{3}
&&\alpha_1+\alpha_4=\sqrt{-(\tau_1+\tau_2)},\quad \alpha_2+\alpha_3=-\sqrt{-(\tau_1+\tau_2)}
\end{eqnarray}
としてOKです。

これらと等式\(\alpha_1+\cdots+\alpha_4=-a_1=0\)により
\begin{eqnarray}
&&\alpha_1=\frac{1}{2}\left(\sqrt{-(\tau_2+\tau_3)}+\sqrt{-(\tau_1+\tau_3)}+ \sqrt{-(\tau_1+\tau_2)}\right),\\
&&\alpha_2=\frac{1}{2}\left(\sqrt{-(\tau_2+\tau_3)}-\sqrt{-(\tau_1+\tau_3)}-\sqrt{-(\tau_1+\tau_2)}\right),\\
&&\alpha_3=\frac{1}{2}\left(-\sqrt{-(\tau_2+\tau_3)}+\sqrt{-(\tau_1+\tau_3)}-\sqrt{-(\tau_1+\tau_2)}\right),\\
&&\alpha_4=\frac{1}{2}\left(-\sqrt{-(\tau_2+\tau_3)}-\sqrt{-(\tau_1+\tau_3)}-\sqrt{-(\tau_1+\tau_2)}\right)
\end{eqnarray}
です。

\(\tau_1,\tau_2,\tau_3\)は\(a_1,a_2,a_3,a_4\)のベキ根を使って表すことができるのだったから、\(\alpha_1\)、\(\alpha_2\)、\(\alpha_3\)、\(\alpha_4\)は(もともとの)\(a_1,a_2,a_3,a_4\)のベキ根を使って表すことができた、ということになります。
故に目標達成です。

絶対に覚えたくないし覚える気も起きない4次方程式の解の公式の完全版

4次方程式\(ax^4+bx^3+cx^2+dx+e=0\)の解\(x_1,x_2,x_3,x_4\)はWikipediaを御覧ください。
「気合を入れて書くか!」と思いましたが、やめました。
腱鞘炎になっちゃいます。

皆様のコメントをください!

今回はユードクソスです。

ユードクソス(Eudoxos;前408年–前355年)は小アジア(現トルコ)の西端に位置するクニドス出身の数学者です。
クニドスはピタゴラスの生まれたサモス島の北に位置します。
ユードクソスはピタゴラス学派の系統にあるアルキタスに学び、その影響で立方体の倍積問題や数論、音楽理論に興味を持ったといわれています。

クニドスからアテネに渡り、プラトンの学園(アカデメイア)に「在籍」していたこともあります。
伝えられるところでは、貧しさのため彼の住処からアカデメイアまでの相当な距離を毎日歩いて通っていたと言われます。
また一説ではプラトンと意見が合わず、プラトンの分析能力に疑いを持ったともいわれています。
二人の間でどのような会話がなされたのか興味津津ですが、何も伝わっていません。
当然、数学という学問の性格に関する「本質的」議論があったはずです。
プラトンが彼の哲学を展開するに当たり、数学的思考や概念をモデルにしていたことはよく知られていることでしょう。

清貧とも言えるユードクソスですが、友人の金銭的援助によりエジプトに滞在した時期があります。
このときヘリオポリスの神官に教えを受けながら天文学を研究し、天文台での観測も行いました。
その後、各地を旅行しながら次第に名声を確立し多くの弟子を得るに至ります。
故郷のクニドスの戻ったときには民衆から歓呼の声で迎えられ、議員に選出されたりしましたが、学術的な面でも仕事を続け、神学、天文学、気象学など多岐に渡る分野の書物を書きました。
残念なことにそのすべてが湮滅しています。
幾何学については5巻からなる『原論』を書いたと言われますが、これも残っていません。
しかし、ユードクソスの数学については、喜ばしいことに間接的に彼の業績が現代に伝えられています。
ユークリッドが著した『原論』13 巻に彼の業績が埋め込まれているからです。

いかがでしたか?
ユークリッドと名前が似ていますが別人です。
歴史とは酷なもので、いくら偉大な学者がその思考を後世に残さんがために書き記したとしても、戦争やらで消失してしまいます。
ここに書いてある他にユードクソスについてご存知のことがあれば、ぜひコメントで教えて下さい!

今回は、4次方程式の解の公式を解説しました。
絶対に覚えたくないですが、4次方程式には一応解の公式があります。
3次方程式と4次方程式の歴史についてもお話しました。

次回は群作用について解説します。

乞うご期待!
質問、コメントなどお待ちしております!
どんな些細なことでも構いませんし、「定理〇〇の△△が分からない!」などいただければ全てお答えします!
お問い合わせの内容にもよりますが、ご質問はおおよそ3日以内にお答えします。
もし直ちに回答が欲しければその旨もコメントでお知らせください。直ちに対応いたします。

代数についてより詳しく知りたい方は以下を参考にすると良いと思います!

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