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「投入産出分析〜グラフ理論の応用(産業連関⑥)〜」グラフ理論編 その17

グラフ理論

本記事の内容

本記事は、レオンチェフ方程式を用いて、経済分析を行う方法について簡単に解説する記事です。

本記事を読むにあたり、レオンチェフ方程式について知っている必要があるため、以下の記事も合わせてご覧ください。

↓産業連関とは?

↓レオンチェフ方程式とは?

↓部門数が一般の場合のレオンチェフ方程式

レオンチェフ方程式の軽い復習

レオンチェフ方程式について軽く復習します。

産業連関表

以下の表を産業連関表といいます。

レオンチェフ方程式

ある年度の産業連関表が上記のように与えられたとします。

投入係数を\(a_{ij}\)、すなわち部門\(i\)からの生産量の内、部門\(j\)に需要されて使われる量は\(x_{ij}=a_{ij}x_j\)とします。
ただし、\(a_{ij}=0\)の場合は、\(i\)から\(j\)には供給が無い、と考えます。
部門\(i\)にシステムの外部から需要される量は\(b_i=f_i+e_i-m_i\)です。
従って、需要量に見合った生産が行われたのであれば、一般の場合も次の等式を得ることが出来ます。

\begin{eqnarray}
x_1&=&a_{11}x_1+a_{12}x_2+\cdots+a_{1n}x_n+b_1\\
x_2&=&a_{21}x_1+a_{22}x_2+\cdots+a_{2n}x_n+b_2\\ \tag{\(\ast\)}
\vdots&&\quad\vdots\qquad \quad\vdots\qquad\quad\qquad\quad \vdots\quad \quad\vdots\\
x_n&=&a_{n1}x_1+a_{n2}x_2+\cdots+a_{nn}x_n+b_n\\
\end{eqnarray}

ここで、右辺が需要量、左辺が生産量を表しています。

この等式を、\(a_{ij}\geq0\)が予め与えられたとき(これも投入係数呼ぶことにしますが、不等式(2)は仮定しません)、最終需要料(厳密には輸入量を引いたもの)\(b_1,\dots,b_n\ (b_i\geq0)\)に対して、それに見合う生産量(均衡産出高)\(x_1,\dots,x_n\ (x_i\geq0)\)を求める連立方程式と見ます。
要するに、\(a_{ij}\geq0\)が与えられたときに、\(b_1,\dots,b_n\ (b_i\geq0)\)に対して\(x_1,\dots,x_n\ (x_i\geq0)\)を求める連立方程式と見る、ということです。

この方程式\((\ast)\)をレオンチェフ方程式あるいは均衡産出高モデルと言ったのでした。

もし、正の付加価値が付けられるならば、更に不等式
$$
a_{1j}+a_{2j}+\cdots+a_{nj}<1\tag{\(\ast\ast\)}
$$
が成り立ちます。

viable

viable(実行可能)

均衡産出高もである、あるいは投入係数に当たる\(\left\{a_{ij}\right\}\)がviable(実行可能)とは、レオンチェフ方程式が任意の\(b_1,\dots,b_n\ (b_i\geq0)\)に対して一意的な解\(x_1,\dots,x_n\ (x_i\geq0)\)を持つことをいう。

詳しくは、【幾何学の基礎シリーズ】グラフ理論編 その13を御覧ください。

前提

“前提”という程大層なことではないのですが、本記事では、投入係数行列\(A\)がviableとし、輸入については考えないことにします。

産出量

\(A\)をレオンチェフ方程式の投入係数行列、\(I\)を単位行列、レオンチェフ逆行列\(L=\left(I-A \right)^{-1}\)の第\((i,j)\)成分を\(l_{ij}\)とします。
最終需要量のベクトル\(\boldsymbol{b}=\left( b_1,\dots,b_n\right)^\top\)に対する均衡産出量のベクトルは\(\boldsymbol{x}=\left( I-A\right)\boldsymbol{b}=L\boldsymbol{b}\)だから
$$
x_i=\sum_{j=1}^nl_{ij}b_j
$$
です。
部門\(j=1\)における最終需要量を1ユニットだけ増やし、他の部門はそのまま、とすると、新しい最終需要量のベクトルは
$$
\boldsymbol{b}^\prime=\boldsymbol{b}+\boldsymbol{e}_1=
\left(
\begin{array}{c}
b_1+1\\
b_2\\
\vdots\\
b_n
\end{array}
\right)
$$
となります。
ただし、
\begin{eqnarray}
\boldsymbol{e}_i=
\left(
\begin{array}{c}
0\\
\vdots\\
0\\
1\\
0\\
\vdots\\
0
\end{array}
\right)

\begin{array}{c}
\\
\\
\leftarrow i番目\\
\\
\\
\end{array}
\end{eqnarray}
です。
故に、この場合の均衡産出量は
$$
\boldsymbol{x}^\prime=L\left( \boldsymbol{b}+\boldsymbol{e}_1\right)=L\boldsymbol{b}+L\boldsymbol{e}_1=\boldsymbol{x}+L\boldsymbol{e}_1
$$
です。
これを成分表示すると
$$
\left(
\begin{array}{c}
x_1^\prime\\
x_2^\prime\\
\vdots\\
x_n^\prime
\end{array}
\right)=
\left(
\begin{array}{c}
x_1+l_{11}\\
x_2+l_{21}\\
\vdots\\
x_n+l_{n1}
\end{array}
\right)
$$
となり、
$$
x_i^\prime-x_i=l_{i1}
$$
を得ます。
すなわち、

新しい最終需要量に見合うようにするためには、各部門\(i\)で生産量を\(l_{i1}\)だけ増やす必要がある。

ということです。
他の部門の最終需要量の増加についても同様です。
これはレオンチェフ逆行列の成分に対する意味付けも与えています。

価格

次に価格について考えてみます。

viableな非負行列の転置行列に対するレオンチェフ方程式

非負行列\(A\)がviableなら、転置行列\(A^\top\)もviableです。
なぜなら、\(A\)の固有値と\(A^\top\)の固有値は一致するからです(これについては【線型代数学の基礎シリーズ】行列式編 その4を御覧ください)。

\(A^\top\)に対するレオンチェフ方程式
$$
\left( I-A^\top\right)\boldsymbol{p}=\boldsymbol{v}\tag{1}
$$
を考えましょう。
成分を使ってこれを表すと、
$$
p_j-\sum_{i=1}^na_{ij}p_i=v_j\quad (j=1,2,\dots,n)\tag{2}
$$
となります。
これには、次のようにして意味づけが出来ます。

(2)の意味づけ

\(p_j\)を部門\(j\)における生産物1ユニット当たりの価格(price)とします。
部門\(j\)において1ユニットの生産をするのに、部門\(i\)から\(a_{ij}\)ユニットの供給を必要としました。
従って、部門\(j\)は部門\(i\)に\(a_{ij}p_i\)を支払う必要があります。
これを全ても部門\(i\)について足し合わせた額
$$
\sum_{i=1}^na_{ij}p_i
$$
が部門\(j\)が1ユニットの生産に掛かるコストです。
故に、差
$$
p_{j}-\sum_{i=1}^na_{ij}p_i
$$
は部門\(j\)が得る利益(付加価値)です。
従って、\(v_j\)は生産物1ユニット当たりの付加価値を表しています。

要するに、どういうことですか?

要するに、今の話をまとめれば、

レオンチェフ方程式(1)は付加価値の変化が価格に与える影響を分析するための方程式である。

と考えることが出来る、ということです。

国民総所得と国民総生産の一致

一般に、次が成り立ちます。

命題1.

\(B\boldsymbol{x}=\boldsymbol{a}0\)、\(B^\top\boldsymbol{y}=\boldsymbol{b}\)であるとき、 $$ \boldsymbol{x}^\top\boldsymbol{b}=\boldsymbol{a}^\top\boldsymbol{y} $$ である。

命題1.の証明

$$
\boldsymbol{x}^\top\boldsymbol{b}=\boldsymbol{x}^\top B^\top \boldsymbol{y}=\left(B\boldsymbol{x} \right)^\top \boldsymbol{y}=\boldsymbol{a}^\top\boldsymbol{y}
$$
により証明完了です。

命題1.の証明終わり

命題1.において、\(B=I-A\)とすると、\(B^\top=I-B^\top\)だから、
$$
\boldsymbol{x}^\top\boldsymbol{v}=\boldsymbol{b}^\top\boldsymbol{p}
$$
です。
すなわち、
$$
x_1v_1+\cdots+x_nv_n=b_1p_1+\cdots+b_np_n
$$
が得られます。
この左辺は総付加価値で、右辺は最終需要の総価格です。
総付加価値は国民総所得、最終需要の総価値は国民総生産と考えて良いので、これは国民総所得と国民総生産が一致することを意味しています。

国内総生産(GDP)、国民総生産(GNP)、国民総所得(GNI)
  1. 国内総生産(Gross Domestic Product;GDP)
  2. 1年間に国内で新たに生産された財・サービスの価値の合計のこと。
    国民総生産から海外での純所得を差し引いたもの。
  3. 国民総生産(Gross National Product;GNP)
  4. 一国において一定期間に生産された財・サービスの総額。
    対外投資などを通じて海外での生産活動に貢献した報酬を含みます。
    日本では1993年から代表的指標として国内総生産(GDP)が使われるようになり、かつてほど注目されなくなりました。
    さらに2000年には国民経済計算の体系変更により国民総生産という概念自体が消滅したようです。
    ただ新体系にはほぼ同一の概念として国民総所得(GNI)があります。
  5. 国民総所得(Gross National Income;GNI)
  6. 1990年代半ば以前に経済活動の指標として使われていた国民総生産と基本的には同一のもの。
    日本の国民経済計算(国民所得統計)では、2000年に大幅な体系の変更が行われた際に統計の項目として新たに設けられました。
    現在経済指標として多く使われている国内総生産に「海外からの所得の純受取」を加えたもの。

皆様のコメントを下さい!

第2回目はユークリッド(紀元前300年頃)です。

ギリシャ名はユークレイデスであり、ユークリッドはその英名です。
アテネ出身でプトレマイオス一世によりアレキサンドリアに招かれました。
13巻からなる「原論」(ストイケイア。英名はElements)の著者です。
原論で述べられている諸結果にどの程度ユークリッド自身が貢献しているかは不確かです。
「原論」は、明白に思われる命題を公準として幾何学の大前提に置き、それらから数少ない論理規則により厳密に諸定理を証明していくスタイルを取っています。
原論には「素数が無限個存在する」ことの証明や、ユークリッドの互除法、正多面体(プラトン立体)の分類などが述べられています。
原論のスタイルは、ニュートンのプリンキピア(自然哲学における数学的原理)やスピノザの「倫理学」にも取り入れられているように、その後の諸科学の発展に大きな影響を与えました。

その広く知られた名にも関わらず、ユークリッドの生涯については実はまったく知られていないようです。
ユークリッドとほぼ同時代のアルキメデスとアポロニウスによりユークリッドの名前が言及されているのみです。
時代が下ってパッポス(3世紀)、ストバイオス(3世紀)、プロクロス(5世紀)らによりユークリッドの生涯が描かれていますが、確実な証言とは言い難いようです。
しかしながら、プロクロスが「ユークリッド原論第1巻注釈」の中で言明しているように、「ユードクソスの仕事を纏め上げ、テアイテトスのなした多くのものを完全にし、さらに先行者による不完全な証明を非の打ち所ない厳密な論証まで高めた」ということは確かです。
ここで、ユードクソスの仕事は「比例論」であり、テアイテトスのなしたことは「(\(n\) が非平方数の場合の)\(\sqrt{n}\)の無理数性」の証明と正多面体(正八面体と正二十面体)の発見です。
ユークリッドがプラトンのアカデ メイアで学んだか、あるいはアカデメイアの数学者と交流があったことは確かと考えられます。

皆様はユークリッドについてどう思いますか?
ここに書かれている事以外でユークリッドについてご存知のことがあれば是非コメントで教えて下さい!

今回は、レオンチェフ方程式を用いて、経済分析を行う方法について簡単に解説しました。
数学を使うことで、経済のことも分析することが出来る、というのは個人的に誠に面白いな、と思いますし、数学が世の中に役立っている良い例だと思います。

次回はグラフ理論を少し深く数学的に述べるために、一旦群論のお話をします。

乞うご期待!
質問、コメントなどお待ちしております!
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もし直ちに回答が欲しければその旨もコメントでお知らせください。直ちに対応いたします。

グラフ理論についてより詳しく知りたい方は以下を参考にすると良いと思います!

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