本記事の内容
本記事は多変数ベクトル値関数の連続を数学的に明示し、具体例を証明する記事です。
本記事を読むにあたり、多変数ベクトル値関数の極限について知っている必要があるため、その際は以下の記事を参照してください。
多変数ベクトル値関数の連続のイメージのチャラい復習
サラッとですが、イメージを復習しておきます。
- 実数値関数の場合
- 曲面の場合、定義域(領域)内のとある点において、穴が無い。もしくは、定義域(領域)内のどの点でも穴が無い。
- 曲線の場合、定義域(領域)内のとある点において、途切れていない。もしくは、定義域(領域)内のどの点でも途切れていない。
- ベクトル値関数の場合
矢印が連続的に変化する。
です。
「難しそうだネ」と思うかもしれませんが、形式的には何ら難しい話ではありません。
多変数ベクトル値関数の連続って数学的に何かネ?
多変数ベクトル値関数の連続は、1変数実数値関数の場合と同様です。
先程述べたイメージを少々数学的に述べれば、次です。
この”近づく”ということは数学的に極限で表現できるのでした。
これをしっかり数学的に表現すると次になります。
- a∈Ωとする。fがa∈Ωで連続(continuous at a)であるとは、 limx→af(x)=f(a) が成り立つことをいう。 すなわち、 (∀ϵ>0)(∃δ>0) s.t. (∀x∈Ω; 0<|x−a|<δ⇒|f(x)−f(a)|<ϵ) が成り立つことをいう。
- fがΩで連続である(continuous on Ω)とは、任意のa∈Ωに対して、fがaで連続であることをいう。 すなわち、 (∀a∈Ω)(∀ϵ>0)(∃δ>0) s.t. (∀x∈Ω: 0<|x−a|<δ⇒|f(x)−f(a)|<ϵ) が成り立つことをいう。

ここで一つ事実を思い出しておきましょう。
多変数ベクトル値関数の連続のちょっとした言い換え
実は、次が成り立っているのでした。
この定理の証明は【解析学の基礎シリーズ】多変数関数編 その2を参照してください。
とどのつまり、
f(x)=(f1(x)f2(x)⋮fm(x)),A=(A1A2⋮Am)
と書いたとき、
limx→af(x)=A⇔ (∀i∈N:1≤i≤m) limx→afi(x)=Ai
が成り立つと言っているわけです。
ということは、多変数ベクトル値関数の連続においては
limx→af(x)=f(a)⇔ (∀i∈N:1≤i≤m) limx→afi(x)=fi(a)
が成り立っている、というわけなのです。
従って、次が成り立ちます。
- fがa∈Ωで連続であることはfi (i=1,2,…,m)がa∈Ωで連続であることが必要十分条件である。
- fがΩで連続であることはfi (i=1,2,…,m)がΩで連続であることが必要十分条件である。
従って、多変数ベクトル値関数の連続というのは、多変数ベクトル値関数の成分の実数値関数が連続である、ということなのです。
「結局は成分ごとに連続性を考えてね。」ということです。
「多変数ベクトル値関数の連続を数学的に説明せよ!」と言われたらばこれでおしまいです。
では、実際に例を証明してみましょう!
実際に証明してみよう!
例1. f:R2→R2が
f(x)=(xysiny)
で定められているとします。
このときfはR2で連続です。
証明
示したいことは、
(∀(a,b)∈R2)(∀ϵ>0)(∃δ>0) s.t.(∀(x,y)∈R2: 0<|(xy)−(ab)|<δ⇒|(xysiny)−(absinb)|<ϵ)
です。
要は上記のようなδ>0を見つけたいという話です。
もし仮に、上記のようなδ>0があったとして、√(x−a)2+(y−b)2<δを満たすような(x,y)∈R2について考えるわけです。
(x−a)2≥0かつ(y−b)2≥0なのですから、(x−a)2<δかつ(y−b)2<δです。
これに注意しておきましょう。
では、δを見つけるために式変形してみます。
|(xysiny)−(absinb)|=√(xy−ab)2+(siny−sinb)2
です。
(siny−sinb)2については、【解析学の基礎シリーズ】関数の極限編 その12で示したように、
(siny−sinb)2≤(2siny−b2)2≤(2⋅y−b2)2=(y−b)2
です。
従って、
√(xy−ab)2+(siny−sinb)2≤√(xy−ab)2+(y−b)2
です。
一方、(xy−ab)2については、
(xy−ab)2=((x−a)(y−b)+ay+bx−2ab)2=((x−a)(y−b)+b(x−a)+a(y−b))2
です。
従って、
√(xy−ab)2+(siny−sinb)2≤√(x−a)2(y−b)2+b2(x−a)2+(a2+1)(y−b)2+2b(x−a)2(y−b)+2ab(x−a)(y−b)2
ここで、|x−a|<δかつ|y−b|<δだったわけですので、
√(x−a)2(y−b)2+b2(x−a)2+(a2+1)(y−b)2+2b(x−a)2(y−b)+2ab(x−a)(y−b)2≤√δ4+2(a+b)δ3+((a+b)2+1)δ2
従って、δ4+2(a+b)+δ3((a+b)2+1)δ2<ϵとなってほしいので、δの候補はδ4+2(a+b)+δ3((a+b)2+1)δ2=ϵの解です。
しかし、これは4次方程式で、一応解の公式がありますが計算する気が失せるほど長く面倒です。
気になる方は4次方程式の解の公式を参照してください。
正直イヤになります。
さて、4次方程式を真正直に解くわけにはいきません。
問題なのはδの累乗が4という高い値なことです。
なんとかしてδ2くらいまで下げれないかな、と考えるわけです。
もし仮にδ≤1であれば、δ4≤δ3≤δ2≤δです。
故に、δ≤1であれば、
√δ4+2(a+b)δ3+((a+b)2+1)δ2≤√δ+2(a+b)δ+((a+b)2+1)δ
となるわけですので、
√δ⋅√(a+b+1)2+1<ϵ
というδ>0を見つけてくればいいことになります。
故に√δ⋅√(a+b+1)2+1=ϵを解くと、δ=ϵ2(a+b+1)2+1です。
「これでδの候補が見つかったぜ!」となるわけですが、これはあくまでδ≤1の時の話です。
ということは、δ≤1となってほしいわけですので、δは1とδ=ϵ2(a+b+1)2+1の内小さい方を採用すれば、上記の議論が成り立ちます。
故に
δ=min{1,ϵ2(a+b+1)2+1}
とすればOKです。
ここで一息着きましょう。
コーヒーを飲んでください。筆者は紅茶派だけどね。
では続きを行きます。
δ=min{1,ϵ2(a+b+1)2+1}
とすると、0<|(xy)−(ab)|<δを満たす任意の(x,y)∈R2に対して、
√(xy−ab)2+(siny−sinb)2=√(x−a)2(y−b)2+b2(x−a)2+(a2+1)(y−b)2+2b(x−a)2(y−b)+2ab(x−a)(y−b)2≤√δ4+2(a+b)δ3+((a+b)2+1)δ2≤√δ+2(a+b)δ+((a+b)2+1)δ≤√ϵ2(a+b+1)2+1+2(a+b)ϵ2(a+b+1)2+1+((a+b)2+1)ϵ2(a+b+1)2+1=ϵ⋅√1+2a+2b+a2+2ab+b2+1(a+b+1)2+1=ϵ⋅√(a+b+1)2+1(a+b+1)2+1=ϵ
以上のことから、
(∀(a,b)∈R2)(∀ϵ>0)(∃δ>0) s.t.(∀(x,y)∈R2: 0<|(xy)−(ab)|<δ⇒|(xysiny)−(absinb)|<ϵ)
です。
証明終わり
例2. g:R2→R2が
g(x)={(xy)(x,y)≠(1,1)(00)(x,y)=(1,1)
で定められているとします。
このとき、gは(x,y)=(1,1)で不連続です。
証明
簡単です。
任意のϵ>0に対して、δ=ϵとすると、
√(x−1)2+(y−1)2<δ=ϵ
となり、
(∀ϵ>0)(∃δ>0) s.t.(∀(x,y)∈R2: 0<|(xy)−(11)|<δ⇒|(xy)−(11)|<ϵ)
ですから、
lim(x,y)→(1,1)(xy)=(11)
です。
しかし、g(1,1)=(0,0)です。
故に
gは(x,y)=(1,1)で連続ではありません。
結
今回は多変数ベクトル値関数の連続を数学的に明示し、例を挙げてその連続性を証明しました。
結局の所、多変数ベクトル値関数の連続性は、成分の関数の連続性に帰着できるということです。
ただ、1変数実数値関数のときよりも次元が上がるため、証明は少々面倒です。
次回は連続な多変数ベクトル値関数の和、差も連続であるということを証明します。
乞うご期待!質問、コメントなどお待ちしております!
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