本記事の内容
本記事は区間縮小法(区間縮小の原理とも)を「有界な単調列は収束する。」という命題から証明する記事です。
本記事を読むにあたり、「有界な単調列って収束する。」ということを知っている必要があるため、以下の記事も合わせてご覧ください。
区間縮小法(区間縮小の原理)のイメージの復習
区間縮小の原理を一言で述べれば、
でした。
さらに、この区間縮小の原理が実数の数直線上のどんな有界な閉区間の列に対しても成り立つのだから、
ということがわかり、実数の連続性と関連があります。
詳しくは次回解説します。
↓実数の連続性との関連の記事
区間縮小法(区間縮小の原理)の証明
区間縮小法とはどういう主張なのかを数学的に明示します。
区間縮小法はしばしば区間縮小法の原理とも呼ばれます。
というのも、解析学の中で基本的な事実だからです。
ただし、この基本的というのは簡単という意味ではなく、議論をする上で元になる概念だ、という意味です。
- 任意のInに含まれる実数が存在する。すなわち ⋂n∈NIn≠∅,
- 特に、In=[an,bn]として、limn→∞(bn−an)=0であれば(すなわち、区間がどんどん小さくなっていけば)、共通部分は一点αのみからなる集合である。すなわち、 ⋂n∈NIn={α} である。このとき、 limn→∞an=limn→∞bn=α である。

区間縮小法の証明自体はさほど難しくありません。
基本に則り、一歩ずつ前進すれば必ずゴールにたどり着けます。(まあ、それが数学の面白いところだと思います。)
「いざ証明!」とその前に…
区間縮小の原理の証明の流れを説明します。
- ⋂n∈NIn≠∅の証明
- (ステップ1-1) 縮小する(範囲がどんどん狭くなる)区間を作り、その区間の端からなる2つの数列を作る。
このとき、区間の左端からなる数列{an}n∈Nは単調増加数列であり、右端からなる数列{bn}n∈Nは単調減少数列である。 - (ステップ1-2) 作った2つの数列{an}n∈Nおよび{bn}n∈Nはそれぞれ上限、下限に収束する。
これは「有界な単調列は収束する。」という命題を使う! - (ステップ1-3) 任意のn∈Nに対して、an≤{an∣n∈N}の上限≤{bn∣n∈Nの下限≤bnが成り立つ。
これを証明するために、とある事実(区間縮小法の証明の道中で証明します)を使う!
任意の自然数nに対して、区間In=[an,bn]の間に属する具体的な要素を見つけることができた。 - (おしまい)
- (ステップ1-1) 縮小する(範囲がどんどん狭くなる)区間を作り、その区間の端からなる2つの数列を作る。
- 1.で作った2つの数列の差の極限が0に収束するとき、作った区間の無限個の共通部分は1点のみからなる集合である、ことの証明
- (ステップ2-1) 区間Inの無限個の共通部分から要素を1つ任意に取ってくる。
1.により、⋂n∈NIn≠∅(⋂n∈NInに何か要素が少なくとも1つある)ことから、その要素を1つ取ってくる。 - (ステップ2-2) 取ってきた1つの要素が実は数列{an}n∈Nの極限と一致することを示す。
今、数列{an}n∈Nと{bn}n∈Nの差の極限が一致するため、数列{an}n∈Nの極限と数列{bn}n∈Nの極限と一致するから(区間縮小法の証明の道中で証明します)、結局は数列{an}n∈Nの極限が区間Inの無限個の共通部分の要素だ、という結論に至る。 - (おしまい)
- (ステップ2-1) 区間Inの無限個の共通部分から要素を1つ任意に取ってくる。
区間縮小法の証明
(1.の証明)
(ステップ1-1)
任意のn番目の有界な閉区間InをIn=[an,bn]とします。
すると、任意の自然数nに対してanおよびbnをそれぞれ集めた数列{an}n∈Nおよび{bn}n∈Nができます。
また、このInが
I1⊃I2⊃…In⊃In+1⊃…
を満たすとします。
つまり
a1≤a2≤⋯≤an−1≤an≤⋯≤bn≤bn−1≤⋯≤b2≤b1⋯①
を満たすとします。
①により、任意のn∈Nに対して、a1≤anであり、bn≤b1が成り立つのだから、数列{an}n∈Nおよび{bn}n∈Nはそれぞれ上に有界であり、下に有界です。
さらに、①から、数列{an}n∈N単調増加数列であり、{bn}n∈Nは単調減少数列です。
従って、数列{an}n∈Nは上に有界な単調増加数列であり、数列{bn}n∈Nは下に有界な単調減少数列です。
(ステップ1-2)
ここで、「有界な単調列は収束する」という事実、すなわち
- (∃S∈R) s.t. (∀n∈N xn≤S),
- (∀n∈N) xn≤xn+1
また、下に有界な単調減少列はその下限に収束する。すなわち、数列{yn}n∈Nが
- (∃L∈R) s.t. (∀n∈N yn≥L),
- (∀n∈N) yn≥yn+1
を使います。
すると、数列{an}n∈Nはその上限αに収束し、数列{bn}n∈Nはその下限βに収束します。
すなわち、
(∃α∈R) s.t. limn→∞an=αかつ(∃β∈R) s.t. limn→∞bn=β
であり、αは{an∣n∈N}の上限、βは{bn∣n∈N}の下限です。
(ステップ1-3)
従って、αは{an∣n∈N}の上界であるから、任意のn∈Nに対してan≤αであり、βは{bn∣n∈N}の下界であるから、任意のn∈Nに対してβ≤bnです。
さらに、①から任意のn∈Nに対してan≤bnであるから、α≤βです。
これは次が成り立つためです。
すなわち、 実数の数列{an}n∈Nおよび{bn}n∈NがそれぞれAおよびBに収束するとする。すなわち、 limn→∞an=Aかつlimn→∞bn=B であるとする。このとき、 (∀n∈N) an≤bnならばA≤B が成り立つ。
補題3.の証明
limn→∞an=Aかつlimn→∞bn=Bとするとき、A≤Bを証明すればOKです。
背理法を用います。
仮に、A>Bとします。
数列{an}n∈Nおよび{bn}n∈Nはそれぞれ収束するのだから、
- (∀ϵ1>0)(∃N1∈N s.t. ∀n∈N n≥N⇒|an−A|<ϵ1),
- (∀ϵ2>0)(∃N2∈N s.t. ∀n∈N n≥N⇒|bn−B|<ϵ2)
が成り立ちます。
これは、任意の正の実数ϵ1およびϵ2に対して
- ∃N1∈N s.t. ∀n∈N n≥N⇒|an−A|<ϵ1
- ∃N2∈N s.t. ∀n∈N n≥N⇒|bn−B|<ϵ2
が成り立っているということなのだから、
ϵ1=ϵ2=A−B2
としても成り立ちます。
したがって、
- ∃N1∈N s.t. ∀n∈N n≥N⇒|an−A|<A−B2
- ∃N2∈N s.t. ∀n∈N n≥N⇒|bn−A|<A−B2
が成り立ちます。
ここで、NをN1とN2のうち大きい方とします。
記号で書けば、N=max{N1,N2}とします。
このとき、n≥Nを満たす自然数nに対して、
an>A−A−B2かつ−bn>−B−A−B2
です。
故に
an−bn>A−B−2⋅A−B2=A−B−(A−B)=0
となります。
すなわちan>bnです。
しかし、これは仮定(∀n∈N) an≤bnに矛盾します。
従って、A≤Bです。
補題3.の証明終わり
では、(ステップ1-3)に戻りましょう。
今示した補題3.によりα≤βです。
従って、任意のn∈Nに対して、
an≤α≤β≤bn
です。
ということは、αおよびβは任意のn∈Nに対して区間In=[an,bn]に含まれるということであるから、α,β∈⋂n∈NInです。
これはまさに、
⋂n∈NIn≠∅
です。
(2.の証明)
(ステップ2-1)
今、1.が成り立ったのだから、すなわち、⋂n∈NIn≠∅が成り立ったのだから、 c∈⋂n∈NInという要素cを取ることができます。
すなわち、任意のn∈Nに対して、c∈In=[an,bn]であるから
(∀n∈N) an≤c≤bn
です。
(ステップ2-2)
また、任意のn∈Nに対して、an≤αであるから、任意のn∈Nに対して
an−α≤c−α≤bn−α≤bn−an
故に、
0≤|c−α|≤|bn−an|=bn−an
です。
従って、補題3.から
limn→∞0≤limn→∞|c−α|≤limn→∞(bn−an)
です。
ここで、定数列はその定数に収束するので、
0≤|c−α|≤limn→∞(bn−an)
です。
これが正しいことを示します。
すなわち、 {an}n∈Nを実数の数列とする。このとき、ある実数cが存在して、任意のn∈Nに対してan=cであるとき、limn→∞an=limn→∞c=cである。
補題4.の証明
(∀ϵ>0)(∃N∈N s.t. ∀n∈N n≥N⇒|an−c|<ϵ)
を示せばOKです。
しかしこれはほぼ明らかなようなものです。
任意のϵ>0に対して、N=1とすると、n≥N、すなわちn≥1を満たす自然数nに対して、
|an−c|=|c−c|=|0|=0<ϵ
です
従って、
(∀ϵ>0)(∃N∈N s.t. ∀n∈N n≥N⇒|an−c|<ϵ)
であるから、limn→∞an=limn→∞c=cです。
補題4.の証明終わり
では、(ステップ2-2)の証明に戻ります。
補題4.から
0≤|c−α|≤limn→∞(bn−an)
です。
今、limn→∞(bn−an)=0であるから、
0≤|c−α|≤0
です。
従って、|c−α|=0でなければなりません。
ゆえにc=αです。
以上のことから、
⋂n∈NIn={α}
です。
特に、今、limn→∞(bn−an)=0であるから、
limn→∞(bn−an)=limn→∞bn−limn→∞an=β−α=0
です。
これは収束する数列の差の極限は各数列の極限の差と等しいという事実から得られます。
次で示します。
すなわち、 数列{an}n∈Nおよび{bn}n∈NがそれぞれAおよびBに収束したとする。このとき、limn→∞(an−bn)=limn→∞an−limn→∞bn=A−Bである。
補題5.の証明
示したいことは、
(∀ϵ>0)(∃N∈N s.t. ∀n∈N n≥N⇒|(an−bn)−(A−B)|<ϵ)
です。
今、数列{an}n∈Nおよび{bn}n∈NがそれぞれAおよびBに収束しているのだから、
- (∀ϵ1>0)(∃N1∈N s.t. ∀n∈N n≥N⇒|an−A|<ϵ1)
- (∀ϵ2>0)(∃N2∈N s.t. ∀n∈N n≥N⇒|bn−B|<ϵ2)
が成り立っています。
すなわち、上記を満たすような自然数N1およびN2を見つけることができます。
さらに、上記は任意の正の実数ϵ1およびϵ2に対して成り立つので、新たに任意の正の実数ϵを使って
ϵ1=ϵ2=2ϵ
としても成り立ちます。
故に、
- (∀ϵ>0)(∃N1∈N s.t. ∀n∈N n≥N⇒|an−A|<ϵ2)
- (∀ϵ>0)(∃N2∈N s.t. ∀n∈N n≥N⇒|bn−B|<ϵ2)
が成り立ちます。
このとき、NをN1とN2のうち大きい方とします。
記号でかけばN=max{N1,N2}とします。
n≥Nを満たす任意の自然数nに対して、
|(an−bn)−(A−B)|=|(an−A)+(B−bn)|≤|an−A|+|B−bn|=|an−A|+|bn−B|<ϵ2+ϵ2=ϵ
である。 ただし、任意の実数x,yに対して、|x+y|≤|x|+|y|である事実を使いました。
従って、
(∀ϵ>0)(∃N∈N s.t. ∀n∈N n≥N⇒|(an−bn)−(A−B)|<ϵ)
であるから、
limn→∞(an−bn)=limn→∞an−limn→∞bn=A−Bです。
補題5.の証明終わり
では、(ステップ2-2)の証明に戻ろう。
補題5.により、
limn→∞(bn−an)=limn→∞bn−limn→∞an=β−α=0
です。
従って、
limn→∞an=limn→∞bn=α
です。
区間縮小法の証明終わり
結
今回は区間縮小の原理を「有界な単調列は収束する。」という命題から証明しました。
次回は「区間縮小法と実数の連続性の関係は?」です。
すなわち、区間縮小法+アルキメデスの原理(証明も与える)からデデキントの定理を示します。
乞うご期待!質問、コメントなどお待ちしております!
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