本記事の内容
本記事は、ベキ零群の重要な性質と単純群について解説する記事です。
本記事を読むに当たり、交換子、交換子群、交換子列、ベキ零群について知っている必要があるため、以下の記事も合わせてご覧ください。
↓交換子、交換子群の記事
↓可解群の記事
ベキ零群、交換子列の軽い復習
可解群、ベキ零群
可解群、ベキ零群
\(G\)を群とする。- 可解群 \(G\)の部分群の列\(G=G_0\supset G_1\supset \cdots\supset G_n=\left\{1_G\right\}\)が存在し、\(i=0,\dots,n-1\)に対して、\(G_{i+1}\triangleleft G_i\)で\(G_i/{G_{i+1}}\)が可換群であるとき、\(G\)を可解群という。
- ベキ零群 \(G=G_0\supset G_1\supset \cdots\supset G_n=\left\{1_G\right\}\) \(G\)の部分群の列\(G=G_0\supset G_1\supset \cdots\supset G_n=\left\{1_G\right\}\)が存在し、\(i=0,\dots,n-1\)に対して、\(G_{i+1}\triangleleft G_i\)で\(G_i/{G_{i+1}}\)が\(G/{G_{i+1}}\)の中心に含まれるとき、\(G\)をベキ零群という。
交換子群、交換子列
交換子、交換子群
\(G\)を群とする。- 交換子 \(a,b\in G\)に対して、\([a,b]=aba^{-1}b^{-1}\)と定め、これを\(a,b\)の交換子という。
- 交換子群 \(H_1,H_2\subset G\)が部分群ならば、\(\left\{[a,b]\middle|a_in_1,\ b\in H_2\right\}\)で背性される\(G\)の部分群を\(\left[ H_1,H_2\right]\)と書く。
$$ D(G)=\left[ G,G\right] $$ を\(G\)の交換子群という。
交換子列
\(G\)を群とする。 $$ D_1(G)=\left[G,G\right],\quad D_{i+1}(G)=\left[D_i(G),D_i(G)\right]\ (i=1,2,\cdots) $$ と定めれば、 $$ G\supset D_1(G)\supset D_2(G)\supset \cdots $$ である。これを\(G\)の交換子列という。記号のお話
\(G\)の中心\({\rm Z}(G)\)の記号と混同しやすいですが、
$$
Z_0(G)=G,\quad Z_1(G)=\left[G,G\right]
$$
として、あとは帰納的に
$$
Z_{i+1}(G)=\left[ G,Z_i(G)\right]
$$
と定めます。
すると、
$$
G\supset Z_1(G)\supset Z_2(G)\supset \cdots
$$
です。
これを中心化列といいます。
ベキ零群の重要な性質
本題です。
主張の明示と証明
命題1.
群\(G\)がベキ零群であることと、\(Z_n(G)=\left\{1_G\right\}\)となる\(n\)が存在することは同値である。命題1.の証明
まず、\(Z_0(G)=G\)、\(Z_{i+1}(G)=\left[ G,Z_i(G)\right]\)として、\(Z_i(G)\triangleleft G\)を数学的帰納法で証明します。
\(i=0\)のとき、
$$
g\left[a,b \right]g^{-1}=\left[ gag^{-1},gbg^{-1}\right]\in\left[G,G\right]
$$
となり、成り立ちます。
\(i=k-1\)まで正しいとします。
このとき、
$$
\left( \forall g\in G\right)\ \left( x\in Z_{k-1}(G)\right)\quad gxg^{-1}\in Z_{k-1}(G)
$$
だから、任意の\(g,h\in G\)、\(x\in Z_{k-1}(G)\)に対して
$$
g\left[h,x\right]g^{-1}\in \left[G,Z_{k-1}(G)\right]=Z_{k}(G)
$$
となります。
故に、\(i=k\)のときも成り立ちます。
中心化列で、\(G=Z_0(G)\supset \cdots\supset Z_n(G)=\left\{1_G\right\}\)となる\(n\)が存在したとして、任意の\(i\)に対して\(Z_i(G)/{Z_{i+1}(G)}\subset Z\left( G/{Z_{i+1}(G)}\right)\)を示せばOKです。
自然な準同型を\(\pi:G\longrightarrow G/{Z_{i+1}(G)}\)とすると、任意の\(g\in G\)と\(h\in Z_i(G)\)に対して
$$
1_{G/{Z_{i+1}(G)}}=\pi\left( [g,h]\right)=\pi(g)\pi(h)\pi(g)^{-1}\pi(h)^{-1}
$$
となるため、\(\pi(g)\pi(h)=\pi(h)\pi(g)\)です。
逆に、\(G\)がベキ零群であれば、\(G_0=G\supset G_1\supset \cdots\supset G_n=\left\{1_G\right\}\)に対して、\(Z_k(G)\subset G_k\)を示せば\(Z_n(G)\subset G_n=\left\{1_G\right\}\)により中心化列を構成できたことになります。
これも数学的帰納法で証明します。
まず、\(k=0\)のときは等号が成立しますので、\(k-1\)まで正しい、すなわち\(Z_{k-1}(G)\subset G_{k-1}\)とすると、
$$
Z_k(G)=\left[ G,Z_{k-1}(G)\right]\subset \left[G,G_{k-1}\right]
$$
です。
\(G_{k-1}/{G_k}\subset Z\left( G/{G_k}\right)\)だから、任意の\(g\in G\)と\(h\in G_{k-1}\)に対して\(gh\equiv hg\ ({\rm mod}.\ G_k)\)です。
これはつまり\(\left[ G,G_{k-1}\right]\equiv\left\{1_G\right\}\ ({\rm mod}.\ G_k)\)を意味しているわけですので、\(\left[ G,G_{k-1}\right]\subset G_k\)です。
命題1.の証明終わり
方程式論との関わり
方程式論で、\(5\)次方程式が根号で解けないということは、\(A_5\)、\(\mathcal{G_5}\)が可解群ではないということによります。
単純群とその性質
単純群
群\(G\)が可換群でなく、自明でない正規部分群を持たないならば、\(G\)を単純群という。命題2.
群\(G\)が単純群ならば、可解群ではない。命題2.の証明
直ちに終わります。
なぜなら、単純群は自明でない正規部分群を持たないので、部分群の列
$$
G=G_0\supset G_1\supset\cdots\supset G_n=\left\{1_G\right\}
$$
を取ったとしても\(G_{i+1}\triangleleft G_i\)となるような\(i\)が存在しないからです。
命題2.の証明終わり
皆様のコメントを下さい!
前回、実無限と可能無限を紹介しました。
それに付随して”無限”に関するパラドックスを紹介します。
アキレスと亀 「走ることの最も遅いものですら最も速いものによって決して追い着かれないであろう。なぜなら、追うものは、追い着く以前に、逃げるものが走りはじめた点に着かなければならず、したがって、より遅いものは常にいくらかずつ先んじていなければならないからである。という議論である。」アリストテレス『自然学』
どこに矛盾があるでしょうか?
是非コメントで教えて下さい!
結
今回は、べき零群の重要な性質と単純群について解説しました。
べき零群の重要な性質として、べき零群であるための必要十分条件を与えました。
単純群は可換群でなくて自明でない正規部分群を持たないような群を呼ぶのでした。
その性質として、単純群は可解群ではありません。
次回は\(p\)群について解説します。
乞うご期待!
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代数についてより詳しく知りたい方は以下を参考にすると良いと思います!
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