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「可解群とは?」例と共に解説!【代数学の基礎シリーズ】群論編 その21

代数学

本記事の内容

本記事は、可解群について解説する記事です。
本記事を読むに当たり、商群について知っている必要があるため、以下の記事も合わせてご覧ください。

可解群を導入する意味

交換子群の記事でも述べましたが、交換子群と可解群を導入するのは、後に解説する方程式の可解性に関連してくるからです。
どのように関連してくるか、ということについては後の記事で実際に方程式論に踏み込んだときに解説することにします。

ちょこっとだけ述べておくと、標数と呼ばれる数が\(0\)の体上の代数方程式が根号を用いて解けることと、対応するガロア群が可解群であることは同値という意味で可解群が出現します。

可解群

まずは、可解群を数学的に導入します。

可解群、ベキ零群とは?

可解群、ベキ零群

\(G\)を群とする。
  1. 可解群
  2. \(G\)の部分群の列\(G=G_0\supset G_1\supset \cdots\supset G_n=\left\{1_G\right\}\)が存在し、\(i=0,\dots,n-1\)に対して、\(G_{i+1}\triangleleft G_i\)で\(G_i/{G_{i+1}}\)が可換群であるとき、\(G\)を可解群という。
  3. ベキ零群
  4. \(G=G_0\supset G_1\supset \cdots\supset G_n=\left\{1_G\right\}\) \(G\)の部分群の列\(G=G_0\supset G_1\supset \cdots\supset G_n=\left\{1_G\right\}\)が存在し、\(i=0,\dots,n-1\)に対して、\(G_{i+1}\triangleleft G\)で\(G_i/{G_{i+1}}\)が\(G/{G_{i+1}}\)の中心に含まれるとき、\(G\)をベキ零群という。

可解群とベキ零群の基本的な性質

命題1.

  1. ベキ零群は可解群である。
  2. \(G\neq\left\{1_G\right\}\)がベキ零群であれば、\({\rm Z}(G)\neq\left\{1\right\}\)である。

命題1.の証明

まず、簡単な復習として群の中心と\({\rm Z}(G)\)を確認しておきます。

中心化群

\(H\)が群\(G\)の部分群とする。このとき $$ {\rm Z}_G(H)=\left\{g\in G\middle|\forall h\in H,\ gh=hg\right\} $$ を\(H\)の中心化群という。また、 $$ {\rm Z}(G)={\rm Z}_G(G) $$ と書き、\(G\)の中心という。\(x\in G\)で\(H=\langle x\rangle\)のとき、\({\rm Z}_G(H)\)の代わりに\({\rm Z}_G(x)\)とも書き、\(x\)の中心化群という。

詳しくは、【代数学の基礎シリーズ】群論編 その16を御覧ください。

(1.の証明)

\(G\)をベキ零群とします。
\(G_{i+1}\triangleleft G\)であれば、\(G_{i+1}\triangleleft G_i\)です。
\(\left[ G,G_i\right]\subset G_{i+1}\)であるので、特に\(\left[ G_i,G_i\right]\subset G_{i+1}\)となり、\(G_i/{G_{i+1}}\)は可換群です。
したがって、\(G\)は可解群です。
ちなみに、可換群ならば、可解群です。
実際、\(\left\{1_G\right\}\)の交換子を作っても\(1_G\)にしかならないので、交換子群の列は一度\(\left\{1_G\right\}\)となるとその先の交換子群はずっと\(\left\{1_G\right\}\)です。
可換群はそもそも任意の交換子が単位元\(1_G\)なわけですので、可換群は可解群です。

(2.の証明)

\(G_i\neq\left\{1_G\right\}\)となる最大の\(i\)を考えれば、\(G_i\)は\(G\)の中心\({\rm Z}(G)\)に含まれます。
故に、\({\rm Z}(G)\neq\left\{1_G\right\}\)です。

命題1.の証明終わり

可換群の例

例1.

先程述べたように、可換群はベキ零群かつ可解群です。

例2.

\(G=\mathcal{G}_3\)とします。
\(N=\langle(1\ 2\ 3)\rangle\)とすれば、\(N\triangleleft G\)です。
\(\left[ G:N\right]=2\)なので、\(G/{N}\cong \mathbb{Z}/{2\mathbb{Z}}\)は可換群です。
\(N\)は可換群なので、\(\mathcal{G}_3\)は可解群です。
\(G\)の中心は\({\rm Z}(G)=\left\{1_G\right\}\)でした。
したがって、\(\mathcal{G}_3\)はベキ零群ではありません。

例3.(クラインの四元群)

\(G=\mathcal{G}_4\)、\(N=\left\{1,\ (1\ 2)(3\ 4),\ (1\ 3)(2\ 4),\ (1\ 4)(2\ 3)\right\}\)とします。
このとき、\(N\triangleleft G\)かつ\(G/{N}\cong \mathcal{G}_3\)でした。
\(\mathcal{G}_3\)は可解群なので、\(\mathcal{G}_4\)も可解群です。
\(\mathcal{G}_4\)の中心は\({\rm Z}(\mathcal{G}_4)=\left\{1_G\right\}\)であるため、\(\mathcal{G}_4\)がベキ零群出ないことがわかります。

例4.

$$
G=\left\{
\begin{pmatrix}
1&u_1&u_2\\
0&1&u_3\\
0&0&1
\end{pmatrix}
\middle|u_1,u_2,u_3\in\mathbb{C}\right\},\quad
G_1=\left\{
\begin{pmatrix}
1&0&u_4\\
0&1&0\\
0&0&1
\end{pmatrix}
\middle|u_4\in\mathbb{C}\right\}
$$
とします。
また、便宜上\(G_2=\left\{I_3\right\}\)(\(I_3\)は\(3\)次の単位行列)とします。
簡単な計算で、
\begin{eqnarray}
\begin{pmatrix}
1&u_1&u_2\\
0&1&u_3\\
0&0&1
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
1&0&u_4\\
0&1&0\\
0&0&1
\end{pmatrix}&=&
\begin{pmatrix}
1&0&u_4\\
0&1&0\\
0&0&1
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
1&u_1&u_2\\
0&1&u_3\\
0&0&1
\end{pmatrix}\\
&=&
\begin{pmatrix}
1&u_1&u_2+u_4\\
0&1&u_3\\
0&0&1
\end{pmatrix}
\end{eqnarray}
です。
したがって、\(G_1\subset {\rm Z}(G)\)です。
これにより\(G_1\triangleleft G\)であり、\(G/{G_1}\)の任意の要素が\((1,3)\)成分が\(0\)である要素で代表されることもわかります。
また、\(G/{G_2}=G\)において、\(G_1/{G_2}\)が\(G/{G_2}\)の中心に含まれることもわかります。
$$
\begin{pmatrix}
1&u_1&0\\
0&1&u_3\\
0&0&1
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
1&u_1^\prime&0\\
0&1&u_3^\prime\\
0&0&1
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
1&u_1+u_1^\prime&\ast\\
0&1&u_3+u_3^\prime\\
0&0&1
\end{pmatrix}
$$
なので、\(G/{G_1}\)は可換です。
したがって、\(G\)はベキ零群です。
この例では\((3,3)\)型の行列を考えましたが、\((n,n)\)型でも同様です。

皆様のコメントを下さい!

今回はフロベニウスです。

フロベニウス(Georg Ferdinand Frobenius(1849–1917))はドイツ出身の数学者。
ベルリンに生まれ、1860年日本の高等学校に当たるGymnasiumに入学、1867年にはゲッチンゲン大学に入学し、その後ベルリン大学に転じて、1870年に博士号を取得しました。
ベルリンではクロネッカー(Kronecker), クンマー(Kummer)、ワイエルシュトラス(Weierstrass)の講義に出席。
1874年ベルリン大学助教授、1875年から1902年までチューリッヒ工科大学教授を務めました。
1902年からベルリン大学教授となり、最期までその職にあり続けました。
群の指標の概念を導入し、有限群の表現論を実質的に完成させました。
これはのちに量子力学に不可欠のものとなります。
また代数的整数論でフロベニウス置換を発見。
性格は怒りっぽく、人を罵ることが多かったといわれます(当時のベルリン大学の教員全般に共通した性格という証言もあります)。
なお、ペロン・フロベニウスの定理はペロンにより1907年に証明され、1912年にペロンとは独立にフロベニウスにより証明されました。
現在では多数の証明が知られています。

如何でしたか?
ここに書かれれいることの他にフロベニウスについて知っていることがあれば是非コメントで教えて下さい!

今回は、可解群について解説しました。
可解群は方程式論において、方程式が代数的に解けるか、すなわち解の公式が存在するか、ということを吟味する際に使われる大事な概念です。

次回は過海軍の大事な性質について解説します。

乞うご期待!
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  1. べき零群の定義に誤植があるように思います。G_i+1はGの正規部分群ではないでしょうか。
    ご確認よろしくお願いします。

    • みずき様

      ご指摘ありがとうございます。
      誤植でございました。訂正致しました。

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