本記事の内容
本記事はケーリーの定理と自然な作用について解説する記事です。
本記事を読むに当たり、群作用について知っている必要があるため、以下の記事も合わせてご覧ください。
群が有限集合に左から作用すれば、群から対称群への準同型写像が存在します。
群GGが有限集合X={x1,…,xn}X={x1,…,xn}に左から作用するとします。
このとき
g⋅xi=xρ(g)(i)(g∈G, i=1,…,n)g⋅xi=xρ(g)(i)(g∈G, i=1,…,n)
として定めます。
ここで、次の定理を使います。
定理1.
群GGが集合XXに作用すると、g∈Gg∈Gに対して定まる写像X∋x↦gx∈XX∋x↦gx∈Xは全単射である。定理1.の証明は【代数学の基礎シリーズ】群論編 その11を御覧ください。
定理1.から、ρ(g)ρ(g)は{1,…,n}{1,…,n}のち缶を引き起こし、写像ρ:G⟶Gnρ:G⟶Gnを定めます。
命題2.
ρ:G⟶Gnρ:G⟶Gnは群の準同型写像である。命題2.の証明
g,h∈Gg,h∈Gなら、i=1,…,ni=1,…,nに対して、
xρ(gh)(i)=(gh)⋅xi=g(h⋅xi)=g⋅xρ(h)(i)=xρ(g)∘ρ(h)(i)xρ(gh)(i)=(gh)⋅xi=g(h⋅xi)=g⋅xρ(h)(i)=xρ(g)∘ρ(h)(i)
となります。
従って、ρ(gh)=ρ(g)∘ρ(h)ρ(gh)=ρ(g)∘ρ(h)であるため、ρρは準同型写像です。
命題2.の証明終わり
このρρをXXの作用により定まる置換表現といいます。
置換表現
群GGが有限集合X={x1,…,xn}X={x1,…,xn}に左から作用するとする。このとき g⋅xi=xρ(g)(i)(g∈G, i=1,…,n) として定めると、ρ:G⟶Gnは準同型写像である。このρをXへの作用により定まる置換表現という。ケーリーの定理
まずは対称群の復習
とすると、Gnは写像の合成で群となります。
これを置換群または対称群というのでした。
ケーリーの定理を一言で。
ケーリーの定理を一言で述べれば
ということです。
ここで、次の事実を思い出します。
定理3.
準同型写像ϕ:G1⟶G2が単射であるための必要十分条件は、Ker(ϕ)={1G1}となることである。定理3.の証明は【代数学の基礎シリーズ】群論編 その3を御覧ください。
要するに、ケーリー定理は、群から対称群への単射準同型が存在するということを主張しているわけなので、この単射準同型をφ:G⟶GnとしたときKer(φ)={1G}です。
さらに、一般にKer(φ)はGの正規部分群です。
つまり、平たく言えば(条件はあれど、という意味です)、要素の数がn個の(すなわち位数nの)有限群は対称群Gnへの単射準同型がそんざいするため、このときKer(φ)={1G}で、かつKer(φ)はGの正規部分群だ、というわけです(Ker(φ)が正規部分群ということは【代数学の基礎シリーズ】群論編 その3を御覧ください)。
ケーリーの定理の明示とその証明
では、ケーリーの定理を明示します。
定理4.(ケーリーの定理)
Gが位数nの有限群ならば、Gから対称群Gnへの単射準同型が存在する。ケーリーの定理の証明
一般にGを群とするとき、X=Gとし、g∈G、x∈X=Gに対して、gx∈G=Xをgの要素としての演算とします。
つまりψ:G×X=G×G∋(g,x)↦ψ(g,x)∈X=Gをψ(g,x)=gxと定めた、ということです。
故に、
- ψ(1G,x)=1Gx=x、
- ψ(g,ψ(h,x))=ψ(g,hx)=ghx=(gh)x=ψ(hg,x)
となるため、ψはGのX=Gへの左作用です。
右からの演算を考えると、GからGへの右作用を得ます。
命題1.から、置換表現ρ:G⟶Gnが定まります。
ρ(g)=1なら、任意のh∈Gに対してgh=hです。
例えば、h=1Gとすれば、g=1Gです。
従って、Ker(φ)={1G}ですので、定理3.からρは単射です。
ケーリーの定理の証明終わり
ケーリーの定理の例
先程、一般にGを群とするとき、X=Gとし、g∈G、x∈X=Gに対して、ψ:G×X=G×G∋(g,x)↦ψ(g,x)∈X=Gをψ(g,x)=gxと定ることでψはGのX=Gへの左作用だと述べました。
この作用を考えて、ρを置換表現とします。
G=Z/3Zとします。
これは、整数を3で割った余りの集合です。
厳密にはZの任意の要素a,b∈Zに対して
a∼b⟺a−b≡0 (mod3 )⟺(∃k∈Z) s.t. a−b=3k
という関係を定めると、この関係は同値関係です。
この商集合Z/∼をZ/3Zと書きます。
このとき
Z/3Z={ˉ0,ˉ1,ˉ2}
となります。
ただし、ˉ0、ˉ1、ˉ2はそれぞれ0、1、2の同値類で、3で割って0が余る(つまり割り切れる)、1が余る、2が余るということでZをグループ分けした同値類ということです。
さて、x1=ˉ0、x2=ˉ1、x3=ˉ2、g=ˉ1とすると、g+x1=x2、g+x2=x3、g+x3=x1です。
よって、ρ(g)=(1 2 3)∈G3です。
自然な作用
Hを群Gの部分群、X=G/Hとします。
g∈G、xH∈G/Hに対して、
g⋅(xH)=(gx)H
と定めると、これは写像として体裁が整っています(これをwell-definedというのでした)。
故に、GのG/Hへの左作用になります。
これをGのG/Hへの自然な作用といいます。
同様にして、GのG/Hへの右作用も定まります。
これも自然な作用といいます。
例えば、G=G3、H=⟨(1 2)⟩とします。
ただし、⟨S⟩はSにより生成された部分群です(生成された部分群については【代数学の基礎シリーズ】群論編 その2を御覧ください)。
G/Hの完全代表系として{x1=1,x2=(1 2 3),x3=(1 3 2)}を取ることが出来ます。
ρ:G⟶G3をこの場合の置換表現とします。
(1 2)x1=(1 2)∈x1H,(1 2 3)x1=(1 2 3)∈x2H,(1 2)x2=(1 3 2)(1 2)∈x3H,(1 2 3)x2=(1 3 2)∈x3H,(1 2)x3=(1 2 3)(1 2)∈x2H,(1 2 3)x3=1∈x1H
なので、ρ((1 2))=(2 3)、ρ((1 2 3))=(1 2 3)です。
皆様のコメントを下さい!
今回はオイラーです。
オイラー(1707-1783)は18世紀を代表する比類のない多産な数学者。
スイスのバーゼルに生まれ、13歳でバーゼル大学の学生として哲学と神学を学び、18歳で数学についての最初の論文を書いています。
優れた数学者を多く輩出したベルヌイ一族との親密な交流はバーゼル時代に始まり、その後のオイラーの研究者としての人生に大きな影響を与えました。
生涯のほとんどをフレデリック大王支配のベルリンとカテリーヌ女王が統治したぺテルスブルグで過ごしました。
1735年には右目が利かなくなり、その後左目も失明しましたが、1783年にぺテルスブルグで没するまで研究活動が衰えることはありませんでした。
オイラーの最も多産な時期は、無限小解析(微分積分学)が様々な方向に一挙に拡大した時期に重なっています。
オイラーは純粋、応用の両面で数学のほとんどの分野に貢献しています。
特に、変分学の基礎を築き、それを力学に応用しました。
数論に対する貢献や位相幾何学のパイオニアとしての貢献も大きいです。
形式的ではありますが、複素数を自由に用いて解析学に応用していることも特筆すべき点です。
その仕事には、解析接続の考え方の原型を見ることもできます。
さらに、今日使われている数学の表記法についても、オイラーに負うところが大です。
たとえば、π(円周率), e(自然対数の底), i(虚数単位).∑(和の記号) などがそうです。
彼の著述「無限小解析」(Introductio in analysin infinitorum)は18世紀の最も重要な数学テキストでした。
1911年に始められたオイラー全集の刊行はまだ終了していないようです。
如何でしたか?
数学をやっていない方でもオイラーの名前は聞いたことがあると思います。
ここに書かれていることの他にオイラーについてご存知のことがあれば是非コメントで教えて下さい!
結
今回はケーリーの定理について解説しました。
ケーリーの定理を一言で言えば、「有限群なら、その群から対称群への単射準同型が存在する。」という主張です。
そして、単射準同型であることと核が単位元のみからなる集合であることは同値であるため、平たく言えば有限群であれば、存在する単射準同型の核が単位元のみからなる、ということがわかります。
次回は軌道について解説します。
乞うご期待!
質問、コメントなどお待ちしております!
どんな些細なことでも構いませんし、「定理〇〇の△△が分からない!」などいただければ全てお答えします!
お問い合わせの内容にもよりますが、ご質問はおおよそ3日以内にお答えします。
もし直ちに回答が欲しければその旨もコメントでお知らせください。直ちに対応いたします。
代数についてより詳しく知りたい方は以下を参考にすると良いと思います!
コメントをする
ケーリーの定理が米田の補題の系になっているらしいので理解したらいつかMathlogに記事を書いてみたいと思ってます!