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「ラグランジュの定理」「軌道の要素の数と商群の要素の数の関係」【代数学の基礎シリーズ】群論編 その15

代数学

本記事の内容

本記事は「ラグランジュの定理」と「有限群ならば、軌道の要素の数と群の安定化群による商群の要素の数が等しい」という主張を解説する記事です。

本記事を読むに当たり、群作用、軌道、安定化群について知っている必要があるため、以下の記事も合わせてご覧ください。

↓群作用の記事

↓軌道、安定化群の記事

ラグランジュの定理

ラグランジュの定理は、群と部分群との要素の関係を表す事実です。
それを示すために、記号を導入します。

記号のお話

指数

\(H\)が群\(G\)の部分群であるとする。このとき\(G/{H}\)、\(H\backslash G\)の要素の個数を\((G:H)\)と書き、\(H\)の\(G\)における指数という。

ラグランジュの定理の明示とその証明

定理1.(ラグランジュの定理)

\(H\)が群\(G\)の部分群であるとする。このとき $$ \left|G\right|=(G:H)\left|H\right| $$ が成り立つ。

定理1.の証明

\(G/{H}\)の完全代表系(これについては【代数学の基礎シリーズ】群論編 その4を御覧ください)\(\left\{x_i\right\}\)をとると、
$$
G=\coprod_{i}x_iH
$$
です。
任意の\(i\)に対して
$$
\left|x_iH\right|=H
$$
なので、\(\left|G\right|=(G:H)\left|H\right|\)です。
これは\(\left|G\right|=\infty\)、すなわち\(G\)が無限集合でも成り立ちます。

定理1.の証明終わり

ちなみに….(ラグランジュの定理の応用)

系2.

\(G\)を有限群とするとき、次の1.、2.が成り立つ。
  1. \(H\)が\(G\)の部分群ならば、\(\left|H\right|\)は\(\left|G\right|\)の約数である。
  2. \(g\in G\)の位数は\(\left|G\right|\)の約数である。

系2.の証明

1.の証明

\((G:H)\)は整数なので、ラグランジュの定理から\(\left|H\right|\)は\(\left|G\right|\)の約数です。

2.の証明

\(H\)を\(g\)で生成される群\(\langle g\rangle\)とすると、\(\left|H\right|\)は\(g\)の位数です。
実際、次が成り立つからです。

補題3.

\(x\)を群\(G\)の位数\(d<\infty\)の要素、\(H=\langle x\rangle\)を\(x\)で生成された巡回部分群、すなわち群の部分群で巡回群であるような群とする。このとき、\(\left|H\right|=d\)である。

補題3.の証明

\(H=\left\{x^n\middle| n\in\mathbb{Z}\right\}\)です。
\(n\in\mathbb{Z}\)ならば、\(n=qd+r\ (0\leq r<d)\)となる\(q,r\in\mathbb{Z}\)が存在します。
すると、\(x^n=x^r\)なので、\(H=\left\{1,x,\dots,x^{d-1}\right\}\)です。
\(0\leq i<j\leq d-1\)なら\(0<j-i\leq d-1\)なので、\(x^{j-i}=1_G\)ならば、\(x\)の位数が\(d\)であることに矛盾です。
故に、\(x^{j-i}\neq1_G\)です。
\(x^i=x^j\)なら、\(x^{j-i}=1_G\)なので、\(x^i\neq x^j\)です。
従って、\(\left|H\right|=d\)です。

補題3.の証明終わり

さて、補題3.から\(\left|H\right|\)は\(g\)の位数です。
従って、1.により\(g\)の位数は\(\left|G\right|\)の約数です。

系2.の証明終わり

有限群なら、軌道の要素の数と群の安定化群による商群の要素の数は等しい。

軌道と商群の要素の数にはとある関係があります。

命題4.

\(G\)が集合\(X\)に作用するとする。\(x\in X\)であるとき、集合\(Gx\)と\(G/{G_x}\)は、対応 $$ G/{G_x}\ni gG_x\mapsto gx\in Gx $$ により、一対一対応する。故に、\(\left|G\right|<\infty\)ならば、\(\left|Gx\right|=(G:G_x)=\left|G/{G_x}\right|\)となる。

命題4.の証明

\(g_1,g_2\in G\)とします。
$$
g_1x=g_2x\Longleftrightarrow g_2^{-1}g_1x=x\Longleftrightarrow g_2^{-1}g_1\in G_x\Longleftrightarrow g_1\in g_2Gx
$$
となるので、\(G/{G_x}\)の要素\(gG_x\)に対して\(\varphi\left( gG_x\right)=gx\)と定めると、これは\(G/{G_x}\)から\(Gx\)へのwell-definedな写像になります。
先の条件はすべて同値なので、\(\varphi\)は全単射です。
ラグランジュの定理から、
$$
(G:H)=\left|G/{G_x}\right|=\frac{\left|G\right|}{\left|G_x\right|}
$$
となるので、後半の主張が従います。

命題4.の証明終わり

皆様のコメントを下さい!

今回はコーシーです。

フランス革命が勃発した年にパリに生まれたコーシー(Cauchy, Augustin-Louis;1789-1857)は、16歳で工科大学に入学してエンジニアになることを目指しました。
卒業後は海軍基地の建設に携わりますが、体調を崩したためパリに戻り、数学の研究を始めました。
最初の論文は、後に群論として発展することになる主題を含んでいます。
コーシーは解析学の厳密化を目指した数学者として知られていますが、この論文で既にその兆しを見せています。
王党派であったこともあり、アカデミー会員のラグランジュが1813年に他界したとき、空席となったポストに会員として選出されることを望ん見ましたが失敗、ナポレオンのセントヘレナへの追放後、1814年にルイ18 世が王位に就き、王政復古の時代になってようやく会員に選出されました(1816年)。
ほぼ同時期に工科大学に職を得て教授となります。
コーシーが複素解析の研究を行ったのはこの時期です。
ガウスが完全主義者であるのと好対照なのがコーシーです。
まさに「書き散らす」という言葉が当てはまるように、次から次へと論文を量産しました。
例えば1848年には空前絶後の事態が起きています。
コーシーはアカデミーが毎週発行するComptes Rendus5に5編のノートと5編の論文を提出、その直後には19編のノートと10編の論文を提出したのです。
これ以後、Comptes Rendus は1人の著者の論文は毎号4 ページ以内という制限を課すことになりました。

如何でしたか?
コーシーはコーシー列やコーシーの積分定理に名を残す大数学者です。
ここに書かれれいることの他にコーシーについてご存知のことがあれば是非コメントで教えて下さい!

今回は、「群論におけるラグランジュの定理」と「有限群ならば、軌道の要素の数と群の安定化群による商群の要素の数が等しい」という主張を解説しました。

群作用を導入したときに「有限群の性質を語る上での武器になる」ということを述べましたが、今回の主張はその一端を垣間見ることができる事実です。

次回は正規化群、中心化群、共益類について解説します。

乞うご期待!
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代数についてより詳しく知りたい方は以下を参考にすると良いと思います!

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