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「中国式剰余定理とシローの定理の応用」(例題を解いてみよう!)【代数学の基礎シリーズ】群論編 その28

代数学

本記事の内容

本記事は、シローの定理の応用として、例題を解いてみる記事です。

本記事を読むに当たり、シローの定理について知っている必要があるため、以下の記事も合わせてご覧ください。

前回までの軽い復習

シローの定理の復習

シローの定理とは以下でした。

定理0.(シローの定理)

\(G\)を有限群、\(n=\left|G\right|\)、\(p\)を\(n\)の素因数とし、\(p^a\ (a>0)\)を\(n\)を割り切る\(p\)の最大のベキとする(すなわち、\(n=p^am\)で\(m\)と\(p\)は互いに素である)。このとき、次の1.から4.が成り立つ。
  1. \(\left|H\right|=p^a\)となるような\(G\)の部分群\(H\)が存在する。このような部分群\(H\)をシロー\(p\)部分群という。
  2. シロー\(p\)部分群を一つ固定する。部分群\(K\subset G\)に対して\(\left|K\right|\)が\(p\)ベキならば、\(K\subset gHg^{-1}\)となる\(g\in G\)が存在する。特に、\(K\)を含む\(G\)のシロー\(p\)部分群が存在する。
  3. \(G\)の全てのシロー\(p\)部分群は共役である。
  4. シロー\(p\)部分群の数\(s\)は $$ s=\frac{\left|G\right|}{\left|{\rm N}_G(H)\right|}\equiv 1\ ({\rm mod}\ p\ ) $$ という条件を満たす。

シローの定理の証明は【代数学の基礎シリーズ】群論編 その27を御覧ください。

記号の復習

同型

同型

群\(G_1\)、\(G_2\)の間に同型写像が存在するとき、それらは同型(isomorphic)と呼ばれ、このとき\(G_1\cong G_2\)と書く。

正規化(部分)群

正規化(部分)群

\(H\)を群\(G\)の部分群とする。 $$ {\rm N}_G(H)=\left\{g\in G\middle| gHg^{-1}=H\right\} $$ と定め、この\({\rm N}_G(H)\)を\(H\)の正規化(部分)群という。

共役、共役類

共役、共役類

群\(G\)の要素\(x,y\)に対して、ある\(g\in G\)が存在して、\(y=gxg^{-1}\)となるとき、\(x\)と\(y\)は共役であるという。\(x\)と共役である要素の集合を\(x\)の共役類といい、\(C(x)\)と書く。

指数

指数

\(H\)が群\(G\)の部分群であるとする。このとき\(G/{H}\)、\(H\backslash G\)の要素の個数を\((G:H)\)と書き、\(H\)の\(G\)における指数という。

中国式剰余定理

中国(式)剰余定理という有名な定理を紹介します。

中国式剰余定理を一言で。

中国式剰余定理を一言で述べれば、

商群に素因数分解みたいなことができる。

という定理です。

主張の明示と証明

定理1.(中国式剰余定理)

\(m,n\neq 0\)が互いに素な整数ならば、 $$ \mathbb{Z}/{mn\mathbb{Z}}\cong \mathbb{Z}/{m\mathbb{Z}}\times\mathbb{Z}/{n\mathbb{Z}} $$ である。

中国式剰余定理の証明

\(\mathbb{Z}/{mn\mathbb{Z}}\)から\(\mathbb{Z}/{m\mathbb{Z}}\times\mathbb{Z}/{n\mathbb{Z}}\)への写像\(\varphi\)を
$$
\varphi\left( x+mn\mathbb{Z}\right)=\left( x+m\mathbb{Z},x+n\mathbb{Z}\right)
$$
と定めます。
まずは\(\varphi\)がwell-definedであるかを見てみます。
\(y\in x+mn\mathbb{Z}\)であれば、\(a\in\mathbb{Z}\)により\(y=x+mna\)となります。
故に、\(y\in x+m\mathbb{Z}\)かつ\(y\in x+n\mathbb{Z}\)であり、
$$
y+m\mathbb{Z}=x+m\mathbb{Z},\quad y+n\mathbb{Z}=x+n\mathbb{Z}
$$
となります。
故に\(\varphi\)はwell-definedです。
また、\(\varphi\)は準同型です。

\(\varphi\)が全射であることを示します。
\(m,n\)は互いに素なので、\(s,t\)を変数とする一次不定方程式\(ms+nt=1\)は整数解\((s,t)=(a,b)\)を持ちます。
\(x,y\in\mathbb{Z}\)に対して、\(z=may+nbx\)とすると、
\begin{eqnarray}
z&=&may+(1-ma)x\\
&=&x+ma(y-x)\\
&=&(1-nb)y+nbx\\
&=&y+nb(x-y)
\end{eqnarray}
となるので、\(z+m\mathbb{Z}=x+m\mathbb{Z}\)、\(z+n\mathbb{Z}=y+n\mathbb{Z}\)、つまり
$$
\varphi\left( z+mn\mathbb{Z}\right)=\left( x+m\mathbb{Z},y+n\mathbb{Z}\right)
$$
です。
したがって、\(\varphi\)は全射です。
$$
\left| \mathbb{Z}/{mn\mathbb{Z}}\right|=\left| \mathbb{Z}/{m\mathbb{Z}}\times \mathbb{Z}/{m\mathbb{Z}}\right|=mn
$$
なので、\(\varphi\)は要素の個数が等しい集合の全射です。
故に、\(\varphi\)は全単射ですので、同型写像です。

中国式剰余定理の証明終わり

シローの定理の例題「位数が\(15\)の有限群は、\(\mathbb{Z}/{15\mathbb{Z}}\)と同型」

主張の明示

主張を明示します。

例題1.
\(G\)が位数\(15\)の有限群ならば、\(G\cong \mathbb{Z}/{15\mathbb{Z}}\)である。

証明する前に(直感的に成り立ちそうですか?)

この例題1.を証明する前に「直感的に成り立ちそうか?」ということをちょこっと考えてみます。
\(G\)は位数\(15\)の有限群ですので、\(\left| G\right|=15\)、すなわち\(G\)の要素の個数が\(15\)個ということです。
一方で、商群\(\mathbb{Z}/{15\mathbb{Z}}\)は
$$
\mathbb{Z}/{15\mathbb{Z}}=\left\{ \bar{0},\bar{1},\dots,\bar{14}\right\}
$$
です。
ただし、\(\bar{k}\ (0\leq k\leq14)\)は剰余類です(平たく言えば、\(15\)で割ったときの余りが\(k\)であるような整数の集合)。
故に、\(\left| \mathbb{Z}/{15\mathbb{Z}}\right| =15\)です。
つまり、\(G\)と\(\mathbb{Z}/{15\mathbb{Z}}\)の要素の数が同じで、双方とも群なので、全単射準同型、すなわち同型写像が存在しそうだな、となるわけです。
この発想からすれば、「シローの定理を使わなそうだなあ」と思うかもしれませんが、シローの定理の使い方を見るという意味で良い問題だと思います。

例題の証明

\(H,K\)をそれぞれ\(G\)のシロー\(3\)部分群、シロー\(5\)部分群とします。
\(\left|H\right|=3\)、\(\left|K\right|=5\)は素数なので、\(H\cong \mathbb{Z}/{3\mathbb{Z}}\)、\(K\cong\mathbb{Z}/{5\mathbb{Z}}\)です。
シロー\(3\)部分群の数を\(s\)、シロー\(5\)部分群の数を\(t\)とすると、
\begin{eqnarray}
s\equiv1\ ({\rm mod}\ 3),\quad t\equiv1\ ({\rm mod}\ 5)
\end{eqnarray}
です。
\(H\subset N_G(H)\)、\(K\subset N_G(K)\)なので、\(\left( G:N_G(H)\right)\)、\(\left( G:N_G(K)\right)\)はそれぞれ\(\left( G:H\right)=5\)、\(\left( G:K\right)=3\)の約数です。
これらは素数なので、\(s,t\)の可能性はそれぞれ\(1,5\)および\(1,3\)です。
\(5\not\equiv1\ ({\rm mod}\ 3)\)、\(3\not\equiv\ ({\rm mod}\ 5)\)なので、\(s=t-1\)です。
よって、\(H\)、\(K\)の共役は\(H\)、\(K\)のみです。
これは\(H\triangleleft G\)かつ\(K\triangleleft G\)を意味しています。

\(\left| H\cap K\right|\)は\(\left| H\right|=3\)、\(\left| K\right|=5\)の約数なので\(1\)です。
よって、\(H\cap K=\left\{ 1_G\right\}\)です。
ここで、次の事実を使います。

定理2.(第二同型定理)

\(H,N\)を群\(G\)の部分群で\(N\triangleleft G\)、すなわち\(N\)は\(G\)の正規部分群とする。このとき、以下の2つが成り立つ。
  1. \(HN\)は\(G\)の部分群である。また、\(HN=NH\)である。
  2. ただし、 $$ HN=\left\{hn\middle|h\in H,\ n\in N\right\} $$ である。
  3. \(H\cap N\triangleleft H\)、\(HN/{N}\cong H/{H\cap N}\)である。

定理2.の証明は【代数学の基礎シリーズ】群論編 その7を御覧ください。

\(H,K\triangleleft G\)なので、定理2.の1.から\(HK\subset G\)は部分群です。
\(HK\supset H,K\)なので、\(\left| HK\right|\)は\(3\)と\(5\)の公倍数です。
\(\left| HK\right|\leq 15\)なので、\(HK=G\)となります。

ここで、次の事実を使います。

命題3.

\(G\)が群、\(H,K\subset G\)が正規部分群で\(H\cap K=\left\{ 1_G\right\}\)、\(HK=G\)とする。このとき、\(G\)は直積\(H\times K\)と同型である。

命題3.の証明

\(H\times K\)から\(G\)への写像\(\varphi\)を\(\varphi(h,k)=hk\)と定めます。
仮定からこれは全射です。
\(h\in H\)、\(k\in K\)とします。
\(hkh^{-1}k^{-1}=\left( hkh^{-1}\right)k^{-1}\)ですが、\(K\triangleleft G\)なので、\(hkh^{-1}\in K\)です。
故に、\(hkh^{-1}k^{-1}\in K\)です。
また、\(hkh^{-1}k^{-1}=h\left( kh^{-1}k^{-1}\right)\)なので、同様の理由から\(hkh^{-1}k^{-1}\in H\)です。
故に、\(hkh^{-1}k^{-1}\in H\cap K=\left\{ 1_G\right\}\)です。
これにより、\(hkh^{-1}k^{-1}=1_G\)となります。
したがって、\(hk-kh\)です。

$$
\varphi(h,k)\varphi(h^\prime,k^\prime)=hkh^\prime k^\prime=hh^\prime kk^\prime=\varphi(hh^\prime,kk^\prime)
$$
であるので、\(\varphi\)は準同型です。
\((h,k)\in{\rm Ker}(\varphi)\)ならば、\(hk=1_G\)です。
故に、\(h=k^{-1}\in H\cap K=\left\{ 1_G\right\}\)です。
したがって、\(h=k=1_G\)となります。
これは、\({\rm Ker}(\varphi)=\left\{ 1_G\right\}\)であることを意味しています。
\({\rm Ker}(\varphi)=\left\{ 1_G\right\}\)であることと\(\varphi\)が単射であることは同値なので(詳しくは【代数学の基礎シリーズ】群論編 その3を御覧ください)、\(\varphi\)は単射となり、同型写像です。

命題3.の証明終わり

命題3.から
$$
G\cong H\times K\cong\mathbb{Z}/{3\mathbb{Z}}\times\mathbb{Z}/{5\mathbb{Z}}
$$
です。
また、中国式剰余定理から\(G\cong\mathbb{Z}/{15\mathbb{Z}}\)です。
故に、証明完了です。

皆様のコメントを下さい!

今回と次回で「黄金比」について少々語ろうと思います。

縦が\(a\)、横が\(b\)の長方形を考えます。
\(b>a\)としましょう。
この長方形から左詰めで辺の長さ\(a\)の正方形を取り除いたときにできる小長方形(縦が\(a\)、横が\(b-a\))が元の長方形と相似だとします。

このとき、\(a:b=(b-a):a\)だから、\(a^2=b(b-a)\)、つまり
$$
1=\left( \frac{b}{a}\right)^2-\frac{b}{a}
$$
です。
\(\displaystyle x=\frac{b}{a}\)とすると、\(x^2-x-1=0\)だから、これを解いて
$$
x\left(=\frac{b}{a} \right)=\frac{1+\sqrt{5}}{2}
$$
です。
これを黄金比(golden ratio)といいます。

黄金比の連分数展開は
\begin{eqnarray}
\frac{1+\sqrt{5}}{2}=1+\frac{1}{\displaystyle1+\frac{1}{\displaystyle1+\frac{1}{\displaystyle1+\frac{1}{\cdots}}}}
\end{eqnarray}
というように\(1\)が無限に出現します。

黄金比は正五角形の中にも隠れています。

図のように正五角形に対角線を引きます。

一辺の長さを\(1\)(\(AB=1\))、対角線の長さを\(x\)(\(BE=x\))とします。
\(\triangle BEF\)と\(\triangle CDF\)は相似だから、
$$
BE:CD=EF:CF
$$
です。
故に、\(x:1=1:(x-1)\)であり、\(x^2-x-1=0\)です。
すなわち、\(BE:CD\)は黄金比となっているわけです。

正五角形の対角線から成る星型の図形は五芒星(ごぼうせい、英:pentagram)と呼ばれ、ピタゴラス学派のシンボルでしたが、すでに紀元前3000年頃のメソポタミアの書物の中で言及されています。
五芒星と似たものに「ダビデの星」というユダヤ教、あるいはユダヤ民族を象徴する印があります。
これは2つの正三角形を逆に重ねて得られるもので、六芒星(ヘキサグラム)と言われる形をしており、イスラエルの国旗にも描かれています。

次回は「とある数列」に黄金比が隠されていることを紹介します。

黄金比について「これ、知ってる?」ということがあれば是非コメントで教えて下さい!

今回は、中国式剰余定理の解説と、それを用いてシローの定理の応用として例題を解いてみました。
中国式剰余定理も実は誠に重要な定理で、ある種商群に素因数分解のようなことができるという定理です。
シローの定理の応用は有限群であれば位数によっては商群と同型になる、つまりより考えやすい群と全単射準同型が存在するということについて述べました。

次回は生成元と関係式という概念について解説します。

乞うご期待!
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代数についてより詳しく知りたい方は以下を参考にすると良いと思います!

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