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シローの定理の証明の準備②(部分群の共役の数と正規化群の関係)【代数学の基礎シリーズ】群論編 その26

代数学

本記事の内容

本記事は、シローの定理の証明に必要な部分集合の作用の性質について解説する記事です。

本記事を読むに当たり、群作用、軌道、部分集合への作用について知っている必要があるため、以下の記事も合わせてご覧ください。

↓群作用の記事

↓軌道の記事

↓部分集合への作用の記事

部分集合への作用の軽い復習

部分集合への作用とは?

部分集合への作用

群\(G\)が集合\(X\)に左から作用しているとする。\(Y=\mathcal{P}(X)\)を\(X\)の冪集合とするとき、\(g\in G\)、\(S\in Y\)に対して $$ gS=\left\{gx\middle| x\in S\right\} $$ と定めることにより、\(G\)の\(Y\)への左作用が定まる。右作用の場合も同様である。右作用の場合、\(S^g\)などともかく。これを\(G\)の\(X\)への作用から引き起こされた作用という。

注意(記号のお話)

\(G\)の自分自身へお枝垂からの席による作用を考える場合、\(S\subset G\)とすると、\(G\)による作用の軌道を考えることができます。
その場合、軌道を\(GS\)と書くと、部分集合\(\left\{gx\middle|g\in G,\ s\in S\right\}\)と混同のおそれがあります(\(S\)の軌道はこの集合ではありません)。

故に、部分集合の集合への作用を考えるときには、軌道のことを\(O(S)\)と書くことにします。
また、\(S\)の安定化群のことも\({\rm Stab}(S)\)と書くことにします。

部分集合への作用の性質

命題1.

有限群\(G\)の、\(G\)の部分集合の集合への左からの積による作用を考える。このとき、\(S\)に対して、\(\left| {\rm Stab}(S)\right|\)は\(\left| S\right|\)の約数である。

命題1.の証明

\(n=\left| S\right|\)、\(H={\rm Stab}(S)\)、\(X\)を要素の個数が\(n\)個の\(G\)の部分集合全体の集合とします。
\(h\in H\)であれば、\(hS=S\)なので、集合\(S\)は\(H\)の要素の作用により不変です。
したがって、\(H\)の\(G\)への作用を考えると、\(S\)は\(H\)による軌道の和です。
ただし、これは\(S\in X\)と考えての軌道ではなく、\(G\)での軌道です。

復習(軌道)

軌道

群\(G\)が集合\(X\)に左から作用するとする。\(x\in X\)のとき $$ Gx=\left\{gx\middle| g\in G\right\} $$ と書き、\(x\)の\(G\)による軌道という。
詳しくは【代数学の基礎シリーズ】群論編 その14を御覧ください。

\(H\)による\(G\)での軌道は\(H\)による右剰余類のことです。
故に、\(\displaystyle S=\coprod H_{s_i}\)と書くと、\(\displaystyle\left| S\right|=\sum_{i}\left| H_{s_i}\right|\)ですが、\(\left| H_{s_i}\right|=\left| H\right|\)なので、\(\left| S\right|\)は\(\left| H\right|={\rm Stab}(S)\)で割り切れます。

命題1.の証明終わり

\(\left| {\rm Stab}(S)\right|\)は\(\left| G\right|\)と\(\left| S\right|\)の両方の約数なので、次の系が得られます。

系2.

有限群\(G\)の、\(G\)の部分集合の集合への左からの積による作用を考える。このとき、\(S\)に対して、\(\left|S\right|\)と\(\left|G\right|\)が互いに素であれば、\({\rm Stab}(S)=\left\{1_G\right\}\)である。

本題を語る前に…

これまでは、群の積による作用を群の部分集合について考えてきました。
シローの定理の証明のためのもう1つの準備として、部分群の共役の数と正規化群との関係について考察します。
そこで、少々くどいかもしれませんが、以降で使うものを軽く復習します。

正規化部分群

正規化(部分)群

\(H\)を群\(G\)の部分群とする。 $$ {\rm N}_G(H)=\left\{g\in G\middle| gHg^{-1}=H\right\} $$ と定め、この\({\rm N}_G(H)\)を\(H\)の正規化(部分)群という。

共役、共役類

共役、共役類

群\(G\)の要素\(x,y\)に対して、ある\(g\in G\)が存在して、\(y=gxg^{-1}\)となるとき、\(x\)と\(y\)は共役であるという。\(x\)と共役である要素の集合を\(x\)の共役類といい、\(C(x)\)と書く。

共役による作用

\(G\)を群、\(X=G\)とします。
\(g\in G\)、\(h\in X\)とするとき、\({\rm Ad}(g)(h)=ghg^{-1}\)と定めます。
\(g_1,g_2,h\in G\)なら、
$$
{\rm Ad}(g_1g_2)(h)=(g_1g_2)h(g_1g_2)^{-1}=g_1\left( g_2hg_2^{-1}\right)g_2^{-1}={\rm Ad}(g_1)\left( {\rm Ad}(g_2)(h)\right)
$$
です。
\(G\times X\)から\(X\)への写像を\((g,x)\mapsto {\rm Ad}(g)(x)\)で定めると、これは左作用になります。
この作用のことを共役による作用といいます。

安定化群

安定化群

群\(G\)が集合\(X\)に左から作用するとする。\(x\in X\)のとき、 $$ G_x=\left\{g\in G\middle|gx=x\right\} $$ を\(x\)の(\(G\)における)安定化群という。

内部自己同型と外部自己同型

\(G\)を群、\(g\in G\)とします。
このとき、写像\(i_g:G\longrightarrow G\)を\(ig(h)=ghg^{-1}\)で定めます。
このとき、
$$
i_g(h_1h_2)=gh_1h_2g^{-1}=gh_1g^{-1}gh_2g^{-1}=i_g(h_1)i_g(h_2)
$$
となるので、写像\(i_g\)は準同型写像です。
さらに、\(i_{g^{-1}}:G\longrightarrow G\)が\(i_g\)の逆写像、すなわち、\(i_{g^{-1}}(h)=g^{-1}hg\)で定められる写像\(i_{g^{-1}}:G\longrightarrow G\)が\(i_g\)の逆写像であるので、\(i_g\)は全単射だから、同型写像です。

内部自己同型、外部自己同型

\(i_g\)という形をした群\(G\)の同型写像のことを内部自己同型という。内部自己同型でないような同型写像のことを外部自己同型という。

部分群の共役の数と正規化(部分)群との関係

群\(G\)の\(G\)への共役による作用を考えます。
この作用により、\(G\)の部分集合の集合への作用も引き起こされます。
もし、\(g\in G\)で\(H\subset G\)が部分群であれば、\(H\ni h\mapsto ghg^{-1}\in gHg^{-1}\)は\(g\)による内部自己同型\(i_g\)の\(H\)への制限となります。
故に、\(gHg^{-1}\subset G\)もまた部分群であり、この写像は群の同型写像です。

要素の場合と同様にして、部分群\(H\)、\(gHg^{-1}\)は共役であるといいます。
部分群\(H\)と共役な部分群全体の集合を\(H\)の共役類といいます。

先程の考察から、\(H\)の共役類は、\(G\)の共役による部分群の集合への作用を考えたときの、\(H\)の軌道です。
\(H\)における安定化群は\(gHg^{-1}=H\)を満たす\(g\)全体の集合なので、\(H\)の正規化部分群\({\rm N}_G(H)\)です。

ここで、次の事実を使います。

命題2.

\(G\)が集合\(X\)に作用するとする。\(x\in X\)であるとき、集合\(Gx\)と\(G/{G_x}\)は、対応 $$ G/{G_x}\ni gG_x\mapsto gx\in Gx $$ により、一対一対応する。故に、\(\left|G\right|<\infty\)ならば、\(\left|Gx\right|=(G:G_x)=\left|G/{G_x}\right|\)となる。

命題2.の証明は【代数学の基礎シリーズ】群論編 その15を御覧ください。

命題2.から、次の命題を得ます。

命題3.

\(H\)を有限群\(G\)の部分群とするとき、\(H\)と共役な部分群の数は\(\left|G\right|/{{\rm N}_G(H)}\)である。

皆様のコメントを下さい!

今回と次回で「数の表記」についての歴史を少々語ろうと思います。

人類が数(自然数)の概念を獲得した後、それを文字で表し読みを与えることは自然の成り行きでした。
もちろん古代文明における数の表し方は様々でした。
最も「芸がない」(というと少々棘があるので、”正直”と言ったほうがいいかもしれませんが)表し方は古代ギリシャのそれで、既存のギリシャ文字を利用していました。

\(1\ h\acute{e}n\)\(2\ d\acute{y}o\)\(3\ tr\acute{i}a\)\(4\ t\acute{e}ttara\)\(5\ p\acute{e}nte\)
\(\alpha^\prime\)\(\beta^\prime\)\(\gamma^\prime\)\(\delta^\prime\)\(\epsilon^\prime\)
\(6\ h\acute{e}ks\)\(7\ hept\acute{a}\)\(8\ octo\)\(9\ enn\acute{e}a\)\(10\ d\acute{e}ca\)
\(\sigma^\prime\)\(\xi^\prime\)\(\eta^\prime\)\(\theta^\prime\)\(\iota^\prime\)
\(30\ tri\tilde{a}:konta\)\(50\ pent\tilde{e}:konta\)\(100\ hekat\acute{o}n\)\(200\ dia:k\acute{o}sia\)\(500\ pentak\acute{o}sioi\)
\(\lambda^\prime\)\(\nu^\prime\)\(\rho^\prime\)\(\sigma^\prime\)\(\phi^\prime\)
\(600\ heksak\acute{o}sioi\)
\(\chi^\prime\)

例えば、\(159\)は\(\theta^\prime\nu^\prime\rho^\prime\)と表します。

このような表記では、具体的な数の計算には極めて不便です。
しかも大きい数字を表すのには記号が足りなくなります。
他の文明では、「もの」の個数を直接表現する|、||、|||、||||、|||||のような記号を使っていました。
しかし、小さい数であればこれでもよいわけですが、原始的な物々交換から貨幣を使った高度の商業活動に発展すると、当然大きな数を扱うことになるから、このような表記法では不便です。

そこで、例えば「もの」の集まりを5つの「もの」からなるグループに分けることで、このグループに別の記号(例えば ⊢)を当てて、

\(||||||||||||=|||||\quad |||||\quad ||\quad\)(5個から成るグループにわける)

として、\(⊢⊢\ ||\)で表すようにしたわけです(これは\(12\)を\(5\)で割ったときの商が\(2\)、余りが\(2\)であることを表す\(12=2\times 5+2\)に対応しています)。
さらにグループの集まりが5以上になれば、それらを再びひとまとめにして、また別の記号を割り当て ます(⊢ が5個集まれば、それを記号\(|=\)で表すというように)。
これは数の表記法の著しい簡易化です。
そして、計算をこのような記号の操作で表現し始めたのです。
例えば、古代バビロニアでは、楔型文字(cuneiform character)を用いてこのような表しかたをしていました。

古代エジプトでは、今述べた規則には完全には当てはまりませんが、次のような表記法を使っていました。

このような古代の表記法の名残は、現在でも漢数字やローマ数字(Roman numerals)に見出すことができます。

一、二、三、四、五、\(\cdots\)、十一、十二、\(\cdots\)、百、百一

漢数字では、例外はあるものの、大体において\(10\)を纏まりとしています。

しかしローマ数字を見れば分かるように、さらに大きな数を表すには次々に新しい記号を付け加えていかなければならなりません。
また、このような記数法では足し算でさえ容易ではありません。

\(1\ unus\)\(2\ duo\)\(3\ tres\)\(4\ quattuor\)\(5\ quinque\)
\({\rm I}\)\({\rm II}\)\({\rm III}\)\({\rm IV}\)\({\rm V}\)
\(6\ sex\)\(7\ septem\)\(8\ octo\)\(9\ novem\)\(10\ decem\)
\({\rm VI}\)\({\rm VII}\)\({\rm VII}\)\({\rm IX}\)\({\rm X}\)
\(50\ quadraginta\)\(100\ centum\)\(500\ quingenti\)\(1000\ mile\)
\({\rm L}\)\({\rm C}\)\({\rm D}\)\({\rm M}\)

この欠点は、インドで発明された記数法により克服されました(紀元後 600-800 頃)。

続きは次回です。
記法についてご存知のことがあれば是非コメントで教えて下さい!

今回は、部分集合への作用の性質として「群の部分集合の安定化群の要素の個数は部分集合の要素の個数の約数」という事実と「部分群と共役な部分群の数と安定化群の要素の個数の関係」について解説しました。
今回でシローの定理の証明の準備が整いました。

次回はいよいよシローの定理を証明します。

乞うご期待!
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代数についてより詳しく知りたい方は以下を参考にすると良いと思います!

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