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「多変数の場合の中間値の定理を証明しよう!」【解析学の基礎シリーズ】多変数関数編 その16

多変数関数

本記事の内容

本記事は多変数の場合の中間値の定理を証明する記事です。
本記事を読むにあたり、多変数の場合の中間値の定理のイメージと1変数実数値関数の場合の中間値定理を知っている必要があるため、その際は以下の記事を参照してください。

まずは、多変数の場合の中間値の定理のイメージをチャラく復習します。

多変数の場合の中間値の定理のイメージのチャラい復習

多変数の場合の中間値の定理のイメージは、

定義域が弧状連結である(離れ小島が無い)ような連続な多変数実数値関数は、
必ず\(z=D\)という平面と1回は交わる、ということ。

です。
図で直感的に表せば、

こんな感じです。

多変数の場合の中間値の定理の明示

主張を明確にしましょう。

中間値の定理(多変数ver.) \(\Omega\subset\mathbb{R}^n\)が弧状連結であるとし、\(f:\Omega\to\mathbb{R}\)が\(\Omega\)で連続ならば、次が成り立つ。 $$ (\forall \boldsymbol{a}\in\Omega)\ (\forall \boldsymbol{b}\in\Omega)\ \left(\forall k\in\mathbb{R}:f(\boldsymbol{a})<k<f(\boldsymbol{b})\Rightarrow (\exists \boldsymbol{c}\in\Omega)\ {\rm s.t.}\ f(\boldsymbol{c})=k\right) $$

形式的には1変数実数値関数の場合と遜色ありません。

では次にこれを証明するための発想を説明します。

多変数の場合の中間値の定理の証明の発想

発想は人それぞれですので、「こういう発想をしろ!」なんて言いません。
ここでは筆者の発想を書きます。

筆者の発想としては、

1変数実数値関数の場合の中間値の定理が使えるんじゃないかな?

が結論です。
というのも、「本質的な主張は1変数だろうが多変数だろうが変わんなくね?」と思ったからです。
結局中間値の定理の証明で行いたいことは\(f(\boldsymbol{c})=k\)を満たすような\(\boldsymbol{c}\in\Omega\)を見つけたいということです。
確かに1変数の場合は「数直線上の実数\(c\)を見つけたい」という話で、多変数の場合は「平面上の点\(\boldsymbol{c}\)を見つけたい」という話で次元が異なります。
しかし、条件の式に目を向けてみましょう。
すると、1変数の場合は「\(f(c)=k\)」であり、多変数の場合は「\(f(\boldsymbol{c})=k\)」です。
これはいずれも実数です(つまり\(f(c),\ f(\boldsymbol{c})\in\mathbb{R}\))。
故に条件の式の次元が1変数でも多変数でも一致しているので「1変数の場合を多変数の証明に使えるのではないかな?」と思ったわけです。

さらに言えば、多変数の場合に現れる条件「定義域が弧状連結である」という条件を思い出してみます。

弧状連結な集合 \(\Omega\subset\mathbb{R}^n\)とするとき、\(\Omega\)が弧状連結(arcwise connected)であるとは、\(\Omega\)内の任意の2点\(x,y\)に対して、\(\Omega\)内の連続な関数(曲線)で\(x\)と\(y\)を結ぶものが存在する。 すなわち、 $$ (\forall x\in\Omega)\ (\forall y\in\Omega)\ (\exists\phi:[0,1]\to\Omega 連続)\ \phi(0)=x かつ \phi(1)=y $$ が成り立つことをいう。

多変数の場合中間値の定理の仮定から、\(\Omega\)は弧状連結ですので、
$$
(\forall x\in\Omega)\ (\forall y\in\Omega)\ (\exists\phi:[0,1]\to\Omega 連続)\ \phi(0)=x\land\phi(1)=y
$$
です。

ここで、「お!」となるわけです。
「何が”お!”なのか説明し給えヨ」と局長に言われるまでもなく、勿論説明します。

何が「お!」なのか、というと

\(\phi\)の終域と\(f\)の定義域が一致している!

ということです。
これはつまり、\(\phi\)と\(f\)の合成関数を考えることができるということを指しています。
つまり\(f\circ\phi:[0,1]\to\mathbb{R}\)を考えることができるというわけです。
この瞬間「\(f\circ\phi:[0,1]\to\mathbb{R}\)は実数値関数じゃん!てことは以前証明した中間値の定理を使えるじゃん!」と思えるわけです。
するともう殆ど証明が終わったようなものです。
仮定から、\(f:\Omega\to\mathbb{R}\)は連続で、かつ\(\phi:[0,1]\to\Omega\)も連続です。
ここで、連続な多変数実数値関数の合成関数もまた連続ですので、\(f\circ\phi:[0,1]\to\mathbb{R}\)も連続な関数です。

従って、1変数実数値関数の場合の中間値の定理が使えます。
故に、ある\(c\in[0,1]\)が存在して、\((f\circ\phi)(c)=k\)です。
ここで、\((f\circ\phi)(c)=f\left(\phi(c)\right)\)ですから、\(f\left(\phi(c)\right)=k\)ですので、\(\boldsymbol{c}=\phi(c)\)とすれば、見つけたい\(\boldsymbol{c}\)を見つけることができます。

もうほぼ証明ですが、こういう発想です。
この発想を証明の体裁に整えればおしまいです。

余談(読まなくてOK)

多変数バージョンの中間値の定理の証明の発想として、さも頭をこねくり回して考えたかのように書いていますが、正直なところ「折角1変数実数値関数の場合を区間縮小法でせっせと証明したんだから、これを使いたいし、同じことを多変数の場合でやるのは面倒くさいな」と思った、というのが理由の半分を占めているのは内緒です。

多変数の場合の中間値の定理の証明

中間値の定理(多変数ver.) \(\Omega\subset\mathbb{R}^n\)が弧状連結であるとし、\(f:\Omega\to\mathbb{R}\)が\(\Omega\)で連続ならば、次が成り立つ。 $$ (\forall \boldsymbol{a}\in\Omega)\ (\forall \boldsymbol{b}\in\Omega)\ \left(\forall k\in\mathbb{R}:f(\boldsymbol{a})<k<f(\boldsymbol{b})\Rightarrow (\exists \boldsymbol{c}\in\Omega)\ {\rm s.t.}\ f(\boldsymbol{c})=k\right) $$

もうほどんど上記で証明してしまったようなものですが、ちゃんと書き直します。

証明

示したいことは、

$$
(\forall \boldsymbol{a}\in\Omega)\ (\forall \boldsymbol{b}\in\Omega)\ \left(\forall k\in\mathbb{R}:f(\boldsymbol{a})<k<f(\boldsymbol{b})\Rightarrow (\exists \boldsymbol{c}\in\Omega)\ {\rm s.t.}\ f(\boldsymbol{c})=k\right)
$$
です。
つまり、上記を満たすような\(\boldsymbol{c}\)を見つけてきたいわけです。

まず、仮定から\(\Omega\)が弧状連結ですので、\(\boldsymbol{a}\)と\(\boldsymbol{b}\)を結ぶ\(\Omega\)内の曲線\(\phi\)が存在します。
つまり
$$
(\forall x\in\Omega)\ (\forall y\in\Omega)\ (\exists\phi:[0,1]\to\Omega 連続)\ \phi(0)=\boldsymbol{a}\land\phi(1)=\boldsymbol{b}
$$
です。

このとき、\(phi:[0,1]\to\Omega\)の定義域\(f:\Omega\to\mathbb{R}\)の終域が一致しており、かつ\(\phi\)と\(f\)は共に定義域で連続な関数なので、\(f\circ\phi:[0,1]\to\mathbb{R}\)も連続な関数です(証明は【解析学の基礎シリーズ】多変数関数編 その14を御覧ください)。

従って、\(f\circ\phi\)は1変数実数値関数の場合の中間値の定理の仮定を満たします。
1変数実数値関数の場合の中間値の定理は以下でした。

中間値の定理 関数\(f:[a,b]\to\mathbb{R}\)が\([a,b]\)で連続であり、\(f(a)<f(b)\)とする。 このとき、\(f(a)<D<f(b)\)を満たす任意の\(D\in\mathbb{R}\)に対して\(f(d)=D\)を満たす\(d\in(a,b)\)が存在する。 すなわち、 $$\forall D\in\mathbb{R}:f(a)<D<f(b)\Rightarrow(\exists d\in(a,b)\ {\rm s.t.}\ f(d)=D)$$ が成り立つ。

故に、
$$
(\exists \gamma\in[0,1])\ {\rm s.t.}\ \left(f\circ\phi\right)(\gamma)=k
$$
です。

ここで、\(\phi(0)=\boldsymbol{a}\)かつ\(\phi(1)=\boldsymbol{b}\)ですので、
$$
\left(f\circ\phi\right)(0)=f\left(\phi(0)\right)=f(\boldsymbol{a})<k=\left(f\circ\phi\right)(\gamma)<f(\boldsymbol{b})=f\left(\phi(1)\right)=\left(f\circ\phi\right)(1)
$$
です。

従って、\(\boldsymbol{c}\)として\(\phi(\gamma)\)を採用すれば良いことが分かり、証明完了です。

証明終わり

今回は、多変数の場合の中間値の定理を証明しました。
多変数の場合は

  • 1変数実数値関数の場合の中間値の定理
  • 定義域で連続な多変数実数値関数の合成関数も定義域で連続である。
  • 弧状連結

の3つから簡単にわかる、ということがオチです。

次回はワイエルシュトラスの最大値定理の多次元バージョンのイメージを解説します。

乞うご期待!質問、コメントなどお待ちしております!

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