本記事の内容
本記事は線型写像と行列の関係性について解説する記事です。
本記事を読むにあたり、写像について知っている必要があるため、以下の記事も合わせてご覧ください。
※シリーズ化しているため、一部の記事のリンクを掲載しています。
※注意※ 本記事は実行列と実ベクトルのみを扱います。
線型写像ってなんスか?
線型写像を一言で
線型写像を一言でいうと、
です。
「ありゃ?像ってなんだっけ?」というと、写像f:X→Yおよびx∈Xに対してf(x)∈Yのことです。
詳しくは【論理と集合シリーズ】写像編 その4を御覧ください。
線型写像をもっと端的に言うと、
「ナンジャソレ?」となるかもしれませんので、簡単な例を挙げます。
例えばどんなのッスか?
例1.f:R→Rをf(x)=2xで定めます。
このとき、
- 任意のa,b∈Rに対してf(a+b)=2(a+b)=2a+2b=f(a)+f(b)
- 任意のc∈Rおよび任意のa∈Rに対してf(ca)=2(ca)=c⋅2a=cf(a)
が成り立ちます。
このときfは線型写像であるといいます。
一方で、次の例を考えてみます。
例2.g:R→Rをg(x)=x2で定めます。
このとき、
- 任意のa,b∈Rに対してf(a+b)=(a+b)2=a2+2ab+b2となり、必ずしもf(a+b)とf(a)+f(b)は等しくありません。
- 任意のc∈Rおよび任意のa∈Rに対してf(ca)=(ca)2=c2a2=c2f(a)となり、必ずしもf(ca)とcf(a)は等しくありません。
このgは線型写像ではありません。
ベクトルの方がよりわかりやすいと思われますので、別の例を挙げます。
例3.h:R2→R3を
h(xy)=(x+y2xx−3y)
で定めます。
このとき
- 任意のa=(a1a2), b=(b1b2)∈R2に対して以下が成り立ちます。
h(a+b)=h((a1a2)+(b1b2))=h(a1+b1a2+b2)=(a1+b1+a2+b22(a1+b1)a1+b1−3(a2+b2))=(a1+a22a1a1−3a2)+(b1+b22b1b1−3b2)=h(a1a2)+h(b1b2)=h(a)+h(b) - 任意のc∈Rおよび任意のa=(a1a2)に対して、以下が成り立ちます。
h(c(a1a2))=h((ca1ca2))=(ca1+ca22ca1ca1−3ca2)=c(ca1+ca22ca1ca1−3ca2)=ch((a1a2))
従って、hは線型写像です。
というわけで、線型写像とは何か、ということを明示します。
で、何スか?線型写像って?
で、線型写像は何か、ということをしっかり書くと以下です。
RnからRmへの線型写像
写像f:Rn→Rmが線型写像(linear mapping)であるとは、任意のa,bRnおよび任意のc∈Rに対していかが成り立つときをいう。- f(a+b)=f(a)+f(b) (和を保つ)
- f(ca)=cf(a) (スカラー倍を保つ)
ここで注意が2つほどあります。
- 注意1:「Rn)から(Rmへの」という枕詞をつけたのは、線型写像はRnを一般化した線型空間で定められる概念だからです。
詳しくは線型空間の部分で解説します。 - 注意2:「保つ」という言葉はあまり聞き馴染みがないかと思いますが、演算について語る上では比較的よく出現します。
どういう意味か、ということをサラッというと、「定義域内で演算した要素を写像で対応させると、その行き先(対応している要素)での演算をした要素となっている」ということです。
つまり、厳密に言えばf(a+b)=f(a)+f(b)の左辺の+と右辺の+は別物なのです。
すなわち左辺の+はRnでの+なのであって、右辺の+はRmでの+です。
故にRnでの+を+nと書き、Rmでの+を+mと書いてf(a+nb)=f(a)+mf(b)と書いた方が厳密です。
スカラー倍でも同じです。
線型写像は合成しても線型写像です
1つ自然にわかる事実を証明します。
以下に主張とその証明を書きますが、ぜひ一度ご自身で証明してみてください!
命題3.(線型写像の合成写像も線型写像)
m,n.l∈N、f:Rn→Rmおよび、g:Rm→Rlが線型写像だとする。このとき、fとgの合成写像g∘f:Rn→Rlも線型写像である。命題3.の証明
m,n,l∈N、f:Rn→Rmおよび、g:Rm→Rlが線型写像だとします。
このとき、示したいのは、任意のa,b∈Rnおよびc∈Rに対して、
- (g∘f)(a+b)=(g∘f)(a)+(g∘f)(b)
- (g∘f)(ca)=c(g∘f)(a)
です。
任意のa,b∈Rnに対して、fが線型写像であるから、
(g∘f)(a+b)=g(f(a+b))=g(f(a)+f(b))
です。
また、gが線型写像であることから、
g(f(a)+f(b))=g(f(a))+g(f(b))=(g∘f)(a)+(g∘f)(b)
です。
任意のaおよびc∈Rに対して、fが線型写像であるから、
(g∘f)(ca)=g(f(ca))=g(cf(a))
です。
また、gが線型写像であることから、
g(cf(a))=cg(f(a))=c(g∘f)(a)
です。
命題3.の証明終わり
線型写像の行列表現
いきなりネタバラシなのですが、実は線型写像は行列によって書き表すことができ、逆に行列は線型写像を定めます。
そういう意味で両者を同一視することができます。
本節ではそれを解説します。
標準基底
まずは標準基底について解説します。
Rnの標準基底
n∈Nとし、Rnのベクトルを列ベクトルで表すことにして、以下のベクトルを考える。 e1=(10⋮⋮0),e2=(010⋮0),⋯,ej=(0⋮1⋮0)(←j番目),⋯,en=(0⋮⋮01) すなわち、各j=1,2,⋯,nに対して、j番目の成分が1で、他の成分がすべて0であるようなベクトルがejである。 このとき、n個のベクトルの組 e1, e2,⋯,en をRnの標準基底(standard basis, canonical basis)と呼ぶ。さらっと基底について述べておきます。
基底、特に標準基底はある種の座標軸のような役割を持っています。
例えば、2次元の場合を考えてみましょう。
2次元の場合の標準基底は
e1=(10),e2=(01)
です。

このとき、平面R2の任意の点はe1,e2を用いて一意的に表現することができます。
例えば、(2,3)という点は
(23)=2(10)+3(01)=2e1+3e2
です。

そういう意味で座標軸的な役割を担っています。
そのため、この標準基底に注目し、線型写像によって標準基底がどの要素と対応するのか、ということ着目すれば線型写像と行列の関係が分かります。
標準基底に着目してみる
では、「線型写像は行列で表現できまっせ」ということを見ていきましょう。
線型写像f:Rn→Rmが与えられたとし、e1, e2,⋯,enがRnの標準基底だとします。
ここで、注意なのが、e1, e2,⋯,enは0か1が縦にn個並んだベクトルです。
さてこのとき、Rnの標準基底の像f(e1),f( e2),⋯,f(en)を考えてみましょう。
これら\)がRnの標準基底だとします。
このとき、Rnの標準基底の像f(e1),f( e2),⋯,f(en)はRmの要素ですから、それぞれがRmのベクトルです。
従って、f(e1),f( e2),⋯,f(en)を以下のように書いてみます。
f(e1)=(a11a21⋮⋮am1),f(e2)=(a12a22⋮⋮am2),⋯,f(ej)=(a1ja2j⋮⋮amj),⋯,f(en)=(a1na2n⋮⋮amn)
ここで、Rmの標準基底をe′1, e′2,⋯,e′mと書いたとしましょう。
すなわち、
e′1=(10⋮⋮0),e′2=(010⋮0),⋯,e′k=(0⋮1⋮0)(←k番目),⋯,e′m=(0⋮⋮01)
ここで注意なのが、e′1, e′2,⋯,e′mは0か1が縦にm個並んだベクトルです。
先程のf(e1),f( e2),⋯,f(en)はRmの要素だったわけですから、これらをe′1, e′2,⋯,e′mをつかって表現してみます。
ここではf(ej)に注目してみましょう。
すると、
f(ej)=(a1ja2j⋮⋮amj)=(a1j0⋮⋮0)+(0a2j0⋮0)+⋯+(0⋮akj⋮0)(←k番目)+⋯+(0⋮⋮0amj)=a1j(10⋮⋮0)+a2j(010⋮0)+⋯+akj(0⋮1⋮0)+⋯+amj(0⋮⋮01)=a1je′1+a2je′2+⋯+akje′k+⋯+amje′m=m∑i=1aije′i
です。
まとめれば、
ということです。
次に、f(e1),f( e2),⋯,f(en)を列ベクトルとする(m,n)行列Aを考えます。
すなわち、
A=(a11a12⋯a1na21a22⋯a2n⋮⋮⋱⋮am1am2⋯amn)=(f(e1) f( e2)⋯f(en))
となります。
つまり、線型写像から行列が定まったことになります。
これをまとめると、
ということです。
線型写像は行列で表現できる
ここまでは、f:Rn→Rmの標準基底という特別なベクトルについて考えました。
これからは標準基底だけでなく一般のx∈Rnについて考えてみましょう。
任意のx∈Rnを
x=(x1x2⋮xn)
と書いたとしましょう。
このx∈RnはRnの標準基底e1, e2,⋯,enを用いると、次のように書くことができます。
x=(x1x2⋮⋮⋮⋮xn)=(x100⋮⋮⋮0)+(0x20⋮⋮⋮0)+⋯+(0⋮0xj0⋮0)(←j番目)+⋯+(0⋮⋮⋮00xn)=x1(100⋮⋮⋮0)+x2(010⋮⋮⋮0)+⋯+xj(0⋮010⋮0)(←j番目)+⋯+xn(0⋮⋮⋮001)=x1e1+x2e2+⋯+xjej+⋯+xnen
さて、線型写像f:Rn→Rmによるx∈Rnの像を考えてみましょう。
線型写像とは何だったかということを再掲しておきます。
RnからRmへの線型写像(再掲)
写像f:Rn→Rmが線型写像(linear mapping)であるとは、任意のa,bRnおよび任意のc∈Rに対していかが成り立つときをいう。- f(a+b)=f(a)+f(b) (和を保つ)
- f(ca)=cf(a) (スカラー倍を保つ)
線型写像の条件1.および2.を繰り返し使うことによって、
f(x)=f(x1e1+x2e2+⋯+xjej+⋯+xnen)=f(x1e1)+f(x2e2)+⋯+f(xjej)+⋯+f(xnen)=x1f(e1)+x2f(e2)+⋯+xjf(ej)+⋯+xnf(en)
です。
ここで、
f(e1)=(a11a21⋮⋮am1),f(e2)=(a12a22⋮⋮am2),⋯,f(ej)=(a1ja2j⋮⋮amj),⋯,f(en)=(a1na2n⋮⋮amn)
と書いたことを思い出すと、
x1f(e1)+x2f(e2)+⋯+xjf(ej)+⋯+xnf(en)=x1(a11a21⋮⋮am1)+x2(a12a22⋮⋮am2)+⋯+xj(a1ja2j⋮⋮amj)+⋯+xn(a1na2n⋮⋮amn)=(x1a11+x2a12+⋯+xja1j+⋯+xna1nx1a21+x2a22+⋯+xja2j+⋯+xna2n⋮⋮x1am1+x2am2+⋯+xjamj+⋯+xnamn)
ここで「お?もしや?」と思った方、鋭いです。
「もしかして?」と思った方のその「もしかして」は正解です。
最後のベクトルは、行列とベクトルの積に書き直すことができます。
つまり、
(x1a11+x2a12+⋯+xja1j+⋯+xna1nx1a21+x2a22+⋯+xja2j+⋯+xna2n⋮⋮x1am1+x2am2+⋯+xjamj+⋯+xnamn)=(a11a12⋯a1na21a22⋯a2n⋮⋮⋱⋮am1am2⋯amn)(x1x2⋮xn)
です。
「え?本当に?」と思った方はぜひ計算してみてください。
「嘘だr…ホントだ…」となると思います。
ここで、
A=(a11a12⋯a1na21a22⋯a2n⋮⋮⋱⋮am1am2⋯amn)
と書いたとすると、今での話は
f(x)=Ax
ということです。
これはまさに、「線型写像は行列で表現できる」ということを指しています。
大事なことなので、この節のまとめとして明記しておきます。
行列は線型写像で表現できる
今までの話の流れとしては線型写像から行列を導き出そう、という流れでした。
今度はその逆、行列から線型写像を導こうという話です。
そもそものお話
まずは、行列とベクトルの積のそもそもの話をします。
A=(a11a12⋯a1na21a22⋯a2n⋮⋮⋱⋮am1am2⋯amn),x=(x1x2⋮xn)
としたとき、Aは(m,n)型の行列、xはn次のベクトル、すなわち(n,1)型の行列ですのでAとxの積Axを考えることができます。
そこでAxを計算してみます。
すると、
Ax=(a11a12⋯a1na21a22⋯a2n⋮⋮⋱⋮am1am2⋯amn)(x1x2⋮xn)=(x1a11+x2a12+⋯+xja1j+⋯+xna1nx1a21+x2a22+⋯+xja2j+⋯+xna2n⋮⋮x1am1+x2am2+⋯+xjamj+⋯+xnamn)∈Rm
です。
これを写像の視点からみてみます。
すると、
ということです。
これはまさに写像です。
すなわち、行列というのは行列とベクトルの積を規則とすることで、そもそもRnからRmへの写像なのです。
ということは、行列は写像なのですから、この写像が線型写像だということが分かればゴールです。
行列が与える写像は線型写像だ
では、行列が与える写像が線型写像だということ示します。
任意の(m,n)型の行列をA=(aij)が与えられたとき、写像fA:Rn→Rmを
x=(x1x2⋮xn)
に対して、
fA(x)=Ax
により定めます。
このとき、fAが線型写像だ、ということを示したいわけです。
要するに、以下が成り立てば良いわけです。
任意のx,y∈Rnと任意のk∈Rに対して、
- fA(x+y)=fA(x)+fA(y),
- fA(kx)=kfA(x)
が成り立てばOKです。
まずは1.を示します。
1.を示すにあたって、行列の積の分配則を使います。
「なんだったっけ?」というと、以下でした。
定理.(分配則)
m,n,r∈N、k,h∈Cとする。このとき、3つの行列Cに対して、以下が成り立つ。- Aが(m,n)型、B及びCが(n,r)型のとき、A(B+C)=AB+AC
- AとBが(m,n)型、Cが(n,r)型のとき、(A+B)C=AC+BC
- AおよびBが共に(m,n)型のとき、k(A+B)=kA+kB
- AおよびBが共に(m,n)型のとき、(k+h)A=kA+hA
この定理の証明は【線型代数学の基礎シリーズ】行列編 その2を御覧ください。
今、定理.(分配則)の1.においてr=1の場合を使います。
すると、
fA(x+y)=A(x+y)=Ax+Ay=fA(x)+fA(y)
です。
次に2.です。
2.を示すにあたって、スカラー倍の性質を使います。
「なんだったっけ?」というと、以下でした。
定理.(スカラー倍の性質)
k,h∈C、m,n,r∈Nとする。(m,n)型行列Aと(n,r)型行列Bとk,hに対して次が成り立つ。- (kh)A=k(hA)
- k(AB)=(kA)B=A(kB)
- 0A=Omn
- 1A=A
この定理の証明は【線型代数学の基礎シリーズ】行列編 その2を御覧ください。
今、定理.(スカラー倍の性質)の2.においてr=1の場合を使います。
すると、
fA(kx)=A(kx)=k(Ax)=kfA(x)
となるので、fAは線型写像です。
この章のまとめ
要するに、この章では以下のことを示したことになります。
定理.(線型写像と行列との関係)
m,n∈N、RnおよびRmの標準基底をそれぞれe1,…,enおよびe1,…,enとする。このとき、任意の線型写像f:Rn→Rmに対して、 f(ej)=m∑i=1aije′i(j∈N, 1≤j≤n) によって(m,n)型の行列 A=(aij) が定まり、任意のx∈Rnに対してf(x)=Axが成り立つ。逆に、任意の(m,n)型行列Aが与えられたとき、 fA(x)=Ax(x∈Rn) によって線型写像fA:Rn→Rmが定まる。
この対応によって、線型写像f:Rn→Rmと(m,n)型行列Aは一対一対応する。
結
今回は、RnからRmへの線型写像は何か、ということと線型写像は行列で表現でき、逆に行列は線型写像であるということから線型写像と行列は同一視できるということを解説しました。
この説明にあたり、標準基底(座標軸のようなもの)に着目することで見通しが良くなるのでした。
今回の話は「行列ってなんとなく分かったけど結局何者?」という問に対して「線型写像です」と答える記事ということもできるでしょう。
次回は行列式の話をするために必要な「置換、互換、対称群(サラッと)、巡回置換、置換の符号」について解説します。
乞うご期待!質問、コメントなどお待ちしております!
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