本記事の内容
本記事は、グラフ理論の応用の1つである産業連関のレオンチェフ方程式について解説する記事です。
本記事を読むにあたり、産業連関について知っている必要があるため、以下の記事も合わせてご覧ください。
前回の話の軽い復習
産業連関表とは以下のような表でした。

上記の表において、農業部門には1、工業部門には2、サービス部門には3の数字を当てています。
このとき
- xixi:部門iiの生産量
- xijxij:部門iiの生産量から部門jjにより需要され、使われる量
- fifi:部門iiの生産量から消費財として需要され使われる量
- eiei:部門iiの生産量から海外(輸出)のために需要され、使われる量
- mimi:部門iiに輸入で海外から供給される量
を表しています。
x1,x2,x3x1,x2,x3とb1,b2,b3b1,b2,b3の間の関係式を表せば、次の関係式を得るのでした。
a11x1+a12x2+a13x3+b1=x1a21x1+a22x2+a23x3+b2=x2a31x1+a32x2+a33x3+b3=x3
これを見ると連立方程式ですね。
詳しくは、【幾何学の基礎シリーズ】グラフ理論編 その12を御覧ください。
産業部門の数が一般の個数の場合は?
前回の産業部門が3つの場合を一般の個数の場合に拡張します。
拡張すると…
複数の産業部門に番号を付けて、それらを1,2,…,nと表すことにします。
そして、ある年度の産業連関表が次のように与えられたとします。


投入係数をaij、すなわち部門iからの生産量の内、部門jに需要されて使われる量はxij=aijxjとします。
ただし、aij=0の場合は、iからjには供給が無い、と考えます。
部門iにシステムの外部から需要される量はbi=fi+ei−miです。
従って、需要量に見合った生産が行われたのであれば、一般の場合も次の等式を得ることが出来ます。
x1=a11x1+a12x2+⋯+a1nxn+b1x2=a21x1+a22x2+⋯+a2nxn+b2⋮⋮⋮⋮⋮xn=an1x1+an2x2+⋯+annxn+bn
ここで、右辺が需要量、左辺が生産量を表しています。
もし、正の付加価値が付けられるならば、更に不等式
a1j+a2j+⋯+anj<1
が成り立ちます。
これらは、ある年の産業連関表から得られる等式と不等式です。
レオンチェフ方程式(均衡産出高モデル)
ここで、産業連関表のことは一旦忘れて、この等式を、aij≥0が予め与えられたとき(これも投入係数呼ぶことにしますが、不等式(2)は仮定しません)、最終需要料(厳密には輸入量を引いたもの)b1,…,bn (bi≥0)に対して、それに見合う生産量(均衡産出高)x1,…,xn (xi≥0)を求める連立方程式と見ます。
要するに、aij≥0が与えられたときに、b1,…,bn (bi≥0)に対してx1,…,xn (xi≥0)を求める連立方程式と見る、ということです。
この方程式(1)をレオンチェフ方程式あるいは均衡産出高モデルといいます。
勿論、係数aijとbiは産業連関表から得られる数値の場合は、レオンチェフ方程式は解を持ちます。
しかしながら、b1,…,bnを変化させたときに解を持つかどうか、ということは分かりません。
また、産業連関表から得られる投入係数aijを変化させたり、0以上の定数として独立に与えたときにも解を持つかどうかということは分かりません。
そこで、次のように定めます。
viable(実行可能)
均衡産出高もである、あるいは投入係数に当たる{aij}がviable(実行可能)とは、レオンチェフ方程式が任意のb1,…,bn (bi≥0)に対して一意的な解x1,…,xn (xi≥0)を持つことをいう。証明したいこと
今までの話から、次の定理を示すことが目標です。
定理1.
- あるb1>0,…,bn>0に対してレオンチェフ方程式(1)が解x1≥0,…,xn≥0を持つならば、{aij}はviableである。
- 条件(2)の下で、{aij}はviableである。
これは特に、最終需要料(-輸入量)が正、または付加価値が正であるような産業連関表から得られる投入係数はviableだ、ということを意味しています。
勿論、「成り立ちそうだな」という定理です。
産業連関表の投入係数表から得られる行列
A=(a11a12⋯a1na21a22⋯a2n⋮⋮⋱⋮am1am2⋯amn)
を投入係数行列(technology matrix, input-output table)といいます。
投入係数行列の成分は0以上です。
これがどうしてグラフ理論と関係するんですか?
産業部門とそれらの間の需要・供給の関係は「ネットワーク」の形をしています。
これを数学的に定式化するのに、有向グラフの概念を使うのです。
投入係数行列から、以前に述べた方法で有向グラフを作ります。
つまり、
- 各部門には頂点を対応させます。
故に頂点には1からnまでの番号が振られます。 - 部門iから部門jに供給があるときは(つまりaij>0のときは)、頂点iを始点として、頂点jを終点とする有向辺(供給の方向を指しています)が対応します。
経済システムに付随するグラフは連結としてOKです。
でなければ(連結でなければ)、互いに需要・供給のない独立なシステムに分解することが出来るからです。
要するに、別々で考えようよ、ということになってしまうからです。
余談(レオンチェフ方程式の応用先)
- 需要の生産誘発力 最終需要が変化した時の(「数学的」解としての)産出変化から、需要変化が経済全体に与える影響力の大小を検討することができます。
- 生産活動の国際依存度 国際的な産業連関表を用いて、貿易による国際分業を通じて、アメリカやアジアの最終需要(消費・投資)に日本産業の生産がどのように依存しているか、あるいは日本の最終需要に(日本以外の)アジア産業の生産がどの程度依存しているかを分析できます。
- 経済計画 将来の最終需要変化を予測し、これを満たす各産業の将来市場規模から、不況化する産業や下火にある産業の存在を検知してその対策を講じます。
- 景気問題 内需拡大の影響を使途別産業別に分析し、同じ財政規模でより効果的な景気対策(財政支出政策)を見出します。
- 物価・コスト問題 為替レートの変化が輸入を通じて国内物価に与える影響や、賃金・資本コスト・間接税などの変化が財・サービス価格に与える影響を分析します.
- 教育労働問題 産業別の雇用行列を使用して、産業別技能別の労働需要変化を求め、教育・失業・職業訓練などの動向を把握します。
皆様のコメントを下さい!
今回のジョークです。
物理学者、生物学者、そして数学者が道に面したカフェに座って道路の反対側の建物に出入りする人々を観察しています。
最初に彼らは建物に入って行く二人の人物を見て、しばらくして建物から三人の人物が出てくるのに気付きました。
物理学者は「あれ、見落としがあったかな」と言い、生物学者は「いやいや、なかで増えたんだよ」と言いました。 それに対して数学者は「もしあと一人が建物に入れば、中には誰もいなくなるね」と呟いたそうな。
まさにジョークですね。
数学者の「入ったら誰もいなくなる」というのは2−3=−1人が建物に居る、という仮想的な状況を認めれば、もう1人入ることで「−1+1=0人=誰もいない」という状態になるよね、ということです。
勿論、ありえませんので、まさにジョークです。
他にご存知のジョークがあれば是非コメントで教えて下さい!
結
今回は、産業連関のレオンチェフ方程式とは何か?について解説しました。
今回もグラフ理論のお話がありませんでしたが、産業連関が、特にレオンチェフ方程式がどのようにグラフ理論とつながるかというイントロをお話しました。
次回はレオンチェフ方程式に対して数学的に踏み込んでみます。
乞うご期待!
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グラフ理論についてより詳しく知りたい方は以下を参考にすると良いと思います!
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