本記事の内容
本記事は多変数ベクトル値関数の合成関数の極限と、その連続についてを説明する記事です。
本記事を読むにあたり、1変数実数値関数の合成関数の極限について知っている必要があるため、その際は以下の記事を参照してください。
多変数ベクトル値関数の合成関数の極限を考える意味
和差積商以外にも、ある点で収束するような多変数ベクトル値関数の合成関数の極限を考えることができます。
1変数実数値関数の場合と同様に、扱う関数が複雑なときは真面目に極限を考えようとすると、非常に難しい場合がります。
例えば、次のような場合です。
例1.(複雑と言っても割とシンプルな方かな…) \(f:(0,\pi)\times(0,\pi)\to\mathbb{R}\)が\(f(x,y)=\log(\sin xy)\)で定められているとします。
この極限を真面目に\(\epsilon-\delta\)論法で考えるのは非常に面倒です。
しかし、この\(f\)は\(g(x,y)=\sin xy\)で定められる\(g:(0,\pi)\times(0,\pi)\to\mathbb{R}\)と\(h(x)=\log x\)で定められる\(h:g((0,\pi)\times(0,\pi))\to\mathbb{R}\)の合成関数\(h\circ g\)だと思えば、各々の極限を考えるだけで済む、というわけなのです。
多変数ベクトル値関数の合成関数の極限
形式的には1変数実数値関数の極限とほぼ同じです。
では、主張を明示しましょう。
\(\Omega\in\mathbb{R}^n\)、\(\Omega^\prime\in\mathbb{R}^m\)をそれそれ\(\mathbb{R}^n\)、\(\mathbb{R}^m\)の領域とする。 また、\(\boldsymbol{f}:\Omega\to\mathbb{R}^m\)、\(\boldsymbol{f}:\Omega^\prime\to\mathbb{R}^l\)を関数とする。 さらに、\(\boldsymbol{f}(\Omega)\subset \Omega^\prime\)、\(\boldsymbol{a}\in\bar{\Omega}\)、\(\boldsymbol{b}\in \bar{\Omega^\prime}\)、\(\boldsymbol{c}\in\mathbb{R}^l\)とする。 このとき、\(\displaystyle \lim_{\boldsymbol{x}\to\boldsymbol{a}}\boldsymbol{f}(\boldsymbol{x})=\boldsymbol{b}\)、\(\displaystyle \lim_{\boldsymbol{y}\to\boldsymbol{b}}\boldsymbol{g}(\boldsymbol{y})=\boldsymbol{c}\)ならば、 $$\lim_{\boldsymbol{x}\to \boldsymbol{a}}(\boldsymbol{g}\circ \boldsymbol{f})(\boldsymbol{x})=\boldsymbol{c}$$ が成り立つ。 言い換えれば、 $$ \boldsymbol{a}=\left( \begin{array}{c} a_1\\ a_2\\ \vdots\\ a_m \end{array} \right),\quad\boldsymbol{f}(\boldsymbol{x})=\left( \begin{array}{c} f_1(\boldsymbol{x})\\ f_2(\boldsymbol{x})\\ \vdots\\ f_m(\boldsymbol{x}) \end{array} \right),\quad \boldsymbol{b}=\left( \begin{array}{c} b_1\\ b_2\\ \vdots\\ b_m \end{array} \right),\quad \boldsymbol{g}(\boldsymbol{y})=\left( \begin{array}{c} g_1(\boldsymbol{y})\\ g_2(\boldsymbol{y})\\ \vdots\\ g_m(\boldsymbol{y}) \end{array} \right),\quad \boldsymbol{c}=\left( \begin{array}{c} c_1\\ c_2\\ \vdots\\ c_m \end{array} \right) $$ と書いたとき、 $$ \lim_{\boldsymbol{x}\to \boldsymbol{a}}(\boldsymbol{g}\circ \boldsymbol{f})(\boldsymbol{x})= \lim_{\boldsymbol{x}\to \boldsymbol{a}} \left( \begin{array}{c} g_1(f_1(\boldsymbol{x}),f_2(\boldsymbol{x}),\dots,f_m(\boldsymbol{x}))\\ g_2(f_1(\boldsymbol{x}),f_2(\boldsymbol{x}),\dots,f_m(\boldsymbol{x}))\\ \vdots \\ g_l(f_1(\boldsymbol{x}),f_2(\boldsymbol{x}),\dots,f_m(\boldsymbol{x}))\\ \end{array} \right)=\left( \begin{array}{c} c_1\\ c_2\\ \vdots\\ c_m \end{array} \right) $$ が成り立つ。
この事実の証明はそこまで難しいわけではありません。
というのも、次が成り立っているからです。
この定理2.の証明は【解析学の基礎シリーズ】多変数関数編 その2を参照してください。
この定理2.から、結局は成分ごとに考えれば良いという事が分かります。
では行きましょう。
証明
示したいことは、
$$(\forall i\in\mathbb{N}:1\leq i\leq l)\quad \lim_{\boldsymbol{x}\to\boldsymbol{a}}g_i(f_1(\boldsymbol{x}),f_2(\boldsymbol{x}),\dots,f_m(\boldsymbol{x}))=c_i$$
です。
言い換えれば、
$$(\forall i\in\mathbb{N}:1\leq i\leq l)\quad (\forall \epsilon>0)(\exists \delta>0)\ {\rm s.t.}\ (\forall\boldsymbol{x}\in\Omega;\ 0<|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{a}|<\delta\Rightarrow |g(\boldsymbol{f}(\boldsymbol{x}))-c_i|<\epsilon)$$
です。
\(\displaystyle \lim_{\boldsymbol{y}\to\boldsymbol{b}}\boldsymbol{g}(\boldsymbol{y})=\boldsymbol{c}\)ですので、
$$(\forall i\in\mathbb{N}:1\leq i\leq l)\quad (\forall \epsilon_i>0)(\exists \delta_i>0)\ {\rm s.t.}\ (\forall\boldsymbol{y}\in\Omega^\prime;\ 0<|\boldsymbol{y}-\boldsymbol{b}|<\delta_i\Rightarrow |g_i(\boldsymbol{y})-c_i|<\epsilon_i)\cdots①$$
です。
また、\(\displaystyle \lim_{\boldsymbol{x}\to\boldsymbol{a}}\boldsymbol{f}(\boldsymbol{x})=\boldsymbol{b}\)ですので、
$$(\forall j\in\mathbb{N}:1\leq j\leq m)\quad (\forall \epsilon_j>0)(\exists \delta_j>0)\ {\rm s.t.}\ (\forall\boldsymbol{x}\in\Omega;\ 0<|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{a}|<\delta_j\Rightarrow |f_j(\boldsymbol{x})-b_j|<\epsilon_j)\cdots②$$
です。
\(\epsilon_j>0\)は任意ですので、\(\epsilon_j=\delta_i\)としても成り立ちます。
従って、
$$(\forall \boldsymbol{x}\in\Omega)\quad 0<|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{a}|<\delta_j\Rightarrow |f_j(x)-b_j|<\delta_i$$
が成り立ちます。
\(\delta\)として\(\delta_j\)を採用すれば、上記を満たすような\(\boldsymbol{x}\in\Omega\)に対して、\(|f_j(x)-b_j|<\delta_i\)が成り立っているのですから、\(y_j=f_j(\boldsymbol{x})\)と書くことで、
\(|y_j-b_j|<\delta_i\)が成り立ちます。
さて、\(|y_j-b_j|<\delta_i\)な\(\boldsymbol{y}\)に対しては、①から\(|g_i(\boldsymbol{y})-c_i|<\epsilon_i\)が成り立っているわけですので、
$$|g_i(\boldsymbol{y})-c_i|<|g_i(\boldsymbol{f}(\boldsymbol{x}))-c_i|<\epsilon_i$$
が成り立っています。
最後に、\(\epsilon_i>0\)は任意だったので新たに\(\epsilon\)と書き直すことで、
$$(\forall i\in\mathbb{N}:1\leq i\leq l)\quad \lim_{\boldsymbol{x}\to\boldsymbol{a}}g_i(f_1(\boldsymbol{x}),f_2(\boldsymbol{x}),\dots,f_m(\boldsymbol{x}))=c_i$$
です。
(※この一連の流れを記号で書けば、
$$0<|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{a}|<\delta\Rightarrow |f_j(\boldsymbol{x})-b_j|<\delta_i\Leftrightarrow|y_j-b_j|<\delta_i\Rightarrow |g_i(\boldsymbol{y})-c_i|<\epsilon_i\Leftrightarrow |g_i(\boldsymbol{f}(\boldsymbol{x}))-c_i|<\epsilon_i=\epsilon$$
ということです。)
証明終わり
次に多変数ベクトル値関数の合成関数の連続について話します。
連続な多変数ベクトル値関数の合成関数も連続な関数
連続な多変数ベクトル値関数の合成関数も連続な関数です。
すなわち、次が成り立ちます。
\(\Omega\in\mathbb{R}^n\)、\(\Omega^\prime\in\mathbb{R}^m\)をそれそれ\(\mathbb{R}^n\)、\(\mathbb{R}^m\)の領域とする。 また、\(\boldsymbol{f}:\Omega\to\mathbb{R}^m\)、\(\boldsymbol{g}:\Omega^\prime\to\mathbb{R}^l\)を関数とする。 さらに、\(\boldsymbol{f}(\Omega)\subset \Omega^\prime\)、\(\boldsymbol{a}\in\bar{\Omega}\)とする。 このとき、\(\boldsymbol{f}\)が\(\Omega\)で連続であり、\(\boldsymbol{g}\)が\(\Omega^\prime\)で連続ならば、 \(\boldsymbol{g}\circ\boldsymbol{f}:\Omega\to\mathbb{R}^l\)も\(\Omega\)で連続である。 すなわち、 $$\lim_{\boldsymbol{x}\to \boldsymbol{a}}(\boldsymbol{g}\circ \boldsymbol{f})(\boldsymbol{x})=(\boldsymbol{g}\circ \boldsymbol{f})(\boldsymbol{a})$$ が成り立つ。
この系の証明は、定理1.において\(\boldsymbol{c}=(\boldsymbol{g}\circ\boldsymbol{f})(\boldsymbol{x})\)とすれば良いだけです。
系3.のうまみをちょっとだけ紹介
一番最初に挙げた例の連続性を系3.を使って調べてみましょう。
例.\(f:(0,\pi)\times(0,\pi)\to\mathbb{R}\)が\(f(x,y)=\log(\sin xy)\)で定められているとします。
この\(f\)は\(g(x,y)=\sin xy\)で定められる\(g:(0,\pi)\times(0,\pi)\to\mathbb{R}\)と\(h(x)=\log x\)で定められる\(h:g((0,\pi)\times(0,\pi))\to\mathbb{R}\)の合成関数\(h\circ g\)だと思う事ができる、とう話でした。
これをもう1段階細分化しましょう。
\(g\)について、この関数\(g\)は\(u(x,y)=xy\)で定められる関数\(u:\mathbb{R}^2\to\mathbb{R}\)と\(\sin:\mathbb{R}\to\mathbb{R}\)の合成関数\((v\circ u)(x,y)\)と捉えることができます。
\(u\)は多変数多項式関数ですので\(\mathbb{R}^2\)で連続です(具体的な証明は【解析学の基礎シリーズ】多変数関数編 その8を御覧ください)。
また、\(\sin\)も\(\mathbb{R}\)で連続です(証明は【解析学の基礎シリーズ】関数の極限編 その12を御覧ください)。
従って、\(\sin xy\)は\(\mathbb{R}^2\)で連続です。
また、\(\log\)も\(\mathbb{R}_{>0}\)で連続です(証明は【解析学の基礎シリーズ】関数の極限編 その11を御覧ください)。
ここで、\(u\)は多変数多項式関数ですので\(\mathbb{R}^2\)で連続です(具体的な証明は【解析学の基礎シリーズ】多変数関数編 その8を御覧ください)。
また、\(\sin\)も\(\mathbb{R}\)で連続です(証明は【解析学の基礎シリーズ】関数の極限編 その12を御覧ください)。
従って、\(\sin xy\)は\(\mathbb{R}^2\)で連続ですので、\(\Omega=\{(x,y)\in\mathbb{R}\mid 0< xy<\pi)\}\)でも連続です。
従って、\(\log x\)と\(\sin xy\)の合成関数を考える事ができ、\(\log(\sin xy)\)は\(\Omega\)で連続です。
若干長くなりましたが、\(\epsilon-\delta\)を真面目に考えるよりも圧倒的に楽ちんです。
結
今回は多変数ベクトル値関数の合成関数の極限、連続な多変数ベクトル値関数の合成関数もまた定義域で連続だ、ということを説明して証明しました。
結局の所やはり成分ごとに考えることで実数値関数の話に落とし込めるということでした。
次回は多変数の場合の中間値の定理のイメージを説明します。
乞うご期待!質問、コメントなどお待ちしております!
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