本記事の内容
本記事は「単調な実数値関数は定義域で可積分である」ということを解説する記事です。
本記事を読むに当たり、可積分条件について知っている必要があるため、以下の記事も合わせてご覧ください。
↓可積分条件①
↓可積分条件②
単調な実数値関数は可積分です。
単調な実数値関数は可積分です。
以前の記事で、f(x)=xがI=[a,b]で可積分であることを証明しましたが、この事実を使うと比較区的簡単にこの事実を証明することができます(後述)。
可積分条件の記事でも述べましたが、可積分条件をそのまま関数に適用させる、ということは筆者の体感でいうと少ないと思います。
それよりも、可積分条件から導かれる数々の事実を使うことのほうが多いです。
その一つが単調な関数の可積分性です。
主張の明示
では、主張を明示します。
定理1.(単調関数の可積分性)
Rの区間I=[a,b]上で単調な実数値関数fはI上で可積分である。主張は誠にシンプルです。
「単調な」という文言は「単調増加かまたは単調減少」という意味です。
従って、狭義単調増加関数も狭義単調減少関数も可積分である、ということがわかります。
単調関数の可積分性の証明
では証明しましょう。
割とシンプルです。
定理1.の証明
fが単調減少関数であれば、−f、すなわち、
(−f)(x)=−f(x)
は単調増加関数なので、fがもともと単調増加関数の場合だけ証明すれば十分です。
I=[a,b]⊂Rの任意の分割
Δ:a=x0<x1<⋯<xn=b
に対して、Ik=[xk−1,xk]上のfの値の上限Mkと下限mkはそれぞれ
mk=f(xk−1),Mk=f(xk)
で与えられます。
ちなみに、fが単調増加関数ですので、Ikでのfの上限と下限はそれぞれIkでのfの最大値と最小値と一致しています。
従って、
0≤n∑k=1a(f,Ik)v(Ik)=n∑k=1(f(xk)−f(xk−1))v(Ik)≤max1≤k≤nv(Ik)⋅n∑k=1(f(xk)−f(xk−1))=d(Δ)n∑k=1(f(xk)−f(xk−1))=d(Δ)⋅[(f(x1)−f(x0))+(f(x2)−f(x1))+(f(x3)−f(x2))⋯+(f(xn)−f(xn−1))]=d(Δ)⋅(f(xn)−f(x0))=d(Δ)⋅(f(b)−f(a))
となります。
このとき、d(Δ)→0としたとき、d(Δ)⋅(f(b)−f(a))→0です。
すなわち、
0≤limd(Δ)→0n∑k=1a(f,Ik)v(Ik)≤0
となるので、
limd(Δ)→0n∑k=1a(f,Ik)v(Ik)=0
です。
ここで、可積分条件を使います。
定理0.(可積分条件)
IをRnの有界閉集合とするとき、I上の有界な実数値関数f:I→Rに対して、次の1.~5.は同値である。- fはI上で(リーマン)可積分である。
- limd(Δ)→0(SΔ−sΔ)=0
- リーマンの可積分条件 小区間Ik (k∈K(Δ))上のfの振幅a(f,Ik)=Mk−mkに対して、 limd(Δ)→0∑k∈K(Δ)a(f,Ik)v(Ik)=0 である。
- ダルブーの可積分条件 S=s、すなわち、 ∫I_f(x) dx=¯∫If(x) dx である。
- 任意のε>0に対して、SΔ−sΔ<εとなるIの分割Δが存在する。
定理0.の証明は【解析学の基礎シリーズ】積分編 その4および【解析学の基礎シリーズ】積分編 その5を御覧ください。
今、定理0.の3.を満たしているため、fはI上で可積分です。
定理1.の証明終わり
ちなみに、fがI上で可積分であることがわかっているときは、d(Δn)→0となるような分割の列{Δn}n∈Nを1つ取って、代表点ξkを任意の1つ選んだとき、
limn→∞s(f;Δn;ξ)=∫If(x) dx
となります。
これがいわゆる高校数学で学んだ区分求積法です。
定理1.を使ってみます。
例2. I=[0,a]⊂R、f(x)=xとしたとき、fはI上で可積分で
∫Ix dx=12a2
です。
まず、fは単調増加関数なので、定理0.からfは可積分です。
そこで、I=[0,a]をn等分する分割をΔnとして、ξk=knaとすれば、
s(f;Δn;ξ)=ann∑k=1kna=a2n2n∑k=1k=a2n2⋅n(n+1)2
です。
従って、n→∞としたとき、
limn→∞s(f;Δn;ξ)=a22
となるので、
∫Ix dx=12a2
です。
「だから何?」という感じですが、本来、limn→∞s(f;Δn;ξ)=a22が成り立ったからと言って、∫Ix dx=12a2とは限りません。
なぜならば、「任意の分割Δで」limn→∞s(f;Δ;ξ)=a22が成り立って初めて∫Ix dx=12a2と結論づけることができるからです。
しかし、定理0.によりfがIで可積分であることが保証されているので、任意の分割でlimn→∞s(f;Δ;ξ)が存在することが保証されています。
そこで、最も考えやすい分割を好きなように取ってきて、その分割に対する極限が求まれば、どんな分割に対しても同じ極限に収束するため、上記のように特定の分割にのみ焦点を当てれば良いことになるのです。
これが定理0.の強みです。
とどのつまり、「本来は任意の分割に対して考えなければならないことが、可積分であることが保証されているため、特定の分割だけ考えれば十分だ」ということです。
例3. I=[0,a]⊂R、g(x)=exとしたとき、
∫Ig(x) dx=ea−1
です。
exは単調増加関数なので、定理0.から可積分です。
今回もIのn等分により得られる分割をΔnとして、ξk=k−1naとおくと、
s(ex;Δn;ξ)=ann−1∑k=0ekna=an⋅ea−1ean−1
となるので、
∫Iex dx=limn→∞s(ex;Δn;ξ)=ea−1
となります。
ただし、
limt→0et−1t=1
を用いました。
読者の皆様のコメントを下さい!
数学者も数々の名言を残しています。
中でも筆者が好きな名言は、ルネ・デカルトの「困難は分割せよ。」です。
何を血迷ったのか、ふとデカルトの本を手にしたときに目についた言葉です。
筆者は初めてこれを見たときに「数学で言うところの場合分けか…」と思いました。
ある問題が与えられたときに、その問題を全体で捉えることは重要ですが、一方で難しい場合も多いと思います。
そこで、特定の場合を複数考えることで最終的に全体を解決する、ということをしなさい、という意味なのかなあと思いました。
それは数学で言うところの場合分けをしなさい、ということなのかなあと感じました。
皆様は心に来た名言はありますか?
是非コメントで教えて下さい!
結
今回は、単調な関数は可積分である、ということを説明して、証明しました。
主張自体はシンプルですが、強力です。
可積分である、ということが分かることそのものが強い主張です(と筆者は思います)。
そして、可積分条件は今回の単調な関数の可積分性のような、より扱いやすい事実を導くために重要だということもおわかりいただけたと思います。
次回は積分における三角不等式について解説します。
乞うご期待!
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