本記事の内容
本記事は初等関数の原始関数を紹介、証明する記事です。
本記事を読むにあたり、1変数実数値関数の導関数、原始関数について知っている必要があるため、以下の記事も合わせてご覧ください。
↓1変数実数値関数の導関数の記事
↓原始関数の記事
微分積分学の基本定理の軽い復習(前回と同じなので読み飛ばしてOKです)
前々回、
定理1.(微分積分学の基本定理の系)
ffをI=[a,b] (a<b)I=[a,b] (a<b)で連続な実数値関数とするとき、次の2つが成り立つ。- ffの不定積分F(x)=∫xaf(y) dyF(x)=∫xaf(y) dyは、IIにおけるffの原始関数である。
- IIにおけるffの任意の1つの原始関数G(x)G(x)はG(x)=F(x)+C G(x)=F(x)+C (Cは定数)の形で、基本公式 ∫baf(x) dx=G(b)−G(a)⋯① が成り立つ。また①の右辺を[G(x)]baと表す。
を証明しました。
詳しくは【解析学の基礎シリーズ】積分編 その15を御覧ください。
定理1.により、関数の積分は、その関数の原始関数さえ分かってしまえばよい、ということが分かります。
原始関数とは何だったかというと、以下でした。
原始関数
I⊂Rとして、f,FがI上で定められた関数とする。FはI上で微分可能で (∀x∈I)F′(x)=f(x) を満たすとき、Fはfの(Iにおける)原始関数であるという。要するに、原始関数FはFの導関数がfと一致するような関数ということですので、これを求めてしまえば、積分が計算出来る、ということになります。
そこで、初等関数の原始関数、特に今回は三角関数、指数関数、対数関数の原始関数について解説します。
※注意※ 定理1.から不定積分Fと連続関数fの原始関数は定数しか違いがありません。
そこで、ここではfの原始関数の1つを
∫f(x) dx
で表すことにします。
三角関数の原始関数
では、三角関数の原始関数について解説します。
sinxの原始関数
命題2.
f(x)=sinxの原始関数F(x)=∫f(x) dxは F(x)=−cosx である。命題2.の証明
これは既に証明しているようなものです。
なぜなら、以下を証明しているからです。
命題3.
任意のx∈Rに対して (cosx)′=−sinx である。命題3.の証明は【解析学の基礎シリーズ】1変数実数値関数の微分編 その6を御覧ください。
命題3.から
F′(x)=(−cosx)′=−(−sinx)=sinx=f(x)
となるので証明完了です。
命題2.の証明終わり
cosxの原始関数
命題4.
f(x)=cosxの原始関数F(x)=∫f(x) dxは F(x)=sinx である。命題4.の証明終わり
これもほぼ証明が終わっています。
なぜなら以下が成り立つからです。
命題5.
任意のx∈Rに対して (sinx)′=cosx である。命題5.から
F′(x)=(sinx)′=cosx=f(x)
となるので証明完了です。
命題4.の証明終わり
tanxの原始関数
命題6.
f(x)=tanxの原始関数F(x)=∫f(x) dxは F(x)=−log|cosx| である。命題6.の証明
以下の命題7.と合成関数の微分法を使います。
命題7.
a>0かつa≠1とする。このとき (logax)′=1xloga が成り立つ。特にa=e(ネイピア数)ならば、(logx)′=1xである。命題7.の証明は【解析学の基礎シリーズ】1変数実数値関数の微分編 その5を御覧ください。
命題7.と合成関数の微分法により、
F′(x)=(−log|cosx|)′=−1cosx⋅(−sinx)=sinxcosx=tanx=f(x)
となるので証明完了です。
命題6.の証明終わり
cotxの原始関数
まず、cotxという関数がどういう関数かを説明します。
cot(余接関数)
cot:I=R∖{nπ2|n∈Z}→R、 (∀x∈I)cot(x)=1tanx で定められる関数を、余接関数(コタンジェント)という。正直、筆者の体感だとそこまで使われる関数ではありませんが、紹介します。
※”そこまで使われるわけではない”というのはcotxの形で使われることが少ないという意味で、1tanxという関数は目にします。
命題8.
f(x)=cotxの原始関数F(x)=∫f(x) dxは F(x)=log|sinx| である。命題8.の証明
命題7.と合成関数の微分法により、
F′(x)=(log|sinx|)′=1sinx⋅(cosx)=cosxsinx=1tanx=f(x)
となるので証明完了です。
命題8.の証明終わり
sec2xの原始関数
まず、cotxという関数がどういう関数かを説明します。
sec(正割関数)
sec:I=R∖{2n+12π|n∈Z}→R、 (∀x∈I)sec(x)=1cosx で定められる関数を、正割関数(セカント)という。では、この正割関数の2乗の原始関数を紹介します。
命題9.
f(x)=sec2xの原始関数F(x)=∫f(x) dxは F(x)=tanx である。命題9.の証明
商の微分法により、
F′(x)=(tanx)′=(sinxcosx)′=cosx⋅cosx−sinx⋅(−sinx)cos2x=cos2x+sin2xcos2x=1cos2x=secx=f(x)
となるので証明完了です。
命題9.の証明終わり
csc2xの原始関数
まず、cscxという関数がどういう関数かを説明します。
csc(余割関数)
csc:I=R∖{nπ|n∈Z}→R、 (∀x∈I)csc(x)=1sinx で定められる関数を、余割関数(コセカント)という。cscをcosecと書くこともある。余割関数の2乗の原始関数を紹介します。
命題10.
f(x)=csc2xの原始関数F(x)=∫f(x) dxは F(x)=−cotx である。命題10.の証明
商の微分法により、
F′(x)=(−cotx)′=(−cosxsinx)′=−−sinx⋅sinx−cosx⋅cosxsin2x=−−sin2x−cos2xsin2x=−−1sin2x=1sin2x=csc2x=f(x)
となるので証明完了です。
命題10.の証明終わり
secxの原始関数
命題11.
f(x)=secxの原始関数F(x)=∫f(x) dxは F(x)=log|secx+tanx| である。命題11.の証明
命題7.と合成関数の微分法を使うと、
F′(x)=(log|secx+tanx|)′=1secx+tanx⋅[(1cosx)′+1cos2x]=11cosx+sinxcosx⋅[sinxcos2x+1cos2x]=cosx1+sinx⋅sinx+1cos2x=1cosx=secx=f(x)
となるので証明完了です。
命題11.の証明終わり
cscxの原始関数
命題12.
f(x)=cscxの原始関数F(x)=∫f(x) dxは F(x)=log|tanx2| である。命題12.の証明
命題7.と合成関数の微分法を使うと、
F′(x)=(log|tanx2|)′=1tanx2⋅1cos2x2⋅12
となります。
ここで、半角の公式を使うと、
1tanx2⋅1cos2x2⋅12=√1+cosx1−cosx⋅21+cosx⋅12=√1+cosx1−cosx⋅21+cosx⋅12=1√1−cosx⋅1√1+cosx=1√(1−cosx)(1+cosx)=1√1−cos2x=1√sin2x=1sinx=cscx
となるので証明完了です。
命題12.の証明終わり
双曲線関数の原始関数
双曲線関数とは以下です。
双曲線関数
sinhx=ex−e−x2,coshx=ex+e−x2 をそれぞれ双曲線正弦関数(ハイパボリックサイン)、双曲線余弦関数(ハイパボリックコサイン)という。これらの原始関数を紹介、証明します。
命題13.
f(x)=coshxの原始関数F(x)=∫f(x) dxは F(x)=sinhx であり、 g(x)=sinhxの原始関数G(x)=∫g(x) dxは G(x)=coshx である。命題13.の証明
以下の事実を使います。
命題14.
a>0とする。このとき (ax)′=axloga が成り立つ。特にa=e(ネイピア数)ならば、(ex)′=exである。命題14.の証明は【解析学の基礎シリーズ】1変数実数値関数の微分編 その5を御覧ください。
命題14.から、
F′(x)=(sinhx)′=(ex−e−x2)′=ex−(−e−x)2=ex+e−x2=coshx=f(x)
となります。
同様にして、
G′(x)=(coshx)′=(ex+e−x2)′=ex+(−e−x)2=ex−e−x2=sinhx=g(x)
となるので、証明完了です。
命題13.の証明終わり
指数関数の原始関数
次に指数関数です。
exの原始関数
命題15.
f(x)=exの原始関数F(x)=∫f(x) dxは F(x)=ex である。命題15.の証明
命題14.により、
F′(x)=(ex)′=ex=f(x)
となるので証明完了です。
命題15.の証明終わり
axの原始関数
命題16.
f(x)=axの原始関数F(x)=∫f(x) dxは F(x)=axloga である。命題16.の証明
命題14.により
F′(x)=(axloga)′=a⋅loga⋅1loga=ax=f(x)
となるので証明完了です。
命題16.の証明終わり
対数関数の原始関数
最後に対数関数の原始関数について解説します。
命題17.
f(x)=logxの原始関数F(x)=∫f(x) dxは F(x)=xlogx−x である。命題17.の証明
命題7.と積の微分法から
F′(x)=(xlogx−x)′=logx+x⋅1x−1=logx+1−1=logx=f(x)
命題17.の証明終わり
これ、覚えるんですか?(前回と同じなので読み飛ばしてOK)
今回の話も「たしかに正しいけど、そんな原始関数は思いつきません。」となるのではないでしょうか。
勿論、ラマヌジャンのような天才はスッと思いつくのかもしれませんが、通常は難しいはずです。
そこで、「これ、覚えるんですか?」ということになるのではないかと思うのですが、結論から言うと、覚えてしまったほうが早いです。
実際に計算する上では、の話ですが。
これらの原始関数は置換積分やら部分積分やらを駆使することで導出することができます。
置換積分、部分積分については厳密な話を後の記事でします。
(※具体的に今回の原始関数をどのように導出するかという話は書かないかもしれません。
「書いてほしい!」という方は是非コメントで教えて下さい!)
皆様のコメントを下さい!
前回「数学に興味を持ったきっかけはなんですか?」という質問を致しました。
これは、数学の好きなところに直結すると思います。
逆に、数学のこういうところが苦手、ということがあれば是非コメントで教えて下さい!
結
今回は、初等関数の原始関数、特に、三角関数、指数関数、対数関数の原始関数について解説しました。
これらの原始関数は公式として覚えてしまった方が早いですが、置換積分やら部分積分やらを駆使することで導出することができます。
次回は、高校数学でも学習した置換積分について解説します。
乞うご期待!
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この記事の内容をより詳しく知りたい方は以下のリンクの本を参照してください!
ちなみに「解析概論」は日本の歴史的名著らしいので、辞書的にもぜひ1冊持っておくと良いと思います!
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