本記事の内容
本記事は微分積分学の基本定理の系を説明、証明して、高校数学で習った計算方法が何故それで良かったのか、ということについて解説する記事です。
本記事を読むにあたり、微分積分学の基本定理について知っている必要があるため、以下の記事も合わせてご覧ください。
本記事を書く理由(ほぼ繰り返しなので読み飛ばしてOK)
本記事と前前回と前前前回の目標は「積分について、高校数学で計算方法は習ったけど、なぜその計算方法で良かったのか」ということに回答し、読者の方々に理解していただくことです。
「なぜ高校数学で習った計算方法で良かったのか」ということに一言で回答するなら、
です。
さて、「”高校数学で習って、当然のように計算していたこと”って何?」ということの例を挙げます。
例えば、定積分は
∫10x dx=[12x2]10=12(12−02)=12(1−0)=12
というように計算することを高校で習ったと思います。
これです。
実は、この計算方法が良いのは、今回解説する微分積分学の基本定理の系(ここでは、微積分法の基本公式と呼ぶことにします)が成り立つからですが、大本は微分積分学の基本定理です。
微積分法の基本公式
では、早速本題に入ります。
微分積分学の基本定理の系の明示
定理1.(微分積分学の基本定理の系)
fをI=[a,b] (a<b)で連続な実数値関数とするとき、次の2つが成り立つ。- fの不定積分F(x)=∫xaf(y) dyは、Iにおけるfの原始関数である。
- Iにおけるfの任意の1つの原始関数G(x)はG(x)=F(x)+C (Cは定数)の形で、基本公式 ∫baf(x) dx=G(b)−G(a)⋯① が成り立つ。また①の右辺を[G(x)]baと表す。
2.については、まさに
∫10x dx=[12x2]10=12(12−02)=12(1−0)=12
という計算方法が正しいことを指しています。
微分積分学の基本定理の系の証明
では、証明に入っていきます。
定理1.の証明
(1.の証明)
微分積分学の基本定理を使います。
定理0.(微分積分学の基本定理)
IをRの有界閉区間、fをI上の実数値関数、すなわちf:I→Rとする。このとき以下の2つが成り立つ。- fがIで微分可能で、導関数f′がI上で可積分(例えば、連続)ならば、任意のa,b∈Iに対して ∫baf′(x) dx=f(b)−f(a)⋯① が成り立つ。
- fがI上で可積分で、1点x∈Iで連続ならば、fの不定積分F(x)=∫xaf(y) dyはxで微分可能で、F′(x)=f(x)が成り立つ。
定理0.(微分積分学の基本定理)の証明は【解析学の基礎シリーズ】積分編 その14を御覧ください。
定理0.の2.から、不定積分FはIの各点xで微分可能で、かつF′(x)=f(x)です。
これはすなわち、Fがfの原始関数であることを指しています。
(2.の証明)
G(x)はfの1つの原始関数なので、
G′(x)=f(x)
を満たします。
また、1.によりF(x)もfの原始関数なので、F′(x)=f(x)を満たします。
故に、
G′(x)=f(x)=F′(x)
を満たします。
従って、
G′(x)=F′(x)⟺G′(x)−F′(x)=0⟺(G(x)−F(x))′=0
を満たします。
ここで、次の事実を使います。
定理2.
f:[a,b]→Rが連続で、(a,b)で微分可能、任意のc∈(a,b)に対してf′(c)=0ならば、fは定数関数である。逆に、f:[a,b]→Rが定数関数であれば、任意のc∈(a,b)でf′(c)=0である。定理2.の証明は【解析学の基礎シリーズ】1 変数実数値関数の微分編 その9を御覧ください。
定理2.から、
が成り立ちます。
ここで、x=aとすると、F(a)=0です。
実際、x=aのとき、
F(a)=∫aaf(y) dy=0
だからです。
故に、
G(a)−F(a)=C⟺G(a)=C
です。
従って、
∫baf(x) dx=F(b)=G(b)−C=G(b)−G(a)
定理1.の証明終わり
なぜ高校数学で習った計算方法が正しかったのか?
「なぜ高校数学で習った計算方法が正しかったんですか?」というと、一言で答えるなら「定理1.が成り立つから。」です。
定理1.が成り立つので、特に、2.が成り立つので高校数学で習った定積分は原始関数の値の差を計算することで求まるという計算方法が正しいのです。
つまり、
∫10x dx=[12x2]10=12(12−02)=12(1−0)=12
という計算が正しい計算方法である、ということが保証されます。
不定積分についても定理2.が成り立つからです。
不定積分というのは、原始関数を求めることなので(厳密には定数Cが加わっているため異なりますが)
∫x dx=12x2+C
というように定数Cを付ける必要がある、ということなのです。
1変数関数の積分について、もう少し踏み込んでみます。
もう少し踏み込んだ話をします。
ベクトル値関数の場合
ベクトル値関数の場合も、積分の加法性、微分積分学の基本定理が成り立ちます。
命題3.(ベクトル値関数の場合の積分の加法性)
IをRの閉区間、関数f:I→Rmが可積分であるとき、Iの任意の3点a,b,c∈Iに対して、 ∫caf(x) dx=∫baf(x) dx+∫cbf(x) dx が成り立つ。命題3.の実数値関数の場合の証明は【解析学の基礎シリーズ】積分編 その13を御覧ください。
定理4.(ベクトル値関数の場合の微分積分学の基本定理)
IをRの有界閉区間、fをI上のベクトル値関数、すなわちf:I→Rmとする。このとき以下の2つが成り立つ。- fがIで微分可能で、導関数f′がI上で可積分(例えば、連続)ならば、任意のa,b∈Iに対して ∫baf′(x) dx=f(b)−f(a) が成り立つ。
- fがI上で可積分で、1点x∈Iで連続ならば、fの不定積分F(x)=∫xaf(y) dyはxで微分可能で、F′(x)=f(x)が成り立つ。
定理4.の実数値関数の場合の証明(定理0.の証明)は、【解析学の基礎シリーズ】積分編 その14を御覧ください。
定理5.(ベクトル値関数の場合の微分積分学の基本定理の系)
fをI=[a,b] (a<b)で連続な実数値関数とするとき、次の2つが成り立つ。- fの不定積分F(x)=∫xaf(y) dyは、Iにおけるfの原始関数である。
- Iにおけるfの任意の1つの原始関数G(x)はG(x)=F(x)+C (Cは任意の定数ベクトル)の形で、基本公式 ∫baf(x) dx=G(b)−G(a)⋯② が成り立つ。また②の右辺を[G(x)]baと表す。
これらの事実の証明については、各成分ごとについて実数値関数の場合を適用させればOKです。
定理1.について
今回示した定理1.についてもう少し述べておきます。
定理1.が意味するところとして最も重要なのは
ということです。
原始関数Gの存在は、不定積分Fの存在によって保証されています。
そして、不定積分Fの存在は以下の事実から存在が保証されています。
定理6.(連続関数の可積分性)
Rnの有界閉集合I上で連続な関数f:I→Rmは、I上で可積分である。定理6.の証明は【解析学の基礎シリーズ】積分編 その12を御覧ください。
さて、要するに積分を計算するときには原始関数が分かれば良い、ということですが、次回と次次回で初等関数の原始関数をまとめとして紹介します。
皆様のコメントを下さい!
実は(って程の事でもないですが)、筆者は高校の数学の教員免許を持っています。
「教科の中で数学の中で一番好きだな」と思ったのは中学校のときでした。
中学校のときは部活と道場にかまけて、数学以外はまともに勉強しませんでした。
それで一度高校入試で落ちました。
筆者の地方の高校入試は(私の時代は、の話ですが)前期後期制で、前期試験で落ち、後期試験で別の公立高校に入学しました。
高校入学後、心機一転して「真面目に勉強というものをしてみるか」と思いたち、数学だけでなく全教科勉強し、大学へも入学でき、今に至ります。
大学で数学を学んでから、「高校数学は計算だったのだなあ」と思いました。
勿論、計算ができる、というのは大事なことですし、カリキュラムにイチャモンをつける気は一切ありませんが、そういう印象を受けました。
数学自体簡単な学問ではないと思うので、高校で厳密に語るのは難しいと思います。
故に高校数学の主たる目標が計算なのだと思います。
一方大学では、より根本的な部分を学びます。
計算というより概念的なものを学びます。
そういう意味で高校数学と大学数学は乖離していると思います。
「じゃあ、高校数学でも厳密な話をしようじゃないか」と思いました。
しかし、高校数学では直感的な話で終わっている分野が結構あります。
例えば極限の分野において、どうして高校数学ではε−δ論法を扱わないのでしょうか。
難しいからなのでしょうか。
皆様はどう思われますか?ご意見をコメントで是非教えて下さい。
結
今回は微分積分学の基本定理から得られる系を紹介、解説しました。
今回証明したことにより、高校数学で習った定積分の計算方法と不定積分の計算方法が何故正しかったのか、が分かると思います。
微分積分学の基本定理は言ってしまえば「原始関数さえ分かってしまえば、積分が計算できる。」という主張でもあります。
以前、微分積分学の基本定理は「微分と積分とが逆演算の関係にある。」という主張だ、と説明しました。
それも正しい事実です。
これらのことから、微分積分学の基本定理は誠に重要です。
次回は1変数関数の原始関数まとめ①ということで、初等関数の原始関数を紹介します。
乞うご期待!
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