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「正四面体群は4次交代群と同型」【代数学の基礎シリーズ】群論編 その46

代数学

本記事の内容

本記事は、「正四面体群は4次交代群と同型」であることを解説する記事です。

本記事を読むにあたり、交代群、正多面体群について知っている必要があるため、以下の記事も合わせてご覧ください。

↓交代群の記事

↓正多面体群の記事

軽い復習

交代群

一言で述べれば、

置換の符号\({\rm sgn}\)の核\({\rm Ker}({\rm sgn})\)のこと。

です。
\(\sigma\)を置換とし、\({\rm sgn}(\sigma)\)を\(\sigma\)の符号とすると、\({\rm sgn}\)は\(\mathcal{G}_n\)から\(\left\{\pm1\right\}\)への準同型写像となります。
\(A_n={\rm Ker}({\rm sgn})\)(準同型写像\(\varphi\)の核\({\rm Ker}(\varphi)\)は正規部分群でしたね)と書き、\(A_n\)のことを\(n\)次交代群といいます。

正多面体群

正多面体群を一言で表すと、

正多面体の頂点を頂点に写す変換が成す集合のことを正多面体群という。

です。
ここで注意なのが、正多面体群の要素は正多面体ではないということです。
筆者だけかも知れませんが「正多面体群」という字面を見ると「正多面体自体が群になるのかな?」と思うかもしれません。
しかし違います。
あくまで正多面体をその同じ正多面体に写すような変換(写像)が要素です。

正多面体群

正多面体\(\mathcal{P}_i\ (i=4,6,8,12,20)\)に対して、
  1. 合同変換
  2. \(\mathcal{P}_i\)を\(\mathbb{R}^3\)内の単位球面に内接させる。このとき原点を中心とする回転のうち、頂点を頂点に写すものを\(\mathcal{P}_i\)の合同変換という。
  3. 正多面体群
  4. \(\mathcal{P}_i\)の合同変換\(\sigma\)の逆回転\(\sigma^{-1}\)もまた合同変換であり、合同変換\(\sigma,\tau\)を続けて行った変換(\(\tau\sigma\)と書く)もまた合同変換である。故に合同変換全体は、変換の合成(写像の合成)を演算として群をなす。この群を正\(i\)面体群という。また、正二面体群と合わせてこれらをまとめて正多面体群という。

正八面体の各辺の中点を結ぶと立方体になります。
また、正二十面体の各辺の中点を結ぶと正十二面体になります。
したがって、正八面体群と立方体群は同型で、正二十面体群と正十二面体群は同型です。
正四面体群、正八面体群、正二十面体群をそれぞれ\({\rm T},\ {\rm O},\ {\rm I}\)(tetrahedron、octahedron、icosahedronの頭文字)と書きます。

詳しくは、【代数学の基礎シリーズ】群論編 その44を御覧ください。

正四面体群は4次交代群と同型

主張を明示します。

定理1.

\({\rm T}\cong A_4\)である。すなわち、正四面体群は4次交代群と同型である。

証明に入る前に少し補足します。
\(n\)次交代群は\(n\)次対称群(置換群)の偶置換のみを集めた集合とも言えますので、この主張は「正四面体の頂点を他の頂点に写す変換(写像)は、4次の偶置換である」とも言えます。

定理1.の証明

\(g\in {\rm T}\)とします。
正四面体の頂点を\(\left\{{\rm P}_1,{\rm P}_2,{\rm P}_3,{\rm P}_4\right\}\)とすると、\(g\)はこの集合に作用します。

ここで、群作用とは以下でした。

群作用

\(G\)を群、\(X\)を集合とする。\(G\)の\(X\)への左作用とは、写像\(\varphi:G\times X\ni (g,x)\mapsto \varphi(g,x)\in X\)であり、次の性質1.、2.を満たすものをいう。
  1. \(\varphi(1_G,x)=x\)
  2. \(\varphi(g,\varphi(h,x))=\varphi(gh,x)\)
また、写像\(\varphi:G\times X\ni (g,x)\mapsto \varphi(g,x)\in X\)が
  1. \(\varphi(1_G,x)=x\)
  2. \(\varphi(g,\varphi(h,x))=\varphi(hg,x)\)
を満たすなら、\(\varphi\)を右作用という。
 \(G\)の\(X\)への作用が存在するとき、\(G\)は\(X\)に作用するという。左作用なら、\(G\)は\(X\)に左から作用するという。右作用も同様である。

詳しくは、【代数学の基礎シリーズ】群論編 その11を御覧ください。

この作用により定まる置換表現(後で復習します)を\(\rho:{\rm T}\longrightarrow \mathcal{G}_4\)とします。

ここで、作用により定まる置換表現とは以下でした。

置換表現

群\(G\)が有限集合\(X=\left\{x_1,\dots,x_n\right\}\)に左から作用するとする。このとき $$ g\cdot x_i=x_{\rho(g)(i)}\quad (g\in G,\ i=1,\dots,n) $$ として定めると、\(\rho:G\longrightarrow \mathcal{G}_n\)は準同型写像である。この\(\rho\)を\(X\)への作用により定まる置換表現という。

詳しくは、【代数学の基礎シリーズ】群論編 その13を御覧ください。

さて、このとき\(\rho({\rm T})=A_4\)であることを示します。

\(g\in{\rm T}\)を\({\rm P}_1\)を固定する単位元でないような要素とすると、\(g\)は\({\rm P}_2\)、\({\rm P}_3\)、\({\rm P}_4\)の巡回置換を引き起こします。
\(g\)が\({\rm P}_2\longrightarrow{\rm P}_3\longrightarrow{\rm P}_4\longrightarrow{\rm P}_2\)という置換を引き起こすならば、\(g^2\)は\({\rm P}_2\longrightarrow{\rm P}_4\longrightarrow{\rm P}_3\longrightarrow{\rm P}_2\)という置換を引き起こすので、\(\rho({\rm T})\supset \left\langle (2\ 3\ 4)\right\rangle\)です。
ただし、\(\left\langle \cdot\right\rangle\)は\(\cdot\)で生成された部分を指し、それは以下でした。

語、生成された部分群、生成系、生成元

  1. \(G\)を群、\(S\subset G\)とする。\(x_1,\dots,x_n\in S\)により\(x_1^{\pm1}\cdots x_n^{\pm1}\)という形をした\(G\)の要素を\(S\)の要素による(word)という。
    ただし、\(n=1\)ならば\(x_1^{\pm1}\cdots x_n^{\pm1}\)は単位元\(1_G\)を表すとし、\(\pm1\)は各\(x_i\)ごとに\(1\)か\(-1\)のどちらでも良いとする。
  2. 生成された部分群
  3. \(\langle S\rangle\)を\(S\)の要素による語全体の集合とするとき、\(\langle S\rangle\)を\(S\)によって生成された部分群、\(S\)のことを生成系、\(S\)の要素を生成元という。

詳しくは、【代数学の基礎シリーズ】群論編 その2を御覧ください。

さて、\(g\)が\({\rm P}_2\longrightarrow{\rm P}_4\longrightarrow{\rm P}_3\longrightarrow{\rm P}_2\)という置換を引き起こす場合も同様です。
更に同様に、\({\rm P}_2\)を固定する要素などを考えれば、\(\rho({\rm T})\)は全ての長さ3の巡回置換を含みます。

ここで、次の事実を使います。

補題2.

\(n\geq3\)ならば、交代群\(A_n\)は長さ\(3\)の巡回置換で生成される。

補題2.の証明は【代数学の基礎シリーズ】群論編 その42を御覧ください。

補題2.により、\(\rho({\rm T})\supset A_4\)です。
$$
12\leq \left|\rho({\rm T})\right|=\frac{\left|{\rm T}\right|}{\left|{\rm Ker}(\rho)\right|}\leq 12
$$
なので、すべての等号で\({\rm Ker}(\rho)=\left\{1\right\}\)です。
したがって、\(\rho\)は単射となり、\(\rho\)は\({\rm T}\)から\(A_4\)への同型写像を引き起こすわけです。

定理1.の証明終わり

皆様のコメントを下さい!

今回も背理法について少々語ります。

前回は背理法が詭弁となってしまう場合の例として言葉や概念が不正確に使われたりするときを述べました。
今回は背理法による存在証明について少々語ります。

背理法の活用方法の1つは、数学的対象を「具体的に」構成することなく、その存在を証明するために使うことです。
以前にアンセルムによる「神の存在証明」を述べましたが、考え方はまったく同じであって、「もし存在しなければ矛盾が導かれるから、それは存在する」という論法です。

背理法による存在証明の中で恐らく最も有名であるのは、ユークリッドの『原論』に記載されている「素数は無限個存在する」ことの証明でしょう。

命題(ユークリッドの『原論』第9巻命題20)
素数は無限個存在する。

証明

素因数分解定理は既知とします(後に初等整数論のシリーズで解説します)。
素数が有限子しか存在しないと仮定して、それらを\(p_1,p_2,\cdots,p_n\)とします。
\(q=p_1p_2\cdots p_n+1\)とおくと、自然数\(q\)は素因数分解定理から\(q=p_1^{e_1}p_2^{e_2}\cdots p_n^{e_n}\ (e_i\geq0)\)と素因数分解できます。
\(q>1\)であるから、\(e_i>0\)となるような\(i\)が存在します。
このとき、\(q\)は\(p_i\)で割り切れるはずですが、\(q\)は\(q=p_1p_2\cdots p_n+1\)でしたので、\(q\)は\(p_i\)では割り切れません。
これは矛盾です。
したがって、素数は無限個存在します。

証明終わり

実はひょんなところで使う鳩ノ巣論法(引き出し論法、抽斗論法)も背理法で証明可能です。

定理(抽斗論法)
\(m\)個ある抽斗(ひきだし)の中に\(n\)個のものを入れる。もし\(n>m\)ならば、少なくとも1つの引き出しには2つ以上のものが入っている。

抽斗論法の証明

ほとんど当たり前なのですが、証明します。

もしこのような抽斗が存在しなければ、各抽斗は「高々(多くても)」1つのものしか入っていません。
故に、もののかずは\(m\)以下でなければなりませんが、これは仮定\(n>m\)に矛盾しています。

抽斗論法の証明終わり

この証明の中で、どの抽斗が2つ以上のものを入れているかは特定していないことに注意しましょう。
このような「当たり前」と言えるような事実など役に立つのか訝しく思うかもしれません。
どういう場合に役立つのか、ということは次回に回します。

今回はここまで。
感想など是非コメントをお願いいたします!

今回は、「正四面体群は4次交代群と同型である」ということを証明しました。
使った知識としては、群作用、置換表現、生成された部分群です。
ちなみに、\(n\)次交代群は\(n\)次対称群(置換群)の偶置換のみを集めた集合とも言えますので、この主張は「正四面体の頂点を他の頂点に写す変換(写像)は、4次の偶置換である」とも言えます。

次回は正八面体群が4次の対称群と同型であることを示します。

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  1. 右作用の説明の2番がくずれているように思います。記法も左作用と違っているような?

    • 名無し様

      コメントありがとうございます。
      >右作用の説明の2番がくずれているように思います。記法も左作用と違っているような?
      とのことですが、おっしゃるとおり、語字でございました。
      訂正いたしました。ご指摘ありがとうございました。

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