スポンサーリンク

「置換が共役であることと置換の型が等しいことは同値」【代数学の基礎シリーズ】群論編 その19

代数学

本記事の内容

本記事は、「置換が共役であることと置換の型が等しいことは同値」ということを証明する記事です。

本記事を読むに当たり、置換と共役について知っている必要があるため、以下の記事も合わせてご覧ください。

↓共役の記事

↓置換の復習の記事

置換が共役であることと置換の型が等しいことは同値

まずはちょっとした準備から。

ちょっとした準備

準備と言っても1つ補題を与えるだけです。

補題1.

\((i_1\ \cdots\ i_l)\in\mathcal{G}_n\)を巡回置換、\(\sigma\in\mathcal{G}_n\)とすると、 $$ \sigma(i_1\ \cdots\ i_l)\sigma^{-1}=\left(\sigma(i_1)\ \cdots\ \sigma(i_l) \right) $$ である。

補題1.の証明

\(\tau=(i_1\ \cdots\ i_l)\)とします。
\(1\leq m\leq n\)で\(\sigma^{-1}(m)\not\in\left\{i_1\ \cdots\ i_l\right\}\)であれば、\(\tau\sigma^{-1}(m)=\sigma^{-1}(m)\)なので、\(\sigma\tau\sigma^{-1}(m)=m\)です。

\(m=\sigma(i_j)\ (j=1,\dots,l)\)なら、
$$
\sigma\tau\sigma^{-1}(m)=\sigma\tau(i_j)=\sigma(i_{j+1})
$$
です。
ただし、\(i_{l+1}=i_1\)とします。
したがって、、\(\sigma\tau\sigma^{-1}=\left( \sigma(i_1)\ \cdots\ \sigma(i_l)\right)\)です。

補題1.の証明終わり

「置換が共役であることと置換の型が等しいことは同値」の証明

主張を明確にします。

定理2.

\(\sigma,\tau\in\mathcal{G}_n\)であるとき、\(\sigma,\tau\)が共役であることと、\(\sigma,\tau\)の型が等しいことは同値である。

定理2.の証明

補題1.から、\(\sigma,\tau\)が共役なら、\(\sigma,\tau\)の型は等しいです。
逆に、\(\sigma,\tau\)の型が等しいとします。
\((l_1\ \cdots\ l_t)\)をその型としましょう。
型については【代数学の基礎シリーズ】群論編 その18を御覧ください。
このとき、\(\sigma,\tau\)を
\begin{eqnarray}
&&\sigma=(i_{11}\ \cdots\ i_{1l_1})\cdots(i_{t1}\ \cdots\ i_{tl_t}),\\
&&\tau=(j_{11}\ \cdots\ j_{1l1})\cdots(j_{11}\ \cdots\ j_{tl_t})
\end{eqnarray}
と表すことが出来ます。
\(\nu\in\mathcal{G}_n\)を
$$
\nu(i_{11})=j_{11},\dots,\ \nu(i_1l_1)=j_{1l_1},\dots,\ \nu(i_{t1})=j_{t_1},\ \dots,\ \nu(i_{tl_1})=j_{tl_t}
$$
となる置換とすれば、これも補題1.から、\(\nu\sigma\nu^{-1}=\tau\)です。

定理2.の証明終わり

置換の型はヤング図形で表すことができるため、定理2.から対称群の共役類が置換の型、あるいはヤング図形で定まるということが示されたことになります。

具体的に計算してみます。

\(\sigma=(2\ 5\ 4)(1\ 9\ 6)(3\ 7)\)、\(\tau=(2\ 3\ 6)(1\ 7\ 8)(4\ 9)\in\mathcal{G}_9\)とします。
このとき、\(\nu\sigma\nu^{-1}=\tau\)となるような\(\nu\)を1つ求めてみます。
またこの条件を満たす\(\nu\)が何個あるか調べてみます。

例えば、
$$\nu=
\begin{pmatrix}
2&5&4&1&9&6&3&7&8\\
2&3&6&1&7&8&4&9&5\\
\end{pmatrix}=
\begin{pmatrix}
1&2&3&4&5&6&7&8&9\\
1&2&4&6&3&8&9&5&7
\end{pmatrix}
$$
は条件を満たします。
先の条件を満たす\(\nu\)は

  1. \(\left\{2,4,5\right\}\rightarrow\left\{2,3,6\right\}\)、\(\left\{1,9,6\right\}\rightarrow\left\{1,7,8\right\}\)、\(\left\{3,7\right\}\rightarrow\left\{4,9\right\}\)と移すか、
  2. \(\left\{2,4,5\right\}\rightarrow\left\{1,7,8\right\}\)、\(\left\{1,9,6\right\}\rightarrow\left\{2,3,6\right\}\)、\(\left\{3,7\right\}\rightarrow\left\{4,9\right\}\)と移す

の2種類が存在します。

1.の場合、\(\left( \nu(2)\nu(4)\nu(5)\right)=(2\ 3\ 6)\)とならなければならないので、\(\nu(2)\)が定まれば、\(\nu(4)\)、\(\nu(5)\)は定まってしまいます。
例えば、\(\nu(2)=3\)であれば、\(\nu(4)=6\)、\(\nu(5)=2\)です。
したがって、\(\nu(2),\nu(4),\nu(5)\)の可能性は3通りあります。
\(\left\{1,9,6\right\}\)、\(\left\{3,7\right\}\)についても同様なので、1.の場合の\(\nu\)は\(3\times3\times2=18\)個あります。
2.の場合も同様なので、\(\nu\)は合計で36個あります。

クラインの四元群

\(G=\mathcal{G}_4\)とします。
\(N=\left\{1,\ (1\ 2)(3\ 4),\ (1\ 3)(2\ 4),\ (1\ 4)(2\ 3)\right\}\)とします。
\(N\)をクライン(Klein)の四元群といいます。
\(N\)は\((1\ 2)(3\ 4)\)という型の全ての置換と単位元から成るので、定理2.から\(G\)の正規化部分群です。

皆様のコメントを下さい!

今回はペロンです。

ペロン(Oskar Perron:1880–1975)はドイツの数学者。
1898 年にミュン ヘン大学に入学、その後、当時の習慣に従って複数の大学を転々としました。
ミュンヘン大学ではプリングスハイムによる連分数理論の講義に影響を受けましたが、リンデマンの指導の下で書かれた学位論文は幾何学に関するものでした。
1906 年にミュンヘン大学の講師になり、1910年にチュービンゲン大学教授、1914年にハイデルベルク大学教授になりました。
第一次世界大戦の勃発により一時大学から離れましたが、戦後ハイデルベルクに戻り、1922年にミュンヘン大学の学科主任となりました。
ペロンの業績としては、積分論、微分方程式論、行列論などが有名です。

ペロンの名前を冠した有名なパラドックスがあります。

「\(N\)が最大の自然数と仮定しよう。\(N>1\)ならば、\(N^2>N\)であるから、\(N\)の最大性に反し、従って\(N=1\)である。」

というものです。
これは、一般に問題が与えられたとき「問題への解が存在する」という仮定を安易に置くことの危険性を指摘したものです。

如何でしたか?
ペロンについてここに書かれれいることの他にご存知のことがあれば是非コメントで教えて下さい!

今回は「置換が共役であることと置換の型が等しいことは同値」という主張を証明しました。
これは置換の特徴づけであるのと同時に、対称群(置換群)の特徴づけでもあります。
置換の型はヤング図形で表すことができるため、定理2.から対称群の共役類が置換の型、あるいはヤング図形で定まるということが示されたことになります。

次回は交換子群と可解群について解説します。

乞うご期待!
質問、コメントなどお待ちしております!
どんな些細なことでも構いませんし、「定理〇〇の△△が分からない!」などいただければ全てお答えします!
お問い合わせの内容にもよりますが、ご質問はおおよそ3日以内にお答えします。
もし直ちに回答が欲しければその旨もコメントでお知らせください。直ちに対応いたします。

コメントをする