本記事の内容
本記事は、上限と最大値、下限と最小値が異なるということを説明する記事です。
本記事を読むにあたり、上限、下限について知っている必要があるので、以下の記事も合わせてご覧ください。
「最大値と上限って同じじゃね?」「いいえ、違います。」
最大値と上限(最小値と下限)は同じもののように思えるかもしれませんが、実は違います。
例6.
区間\([0,1]=\{x\in \mathbb{R}\mid 0\leq x\leq 1\}\)は\(\mathbb{R}\)の最大値が\(1\)、最小値が\(0\)です。
また、上限は\(1\)であり下限は\(0\)です。
例7.
区間\((2,3)=\{x\in \mathbb{R}\mid 2<x<3\}\)は最大値も最小値も存在しません。
しかし、上限は\(3\)、下限は\(2\)です。
要は、最大値および最小値というのは、その集合の要素の中で最も大きい、最も小さい要素のことを指すのです。
例7において、\(2\)および\(3\)というのは\((2,3)\)の要素ではありません。
折角なので、「最大値および最小値とは何か?」ということを論理式で書いておきます。
- \((\forall x\in A)(x\leq S)\),
- \(S\in A\).(これが上限との違い)
また、このとき、\(I\in\mathbb{R}\)が
- \((\forall x\in A)(x\geq I)\),
- \(I\in A\).(これが下限との違い)
要は、最大値(最小値)は”その集合の要素の中で”という条件がつくというわけです。
例6で見たように、最大値(最小値)と上限(下限)には一致することもあります。
つまり、最大値(最小値)と上限(下限)はそれぞれ違うものだけれども似ているわけです。
それを表す事実を述べておきます。
くどいようですが、この命題は決して「必ず最大値と上限は一致する」と言っているわけではありません。
「最大値であれば、それは必ず上限である。」と言っているに過ぎないのです。
証明を与えてみましょう。
ただし、最大値が上限であることの証明と最小値が下限であることの証明はほぼ同じなので、前者のみ証明を与えることにします。
証明
(1)最大値は上限であることの証明
\(A\subset\mathbb{R}\)に対して、\(S\)を\(A\)の最大値とします。
すなわち、
- \((\forall x\in A)(x\leq S)\),
- \(S\in A\).
を満たすとします。
このとき、\(S\)が\(A\)の上限だということを示したいので、
- \(\forall x\in A\ x\leq S\),
- \((\forall \epsilon>0)(\exists x\in A)\ {\rm s.t.}\ x>S-\epsilon\)
が成り立つことを証明すれば良いです。
(1.について)仮定と同じものであるため、成り立ちます。
(2.について)任意の\(\epsilon>0\)に対して、\(x>S-\epsilon\)となるような\(x\in A\)を見つけてくれば良いわけです。
仮定から\(S\in A\)ですので、この\(x\)として\(S\)を取ることができます。
すると、この\(S\)は任意の\(\epsilon>0\)に対して、\(S>S-\epsilon\)を満たします(正の数を引けば、元の数よりも小さくなります)。
従って、2.も成り立ちます。
(2)逆は成り立たない(上限だからといって必ずしも最大値ではない)ことの証明
上限は存在するのですが、最大値が存在しない例を挙げれば証明したことになります。
\(A=(2,3)=\{x\in\mathbb{R}\mid 2<x<3\}\)とすると、\(A\subset\mathbb{R}\)です。
このとき、
- \(\forall x\in A\ x\leq S\),
- \((\forall \epsilon>0)(\exists x\in A)\ {\rm s.t.}\ x>S-\epsilon\)
を満たすような\(S\)は存在するのですが、
① \((\forall x\in A)(x\leq S’)\),
② \(S’\in A\).
を満たすような\(S’\)は存在しないということを示すことができれば、証明完了です。
\(S=3\)とすれば、任意の\(x\in A\)に対して、\(x<3\)ですので、\(x\leq3\)ですから1.が成り立ちます。
また、任意の\(\epsilon>0\)に対して、\(\epsilon<1\)のときは\(x=\displaystyle\frac{3+(3-\epsilon)}{2}=3-\frac{\epsilon}{2}\)とすれば、\(\displaystyle\frac{5}{2}<3-\frac{\epsilon}{2}<3\)ですから\(x\in A\)です。
一方\(3-\epsilon<3-\displaystyle\frac{\epsilon}{2}=x\)ですから\(x>3-\epsilon\)です。
\(\epsilon\geq1\)のとき、\(3-\epsilon\leq2\)により、\(x=\displaystyle\frac{5}{2}\)とすれば、\(x\in A\)であり、\(3-\epsilon\leq2<\displaystyle\frac{5}{2}=x\)ですから\(x>3-\epsilon\)です。
したがって、1.および2.が成り立ちます。
また、1.により①が成り立つような\(S’\)が存在します。
この\(S’\)が同時に②を満たしていたとします。(背理法!)
つまり、\(S’\in A\)だったとします。
すると、\(S'<3\)です。
しかし、有理数の稠密性から、ある有理数\(c\)が存在して、\(S'<c<3\)です。
この\(c\)は\(2<S'<c<3\)により\(c\in A\)です。
しかしこれは、①に反します。
なぜならば、\(S’\)が\(A\)の中で最も大きい数だったにもかかわらず、それよりも大きな\(A\)の要素\(c\)が存在することになったからです。
よって①と②を同時に満たす\(S’\)は存在しません。
したがって、上限は必ずしも最大値ではありません。
証明終わり
結
今回は上限と最大値、下限と最小値は異なることを説明しました。
結局、最大値および最小値は上限および下限であるけれども、上限および下限は必ずしも最大値および最小値ではない、ということです。
次回は「ワイエルシュトラスの上限公理をデデキントの定理から導く」です。
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0<x≦1ではなく0≦x≦1ではないですか?
名無し様
コメントありがとうございます。
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