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「ある点付近で発散する関数の逆数は\(0\)に収束する。」「\(0\)に収束する関数の逆数は発散する。」【解析学の基礎シリーズ】多変数関数編 その22

多変数関数

本記事の内容

本記事は「発散する関数の逆数は\(0\)に収束する。」「\(0\)に収束する関数の逆数は発散する。」という命題を証明する記事です。

本記事を読むにあたり、ある点付近での関数の発散について知っている必要があるため、その際は以下の記事を参照してください。

では行きましょう!

ある点付近で発散する関数の逆数は\(0\)に収束する。

「ある点付近で発散する関数の逆数は\(0\)に収束する。」という主張は、形式的には
$$
\frac{1}{\infty}=0
$$
ということです。
以前、「数列が”発散する”って?」「”無限大”って?」【解析学の基礎シリーズ】で述べたように、\(\displaystyle\frac{1}{\infty}\)は実数ではありません。
実数ではありませんので、「”形式的には”\(\displaystyle\frac{1}{\infty}=0\)」ということです。

では、主張を明確にしましょう。

定理1.(ある点付近で発散する関数の逆数の極限は\(0\)に収束する)
\(\Omega\subset\mathbb{R}^n\)、\(f:\Omega\to\mathbb{R}\)、\(\boldsymbol{a}\in\bar{\Omega}\)とする。 このとき、 $$ \lim_{\boldsymbol{x}\to\boldsymbol{a}}f(\boldsymbol{x})=\infty \Rightarrow \lim_{\boldsymbol{x}\to\boldsymbol{a}}\frac{1}{f(\boldsymbol{x})}=0 $$ が成り立つ。

定理1.の証明

実は簡単です。

示したいことは、\(\displaystyle\lim_{\boldsymbol{x}\to\boldsymbol{a}}f(\boldsymbol{x})=\infty\)のとき、
$$
(\forall \epsilon>0)\ (\exists \delta>0)\ {\rm s.t.}\ \left(\forall \boldsymbol{x}\in\Omega :0<|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{a}|<\delta\Rightarrow\left|\frac{1}{f(\boldsymbol{x})}\right|<\epsilon\right)
$$
です。

仮定から\(\displaystyle\lim_{\boldsymbol{x}\to\boldsymbol{a}}f(\boldsymbol{x})=\infty\)ですので、
$$
(\forall U\in\mathbb{R})\ (\exists \delta_0>0)\ {\rm s.t.}\ \left(\forall \boldsymbol{x}\in\Omega :0<|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{a}|<\delta_0\Rightarrow|f(\boldsymbol{x})|>U\right)
$$
です。
\(U\)は任意の実数ですので、任意の\(\epsilon>0\)に対して\(\displaystyle U=\frac{1}{\epsilon}\)としても成り立ちます。
故に、\(0<|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{a}|<\delta_0\)を満たす任意の\(\boldsymbol{x}\in\Omega\)に対して\(\displaystyle|f(\boldsymbol{x})|>\frac{1}{\epsilon}\)が成り立っています。
すなわち、\(0<|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{a}|<\delta_0\)を満たす任意の\(\boldsymbol{x}\in\Omega\)に対して\(\displaystyle\left|\frac{1}{f(\boldsymbol{x})}\right|<\epsilon\)が成り立っています。
従って、\(\delta\)として\(\delta_0\)を採用すれば良いことが分かります。

いじょうのことから
$$
(\forall \epsilon>0)\ (\exists \delta>0)\ {\rm s.t.}\ \left(\forall \boldsymbol{x}\in\Omega :0<|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{a}|<\delta\Rightarrow\left|\frac{1}{f(\boldsymbol{x})}\right|<\epsilon\right)
$$
が成り立ちます。

定理1.の証明終わり

\(0\)に収束する関数の逆数は発散する。

「\(0\)に収束する関数の逆数は発散する。」という主張は、形式的には
$$
\frac{1}{0}=\infty
$$
ということです。
「分母の絶対値をちっちゃくすればするほど、元の数はでっかくなるよね」という直感に対応していますが、本来\(\displaystyle\frac{1}{0}\)は定められておらず、あくまで形式的に過ぎません。
ですが、極限を使うことで無限大であることが表現できます。

では、主張を明確にしましょう。

定理1.(\(0\)に収束する関数の逆数は発散する。)
\(\Omega\subset\mathbb{R}^n\)、\(f:\Omega\to\mathbb{R}\)、\(\boldsymbol{a}\in\bar{\Omega}\)とする。 このとき、 $$ \big((\forall \boldsymbol{x}\in\Omega)\ f(\boldsymbol{x})>0\ \land \lim_{\boldsymbol{x}\to\boldsymbol{a}}f(\boldsymbol{x})=0 \big)\Rightarrow \lim_{\boldsymbol{x}\to\boldsymbol{a}}\frac{1}{f(\boldsymbol{x})}=\infty $$ が成り立つ。

定理2.の証明

これも簡単です。

示したいことは、任意の\(\boldsymbol{x}\in\Omega\)に対して\(f(\boldsymbol{x})>0\)であり、かつ\(\displaystyle\lim_{\boldsymbol{x}\to\boldsymbol{a}}f(\boldsymbol{x})=0\)のとき、
$$
(\forall U\in\mathbb{R})\ (\exists \delta>0)\ {\rm s.t.}\ \left(\forall \boldsymbol{x}\in\Omega :0<|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{a}|<\delta\Rightarrow\frac{1}{f(\boldsymbol{x})}>U\right)
$$
です。

仮定から\(\displaystyle\lim_{\boldsymbol{x}\to\boldsymbol{a}}f(\boldsymbol{x})=0\)ですので、
$$
(\forall \epsilon>0)\ (\exists \delta_0>0)\ {\rm s.t.}\ \left(\forall \boldsymbol{x}\in\Omega :0<|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{a}|<\delta_0\Rightarrow|f(\boldsymbol{x})|<\epsilon\right)
$$
です。
\(\epsilon>0\)は任意ですので、任意の\(U\in\mathbb{R}\)を用いて、\(\displaystyle\epsilon=\frac{1}{|U|+1}\)としても成り立ちます。
故に、\(0<|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{a}|<\delta_0\)を満たす任意の\(\boldsymbol{x}\in\Omega\)に対して\(|f(\boldsymbol{x})|<\epsilon\)を満たします。
従って、このとき\(\displaystyle\left|\frac{1}{f(\boldsymbol{x})}\right|>\frac{1}{\epsilon}\)です。
ここで、仮定から、任意の\(\boldsymbol{x}\in\Omega\)に対して\(f(\boldsymbol{x})>0\)ですので、\(|f(\boldsymbol{x})|=f(\boldsymbol{x})\)です。
故に
$$
\frac{1}{f(\boldsymbol{x})}=\left|\frac{1}{f(\boldsymbol{x})}\right|>\frac{1}{\epsilon}=|U|+1>U
$$
です。
以上のことから、\(\delta=\delta_0\)とすれば良い事がわかるので、
任意の\(\boldsymbol{x}\in\Omega\)に対して\(f(\boldsymbol{x})>0\)であり、かつ\(\displaystyle\lim_{\boldsymbol{x}\to\boldsymbol{a}}f(\boldsymbol{x})=0\)のとき、
$$
(\forall U\in\mathbb{R})\ (\exists \delta>0)\ {\rm s.t.}\ \left(\forall \boldsymbol{x}\in\Omega :0<|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{a}|<\delta\Rightarrow\frac{1}{f(\boldsymbol{x})}>U\right)
$$
です。

定理2.の証明終わり

本当に成り立つのかネ?

毎度のことながら、「証明したので成り立ちますよ、局長」と言いたいところですが、例があったほうが説得力があるし、さらに理解しやすいと思われるので、簡単ではありますが、例を挙げます。

例1. \(\displaystyle f:\mathbb{R}\setminus\left\{\frac{n\pi}{2}\middle| n\in\mathbb{Z}\right\}\to\mathbb{R}\)を\(\displaystyle f(x)=\frac{1}{\tan x}\)で定めたとします。
このとき、\(\displaystyle\lim_{x\to\frac{\pi}{2}-0}f(x)=0\)です。

※左右極限については【解析学の基礎シリーズ】関数の極限編 その6を御覧ください。

証明(というより計算)

証明というよりも計算ですがね(笑)

まずは、\(\displaystyle\lim_{x\to\frac{\pi}{2}-0}\tan x=\infty\)です。
このとき、
$$
\lim_{x\to\frac{\pi}{2}-0}\frac{1}{\tan x}=\lim_{x\to\frac{\pi}{2}-0}\frac{\cos x}{\sin x}=\frac{\displaystyle\lim_{x\to\frac{\pi}{2}-0}\cos x}{\displaystyle\lim_{x\to\frac{\pi}{2}-0}\sin x}=\frac{0}{1}=0
$$
です。

証明(というより計算)終わり

例2. 例1. \(\displaystyle g:\Omega=\left\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\middle| x^2+y^2\neq 0\right\}\to\mathbb{R}\)を\(\displaystyle g(x)=\frac{1}{x^2+y^2}\)で定めたとします。
このとき、\(\displaystyle\lim_{(x,y)\to(0,0)}\frac{1}{x^2+y^2}=\infty\)です。

証明

示したいことは、
$$
(\forall U\in\mathbb{R})\ (\exists \delta>0)\ {\rm s.t.}\ \left(\forall (x,y)\in\Omega :0<\sqrt{x^2+y^2}<\delta\Rightarrow\frac{1}{x^2+y^2}>U\right)
$$
です。

これも簡単です。
任意の\(U\in\mathbb{R}\)に対して、\(\displaystyle\delta=\frac{1}{\sqrt{|U|+1}}\)とすると、\(\displaystyle0<\sqrt{x^2+y^2}<\delta\)を満たす\(\forall (x,y)\in\Omega \)に対しては、
$$
\frac{1}{x^2+y^2}>\frac{1}{\delta^2}=|U|+1>U
$$
です。
従って、$$
(\forall U\in\mathbb{R})\ (\exists \delta>0)\ {\rm s.t.}\ \left(\forall (x,y)\in\Omega :0<\sqrt{x^2+y^2}<\delta\Rightarrow\frac{1}{x^2+y^2}>U\right)
$$です。

証明終わり

今回は、ある点付近で発散する関数の逆数は\(0\)に収束する。」「\(0\)に収束する関数の逆数は発散する。」ということについて解説、証明しました。

高校数学で数Ⅲ(今はもう違う名前かもしれませんが)で形式的に学んだことを、厳密に証明しました。
直感的には「当たり前じゃね?」ということもしっかり証明できるところが数学の面白さの一つだと思います(筆者は勝手にそう思ってます)。

次回は\(1\)変数ベクトル値関数において、\(x\to\infty\)のときの\(\boldsymbol{f}(x)\to \boldsymbol{a}\)について解説します。

乞うご期待!質問、コメントなどお待ちしております!

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