本記事の内容
本記事は『数学セミナー』(日本評論社)に掲載されている”エレガントな解答をもとむ”に出題されいている問題に、1時間で解けるか、という挑戦をする記事です。
本記事を読むにあたり、前提知識は基本的に必要ありませんが、以前紹介した記事の内容を使う場合はその旨を記述することにします。
“エレガントな解答をもとむ”って何?
初回ですので、まずは”エレガントな解答をもとむ”について少し説明をします。
“エレガントな解答をもとむ”(通称:エレ解)は、日本評論社出版の月刊誌『数学セミナー』(数セミ)の名物コーナーです。
これはある種、数セミから読者への挑戦状のようなもので、与えられた問題をどのように解くか、その解答がエレガントかを(ある意味)競うものです。
要するに、問題が誌の中に掲載されていて、その問題の解答を読者が日本評論社に送って、エレガントな解答が3ヶ月後の数セミで発表される、という感じです。
なんと、解答が発表されるのは3ヶ月後です。
勿論、読者の方は多種多様ですので、期間を広く取っているのだと思いますが、普通に解いても1ヶ月は悩む可能性がある問題だ、とも言えるかもしれません。
「なんだよ。じゃあ難しいんじゃん。やーめた。」となるかもしれませんが、ちょっと覗いてみて下さい。
勿論、比較的高度な数学の話の問題もありますが、問題自体はとっつきやすく特に高度な数学が必要無い場合が多い印象です。
そこで、無謀ではありますが、筆者はこの問題に1時間で挑戦してみようと思います。
まずは1時間挑戦してみて、答えが出る出ないに関わらず、筆者の思考プロセスを紹介します。
そして、その後に正式に発表されている解答を掲載します。
みなさんも一度挑戦してみて下さい!
今回の挑戦は1994年6月号掲載の問題です。
今回は1994年6月号掲載の問題です。
「なぜこの問題なの?」というと大した理由ではなくて「筆者の生まれ年で、誕生日に近いから」という単にそれだけです。
サッカーボールは5五角形と正6核系の個数が合計32個でできています。そこで、写真を眺めながら、それぞれの個数をもとめて下さい。これは準正32明太を球面上に膨らませたものであり、答えはすぐにでるでしょうが、数学の定理を知らない、計算の苦手な文科系学生にもわかるような、ユニークな解答を期待します。
引用:http://yutaka-nishiyama.sakura.ne.jp/elegant.html
今回はこの問題に1時間でチャレンジしてみます。
いざ、チャレンジ
チャレンジの結果……論破はできませんでした….
正解の値は導くことができたのですが、「本当にそれが正解か?」ということが論破できませんでした…
以下に筆者が考えたことをそのまま書きます。
方針は連立方程式。
まず、サッカーボールを構成している正五角形の個数を\(x\)個、正六角形の個数を\(y\)個とします。
このとき、問題文から「正五角形の個数と正六角形の個数は合わせて32個」なので、
$$
x+y=32
$$
を満たします。
この不定方程式の自然数解の中に、求めたい数のペアがあります。
可能性としては、
$$
(x,y)=(1,31),\ (2,30),\ (3,29),\ (4,28)\ ,\dots, (30,2),\ (31,1)
$$
要するに、31パターンあるわけです。
ここで問題文の写真を見ると、少なくとも4つの五角形と6つの六角形があります。
「え?五角形は6つで六角形は8つ見えてるんじゃないの?」と思うかもしれません。
実はそれは正しいんですが、画像を見る限り五角形と六角形のうちそれぞれ2つずつは五角形、六角形と断定することはできないと思ったので、排除しています。
「屁理屈じゃないかそれは?」と言われそうですけどね(笑)
従って、五角形は4つ以上、六角形は6つ以上あるわけですので、求めたい数のペアは
$$
(4,28),\ (5, 27),\ \dots,\ (26,6)
$$
の中にあります。
ここで再度問題のサッカーボールの写真を見ると、”見えている分については”五角形の周りに5つの六角形があります。
もし仮に、
ということが成り立てば、結構話は簡単に進みます。
五角形の周りに5つの六角形があるので、重複を含めると、六角形の個数は五角形の個数の5倍あります。
しかし、重複を含めると、という話ですので、余分なところは排除しなければなりません。
ここで、全ての六角形の周りには3つの五角形があるわけですので、1つの六角形あたり3回だけ重複してカウントしてます。
従って、
です。
すなわち、
$$
y=\frac{5x}{3}
$$
です。
以上のことから
$$
\begin{cases}
x+y=32\\
y=\frac{5x}{3}
\end{cases}
$$
という連立方程式が成り立つので、これを解けば良いことになります。
これを解くと\((x,y)=(12,20)\)となって、五角形の数は12個、六角形の数は20個と求まりました。
でも論破はできていないと思うんです。
一応、答えっぽい五角形の個数と六角形の個数を求めることができましたが、「これが答えです。」とは言い切れないと思うんです。
なぜかと言うと、先程提示した仮定
が成り立ったらば\((x,y)=(12,20)\)と結論づけられる、という話なので、これが成り立つことを示さなければならないからです。
実は、数学の知識を使うと示すまでもなく正しいのですが、そのためには準正多面体、というより多面体の知識が必要です。
しかし、問題文を読んでみると、
数学の定理を知らない、計算の苦手な文科系学生にも分かるような、ユニークな解答を期待しています。
引用:http://yutaka-nishiyama.sakura.ne.jp/elegant.html
というわけですので、多面体の知識は使いたくありません。
従って、「準正多面体だから」というのは根拠にしてはいけないと思うのです。
とどのつまり、情報は「正五角形、正六角形の合計の個数が32個であること」と「写真」のみなわけです。
この2つの情報から
ということを否定しなければならないわけです。
突飛な可能性の話をすれば、写真のサッカーボールの裏側は見えません。
従って、裏側が全て正五角形の場合だって考えられるし、同様に裏側が全て正六角形の場合だって考えられるわけです。
これ(だけではないけれど)を五角形の個数と六角形の個数の和が32であるということと写真から排除しよう、というわけです。
そこで、筆者は「角度から攻めてみよう」と思いました。
正五角形の1つの内角は中学校の知識を使うと
$$
\frac{180^\circ(5-2)}{5}=\frac{180^\circ\times3}{5}=108^\circ
$$
です。
同様にして正六角形の1つの内角は
$$
\frac{180^\circ(6-2)}{6}=\frac{180^\circ\times2}{3}=120^\circ
$$
です。
よって図の\(\angle A\)は\(\angle A=360^\circ-120^\circ-108^\circ=132^\circ\)です。
しかしここで間違いに気が付きました。
もし\(\angle A=120^\circ\)だったらば、「\(\angle A\)を共有する図形は五角形ではなく六角形ですよね」と言えたのですが、\(132\circ\)ですし、そもそもサッカーボールは平面ではなく立体ですので、平面での角度で攻めるのはお門違いでした。
ここで時間切れでした。
というわけで、
ということは言い切れませんでした…..
多面体の知識を使わずにこの事実を証明方法を思いついた方は是非コメントで教えて下さい!
(筆者にはできませんでした…)
投稿されたエレガントな解答とその感想
では、この問題の解答として投稿されたエレガントな解答を紹介します。
「面の数に注目した解答」はまさに筆者と同じ解き方でしたので省略します。
文中に出現する図は下にまとめて描きます。
正五角形の個数を\(x\)個、正六角形の個数を\(y\)個とします。
このとき、\(x+y=32\)が成り立っています。
正5角形の周りにある辺の数は5本だから、全部で\(5x\)本ある。正6角形のまわりにある辺の数は6本だから、全部で\(6y\)本ある。ところが、正5角形がひとつおきにしか隣接していないので、この内の半分が正5角形のまわりの辺の数に等しくなる(図1)。つまり
$$
5x=\frac{6y}{2}
$$
となる。
頂点の数に注目する考え方は次の通りである。
正5角形の頂点の数は5個だから、全部で\(5x\)個ある。一方、正6角形の頂点おかずは6個だから、全部で\(6y\)個ある。ひとつの頂点に着目すると、正5角形が1個、正6角形が2個隣接している。正5角形の頂点の数\(5x\)は重複していないから、これが全体の頂点の数になる。正6角系の頂点の数\(6y\)は重複していて、\(5x\)の2倍になっている。つまり、
$$
5x:6y=1:2
$$
となる。
以上はサッカーボールの面や辺や頂点の数に注目した模範解答であるが、なぜ3で割ったりするのか、数学の苦手な者には理解するまで時間がかかりそうだ。(中略)
[分割]
サッカーボールの表面を合同なパターンで分割し、そのパターンを構成する要素の面積比から正5角形と正6角形の数を計算するという答案が全部で11通あった。私は、分割による方法をはじめて知るので大変興味深かった。分割のパターンは次の3種類である。
1つ目は、正6角形が1個と\(\displaystyle\frac{1}{5}\)の正5角形が3個というもので、6通あった(図4)。この場合の正5角形と正6角形の比率は、
$$
3\times\frac{1}{5}:1=3:5
$$
となる。
2つ目は、正5角形が1個と\(\displaystyle\frac{1}{3}\)の正6角形が5個というもので4通あった(図5)。この場合の正5角形と正6角形の比率は、
$$
1:5\times\frac{1}{3}=3:5
$$
となる。
3つ目は、\(\displaystyle\frac{1}{5}\)の正5角形が1個と\(\displaystyle\frac{1}{3}\)の正6角形が1個といもので1通あった(図6)。この場合の正5角形と正6角形の比率は、
$$
\frac{1}{5}:\frac{1}{3}=3:5
$$
となる。
3図とも、図が見にくくなるので1個のパターンしか描かなかったが、読者は、このパターンでサッカーボールを覆い尽くすことができることを確かめよ。
表面を合同な図形で分割して面積比に注目するという方法は、面や辺や頂点のときに現れた「重複」の処理がいらないので、意外と分かりやすいのではないだろうか。[切断・変形・回転]
引用:http://yutaka-nishiyama.sakura.ne.jp/elegant.html
(中略)
ある1つの正6角形の中点を北極点とし、この正6角形の辺を二等分するようにサッカーボールを真二つに切る(図7)。その切り方は3通り存在するが、どの切り口においても、正5角形と正6角形の並び方は図8のようになっていて、正5角形は4個である。したがって合計\(4\times3=12\)個である。(後略)
(前略)正5角形をどんどん大きくし、逆に正6角形をどんどん」小さくして正3角形になってしまったとする(図9)。
この変形したサッカーボールの正5角形の数と正3角形の数は、元の正5各毛糸正6角形の数と同じである。すべての辺が正5角形の辺であると同時に正3角形の辺となっているので、正5角形の辺の総数と正3角形の辺の総数は同数である。だから正5角形と正3角形の数の比は\(3:5\)である。(後略)
(前略)正5角形の真ん中に紐をつけてぶらさげる(図10)。少し回転させると、ボールの緯線にそって2本の帯状に正5角形が分布していることがわかる。
これを北極から眺めれば、帯状には5個の正5角形があり、北極と合わせて北半球に6個ある。南半球にも6個あるから合計12個である。この方法はサッカーボールを手に触ってみないと実感できないが、結構面白い。(後略)
以下、図です。
感想
“エレガントな解答”を見てみると
ということについては言及されていないようです。
筆者が考えすぎなのでしょうか…「サッカーボールだから」なのでしょうか…
筆者が個人的に「面白い」と思ったのは、最後のサッカーボールを回転させて地球のように考える解答です。
ということを認めた場合、2本の帯状に正五角形が5つ分布していて、北極点と南極点の正五角形をあわせて12個ある、というのはこれは確かに”エレガント”だと思いました。
確かに、サッカーボールを実際に手にしてみないと実感はできないかもしれませんが、誠にシンプルで、余計なことは一切考えなくて良い、という感じが好きです。
こういう解答が出てくるようになりたいものです。
結
いかがでしたか?
今回は数セミの「エレガントな解答をもとむ」に挑戦してみる、という記事でした。
実際に紹介されている解答はたしかに”エレガント”だな、と思いました。
読者の皆様も是非一度挑戦してみて下さい!
そして、「こんな解答を思いついた!」というのがあれば是非コメントで教えて下さい!
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