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「行列の対角化①」【線型代数学の基礎シリーズ】固有値編 その2

固有値、固有ベクトル

本記事の内容

本記事は「行列の対角化」について解説する記事です。

本記事を読むにあたり、固有値、固有ベクトルについて知っている必要があるため、以下の記事も合わせてご覧ください。

対角化って何スか?

対角化を平たく言うと、

正方行列Aに対して、Aと相似な対角行列を求めること。

です。
ここで、行列の相似というのはB=P1APという正則行列Pが存在するときにABは相似と言ったのでした。

これをしっかり書くと次です。

対角化、対角化可能

正方行列Aが与えられたとき、B=P1APが対角行列になるような正則行列PBを求めることを行列A対角化という。
そしてこのようなPおよびBが存在するときA対角化可能であるという。

「ふーん。対角化ってそういうことか。」となると思いますが、一般の行列Aに対してB=P1APで、かつBが対角行列となるような正則行列Pが必ずしも存在するとは限りません。
では、どういうときに存在するのか、ということを本記事は固有値、固有ベクトルのコンセプトを用いて説明します。

もし仮に、正方行列Aが対角行列
D=(λ1OOλn)
に相似であれば、すなわち、D=P1APを満たすような正則行列Pが存在すれば、λ1,,λnAの固有値全体と一致します。
実際、次の2つが成り立ったからでした。

定理1.

n次正方行列Aが三角行列である時、Aの固有値全体は重複も込めてAの対角成分と一致する。

定理2.

n次正方行列AおよびBが相似であれば、 φA(t)=φB(t) である。従って、ABの固有値全体は重複を込めて一致する。

要するに、とある条件下では固有値を対角成分に持つ対角行列に対角化できる、ということで、あるしゅ固有値の計算をするだけで対角化したあとの行列が分かってしまう、ということです。

固有ベクトルの線型独立性

まずは相異なる固有値に属する固有ベクトルは線型独立であることを示します。
これ、重要です。

相異なる固有値に属する固有ベクトルは線型独立なベクトルです。

定理3.

n次正方行列Aの相異なる固有値をλ1,,λs (sn)とする。各固有値λiに属する固有ベクトルをxiとするとき、x1,,xsは線型独立である。

定理3.の証明

数学的帰納法で証明します。
x1は固有ベクトルなので、x10です。
従って、c1x1=0とするとき、c1=0でなければなりません。
故に、x1は線型独立です。

次に、r<sを満たすようなrNが存在して、x1,,xrは線型独立だとして、x1,,xr,xr+1も線型独立であることを示します。
そこで、背理法を用います。
すなわち、x1,,xrは線型独立だけれど、x1,,xr,xr+1は線型独立でない、すなわち線型従属だとして矛盾を導きます。

ここで、次の定理を使います。

定理4.

Vを線型空間とする。a1,a2,,arが線型独立で、a1,a2,,ar,aが線型従属であれば、aa1,a2,,arの線型結合として一意的に表される。

定理4.の証明は【線型代数学の基礎シリーズ】線型空間編 その2を御覧ください。

定理4.から、
xr+1=c1x1++crxr
と一意的に表すことができます。
xr+1は固有値λr+1に属する固有ベクトルなのでxr+10です。
従って、c1,,crの中に少なくとも1つは0でないものが存在します。

さて、各xiを列ベクトルで表し、①の両辺に左からAをかければ、
Axr+1=c1Ax1++crAxr
となります。
xiは固有値λiに属する固有ベクトルなので、
Axi=λixi
を満たすから
λr+1xr+1=c1λ1x1++crλrxr
となります。
また、①の両辺にλr+1をかけて
λr+1xr+1=c1λr+1x1++crλr+1xr
となります。
②および③により、
c1(λ1λr+1)x1++cr(λrλr+1)xr=0
ここで、仮定から固有値は相異なるので、1irを満たすiNに対してλiλr+10であり、あるjcj0なわけですので、上記の式は自明でない線型関係式です。
しかしながら、これはx1,,xrが線型独立であることに反します。
従って、x1,,xr,xr+1も線型独立です。
以上のことから、相異なる固有値に属する固有ベクトル同士は線型独立です。

定理3.の証明終わり

固有値が存在する行列には対角化っぽいことができます。

次に対角化っぽい事実を示します。

定理5.

An次正方行列、λ1,,λnAの固有値、x1,,xnをそれぞれに属する固有ベクトルとする。ただし、λiは相異なるとは仮定しない。そして、xiを第i列とする正方行列をQとする。すなわち、 Q=(x1  xr) とする。このととき、 AQ=Q(λ1OOλn) が成り立つ。
 逆に、n次正方行列Qνi (i=1,,n)が存在して、 AQ=Q(ν1OOνn) を満たし、Qの各列ベクトルが零ベクトルでないならば、νiAの固有値で、Qの第i列は固有値νiに属する固有ベクトルである。

定理5.の証明

An次正方行列、λ1,,λnAの固有値、x1,,xnとします。

(前半の証明)

λ1,,λnAの固有値で、x1,,xnは各固有値λiに属する固有ベクトルなので
Axi=λixi(xi0)
です。
すると、この両辺は列ベクトルの形をしています。
この列ベクトルを第i列とする行列をそれぞれ考えて、次の等式を得ます。
A(x1 x2  xn)=(Ax1 Ax2  Axn)=(λ1x1 λ2x2  λnxn)=(x1 x2  xn)(λ1λ2OOλn)

従って、等式
A(x1 x2  xn)=(x1 x2  xn)(λ1λ2OOλn)
ここで、Q=(x1 x2  xn)なのだから、この式は
AQ=Q(λ1λ2OOλn)
と書き直すことができます。

(後半の証明)

逆に、各列ベクトルが零ベクトルでないようなn次正方行列Qνi (i=1,,n)で、
AQ=Q(ν1λ2OOνn)
を満たしているとします。
行列Qの第i列をxiと書くことにすると、上の等式の両辺の第i列を取り出して考えることで、
Axi=νixi
となります。
今、仮定からxi0ですので、νiAの固有値で、かつxiは固有値νiに属する固有ベクトルです。

定理5.の証明終わり

この章で言いたかったこと

定理5.から「あれ?もうこれで対角化の話はおしまいじゃない?」と思うかもしれませんがそうではありません。
注意して置かなければならないのは、「必ずしもQは正則ではない」ということです。
というのも、λ1,,λnは相異なるとは仮定していないので、固有ベクトルx1,,xnは線型独立とは限らないからです。
言ってしまえば、固有ベクトルの中には同じベクトルがあるかもしれません。
故に、行列Qは必ずしも正則ではありません。

もし仮にQが正則であれば、Qの逆行列Q1が存在しますので、
AQ=Q(λ1λ2OOλn)Q1AQ=(λ1λ2OOλn)
となって対角化可能です。

とどのつまり、固有値が存在するような行列に対しては、対角化”っぽい”ことができる、というわけです。
ここで「ほーん。したらばQが正則だったらい良いわけね?でもそんなん見つけられんの?」となると思います。
見つけられます。
そこで鍵となるのが固有ベクトルなのです。
少々ネタバラシですが、固有値が相異なっていれば、固有ベクトルを用いることで正則なQを見つけることができます。

行列の固有値が相異なれば、固有ベクトルを並べた行列で対角化可能です。

なんとびっくり、固有値が相異なれば固有ベクトルを並べた行列で対角化可能なのです。
先程「Qが正則だったらいいよねえ」という話をしましたが、固有値が相異なれば、固有ベクトルは線型独立ですので正則な行列となります(これは以前に証明したことで、この章の主張を証明するときに改めて明示します)。
従って、固有値が相異なるときに固有ベクトルを並べた行列は正則な行列です。
故にこの章で言いたかったことで述べた操作で対角化可能なのです。

この主張を明示します。

定理6.

n次正方行列Aが相異なるn個の固有値λ1,,λnをもつならば、Aはこれらを対角成分に持つ対角行列に対角化可能である。つまり、ある正則行列Pが存在して P1AP=(λ1OOλn) となる。

定理6.の証明

先程述べたことをしっかり書くだけです。

Aの固有値λ1,,λnに属する固有ベクトルをx1,,xnとすると、定理3.から固有ベクトルは線型独立なので、x1,,xnは線型独立です。
従って、x1,,xnRnの基底です。
そこで、xiを第i列とするような正方行列をPとします。
すなわち、P=(x1 x2 xn)とします。
ここで、次の事実を使います。

定理7.

nNとし、An次正方行列、a1,a2,,anAの行ベクトル、a1,a2,,anAの列ベクトル、とするとき、次の条件は同値である。
  1. det
  2. \boldsymbol{a}_1^\prime,\boldsymbol{a}_2^\prime,\dots,\boldsymbol{a}_n^\primeは線型独立である。
  3. \boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\dots,\boldsymbol{a}_nは線型独立である。

定理7.の証明は【線型代数学の基礎シリーズ】線型空間編 その3を御覧ください。

定理7.により、Pは正則行列です。
そして、定理5.から
AP= P \begin{pmatrix} \lambda_1&&& \\ &\lambda_2&&\huge{O}\\ \huge{O}&&\ddots&\\ &&&\lambda_n \end{pmatrix}\Leftrightarrow Q^{-1}AQ= \begin{pmatrix} \lambda1&&& \\ &\lambda_2&&\huge{O}\\ \huge{O}&&\ddots&\\ &&&\lambda_n \end{pmatrix}
が成り立ちます。
ここで、Pは正則な行列なのでPの逆行列P^{-1}が存在します。
故に、この等式の両辺に左からP^{-1}をかけて
P^{-1}AP= \begin{pmatrix} \lambda_1&&& \\ &\lambda_2&&\huge{O}\\ \huge{O}&&\ddots&\\ &&&\lambda_n \end{pmatrix}\Leftrightarrow Q^{-1}AQ= \begin{pmatrix} \lambda1&&& \\ &\lambda_2&&\huge{O}\\ \huge{O}&&\ddots&\\ &&&\lambda_n \end{pmatrix}
が得られます。

定理6.の証明終わり

固有値の重複度と固有空間の次元

ちょっと話は変わりますが、対角化の話を先にすすめるために少々準備をします。

固有値の重複度

固有値は必ずしも相異なるわけではありませんでした。
そこで、どのくらい重複しているか、ということを表す指標が固有値の重複度です。
一言で言ってしまえば、

行列Aの固有方程式\varphi_A(t)=0の解の重複度のこと。

「は?重複度を知りたいってのに、重複度を使ってんじゃねえよ。説明になってねえよ。」という感じですね。
ちゃんと書きます。

固有値の重複度

n次正方行列Aの固有値を\lambda_1,\dots,\lambda_dとする。このとき\lambda_iは相異なっていて、Aの固有多項式\varphi_A(t) \varphi_A(t)=(t-\lambda_1)^{r_1}\cdots(t-\lambda_d)^{r_d} という形をしていれば、r_iを固有値\lambda_i重複度という。

つまり、固有多項式の各\lambda_iの累乗が重複度ということです。

固有値の重複度と固有空間の次元の間の関係

定理8.

An次正方行列、\lambdaAの1つの固有値とするとき、
\lambdaに属する固有空間の次元\leq\lambdaの重複度
が成り立つ。

定理8.の証明

r=(\lambdaに属する固有空間V(\lambda)の次元)、k=(\lambdaの重複度)としましょう。
このとき、\boldsymbol{x}_1,\dots,\boldsymbol{x}_rを連立斉一次方程式
\left( A-\lambda I_n\right)\boldsymbol{x}=\boldsymbol{0}
1組の解とします。
これにn-r個のベクトル\boldsymbol{x}_{r+1},\dots,\boldsymbol{x}_nを補充して、
\boldsymbol{x}_1,\dots,\boldsymbol{x}_r,\boldsymbol{x}_{r+1},\dots,\boldsymbol{x}_n
\mathbb{R}^nの基底となるようにすることができます。

実際、次が成り立つからです。

補題9.

Vn次元線型空間とする。Vのベクトルの組\boldsymbol{a}_1,\dots,\boldsymbol{a}_rが線型独立で、r<nであれば、n-r個のベクトル\boldsymbol{a}_{r+1},\dots,\boldsymbol{a}_nを選んで \boldsymbol{a}_1,\dots,\boldsymbol{a}_r,\boldsymbol{a}_{r+1},\dots,\boldsymbol{a}_n Vの基底となるようにできる。

補題9.の証明

\boldsymbol{b}_1,\dots,\boldsymbol{b}_nVの基底とします。
r+nこのベクトル\boldsymbol{a}_1,\dots,\boldsymbol{a}_r,\boldsymbol{b}_1,\dots,\boldsymbol{b}_nの中から、この順番に線型独立なものを選びます。
すなわち、次の操作をします。

まず、\boldsymbol{a}_1,\dots,\boldsymbol{a}_r,\boldsymbol{b}_1が線型独立ならば、\boldsymbol{b}_1を付け加えて、線型従属ならば\boldsymbol{b}_1を除きます。
この操作を\boldsymbol{b}_1,\dots,\boldsymbol{b}_nに順番に行った結果を
\boldsymbol{a}_1,\dots,\boldsymbol{a}_r,\boldsymbol{b}_{i_1},\dots,\boldsymbol{b}_{i_s}
としましょう。
このベクトルの組は線型独立であり、この里の任意の\boldsymbol{b}_jを付け加えると線型従属になってしまいます。
ここで、定理4.から\boldsymbol{b}_jはこれらの線型結合で表されます。
従って、この組は線型空間Vの基底です。
勿論r+s=nです。
この\boldsymbol{b}_{i_1},\dots,\boldsymbol{b}_{i_s}を順々に\boldsymbol{a}_{r+1},\dots,\boldsymbol{a}_nとすればOKです。

補題9.の証明終わり

さて、定理8.の証明に戻ります。

今、補題9.により
\boldsymbol{x}_1,\dots,\boldsymbol{x}_r,\boldsymbol{x}_{r+1},\dots,\boldsymbol{x}_n
\mathbb{R}^nの基底となるようにすることができます。

そこで、n次正方行列P
P=\left( \boldsymbol{x}_1\ \cdots\ \boldsymbol{x}_r\ \boldsymbol{x}_{r+1}\ \cdots\ \boldsymbol{x}_n\right)
によって定めると、定理7.からPは正則で、
\begin{eqnarray} AP&=&A\left( \boldsymbol{x}_1\ \cdots\ \boldsymbol{x}_r\ \boldsymbol{x}_{r+1}\ \cdots\ \boldsymbol{x}_n\right)\\ &=&\left( A\boldsymbol{x}_1\ \cdots\ A\boldsymbol{x}_r\ A\boldsymbol{x}_{r+1}\ \cdots\ A\boldsymbol{x}_n\right)\\ &=& \left( \lambda_1\boldsymbol{x}_1\ \cdots\ \lambda_r\boldsymbol{x}_r\ A\boldsymbol{x}_{r+1}\ \cdots\ A\boldsymbol{x}_n\right)\\ \end{eqnarray}
です。
ただし、最後の式は\boldsymbol{x}_1,\dots,\boldsymbol{x}_r
\left( A-\lambda I_n\right)\boldsymbol{x}_i=\boldsymbol{0}
を満たしていたからです。

ここで、A\boldsymbol{x}_{r+1},\cdots,A\boldsymbol{x}_nPの列ベクトルの線型結合で書けるから、
\begin{eqnarray} AP&=& \left( \lambda_1\boldsymbol{x}_1\ \cdots\ \lambda_r\boldsymbol{x}_r\ A\boldsymbol{x}_{r+1}\ \cdots\ A\boldsymbol{x}_n\right)\\ &=&\left( \boldsymbol{x}_1\ \cdots\ \boldsymbol{x}_r\ \boldsymbol{x}_{r+1}\ \cdots\ \boldsymbol{x}_n\right) \left( \begin{array}{ccc|ccc} \lambda&&O&&&\\ &\ddots&&&B&\\ O&&\lambda&&&\\ \hline &&&&&\\ &O&&&C&\\ &&&&&\\ \end{array}\right)\\ &=& P\left( \begin{array}{ccc|ccc} \lambda&&O&&&\\ &\ddots&&&B&\\ O&&\lambda&&&\\ \hline &&&&&\\ &O&&&C&\\ &&&&&\\ \end{array}\right) \end{eqnarray}
と表されます。
ただし、左上の対角行列は(r,r)型です。

従って、
P^{-1}AP= \left( \begin{array}{ccc|ccc} \lambda&&O&&&\\ &\ddots&&&B&\\ O&&\lambda&&&\\ \hline &&&&&\\ &O&&&C&\\ &&&&&\\ \end{array}\right)
です。

ここで、次の事実を使います。

定理10.

n次正方行列A A=\begin{pmatrix} B&C\\ O&D\\ \end{pmatrix} の形をしているとする。ここでBr次正方行列、C(r,s)型の行列、Ds次正方行列、O(s,r)型の零行列とする。このとき、 \varphi_A(t)=\varphi_B(t)\cdot\varphi_D(t) が成り立つ。従って、行列Aの固有値の全体は、重複も込めて行列Bの固有値と行列Dの固有値をあわせたものと一致する。

定理10.の証明は【線型代数学の基礎シリーズ】固有値編 その1を御覧ください。

定理10.を使うことで、P^{-1}APの固有多項式\varphi_{P^{-1}AP}(t)
\varphi_{P^{-1}AP}(t)=(\lambda-t)^r\cdot\det\left( C-tI_{n-r}\right)
です(ただし、I_{n-r}n-r次の単位行列です)。

更に、次の事実を使います。

定理11.

n次正方行列AおよびBが相似であれば、 \varphi_A(t)=\varphi_B(t) である。従って、ABの固有値全体は重複を込めて一致する。

定理11.の証明は【線型代数学の基礎シリーズ】固有多項式編 その1を御覧ください。

定理11.により、P^{-1}APAの固有値は等しいので、
\varphi_A(t)=\varphi_{P^{-1}AP}(t)=(\lambda-t)^r\cdot\det\left( C-tI_{n-r}\right)
です。
\lambda\varphi_A(t)k重解でしたから、r\leq kということが成り立ちます。

定理8.の証明終わり

対角化の主定理

本記事で最も言いたい定理

本記事で最も言いたいことです。

定理12.

n次正方行列Aについて次の4条件は同値である。
  1. Aは対角化可能である。
  2. Aの固有多項式は重複を込めてn個の解を持ち、かつ各固有値の重複度はその固有値に属する固有空間の次元に一致する。
  3. すなわち、Aの異なる固有値を\lambda_1,\dots,\lambda_sとし、\lambda_iの重複度をk_i\lambda_iに属する固有空間をV(\lambda_i)とするとき、 \sum_{i=1}^sk_i=n,\quad k_i=\dim(V(\lambda_i))\ (i=1,\dots,s) が成り立つ。
  4. Aの各固有値に属する固有空間の次元の和はnになる。
  5. すなわち、Aの異なる固有値を\lambda_1,\dots,\lambda_sとし、\lambda_iに属する固有空間をV(\lambda_i)とするとき、 \sum_{i=1}^s\dim\left( V(\lambda_i)\right)=n が成り立つ。
  6. n個の線型独立なAの固有ベクトルが存在する。

定理12.の証明

(1.\Rightarrow2.の証明)

Aは対角化可能なので、正則行列Pが存在して、
P^{-1}AP= \begin{pmatrix} \alpha_1&&\huge{O} \\ &\ddots&\\ \huge{O}&&\alpha_n \end{pmatrix}
とできます。
\alpha_iP^{-1}APの固有値ですので、定理11.からAの固有値でもあります。
従って、順番を変えてまとめれば、\lambda_1のブロック、\lambda_2のブロック、\cdots\lambda_sのブロックと言う具合にできます。
順番を変えるというのはPの取替でできますので、結局の所Pが存在して、
P^{-1}AP= \left( \begin{array}{c} \lambda_1&&&&&&&\\ &\ddots&&&&&&\\ &&\lambda_1&&&\huge{O}&&\\ &&&\ddots&&&&\\ &&&&\ddots&&&\\ &&\huge{O}&&&\lambda_s&&\\ &&&&&&\ddots&\\ &&&&&&&\lambda_s\\ \end{array} \right)
とできます。
ただし、左上から対角に\lambda_1k_1個、\cdots\lambda_sk_s個並んでいます。
ここで、k_iは固有値\lambda_iの重複度であり、かつ\displaystyle\sum_{i=1}^sk_i=nを満たしています。
この氷裂の等式の両辺に左からPをかけることで、
AP=P \left( \begin{array}{c} \lambda_1&&&&&&&\\ &\ddots&&&&&&\\ &&\lambda_1&&&\huge{O}&&\\ &&&\ddots&&&&\\ &&&&\ddots&&&\\ &&\huge{O}&&&\lambda_s&&\\ &&&&&&\ddots&\\ &&&&&&&\lambda_s\\ \end{array} \right)
となります。

ここで、行列Pを列ベクトルが並んだものとみなし、上の行列の積の等式から、両辺の第iどうしの等式を抜き出すことによって、P

  1. 最初のk_1個の列ベクトルは固有値\lambda_1に属する固有ベクトル、
  2. 次のk_2個の列ベクトルは固有値\lambda_2に属する固有ベクトル、
    \vdots
  3. 最後のk_s個の列ベクトルは固有値\lambda_sに属する固有ベクトル

であることが分かります。

仮定からPは正則な行列なので、Pの列ベクトル全体は線型独立です。
従って、特にi番目のブロックに対応するPk_i個の列ベクトルの集合も線型独立であり、これらのベクトルは固有値\lambda_iに属する固有ベクトルです。

従って、
k\leq\dim\left( V(\lambda_i)\right)\quad (i=1,\dots,s)
が成り立ちます。
定理8.から、
k\geq\dim\left( V(\lambda_i)\right)\quad (i=1,\dots,s)
ですので、
k=\dim\left( V(\lambda_i)\right)\quad (i=1,\dots,s)
が成り立ちます。

(2.\Rightarrow3.の証明)

\displaystyle k_i=\dim\left( V(\lambda_i)\right)\displaystyle \sum_{i=1}^sk_i=nに代入することで、
\sum_{i=1}^s\dim\left( V(\lambda_i)\right)=n
が得られます。

(3.\Rightarrow4.の証明)

r_i=\dim\left( V(\lambda_i)\right)として、V(\lambda_i)の1つの基底を\boldsymbol{w}_1^{(i)},\dots,\boldsymbol{w}_{r_i}^{(i)}とします。
仮定から
\sum_{i=1}^sr_i=n
です。
このとき、n個のベクトル
\boldsymbol{w}_1^{(1)},\dots,\boldsymbol{w}_{r_1}^{(1)},\dots,\boldsymbol{w}_1^{(s)},\dots,\boldsymbol{w}_{r_s}^{(s)}
が線型独立だということを示しましょう。
故に、
\sum_{i=1}^s\sum_{j=1}^{r_i}c_{ij}\boldsymbol{w}_{j}^{(i)}=\boldsymbol{0}
としましょう。
ここで、
\boldsymbol{v}^{(i)}=\sum_{j=1}^{r_i}c_{ij}\boldsymbol{w}_j^{(i)}
とすると、
\boldsymbol{v}^{(i)}\in V(\lambda_i),\quad \boldsymbol{v}^{(1)}+\dots+\boldsymbol{v}^{(s)}=\boldsymbol{0}
です。
今、ベクトル\boldsymbol{v}^{(1)},\dots,\boldsymbol{v}^{(s)}のうち、零ベクトルでないものがあるとすれば、それらを集めたものは定理3.から線型独立です。
これは、
\boldsymbol{v}^{(1)}+\dots+\boldsymbol{v}^{(s)}=\boldsymbol{0}
に矛盾します。

従って、
\boldsymbol{v}^{(i)}=\sum_{j=1}^{r_i}c_{ij}\boldsymbol{w}_j^{(i)}=\boldsymbol{0}
が、任意のi=1,\dots,sに対して成り立ちます。
しかしながら、\boldsymbol{w}_1^{(i)},\dots,\boldsymbol{w}_{r_i}^{(i)}は線型独立だったので、c_{ij}=0\ (i=1,\dots,s,\ j=1,dots,r_i)が成り立ちます。
すなわち、
\boldsymbol{w}_j^{(i)}\quad (i=1,\dots,s,\ j=1,dots,r_i)
は線型独立になります。

こうして、n個の線型独立なAの固有ベクトルの存在が示されました。

(4.\Rightarrow1.の証明)

A\boldsymbol{w}_i=\lambda_i\boldsymbol{w}_i\ (i=1,\dots,n)かつ\boldsymbol{w}_1,\dots,\boldsymbol{w}_nが線型独立だとします。
そこで、\boldsymbol{w}_1,\dots,\boldsymbol{w}_nを列ベクトルに持つn次正方行列をP=(\boldsymbol{w}_1\ \dots\ \boldsymbol{w}_n)とすると、定理7.からPは正則で、定理5.から等式
AP= P \begin{pmatrix} \lambda1&&& \\ &\lambda_2&&\huge{O}\\ \huge{O}&&\ddots&\\ &&&\lambda_n \end{pmatrix}
です。
従って、
P^{-1}AP= \begin{pmatrix} \lambda1&&& \\ &\lambda_2&&\huge{O}\\ \huge{O}&&\ddots&\\ &&&\lambda_n \end{pmatrix}
となって、Aは対角化可能です。

定理12.の証明終わり

個人的によく使うのは4.です。

いっちょ計算してみっか。

例13.\displaystyle A= \begin{pmatrix} 1&1\\ 0&2\\ \end{pmatrix} が対角化可能か判定して、対角化可能なら対角化しましょう。

まず、固有値を求めてみます。

\varphi_A(t)=\det\left( A-t I_2\right)= \left| \begin{array} 1-t&1\\ 0&2-t\\ \end{array} \right| =(t-1)(t-2)
となるので、\varphi_A(t)=0の解はt=1,2となって、固有値\lambda=1,2です。
固有値が相異なっているので、\lambda_1=1に属する固有ベクトルと\lambda_2=2に属する固有ベクトルは線型独立です。
従って、定理12.からAは対角化可能です。

実は、すでに対角化可能だということが分かった時点で、定理5.から
\begin{pmatrix} 1&0\\ 0&2\\ \end{pmatrix}
と対角化できることが分かります。
しかし、一度正則行列Pを求めて実際に計算してみます。
そこで、それぞれの固有値に属する固有ベクトルを求めます。

(\lambda_1=1に属する固有ベクトル)

\begin{pmatrix} 1-\lambda_1&1\\ 0&2-\lambda_1\\ \end{pmatrix} \left( \begin{array}{c} x\\ y\\ \end{array} \right)= \begin{pmatrix} 1-1&1\\ 0&2-1\\ \end{pmatrix} \left( \begin{array}{c} x\\ y\\ \end{array} \right)= \begin{pmatrix} 0&1\\ 0&1\\ \end{pmatrix} \left( \begin{array}{c} x\\ y\\ \end{array} \right)=\boldsymbol{0}
としたとき、この解は
c\left( \begin{array}{c} 1\\ 0\\ \end{array} \right)\quad (c\in\mathbb{R})
です。
ここで、
\boldsymbol{x}_1= \left( \begin{array}{c} 1\\ 0\\ \end{array} \right)
とします。

(\lambda_2=2に属する固有ベクトル)

\begin{pmatrix} 1-\lambda_2&1\\ 0&2-\lambda_2\\ \end{pmatrix} \left( \begin{array}{c} x\\ y\\ \end{array} \right)= \begin{pmatrix} 1-2&1\\ 0&2-2\\ \end{pmatrix} \left( \begin{array}{c} x\\ y\\ \end{array} \right)= \begin{pmatrix} -1&1\\ 0&0\\ \end{pmatrix} \left( \begin{array}{c} x\\ y\\ \end{array} \right)=\boldsymbol{0}
としたとき、この解は
c\left( \begin{array}{c} 1\\ 1\\ \end{array} \right)\quad (c\in\mathbb{R})
です。
ここで、
\boldsymbol{x}_2= \left( \begin{array}{c} 1\\ 1\\ \end{array} \right)
とします。

従って、
P=(\boldsymbol{x}_1\ \boldsymbol{x}_2)= \begin{pmatrix} 1&1\\ 0&1\\ \end{pmatrix}
とします。
このとき、\det(P)=1\neq0ですので、Pは正則です。

Pの逆行列P^{-1}
P^{-1}= \begin{pmatrix} 1&-1\\ 0&1\\ \end{pmatrix}
です。
では、P^{-1}APを計算してみます。

\begin{eqnarray} P^{-1}AP&=& \begin{pmatrix} 1&-1\\ 0&1\\ \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 1&1\\ 0&2\\ \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 1&1\\ 0&1\\ \end{pmatrix}\\ &=&\begin{pmatrix} 1&-1\\ 0&2\\ \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 1&1\\ 0&1\\ \end{pmatrix}\\ &=& \begin{pmatrix} 1&0\\ 0&2\\ \end{pmatrix} \end{eqnarray}
となって、対角化完了です。

今回は行列の対角化、どういうときに対角化可能なのか、ということについて解説しました。
対角化可能な条件は固有空間の次元、固有方程式の解の重複度、固有ベクトルと蜜に関係しているのでした。

特に、一番シンプルなのが、固有値がすべて相異なっている場合で、この場合は固有値を求めるだけで直ちに対角化後の行列が求まります。

次回は対角化を少し緩めた三角化について解説します。

乞うご期待!質問、コメントなどお待ちしております!

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