本記事の内容
本記事は行列式の性質の一部を解説する記事です。
特に、転置行列と元の行列の行列式の関係を解説します。
本記事を読むにあたり、行列式について知っている必要があるため、以下の記事も合わせて御覧ください。
本記事で言いたいこと
本記事において言いたいこと、つまり示したい定理は以下です。
定理0.
行列の行と列を入れ替えても行列式の値は変わらない。この定理0.を示すことが本記事の目標です。
「定理0.が正しいと何が嬉しいんスか?」という話ですが、
という事実を導けるからです。
列基本変形とは、行列の1つの列に任意の数を掛けて他の列に加えるという操作のことを指します。
また、行列の1つの行に任意の数を掛けて他の行に加えるという操作は行基本変形といいます。
「行基本変形をしても行列式の値は変わらない」という事実は前回すでに証明しました。
具体的には以下の主張でした。
定理1.
行列の1つの行に任意の数を掛けて、他の行に加えても、行列式の値は変わらない。すなわち、\(n\in\mathbb{N}\)、\(A=\left( A_{ij}\right)\)を\(n\)次正方行列とする。このとき、 $$ \begin{array}{c} \\ \\ i行\rightarrow\\ \\ j行\rightarrow\\ \\ \\ \end{array} \left| \begin{array}{c} a_{11}&\cdots &a_{1n}\\ \vdots&&\vdots\\ a_{i1}+ca_{j1}&\cdots&a_{in}+ca_{jn}\\ \vdots&&\vdots\\ a_{j1}&\cdots&a_{jn}\\ \vdots&&\vdots\\ a_{n1}&\cdots&a_{nn}\\ \end{array}\right| = \left| \begin{array}{c} a_{11}&\cdots &a_{1n}\\ \vdots&&\vdots\\ a_{i1}&\cdots&a_{in}\\ \vdots&&\vdots\\ a_{j1}&\cdots&a_{jn}\\ \vdots&&\vdots\\ a_{n1}&\cdots&a_{nn}\\ \end{array}\right| \begin{array}{c} \\ \\ \leftarrow i行\\ \\ \leftarrow j行 \\ \\ \end{array} $$ が成り立つ。この定理1.の証明は【線型代数学の基礎シリーズ】行列式編 その3を御覧ください。
定理0.が成り立てば、定理1.の列バージョン、すなわち列基本変形をしても行列式は不変である、とう事実が導けるわけです。
従って、「この行列式を求めよ!」と言われたらば、「行基本変形と列基本変形のどっちを使えばより簡単に行列式が求まるかな?」もしくは「行基本変形と列基本変形をどう組み合わせて使えば簡単に求まるかな?」という発想が可能で、単純に行列式を求めるための策が増えます。
とどのつまり、「行基本変形だけじゃなくて、列基本変形も駆使することでより簡単に行列式が求まることもありまっせ」という話です。
※これについては実例を挙げて実際に計算してみます。
行列式って何だっけ?をチャラく復習
サラッと、チャラく復習します。
行列式
\(n\in\mathbb{N}\)、\(A\)を\(n\)次正方行列とし、 $$ \begin{pmatrix} a_{11}&a_{12}&\cdots &a_{1n}\\ a_{21}&a_{22}&\cdots &a_{2n}\\ \vdots&\vdots& \ddots&\vdots\\ a_{m1}&a_{m2}&\cdots &a_{mn}\\ \end{pmatrix}=\left( a_{ij}\right) $$ に対して、\(A\)の成分により定まる次の式を\(A\)の行列式(determinant of \(A\))という。 $$ \det(A)=\sum_{\sigma\in S_n}{\rm sgn}(\sigma)a_{1\sigma(1)}a_{2\sigma(2)}\dots a_{n\sigma(n)} $$ このとき、\(A\)の行列式を\(\det A\)、\(\det(A)\)、\(|A|\)、 $$\left| \begin{pmatrix} a_{11}&a_{12}&\cdots &a_{1n}\\ a_{21}&a_{22}&\cdots &a_{2n}\\ \vdots&\vdots& \ddots&\vdots\\ a_{n1}&a_{n2}&\cdots &a_{nn}\\ \end{pmatrix}\right|= \left| \begin{array}{c} a_{11}&a_{12}&\cdots &a_{1n}\\ a_{21}&a_{22}&\cdots &a_{2n}\\ \vdots&\vdots& \ddots&\vdots\\ a_{n1}&a_{n2}&\cdots &a_{nn}\\ \end{array}\right| $$ と書く。でした。
ただし、
置換の符号
置換\(\sigma\)が\(m\)個の互換の積で表されるとき、 $$ {\rm sgn}(\sigma)=(-1)^m $$ とおき、\({\rm sgn}(\sigma)\)を置換\(\sigma\)の符号という。特に、\({\rm sgn}(\sigma)=1\)のときに\(\sigma\)は偶置換、\({\rm sgn}(\sigma)=-1\)のときに\(\sigma\)は奇置換と呼び、恒等置換\(\epsilon\)は\({\rm sgn}(\epsilon)=1\)と捉える。
です。
詳しくは【線型代数学の基礎シリーズ】行列式編 その2を御覧ください。
行列の行と列を入れ替えても、行列式の値は変わらない。
早速ですが、本記事の最も言いたい事実を証明します。
前回は色々と準備をしてから証明しましたが、今回はいきなり証明できます。
前回が1500m走だとしたら、今回は200m走くらいの規模感です。
では主張を明示します。
定理0.
行列の行と列を入れ替えても行列式の値は変わらない。すなわち、\(n\in\mathbb{N}\)、\(A=\left( a_{ij}\right)\)を\(n\)次正方行列とするとき、 $$ \det(A^\top)=\det(A) $$ が成り立つ。 言い換えれば、行列式は転置により不変である。定理0.の証明
\(n\in\mathbb{N}\)、\(A=\left( a_{ij}\right)\)を\(n\)次正方行列とするとき、\(A\)の転置行列\(A^\top\)の第\((i,j)\)成分は\(a_{ji}\)です。
従って、\(A^\top\)の行列式\(\det(A^\top)\)は、\(\det(A)\)の\(a_{i\sigma(i)}\)の部分が\(a_{\sigma(i)i}\)となるので、
$$
\det(A^\top)=\sum_{\sigma\in S_n}{\rm sgn}(\sigma)a_{\sigma(1)1}a_{\sigma(2)2}\dots a_{\sigma(n)n}
$$
となります。
ここで、\(\{\sigma(1),\sigma(2),\dots,\sigma(n)\}\)は集合として\(\{1,2,\dots,n\}\)と等しいです。
すなわち、
$$
\{\sigma(1),\sigma(2),\dots,\sigma(n)\}=\{1,2,\dots,n\}
$$
です。
\(\sigma\)は置換ですので全単射だから\(\sigma\)の逆写像\(\sigma^{-1}\)が存在することに注意します。
ここで、
$$
a_{\sigma(1)1}a_{\sigma(2)2}\dots a_{\sigma(n)n}
$$
に注目してみましょう。
これは単に複素数の掛け算ですので、\(a_{\sigma(i)i}\)の順番を並び替えて掛け算をしても値は変わりません。
従って、\(\sigma\)の逆写像\(\sigma^{-1}\)でもって順番を並び替えても値は変わりません。
故に、\(M_n=\{1,2,\dots,n\}\)から\(M_n\)への恒等写像を\({\rm id}_{M_n}:M_n\to M_n\)と書けば、
\begin{eqnarray}
a_{\sigma(1)1}a_{\sigma(2)2}\dots a_{\sigma(n)n}&=&
a_{\sigma^{-1}(\sigma(1))\sigma^{-1}(1)}a_{\sigma^{-1}(\sigma(2))\sigma^{-1}(2)}\dots a_{\sigma^{-1}(\sigma(n))\sigma^{-1}(n)}\\
&=&
a_{(\sigma^{-1}\circ\sigma)(1)\sigma^{-1}(1)}a_{(\sigma^{-1}\circ\sigma)(2)\sigma^{-1}(2)}\dots a_{(\sigma^{-1}\circ\sigma)(n)\sigma^{-1}(n)}\\
&=&a_{{\rm id}_{M_n}(1)\sigma^{-1}(1)}a_{{\rm id}_{M_n}(2)\sigma^{-1}(2)}\dots a_{{\rm id}_{M_n}(n)\sigma^{-1}(n)}\\
&=&a_{1\sigma^{-1}(1)}a_{2\sigma^{-1}(2)}\dots a_{n\sigma^{-1}(n)}\\
\end{eqnarray}
となります。
さて、\({\rm sgn}\)の次の性質を使います。
定理2.
任意の置換\(\sigma,\tau\)に対して- \({\rm sgn}(\tau\sigma)={\rm sgn}(\tau){\rm sgn}(\sigma)\)
- \({\rm sgn}(\sigma^{-1})={\rm sgn}(\sigma)\)
この定理2.の証明は【線型代数学の基礎シリーズ】行列式編 その1を御覧ください。
定理2.により、\({\rm sgn}(\sigma^{-1})={\rm sgn}(\sigma)\)が成り立つので、以上のことから
\begin{eqnarray}
\det(A^\top)&=&\sum_{\sigma\in S_n}{\rm sgn}(\sigma)a_{\sigma(1)1}a_{\sigma(2)2}\dots a_{\sigma(n)n}\\
&=&\sum_{\sigma\in S_n}{\rm sgn}(\sigma^{-1})a_{1\sigma^{-1}(1)}a_{2\sigma^{-1}(2)}\dots a_{n\sigma^{-1}(n)}
\end{eqnarray}
が成り立ちます。
ここで、\(\sigma\)が\(S_n\)の要素すべてを動くとき、\(\sigma^{-1}\)も\(S_n\)の要素すべてを動きます。
実際、\(\sigma^{-1}\)は\(\sigma\)に対してダブらずにただ1つ定まっているわけですので、\(f(\sigma)=\sigma^{-1}\)とすると\(f:S_n\to S_n\)は全単射です。
すなわち、\(\sigma\)と\(\sigma^{-1}\)は一つ一つ対応します(一対一対応)。
従って、\(\sigma\)が\(S_n\)の全体を動くときに\(\sigma^{-1}\)も\(S_n\)の全体を動きます。
以上のことから\(\sigma^{-1}\)を\(\tau\)と書き換えて、
\begin{eqnarray}
\sum_{\sigma\in S_n}{\rm sgn}(\sigma^{-1})a_{1\sigma^{-1}(1)}a_{2\sigma^{-1}(2)}\dots a_{n\sigma^{-1}(n)}&=&\sum_{\tau\in S_n}{\rm sgn}(\tau)a_{1\tau(1)}a_{2\tau(2)}\dots a_{n\tau(n)}
\end{eqnarray}
となります。
これはまさに\(\det(A)\)を指しています。
従って、
$$\det(A^\top)=\det(A)$$
です。
定理0.の証明終わり
行列の1つの列に任意の数を掛けて他の列に加えても行列式の値は変わらない。
では、定理0.のウマミを紹介しましょう。
とどのつまり、
というわけです。
この主張を明示すると以下です。
定理3.
列基本変形をしても行列式の値は不変である。すなわち、\(n\in\mathbb{N}\)、\(A=\left( a_{ij}\right)\)を\(n\)次正方行列としたとき、 \begin{eqnarray} &&\begin{array}{c} &&\quad \qquad \quad i列目&&\quad\ j列目&& \end{array} \\ &&\left| \begin{array}{c} a_{11}&\cdots&a_{1i}+ca_{1j}&\cdots&a_{1j}&\cdots&a_{1n}\\ \vdots&&\vdots&&\vdots&&\vdots\\ a_{n1}&\cdots&a_{ni}+ca_{nj}&\cdots&a_{nj}&\cdots&a_{nn}\\ \end{array} \right|=\left| \begin{array}{c} a_{11}&\cdots&a_{1i}&\cdots&a_{1j}&\cdots&a_{1n}\\ \vdots&&\vdots&&\vdots&&\vdots\\ a_{n1}&\cdots&a_{ni}&\cdots&a_{nj}&\cdots&a_{nn}\\ \end{array} \right| \end{eqnarray} である。この定理は今まで証明したことを使えば一瞬です。
定理3.の証明
\(n\in\mathbb{N}\)とし、\(A=\left( a_{ij}\right)\)を\(n\)次正方行列として
$$
A=
\begin{pmatrix}
a_{11}&\cdots&a_{1i}&\cdots&a_{1j}&\cdots&a_{1n}\\
\vdots&&\vdots&&\vdots&&\vdots\\
a_{n1}&\cdots&a_{ni}&\cdots&a_{nj}&\cdots&a_{nn}\\
\end{pmatrix}
$$
と書いたとします。
また、\(A\)の第\(j\)列の\(c\in\mathbb{C}\)倍を第\(i\)列に足した行列を\(A^\prime\)とします。
すなわち、
\begin{eqnarray}
&&\begin{array}{c}
&&\quad \qquad \quad i列目&&\qquad j列目&&
\end{array}
\\
A^\prime=&&
\begin{pmatrix}
a_{11}&\cdots&a_{1i}+ca_{1j}&\cdots&a_{1j}&\cdots&a_{1n}\\
\vdots&&\vdots&&\vdots&&\vdots\\
a_{n1}&\cdots&a_{ni}+ca_{nj}&\cdots&a_{nj}&\cdots&a_{nn}\\
\end{pmatrix}
\end{eqnarray}
このとき、定理0.により、\(\det({A^\prime}^\top)=\det(A^\prime)\)ですので、
\begin{eqnarray}
\det(A^\prime)&=&\left|
\begin{array}{c}
a_{11}&\cdots&a_{1i}+ca_{1j}&\cdots&a_{1j}&\cdots&a_{1n}\\
\vdots&&\vdots&&\vdots&&\vdots\\
a_{n1}&\cdots&a_{ni}+ca_{nj}&\cdots&a_{nj}&\cdots&a_{nn}\\
\end{array}
\right|\\
&=&\left|
\begin{array}{c}
a_{11}&\cdots&a_{1n}\\
\vdots&&\vdots\\
a_{1i}+ca_{1j}&\cdots&a_{ni}+ca_{nj}\\
\vdots&&\vdots\\
a_{1j}&\cdots&a_{nj}\\
\vdots&&\vdots\\
a_{n1}&\cdots&a_{nn}\\
\end{array}
\right|
\end{eqnarray}
ここで、この式を観察してみると、\(A^\top\)に対して行基本変形をした形ということになります。
故に、「行基本変形をしても行列式の値は変わらない」という性質を使うことができます。
具体的には以下です。
定理4.
行列の1つの行に任意の数を掛けて、他の行に加えても、行列式の値は変わらない。すなわち、\(n\in\mathbb{N}\)、\(A=\left( A_{ij}\right)\)を\(n\)次正方行列とする。このとき、 $$ \begin{array}{c} \\ \\ i行\rightarrow\\ \\ j行\rightarrow\\ \\ \\ \end{array} \left| \begin{array}{c} a_{11}&\cdots &a_{1n}\\ \vdots&&\vdots\\ a_{i1}+ca_{j1}&\cdots&a_{in}+ca_{jn}\\ \vdots&&\vdots\\ a_{j1}&\cdots&a_{jn}\\ \vdots&&\vdots\\ a_{n1}&\cdots&a_{nn}\\ \end{array}\right| = \left| \begin{array}{c} a_{11}&\cdots &a_{1n}\\ \vdots&&\vdots\\ a_{i1}&\cdots&a_{in}\\ \vdots&&\vdots\\ a_{j1}&\cdots&a_{jn}\\ \vdots&&\vdots\\ a_{n1}&\cdots&a_{nn}\\ \end{array}\right| \begin{array}{c} \\ \\ \leftarrow i行\\ \\ \leftarrow j行 \\ \\ \end{array} $$ が成り立つ。定理4.の証明は【線型代数学の基礎シリーズ】行列式編 その3を御覧ください。
定理4.により、
\begin{eqnarray}
\left|
\begin{array}{c}
a_{11}&\cdots&a_{1n}\\
\vdots&&\vdots\\
a_{1i}+ca_{1j}&\cdots&a_{ni}+ca_{nj}\\
\vdots&&\vdots\\
a_{1j}&\cdots&a_{nj}\\
\vdots&&\vdots\\
a_{n1}&\cdots&a_{nn}\\
\end{array}
\right|=
\left|
\begin{array}{c}
a_{11}&\cdots&a_{1n}\\
\vdots&&\vdots\\
a_{1i}&\cdots&a_{ni}\\
\vdots&&\vdots\\
a_{1j}&\cdots&a_{nj}\\
\vdots&&\vdots\\
a_{n1}&\cdots&a_{nn}\\
\end{array}
\right|=\det(A^\top)
\end{eqnarray}
再度定理0.を使うことで\(\det(A^\top)=\det(A)\)なのですから、\(\det({A^\prime}^\top)=\det(A^\top)=\det(A)\)が導かれるので、証明完了です。
定理3.の証明終わり
行列式については、行で成り立つことが列でも成り立つ。
定理0.から、行列式については行で成り立ったことは須らく列についても成り立ちます。
証明については\(A\)の部分を\(A^\top\)にするだけですので、割愛します。
以下に、「列でも成り立ちまっせ」ということを列挙します。
証明は【線型代数学の基礎シリーズ】行列式編 その3の\(A\)の部分を\(A^\top\)に変えて読んでください。
列を\(c\)倍すると、行列式も\(c\)倍になる。
定理5.
\(n\)次正方行列\(A=\left( a_{ij}\right)\)の1つの列を\(c\in\mathbb{C}\)倍すると、行列式は\(c\)倍となる。すなわち、 $$ \left| \begin{array}{c} a_{11}&\cdots&ca_{1i}&\cdots&a_{1n}\\ \vdots&&\vdots&&\vdots\\ a_{n1}&\cdots&ca_{1i}&\cdots&a_{nn}\\ \end{array}\right|= c\left| \begin{array}{c} a_{11}&\cdots&ca_{1i}&\cdots&a_{1n}\\ \vdots&&\vdots&&\vdots\\ a_{n1}&\cdots&ca_{1i}&\cdots&a_{nn}\\ \end{array}\right| $$ が成り立つ。系6.
\(n\in\mathbb{N}\)とし、\(n\)次正方行列\(A\)の1つの列の成分がすべて\(0\)であれば、\(\det(A)=0\)である。第\(i\)列が、2つの列ベクトルの和ならば、行列式は他の列は同じで、第\(i\)列は各々のベクトルを取った行列の行列式の和になる。
定理7.
\(n\in\mathbb{N}\)、\(A=\left( a_{ij}\right)\)を\(n\)次正方行列とする。\(A\)の第\(i\)列が、2つの列ベクトルの和ならば、行列式は他の列は同じで、第\(i\)列は各々のベクトルを取った行列の行列式の和になる。 すなわち、 $$ (\exists i\in\mathbb{N};1\leq i\leq n)\ {\rm s.t.}\ (a_{1i},\dots,a_{ni})=(b_{1i}+c_{1i},\dots,b_{1i}+c_{1i}) $$ としたとき、 $$ \left| \begin{array}{c} a_{11}&\cdots&b_{1i}+c_{1i}&\cdots&a_{1n}\\ \vdots&&\vdots&&\vdots\\ a_{n1}&\cdots&b_{ni}+c_{ni}&\cdots&a_{nn}\\ \end{array}\right| = \left| \begin{array}{c} a_{11}&\cdots&b_{1i}&\cdots&a_{1n}\\ \vdots&&\vdots&&\vdots\\ a_{n1}&\cdots&b_{1i}&\cdots&a_{nn}\\ \end{array}\right|+ \left| \begin{array}{c} a_{11}&\cdots&c_{1i}&\cdots&a_{1n}\\ \vdots&&\vdots&&\vdots\\ a_{n1}&\cdots&c_{1i}&\cdots&a_{nn}\\ \end{array}\right| $$ が成り立つ。行列の列の順序を置換\(\tau\)によって変更すると、行列式は\({\rm sgn}(\tau)\)倍になる。
定理8.
\(n\in\mathbb{N}\)、\(A=\left(a_{ij} \right)\)を\(n\)次正方行列とする。\(A\)の各列の順序を置換\(\tau\)によって変更すると、行列式は\({\rm sgn}(\tau)\)になる。すなわち、 $$ \tau= \left( \begin{array}{c} 1&2&\cdots&n\\ k_1&k_2&\cdots&k_n\\ \end{array} \right) $$ としたとき、 $$ \left| \begin{array}{c} a_{1k_1}&a_{2k_1}&\cdots &a_{nk_1}\\ a_{1k_2}&a_{2k_2}&\cdots &a_{nk_2}\\ \vdots&\vdots& \ddots&\vdots\\ a_{1k_n}&a_{2k_n}&\cdots &a_{nk_n}\\ \end{array} \right|={\rm sgn}(\tau) \left| \begin{array}{c} a_{11}&a_{12}&\cdots &a_{1n}\\ a_{21}&a_{22}&\cdots &a_{2n}\\ \vdots&\vdots& \ddots&\vdots\\ a_{n1}&a_{n2}&\cdots &a_{nn}\\ \end{array} \right| ={\rm sgn}(\tau)\cdot \det(A) $$ が成り立つ。系9.
2つの列が等しい行列の行列式は\(0\)である。いっちょ計算してみっか
列基本変形を使っていっちょ計算してみましょう。
個人的には正直列基本変形よりも行基本変形を多く使うのですが、列基本変形を使うときもあります。
また、行基本変形と列基本変形を一緒に使う場合もあります。
例えば、こんな場合です。
例10.
$$
\left|
\begin{array}{c}
1&5&0&0\\
2&10&1&0\\
0&3&0&1\\
0&1&0&\displaystyle\frac{3}{2}
\end{array}
\right|
$$
これを見てみると、第3列目は\((2,3)\)成分以外が\(0\)です。
そうすると「この列の定数倍を他の列に足し引きすることで、第2行目も\((2,3)\)成分以外が\(0\)となるように変形できるな」と思えるわけです。
こういう場合に列基本変形を使います。
勿論、行基本変形でゴリゴリ計算してもOKです。
操作①:第3列の\(-2\)倍を第1列に足す。
\begin{eqnarray}
\left|
\begin{array}{c}
1&5&0&0\\
2&10&1&0\\
0&3&0&1\\
0&1&0&\displaystyle\frac{3}{2}
\end{array}
\right|&=&
\left|
\begin{array}{c}
1-2\times0&5&0&0\\
2-2\times1&10&1&0\\
0-2\times0&3&0&1\\
0-2\times0&1&0&\displaystyle\frac{3}{2}
\end{array}
\right|\\
&=&
\left|
\begin{array}{c}
1&5&0&0\\
0&10&1&0\\
0&3&0&1\\
0&1&0&\displaystyle\frac{3}{2}
\end{array}
\right|
\end{eqnarray}
策②:\((1,1)\)成分以外の第1列の成分がすべて\(0\)な正方行列の行列式の性質を使う。
ここで、前々回示した以下の定理を使います。
定理11.
$$ \left| \begin{array}{c} a_{11}&a_{12}&\cdots &a_{1n}\\ 0&a_{22}&\cdots &a_{2n}\\ \vdots&\vdots& \ddots&\vdots\\ 0&a_{n2}&\cdots &a_{nn}\\ \end{array}\right|=a_{11} \left| \begin{array}{c} a_{22}&\cdots &a_{2n}\\ \vdots& \ddots&\vdots\\ a_{n2}&\cdots &a_{nn}\\ \end{array}\right| $$この定理の証明は【線型代数学の基礎シリーズ】行列式編 その2を御覧ください。
\begin{eqnarray}
\left|
\begin{array}{c}
1&5&0&0\\
0&10&1&0\\
0&3&0&1\\
0&1&0&\displaystyle\frac{3}{2}
\end{array}
\right|=
\left|
\begin{array}{c}
10&1&0\\
3&0&1\\
1&0&\displaystyle\frac{3}{2}
\end{array}
\right|
\end{eqnarray}
策③:第2列と第1列を入れ替える。
定理8.から1回列を入れ替えると、行列式は\(-1\)倍になるので、
\begin{eqnarray}
\left|
\begin{array}{c}
10&1&0\\
3&0&1\\
1&0&\displaystyle\frac{3}{2}
\end{array}
\right|=
–
\left|
\begin{array}{c}
1&10&0\\
0&3&1\\
0&1&\displaystyle\frac{3}{2}
\end{array}
\right|
\end{eqnarray}
操作④:もういっかい定理11.を使う。
\begin{eqnarray}
–
\left|
\begin{array}{c}
1&10&0\\
0&3&1\\
0&1&\displaystyle\frac{3}{2}
\end{array}
\right|=-
\left|
\begin{array}{c}
3&1\\
1&\displaystyle\frac{3}{2}
\end{array}
\right|
\end{eqnarray}
操作⑤:2次の行列式の計算をしておしまい
\begin{eqnarray}
–
\left|
\begin{array}{c}
3&1\\
1&\displaystyle\frac{3}{2}
\end{array}
\right|=-\left( 3\times \frac{3}{2}-1\times 1\right)=\frac{7}{2}
\end{eqnarray}
行基本変形と列基本変形のどっち使ったらいいの?
どっちを使ってもいいですし、一緒に使ってもOKです。
ただ、問題を見た瞬間に「これは行基本変形がいいな!」とか「これは列基本変形がいいな!」と分かることは少ないと思います。
そこで、筆者は、まず行基本変形をして、その道中で列基本変形を使うとより計算が楽になりそうだな、とおもったらそのときに列基本変形を使っています。
結
今回は、列基本変形をしても行列式は変わらないということを証明して、実際に使ってみました。
「行基本変形と列基本変形のどちらを使えばよいのか」というのは問題依存ですし、問題を見た瞬間にどちらを使うのが良いかが分かるというのは稀だと思います(筆者の経験上の話)。
そこで、とりあえず行基本変形をして、必要になったら列基本変形を使う、という流れで筆者は行列式を計算しています。
次回は余因子行列について解説します。
乞うご期待!質問、コメントなどお待ちしております!
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