本記事の内容
本記事は陰関数定理がどんな定理か、そして陰関数定理を逆関数定理から証明する、という記事です。
本記事を読むにあたり、逆関数定理について知っている必要があるため、以下の記事も合わせてご覧ください。
陰関数定理ってどんな定理?
陰関数定理をあえて一言で述べるとすれば、
という定理です。
「じゃあ陰関数って何?」という話ですが、厳密な話は陰関数定理の主張の部分で述べるとして、
ここでは直感的な説明をします。
陰関数と陽関数の直感的な説明
「陰関数とは何か?」の前に、”陰関数”の字面だけに注目すると「もしかして”陽”関数ってのもあるの?」となるのではないでしょうか。
実はあります。
そして、陽関数と陰関数は親密な関係です。
平たく言うと、
ということです。
例えば、f:R→R≥0f:R→R≥0をf(x)=x2+1f(x)=x2+1で定めます。
このとき、任意のx∈Rx∈Rに対して、あるy∈R≥0y∈R≥0が存在してy=f(x)=x2+1y=f(x)=x2+1と書ける、というわけですので、これは式変形してx2−y+1=0x2−y+1=0と書き直すことができます。
そこで、新たにF(x,y)=x2−y+1F(x,y)=x2−y+1とすると、F(x,y)=0F(x,y)=0です。
ここで出現したy=x2+1y=x2+1が陽関数表示、x2−y+1=0x2−y+1=0が陰関数表示です。
直感的には、方程式F(x,y)=0F(x,y)=0は、例外的な状況を除けば基本的に平面上の曲線を表しています。
さらに、適当に範囲を限定すれば、変数xxの関数y=φ(x)y=φ(x)を定めることがあります(要するに、F(x,y)=0F(x,y)=0という方程式をy=y=の形に直したものがφ(x)φ(x))。
このとき、その関数y=φ(x)y=φ(x)をF(x,y)=0F(x,y)=0が定まる陰関数と呼びます。
例えばどんなのですか?
例1. F(x,y)=y−φ(x)F(x,y)=y−φ(x)という形をしていたとしましょう。
このとき、F(x,y)=0F(x,y)=0が定める曲線は関数φ(x)φ(x)のグラフそのものです。
例2. F(x,y)=x+2y+3F(x,y)=x+2y+3だとしたら、F(x,y)=0F(x,y)=0が定まる曲線は、直線y=−12x−32y=−12x−32です。

例3. F(x,y)=y2−x2(x−a) (a∈R)F(x,y)=y2−x2(x−a) (a∈R)のとき、F(x,y)=0はy=0 (x=0のとき)、またはy=±x√x−a (x≥aのとき)と解けます。
F(x,y)=0が定める曲線は
- a<0のときは、原点で自己交差する曲線(原点を結節点と呼びます)。
- a=0のときは原点で尖っている曲線(原点を尖点と呼びます)。
- a>0のときは原点とx≥aの範囲にある曲線(原点を孤立点と呼びます)。
です。
※↓aを触るとグラフが動きます。
陰関数定理の明示
陰関数定理の明示の前に記号のお話をします。
記号のお話
陰関数定理にはRm×Rnという集合が出現します。
これはどういう集合か、というと予想通りといったところですが、
Rm×Rn={(x,y) | x=(x1⋮xm)∈Rm,y=(y1⋮yn)∈Rn}
です。
これは
z=(z1⋮zmzm+1⋮zm+n)(zj∈R, j=1,2,…,m+n)
の全体集合Rm+nと同一視できます。
実際、f:Rm×Rn→Rm+nを
f((x1⋮xm),(y1⋮yn))=(x1⋮xmy1⋮yn)
で定めると、fは全単射だからです。
そこで、例えばΩ⊂Rm×Rnが開集合と述べた場合はこの同一視によってΩがRm+nの開集合だ、ということを意味しています。
単に(x,y)がRm×Rnの要素だ、と述べた場合は特に断りがなければx∈Rm、y∈Rnだとします。
さて、F:Ω→Rnがあるとき、
F=(F1⋮Fn)
と書いたとすれば、
F′(x,y)=(∂F1∂x1⋯∂F1∂xm∂F1∂y1⋯∂F1∂yn⋮⋮⋮⋮∂Fn∂x1⋯∂Fn∂xm∂Fn∂y1⋯∂Fn∂yn)
となるわけですが、m列、n列とブロック分けして、それぞれ∂F∂x、∂F∂yと書くことにします。
つまり、
∂F∂x=(∂F1∂x1⋯∂F1∂xm⋮⋮∂Fn∂x1⋯∂Fn∂xm),∂F∂y=(∂F1∂y1⋯∂F1∂yn⋮⋮∂Fn∂y1⋯∂Fn∂yn)
です。
陰関数定理の明示
では、陰関数定理を明示します。
定理0.(陰関数定理、implicit function theorem)
ΩはRm×Rnの開集合、F:Ω∋(x,y)↦F(x,y)∈RnはC1級、(a,b)∈Ω、F(a,b)=0、det(∂F∂y)(a,b)≠0が成り立つとする。このとき、aを含むRmの開集合U、bを含むRnの開集合V、C1級の関数φ:U→Vで、以下の1.,2.,3.,4.を満たすものが存在する。- U×V⊂Ω.
- φ(a)=b.
- ∀(x,y)∈U×Vに対して、F(x,y)=0 ⟺ y=φ(x).
- ∀x∈Uに対して、φ′(x)=−(∂F∂y(x,φ(x)))−1∂F∂x(x,φ(x))
2.についてちょっと言及しておくと、2.は「方程式が解ける」ということを言わば解析的に表現したものです。
また、上記のFが陰関数です。
では、陰関数定理を証明してみましょう。
陰関数定理の証明
では行きます。
陰関数定理を証明するにあたって、逆関数定理を使います。
陰関数定理の証明
f:Rm+n⊃Ω→Rm+nを
f(x,y)=(xF(x,y))
で定めたとすると、FがC1級で、xもC1級なので、fはC1級です。
さらに、F(a,b)=0から
f(a,b)=(aF(a,b))=(a0)
で、
f′(a,b)=(IO∂F∂x(a,b)∂F∂y(a,b))
です。
ここで、以下の定理を使います。
定理4.
Xをn次正方行列とし、n=r+sを満たすような自然数r,sに対して、Aをr次正方行列、Bを(r,s)型の行列、Oを(s,r)型の零行列、Dをs次正方行列とする。このとき、 |X|=|ABOD|=|A|⋅|D| である。定理4.の証明は【線型代数学の基礎シリーズ】行列式編 その2を御覧ください。
定理4.とdet(∂F∂y)(a,b)≠0を使うと、
det(f′(a,b))=det(I)⋅det(∂F∂y(a,b))−det(O)⋅det(∂F∂x(a,b))=det(I)⋅det(∂F∂y(a,b))−0=det(∂F∂y(a,b))≠0
です。
従って、逆関数定理を適用することができます。
逆関数定理は何だったか、というと以下でした。
定理5.(逆関数定理)
ΩはRnの開集合、f:Ω→RnはC1級、a∈Ω、det(f′(a))≠0とするとき、以下が成り立つ。s.t. (˜f=f|U:U∋x↦f(x)∈Vは全単射で、逆関数˜f−1:V→UもC1級である。)
逆関数定理の証明は【解析学の基礎シリーズ】偏微分編 その11を御覧ください。
さて、逆関数定理から、点(a,b)を含む開集合˜Ω⊂Ωと、点f(a,b)=(a,0)を含む開集合Wが存在して、f|˜Ω:˜Ω→WはC1級の逆関数gを持ちます。
任意の(x,y)∈˜Ωに対して、g(x,y)=(x,ψ(x,y))と書けます。
実際、(η(x,y),ψ(x,y))=g(x,y)と定めると、(x,y)=f(η(x,y),ψ(x,y))=(η(x,y),F(η(x,y),ψ(x,y)))
となります。
故に、x=η(x,y)だから、g(x,y)=(x,ψ(x,y))です。
さて、写像π:Rm×Rn→Rnをπ(x,y)=yで定めると、ψ=π∘gと表現できるので、πもgもC1級なので、ψはC1級だということが分かります。
一方で、π∘f=Fですので、任意の(x,y)∈Wに対して、
F(x,ψ(x,y))=F(g(x,y))=((π∘f)∘g)(x,y)=(π∘(f∘g))(x,y)=π(x,y)=y
となります。
さて、aを含むような開集合˜U、bを含むような開集合Vを
˜U×V⊂˜Ω,˜U×{0}⊂W
となるように取ります。
そして、φ:˜U→Rmをφ(x)=ψ(x,0)で定めます。
ただし、x∈˜Uのとき、(x,0)∈˜U×{0}⊂W=ψの定義域であることに注意しましょう。
ψがC1級なので、φもまたC1級です。
そして、φ(a)=bです。
実際、φ(a)=ψ(a,0)=(π∘g)(a,0)=π(a,b)=bだからです。
さて、U=˜U∩φ−1(V)とすると、Uはaを含む開集合で、φ(U)⊂Vです。
そして、x∈Uとすると、φ(x)∈φ(U)⊂Vです。
故に、(x,φ(x))∈U×V⊂˜U×V⊂˜Ωです。
従って、F(x,φ(x))=F(x,ψ(x,0))=0となります。
逆に、F(x,y)=0だったとすると、
f(x,y)=(x,F(x,y))=(x,0)=(x,F(x,φ(x)))=f(x,φ(x))
です。
故にf|˜Ωは全単射なので、y=φ(x)
です。
陰関数定理の証明終わり
陰関数定理はどの分野で応用されるの?
陰関数定理はいわゆる「存在する」ということを主張する定理なので、あまりご利益が分かりづらい部分があると思います。
しかし陰関数定理は数学において多くの重要な応用をお持ちます。
ここでは多様体、分岐論について紹介します。
多様体
幾何学には「多様体」という分野があります。
多様体は現代幾何学の諸理論を展開する場として多く登場します。
多様体は狭い見方をすれば、曲線や曲面の概念を一般化したものなのですが、現代の数学においては基本的な概念でもあります。
その理論の基礎固めをするときに、陰関数定理が必要になります。
例えば、局所的にF=0という方程式の解集合として定められるものと、φのグラフとして定められるものが同じものであることを保証するために使われます。
分岐理論
誠に平たく言うと、パラメータλを含む方程式
F(x,λ)=0
の解x=x(λ)のパラメータ依存性(特に解の一意性が担保されない場合)を研究するのが分岐理論です。
陰関数定理が適用できる場合であれば、解の一意性が成り立つので、分岐が起こるためには陰関数定理の条件が成り立たないことが必要だ、とわかるわけです。
陰関数定理を使ってみる。
例6.(デカルトの葉線(folium of Descartes, folium cartesii, 1694)) a>0とするとき、F(x,y)=x3+y3−3axy、P=(3a2,3a2)とします。
点Pの十分小さな開近傍において、F(x,y)=0の陰関数y=φ(x)が存在することを示して、その点における微分係数を求めてみます。
F:R2→RはC1級で、
F(3a2,3a2)=(3a2)3+(3a2)3−3a(3a2)2=(278+278−274)a3=0,Fy(x,y)=3y2−3ax,Fy(3a2,3a2)=3(3a2)2−3a×3a2=9a24≠0
となるので、3a2の十分小さな開近傍UとVが存在して、U×VでF(x,y)=0はy=φ(x)と解けて、φ:U→VはC1級となります。
F(x,φ(x))=0により、Fx(x,φ(x))+Fy(x,φ(x))φ′(x)=0となるので、
φ′(x)=−Fx(x,φ(x))Fy(x,φ(x))
となります。
Fx(x,y)=3x2−3ay,Fx(3a2,3a2)=9a24
であるから、
φ′(3a2)=−Fx(3a2,3a2)Fy(3a2,3a2)=−9a349a34=−1
です。
読者の皆様のコメントを下さい!
本記事とは関係ないのですが、数学をやっていると色々と定理に出くわします。
ガウスやらオイラーやらはほとんどどの分野でも見るようなもので、彼らの凄さを垣間見ることができます。
そんな中でも”面白い”名前の定理といものあったりします。
筆者は詳しくはないのですが、カラテオドリの定理というのがあります。
気分が悪くなってしまう方もいらっしゃるかと思いますが、筆者が初めてみたときに「本当にそんな名前の定理なの?(笑)”空手踊り”?(笑)」と思いました。
他にも「”面白い”名前の定理があるよ!」という方は是非コメントで教えて下さい!
結
今回は陰関数定理について解説しました。
陰関数定理は逆関数定理から導けます。
また、陰関数定理がどのような分野で使われるのか、ということも解説しました。
具体的には多様体と分岐理論で使われる場合がある、と述べました。
次回は第2回目の1時間チャレンジです。
次次回に陰関数定理から逆関数定理を証明してみます。
乞うご期待!
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数学科に在籍している学生です。
定理の証明を参考にさせて頂きました。行間が丁寧で、非常に議論が明瞭でした。
そこで質問なのですが、証明の終盤でφ
(仕様で記号が若干違うことをご容赦ください。)の逆関数φ^(-1)を用いていると思うのですが、φに逆関数が存在することはどのように示されるのでしょうか。
回答の程、よろしくお願い致します。
名無しさま
コメントありがとうございます。返信が遅れて申し訳ありません。
> 証明の終盤でφ(仕様で記号が若干違うことをご容赦ください。)の逆関数φ^(-1)を用いていると思うのですが、φに逆関数が存在することはどのように示されるのでしょうか。回答の程、よろしくお願い致します。
とのお問い合わせについて1点ご教示願いたいことがございます。
まず、当方の記号ミスがございました。˜φでなく、φでございました。失礼いたしました。訂正いたしました。
さて、「逆関数を用いている」とは具体的にどちらでしょうか…?
ちなみにU=˜U∩φ−1(V)のφ−1(V)部分に対するお問い合わせでしたら、これは逆像なので逆写像ではございません。
またのコメントお待ちしております。