本記事の内容
本記事は可積分条件、すなわち、関数がどういうときに積分可能なのかということを説明する記事です。
特に、有界閉集合上で定められた有界な関数が積分可能なときの必要十分条件を説明します。
本記事を読むにあたり、積分について知っている必要があるため、以下の記事も合わせてご覧ください。
前回と今回の目標
前回と今回の目標は有界閉集合上で定められた有界な関数が可積分であるための必要十分条件を求めることです。
より具体的には以下の定理を示すことです。
定理0.(可積分条件)
\(I\)を\(\mathbb{R}^n\)の有界閉集合とするとき、\(I\)上の有界な実数値関数\(f:I\to \mathbb{R}\)に対して、次の1.~5.は同値である。- \(f\)は\(I\)上で(リーマン)可積分である。
- \(\displaystyle\lim_{d(\Delta)\to0}\left( S_\Delta-s_\Delta\right)=0\)
- リーマンの可積分条件 小区間\(I_k\ (k\in K(\Delta))\)上の\(f\)の振幅\(a(f,I_k)=M_k-m_k\)に対して、 $$ \lim_{d(\Delta)\to0}\sum_{k\in K(\Delta)}a(f,I_k)v(I_k)=0 $$ である。
- ダルブーの可積分条件 \(S=s\)、すなわち、 $$ \underline{\int_I} f(\boldsymbol{x})\ d\boldsymbol{x}=\overline{\int_I}f(\boldsymbol{x})\ d\boldsymbol{x} $$ である。
- 任意の\(\varepsilon>0\)に対して、\(S_\Delta-s_\Delta<\varepsilon\)となる\(I\)の分割\(\Delta\)が存在する。
つまり、有界閉集合上で定められた有界な関数が可積分であるかを調べる際には、上記の5つの戦略がある、ということです。
前回の記事では、1.\(\Longrightarrow\)2.、2.\(\Longleftrightarrow\)3.、2.\(\Longleftrightarrow\)4.を示しました。
今回の記事では4.\(\Longrightarrow\)1.、2.\(\Longrightarrow\)5.、5.\(\Longrightarrow\)4.を示します。
それ故、1.から5.はすべて同値であることがわかります。
さて、定理0.を示すことが今回と次回(次々回かもしれません)の目標なわけですが、ここで記号の復習をしておきます。
記号の復習は不要だ、という方は可積分条件の証明までジャンプしてください。
リーマン可積分
幅(mesh)
幅(mesh)
分割\(\Delta\)の小区間\(I_k\)の直径を\(d(I_k)\)としたとき、 $$ d(\Delta)=\max_{k\in K(\Delta)}d(I_l) $$ を分割\(\Delta\)の幅(mesh、メッシュ)という。リーマン和
リーマン和
\(n\)次元有界閉区間\(I\)上で定められた実数値関数に対して、区間\(I\)の任意の分割\(\Delta\)に対し、\(\Delta\)により得られる各小区間\(I_k\ (k\in K(\Delta))\)の中から任意に1点\(\boldsymbol{\xi}_k\)(これを\(I_k\)の代表点という)を取って作った和 $$ s\left(f;\Delta;\boldsymbol{\xi} \right)=\sum_{k\in K(\Delta)}f\left( \boldsymbol{\xi}_k\right)v\left( I_k\right) $$ を\(f\)の\(\Delta\)に関するリーマン和(Riemann sums)という。リーマン可積分
\(n\)次元有界閉区間\(I\)上で定められた実数値関数に対して、区間\(I\)の任意の分割\(\Delta\)に対し、\(\Delta\)により得られる各小区間を\(I_k\ (k\in K(\Delta))\)とする。このとき、ある実数\(J\)が存在して、\(I_k\)の代表点\(\boldsymbol{\xi}_k\)の取り方によらず、 $$ \lim_{d(\Delta)\to0}s\left(f;\Delta;\boldsymbol{\xi} \right)\left(=\lim_{d(\Delta)\to0}\sum_{k\in K(\Delta)}f\left( \boldsymbol{\xi}_k\right)v\left( I_k\right)\right)=J $$ となるとき、\(f\)は\(I\)上で(リーマン)可積分であるといい、\(J\)を\(f\)の\(I\)上での(リーマン)積分という。そして、 $$ J=\int_If=\int_If(\boldsymbol{x})\ d\boldsymbol{x}=\int\dots\int_If(x_1,\dots,x_n)\ dx_1\cdots dx_n $$ などと書く。
不足和、過剰和
不足和、過剰和
\(\mathbb{R}^n\)の区間\(I\)の任意の分割\(\Delta\)に対して、\(\Delta\)により得られる各小区間\(I_k\ (k\in K(\Delta))\)において、 $$ m_k=\inf_{\boldsymbol{x}\in I_k}f(\boldsymbol{x}),\quad M_k=\sup_{\boldsymbol{x}\in I_k}f(\boldsymbol{x}) $$ とする。このとき、和 $$ s_{\Delta}=\sum_{k\in K(\Delta)}m_kv(I_k),\quad S_\Delta=\sum_{k\in K(\Delta)}M_kv(I_k) $$ をそれぞれ分割\(\Delta\)に関する\(f\)の不足和、過剰和という。振幅
振幅
\(\mathbb{R}^n\)の有界閉集合を\(I\)とする。有界な実数値関数\(f:I\to\mathbb{R}\)に対して、 $$ m=\inf_{\boldsymbol{x}\in I}f(\boldsymbol{x}),\quad M=\sup_{\boldsymbol{x}\in I}f(\boldsymbol{x}) $$ として、\(M-m\)、すなわち\(\displaystyle\sup_{\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}\in I}\left|f(\boldsymbol{x})-f(\boldsymbol{y})\right|\)を\(f\)の\(I\)における振幅といい、\(a(f,I)\)で表す。上積分、下積分
上積分、下積分
\(\mathbb{R}^n\)の区間\(I\)の分割全体の集合を\(\mathcal{D}\)、\(s_\Delta\)および\(S_\Delta\)をそれぞれ不足和、過剰和とする。このとき- 上積分 $$ S=\inf_{\Delta\in\mathcal{D}}S_\Delta $$ を\(f\)の\(I\)における上積分といい、 $$ S=S(f)=\overline{\int_I}f(\boldsymbol{x})\ d\boldsymbol{x}=\overline{\int_I}f $$ と書く。
- 下積分 $$ s=\sup_{\Delta\in\mathcal{D}}s_\Delta $$ を\(f\)の\(I\)における下積分といい、 $$ s=s(f)=\underline{\int_I}f(\boldsymbol{x})\ d\boldsymbol{x}=\underline{\int_I}f $$ と書く。
ダルブーの定理
定理2.(ダルブーの定理)
\(I\)を\(\mathbb{R}^n\)の閉区間とする。このとき、任意の有界な実数値関数\(f:I\to\mathbb{R}\)に対して常に $$ \lim_{d(\Delta)\to0}s_\Delta=s,\quad \lim_{d(\Delta)\to0}S_\Delta=S $$ が成り立つ。定理2.(ダルブーの定理)の証明は【解析学の基礎シリーズ】積分編 その3を御覧ください。
可積分条件の証明
では、定理0.の証明の後半を行っていきます。
定理0.の証明(後半)
①4.\(\Longrightarrow\)1.の証明
任意の分割\(\Delta\)と任意の\(\boldsymbol{\xi}\)に対して、
$$
s_\Delta\leq s\left( f;\Delta;\boldsymbol{xi}\right)\leq S_\Delta
$$
が成り立っています。
これについては【解析学の基礎シリーズ】積分編 その3を御覧ください。
この不等式で、\(d(\Delta)\to0\)とすると、
\begin{eqnarray}
&&\lim_{d(\Delta)\to0}s_\Delta\leq \lim_{d(\Delta)\to0}s\left( f;\Delta;\boldsymbol{\xi}\right)\leq \lim_{d(\Delta)\to0}S_\Delta\\
&\Longleftrightarrow&s\leq \lim_{d(\Delta)\to0}s\left( f;\Delta;\boldsymbol{\xi}\right)\leq S
\end{eqnarray}
今、\(S=s\)を仮定すると、
$$
\lim_{d(\Delta)\to0}s\left( f;\Delta;\boldsymbol{\xi}\right)=S=s
$$
となります。
従って、リーマン和の極限が存在するので、\(f\)は\(I\)上でリーマン可積分です。
②2.\(\Longrightarrow\)5.の証明
これはもはや明らかなようなものです。
$$\lim_{d(\Delta)\to0}\left( S_\Delta-s_\Delta\right)=0$$
だとしましょう。
これは極限ですので、
$$
(\forall \varepsilon>0)\ (\delta>0)\ {\rm s.t.}\ (\forall \Delta\in\mathcal{D})\ d(\Delta)<\delta\Longrightarrow \left| S_\Delta-s_\Delta\right|<\varepsilon
$$
が成り立っている、ということです。
これはすなわち、存在する\(\delta>0\)に対して\(d(\Delta)<\delta\)という分割\(\Delta\)が存在する、ということを指しています。
従って、2.\(\Longrightarrow\)5.が成り立ちます。
③5.\(\Longrightarrow\)4.の証明
任意の\(\varepsilon>0\)に対して、\(S_\Delta-s_\Delta<\varepsilon\)という分割\(\Delta\)を取ったとしましょう。
$$
S=\inf_{\Delta\in\mathcal{D}}S_\Delta,\quad s=\sup_{\Delta\in\mathcal{D}}s_\Delta
$$
ですので、
$$
S_\Delta\geq S,\quad s\geq s_\Delta
$$
です。
従って、
$$
0\leq S-s\leq S_\Delta-s_\Delta
$$
が成り立ちます。
ここで、\(S_\Delta-s_\Delta<\varepsilon\)だったわけですので、
$$
0\leq S-s\leq S_\Delta-s_\Delta<\varepsilon
$$
となり、\(\varepsilon>0\)は任意なので
$$
\lim_{d(\Delta)\to0}\left( S-s\right)=0
$$
となります。
しかし左辺は\(d(\Delta)\)に依存しないので、
$$
\lim_{d(\Delta)\to0}\left( S-s\right)=S-s
$$
となるから、\(S=s\)です。
定理0.の証明終わり
主張としては厳つい感じがあります(と筆者は思っています)が、実際に証明してみると単に極限の話だったりと割とシンプルです。
実際に可積分かどうかを判定してみましょう!
筆者の体感での話になってしまいますが、具体的な関数に対して、定理0.を適用させて可積分かを判定する、というのはあまりないと思います。
それよりも、定理0.から得られる他の事実(後の記事で説明します)を用いて可積分かどうかを判定することが多いと思います。
例えば、次回解説する単調な関数の可積分性などがそうです。
実際に定理0.を使ってみようとすると分かるのですが、例えば\(f(x)=x\)という単純な関数に適用させるにしても割と骨が折れてしまいます。
そこで、定理0.から誘導される他の事実(可積分性の十分条件)を使うのです。
ここでは、一度、真面目に\(f(x)=x\)が可積分であることをリーマン和の極限が収束するということを示すことで証明します。
例. \(I=[a,b]\)、\(f:[a,b]\to\mathbb{R}\)、\(f(x)=x\)とします。
このとき、
$$
\int_{[a,b]}x\ dx=\frac{1}{2}(b^2-a^2)
$$
であることをリーマン和の極限が収束するということを示すことで証明します。
では、いきましょう!
\(f(x)=x\)は狭義単調増加関数だから、\(I\)の任意の分割
$$
\Delta:a=x_0<x_1<x_2<\dots<x_k\dots<x_m=b\quad (I_k=[x_{k-1},x_k])
$$
と、\(I_k\)の任意の代表点\(\xi_k\)に対して、
$$
s\left( f;\Delta;x_{k-1}\right)\leq s\left( f;\Delta;\xi_k\right)\leq s\left( f;\Delta;x_{k}\right)
$$
です。
実際、
$$
\sum_{k=1}^mf(x_{k-1})v(I_k)\leq \sum_{k=1}^mf(\xi_k)v(I_k)\leq \sum_{k=1}^mf(x_{k})v(I_k)
$$
だからです(\(f(x)=x\)であることに注意)。
さて、新たに
$$
\xi_k^0=\frac{1}{2}(x_{k-1}+x_k),\quad \boldsymbol{\xi}^0=\left( \xi_1^0,\dots,\xi_m^0\right)
$$
とすると、
\begin{eqnarray}
s\left( f;\Delta;\xi^0\right)&=&\sum_{k=1}^mf\left( \xi_k^0\right)v(I_k)\\
&=&\sum_{k=1}^m\frac{1}{2}(x_{k-1}-x_k)(x_k-x_{k-1})\\
&=&\sum_{k=1}^m\frac{1}{2}\left( x_k^2-x_{k-1}^2\right)\\
&=&\frac{1}{2}(b^2-a^2)
\end{eqnarray}
となります。
最後の等式については、
$$
\sum_{k=1}^m\frac{1}{2}\left( x_k^2-x_{k-1}^2\right)=\frac{1}{2}\left[(x_1^2-x_0^2)+(x_2^2-x_1^2)+\dots+(x_m^2-x_{m-1}^2) \right]
$$
となるため、\(x_m^2\)と\(-x_0^2\)以外がすべて相殺されてしまいます。
そして、\(x_m^2=b^2\)、\(-x_0^2=-a^2\)を使うことで得られます。
ここで、「お!見たことある形になったぞ?おっけー。おしまい。」となってしまうと、間違いなんです。
なぜかというと、これはあくまで極限の見当をつけたに過ぎないからです。
本当に\(\displaystyle\frac{1}{2}(b^2-a-2)\)がリーマン和の極限かどうかを証明する必要があります。
\begin{eqnarray}
0\leq\left| s\left( f;\Delta;\boldsymbol{\xi}\right)-\frac{1}{2}(b^2-a^2)\right|&\leq&s\left( f;\Delta;b\right)-s\left( f;\Delta;a\right)\\
&=&\sum_{k=1}^m(x_k-x_{k-1})v(I_k)\\
&\leq&\max_{1\leq k\leq m}(x_k-x_{k-1})\sum_{k=1}^m(x_k-x_{k-1})=(b-a)\cdot \max_{1\leq k\leq m}(x_k-x_{k-1})
\end{eqnarray}
です。
ここで、\(d(\Delta)\to0\)とすると、
$$(b-a)\cdot \max_{1\leq k\leq m}(x_k-x_{k-1})\to0$$
となるわけですので、つまるところ
$$\lim_{d(\Delta)\to0}\)s\left( f;\Delta;\boldsymbol{\xi}\right)=\frac{1}{2}(b^2-a^2)$$
となります。
従って、極限\(\displaystyle\frac{1}{2}(b^2-a^2)\)が存在したので、\(f\)は\(I\)上でリーマン可積分です。
読者の皆様のコメントを下さい!
リーマン積分に名を残す(他にもいっぱい残していますが)数学者はベルンハルト・リーマンという人です。
なんとかの有名がガウスと同じ年代を生きていた方です。
実は、筆者はこのベルンハルト・リーマンと誕生日が同じなんです。
個人的には嬉しいんですが、ベルンハルト・リーマンには遠く及びません。
数学をやっている方に自己紹介をするときのちょっとしたツカミとして使っています。
皆様は著名な方とのつながりはありますか?
どんな些細なつながりでも良いので、是非コメントで教えて下さい!
結
今回は、可積分条件の証明を完結させました。
筆者の体感だと今回示した可積分条件をそのまま使う、ということはあまりない気がしていますが、この可積分条件のおかげでより使いやすい事実を導くことができます。
次回は、単調関数の可積分性を今回の可積分条件から証明します。
乞うご期待!
質問、コメントなどお待ちしております!
どんな些細なことでも構いませんし、「定理〇〇の△△が分からない!」などいただければ全てお答えします!
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