本記事の内容
本記事は、正多面体群の位数について解説する記事です。
本記事を読むに当たり、正多面体群について知っている必要があるため、以下の記事も合わせてご覧ください。
正多面体群の軽い復習
詳しくは、【代数学の基礎シリーズ】群論編 その44を御覧ください。
正多面体群
正多面体\(\mathcal{P}_i\ (i=4,6,8,12,20)\)に対して、- 合同変換 \(\mathcal{P}_i\)を\(\mathbb{R}^3\)内の単位球面に内接させる。このとき原点を中心とする回転のうち、頂点を頂点に写すものを\(\mathcal{P}_i\)の合同変換という。
- 正多面体群 \(\mathcal{P}_i\)の合同変換\(\sigma\)の逆回転\(\sigma^{-1}\)もまた合同変換であり、合同変換\(\sigma,\tau\)を続けて行った変換(\(\tau\sigma\)と書く)もまた合同変換である。故に合同変換全体は、変換の合成(写像の合成)を演算として群をなす。この群を正\(i\)面体群という。また、正二面体群と合わせてこれらをまとめて正多面体群という。
要するに、正多面体を\(\mathbb{R}^3\)の原点がその中心となるようにしたとき、正多面体の頂点をその正多面体の別の頂点に写すような変換(原点を中心として回転させる写像)は、写像の合成でもって群をなすため、その群を正多面体群と呼びますよ、と言う話です。
正八面体の各辺の中点を結ぶと立方体になります。
また、正二十面体の各辺の中点を結ぶと正十二面体になります。
したがって、正八面体群と立方体群は同型で、正二十面体群と正十二面体群は同型です。
記号のお話
正四面体群、正八面体群、正二十面体群をそれぞれ\({\rm T},\ {\rm O},\ {\rm I}\)(tetrahedron、octahedron、icosahedronの頭文字)と書きます。
正多面体群の位数
正多面体群は有限群です。
つまり、正多面体の中心を\(\mathbb{R}^3\)の原点にくるように置いたとき、原点を中心とする回転で正多面体の頂点をその正多面体の別の頂点(もしくは同じ頂点)に写す変換は有限個しか存在しない、というわけです。
では、具体的にいくつあるのか?ということについて述べます。
命題1.
\({\rm T},\ {\rm O},\ {\rm I}\)をそれぞれ正四面体群、正八面体群、正二十面体群とする。このとき- \(\left|{\rm T}\right|=12\).
- \(\left|{\rm O}\right|=24\).
- \(\left|{\rm I}\right|=60\).
「正六面体群(立方体)群と正十二面体群は?」と思われるかも知れませんが、先に復習したとおり、正八面体群と正六面体群(立方体群)、正二十面体群と正十二面体群がそれぞれ同型ですので、この2つは省いてOKなのです。
「省く」というよりは、正六面体群(立方体群)の位数は正八面体群の位数と一致し、十二面体群の位数は正二十面体群と一致します。
命題1.の証明
(1.の証明)
正四面体の頂点の個数は4個です。
1つの頂点を回転により他の頂点に持っていくことができますので、\({\rm T}\)は頂点の集合に推移的に作用します。
ここで、推移的な作用とは以下でした。
推移的な作用、等質空間
群\(G\)が集合\(X\)に左から作用するとする。\(x\in X\)が存在して、\(Gx=X\)となるとき、この作用は推移的であるという。また、\(X\)は\(G\)の等質空間という。詳しくは【代数学の基礎シリーズ】群論編 その14を御覧ください。
1つの頂点を固定する\({\rm T}\)の要素、つまりその安定化群(あとで復習します)の要素は、原点とその頂点を結ぶ直線を軸とする回転しか存在しません。
下の図は一番上の頂点の安定化群の要素が回転であることを示したものです。
ここで、安定化群とは以下でした。
安定化群
群\(G\)が集合\(X\)に左から作用するとする。\(x\in X\)のとき、 $$ G_x=\left\{g\in G\middle|gx=x\right\} $$ を\(x\)の(\(G\)における)安定化群という。詳しくは【代数学の基礎シリーズ】群論編 その14を御覧ください。
1つの頂点に集まる辺の数は3なので、頂点の周りで\(\displaystyle\frac{2\pi}{3}\)だけ回転させる\({\rm T}\)の要素が存在します。
逆に1つの頂点の庵添加群の要素は\(\displaystyle\frac{2\pi}{3}\)、\(\displaystyle\frac{4\pi}{3}\)の回転しか存在しません。
故に、1つの頂点の安定化群の位数は3です。
したがって、\(\left|{\rm T}\right|=4\times 3=12\)となるわけです。
(2.の証明)
頂点の数は6個で、頂点に集まる辺の数は4個です。
故に、1.と同様にして\(\left|{\rm O}\right|=6\times4=24\)となります。
(3.の証明)
頂点の数は20個で、頂点に集まる辺の数は3個です。
故に、1.と同様にして\(\left|{\rm I}\right|=20\times3=60\)となります。
命題1.の証明終わり
皆様のコメントを下さい!
前回に続き、背理法について少々語りたいと思います。
前回はゼノンの論法の例を紹介しました。
「本当にこんなことを日常的に会話の中で行っていたら嫌われちゃうよ」という感じでしたね。
また、ゼノンの論法は正しいか正しくないかの二者択一であることを仮定しているため、日常で使われる正誤の境界が曖昧な論理では有効とは限らないのでした。
実際、政治論争や哲学論争でよくあることですが、事の真偽が曖昧であるとゼノンの論法は詭弁やこじつけになりがちです。
言葉や概念が不正確に使われたりするときも、背理法による議論が「詭弁」になることがあります。
このような例はアンセルム(St. Anselm;1033-1109)の「神の存在証明」(カントによる命名;Arguments for the Existence of God)に見ることができます。
最も完全なるものとしての絶対者が存在する。さもなければ絶対者は存在という属性を持たないことになり、最も完全であることに反するからである。よって絶対者は存在する。
この議論で何が問題かというと、「神(絶対者)とは何か?」が曖昧なのです。
曖昧な概念から導かれた結論はその根拠を失うことが多いです。
このようなことは数学では起こりません(あるいは起こってはなりません)。
何故なら、数学のすべての言葉と概念には曖昧さがないからです。
ただし、数学理論が建設途上にあるときは必ずしもそうとは言えません。
場合によっては未成熟な言葉を日常用語から借りてこなければならないことがあります。
理論を完全なものにするには、そのような言葉や概念から曖昧さを取り除かなければなりません。
神の存在証明(オイラーの逸話)
オイラーがサンクト・ペテルスブルグに滞在中、ディドロに会う機会がありました。このときオイラーはディドロに会うなり「閣下,\((a + bn)/n = X\)でありますから神は存在します。返答はいかに?」と言ったそうです。
ディドロは無神論者として知られ、神の存在証明についての哲学的論議を強く論難することで知られていました。
オイラーの挙げた方程式の意味(もちろん意味などありません)を理解できなかったディドロは沈黙せざるを得ませんでした。
今回はこんなところでおしまいです。
感想など是非コメントでお聞かせ下さい!
結
今回は、正多面体群の構造を知るために、位数に着目してみました。
結論としては、正四面体群の位数が12、正八面体群の位数が24、正二十面体群の位数が60でした。
その他の立方体群は正八面体群と同型で、正十二面体群は正二十面体軍と同型であるため、それぞれの位数が24、60です。
次回は、正四面体群、正八面体群、正二十面体群がそれぞれある群と同型であることを示します。
乞うご期待!
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