本記事の内容
本記事は有限アーベル群の基本定理の証明を順を追って解説する記事です。
本記事を読むに当たり、アーベル群、位数、同型、中国式剰余定理について知っている必要があるため、以下の記事も合わせてご覧ください。
↓アーベル群の記事
↓位数の記事
↓同型の記事
↓中国式剰余定理の記事
数回に渡ってやること
前回(【代数学の基礎シリーズ】群論編 その36)から数回に渡って何をするかというと、結論としては、以下の定理を証明します。
定理0.(有限アーベル群の基本定理)
Gが有限なアーベル群ならば、整数e1,…,en≥2が存在して、i=1,…,n−1に対してei|ei+1を満たし、 G≅Z/e1Z×⋯×Z/enZ となる。また、この条件を満たすe1,…,enは一意的に定まる。ただし、n=0のときはG≅{0}と解釈する。有限アーベル群の基本定理は何を言っているのか?
要するに、有限アーベル群の基本定理は何を言っているのか、というと
ということです。
もっと平たく言えば、「有限なアーベル群は”いい具合に”商群の直積に分解することができる」ということです。
証明の流れ
主張を言い換えてみます。
e≥2を整数とすれば、相異なる素数p1,…,ptによりe=pa11⋯pattと素因数分解できます。
ここで、中国式剰余定理を使います。
定理1.(中国式剰余定理)
m,n≠0が互いに素な整数ならば、 Z/mnZ≅Z/mZ×Z/nZ である。定理1.(中国式剰余定理)の証明は【代数学の基礎シリーズ】群論編 その28を御覧ください。
中国式剰余定理を使うことで、
Z/eZ≅Z/pa11Z×⋯×Z/pattZ
です。
したがって、有限アーベル群の基本定理のGは位数が素数べきの巡回群の積で表されることになります。
そこで、有限アーベル群の基本定理の代わりに、次の定理を証明することにします。
その証明の跡で、有限アーベル群の基本定理が以下の定理から従うことを示します。
定理00.(有限アーベル群の基本定理2)
Gを有限なアーベル群とするとき、次の1.、2.が成り立つ。- 素数p1,⋯,pt(重複を許す)と正の整数a1,⋯,atが存在して Z/eZ≅Z/pa11Z×⋯×Z/pattZ となる。また、pa11,⋯,pattは順序を除いて一意的に定まる。
- 素数pに対して、G(p)をpi=pであるi全てに属するZ/paiiZの直積とすると、Gは全てのG(p)の直積であり、G(p)はGのシローp部分群である。
定理00.(有限アーベル群の基本定理2)の証明の流れ
- 同型写像の存在
- |G|がpベキであることの証明→【代数学の基礎シリーズ】群論編 その36で証明済み
- Gが巡回群の直積となることの証明→【代数学の基礎シリーズ】群論編 その37で証明済み
- 同型写像を作る。→今回
- 存在する整数の一意性
- 上の分解が直積因子の順序を除き一意的であることの証明
- 一般の場合の直積因子の一意性の証明
今回は1.-3.を示します。
前回までの証明
Gの演算は加法的に+と書き、単位元も0と書くことにします。
【代数学の基礎シリーズ】群論編 その36では
H={x∈G|pa=0},K={x∈G|mx=0}
として、|H|がpベキであることを示し、Kは位数が素数ベキの群の直積となることを証明しました。
【代数学の基礎シリーズ】群論編 その37ではGが巡回群の直積になることを証明しました。
また、G/Hは有限アーベル群で、|G/H|<|G|なので、帰納法で正の整数a1,…,atが存在して、
G/H≅K1×Kt,K1≅Z/pa1Z,⋯,Kt≅Z/patZ
となるのでした。
Kiの生成元(【代数学の基礎シリーズ】群論編 その2)をki、π:G⟶G/Hを自然な準同型(【代数学の基礎シリーズ】群論編 その4)とするとき、π(gi)=kiとなる要素gi∈Gを取ります。
このときgiの位数がpaiであるようにgiを取ることができることを示しました。
いざ、証明(Part.3)
Fi=⟨gi⟩とします。
F=F1×⋯×Ftとし、φ:F⟶Gを
φ(c1,…,ct)=c1+⋯+ct(ci∈Fi)
と定めると、φは準同型写像です。
π:G⟶G/Hを自然な準同型(【代数学の基礎シリーズ】群論編 その4)とするとき、π∘φは同型写像なので、φは単射です。
L=φ(F)⊂Gとおくと、LはGの部分群でFと同型です。
また、πをLに制限すれば、G/Hへの同型写像となります。
Ker(π)=Hなので、H∩L={0}です。
|H×L|=|G|なので、
G≅H×L≅Z/pcZ×Z/pa1Z×⋯×Z/patZ
となり、定理00.の同型写像の存在が分かりました。
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前回はデカルトの功績をサラッと紹介しました。
今回は(勝手に筆者が語りたいので)デカルトのことをもう少しだけお話して、その後、個人的にデカルトの数学における最も大きいと思う功績を紹介します。
「問題を解こうとしているとき、まず最初に解が既に得られていると仮定し、その構成に必要に思われる未知の線分と既知の線分に名前を与える。次に未知あるいは既知の線分に係わらずそれらを同等に扱い、1つの量を2通りの方法で表現することが可能になるまで、どんな方法でもよいから、それらの間に成り立つ最も自然な関係を見出すようにする。こうして得られたものが方程式を与えることになるだろう。」
代数の手続きを隠して、ユークリッドの諸定理による構成や証明を探求するという余計なことは、つまらない幾何学者の慰みものでしかなく、さして精神も学問も要しないからです。しかしやり遂げたい問題があり、そこから一般的規則を使って他の多くの同様の問題を解決するための定理とするとき、はじめに提出されたのとまったく同じ文字を最後まで維持する必要があります。あるいは、計算を容易にするためにそのいくつかを変えるのなら、そのあとで最後に元に戻しておかなければなりません。なぜなら普通、多くの文字は互いに消去され、変えたときには見えなくなってしまうからで。
知的好奇心が旺盛で聡明な王女と交わした書簡(60通が残っています)は、デカルトが心身問題や情熱論を考える切っ掛けを与えたと言われています。
哲学者としても有名なデカルトの誕生秘話とでもいったところでしょうか。
では、個人的にデカルトの数学における最も大きい功績と思しきものを紹介します。
デカルトの代数的手法は、座標系の概念を導入することによりさらに完全なものになります。
すなわち、座標系を使って平面上の点を2つの実数の組で表すことにより、幾何学の問題を代数的な問題に帰着させることができるのです。
このような方法による幾何学を解析幾何学といいます。
座標の考え方は、リジューの司教であったオレーム(N. Oresme;約1323-1382)により示唆されていました。
今日的観点から、デカルトのアイディアがいかに革命的なものであったか理解するのは困難かもしれません。
何故ならその歴史的重要性にまったく触れずに代数的方法と座標系の概念を学ぶからです。
事実は、デカルトの著作がライデンで出版された1637年以前には、幾何学は古代ギリシャのそれとほとんど同じ状況だったのです(例外はヴィエタに始まる数学記号の使用の下での「代数」です)。
デカルトの「規則論」(1628 年)の中に、既に代数的方法の考え方が表明されています。
フェルマー(P. Fermat;1601-1665)は1636年に友人に宛てた手紙の中で、デカルトと同様の考え方を 1629年には持っていたと言っていますが、フェルマー自身の「論文」は生前は発表されず、1679年に出版された全集の中に掲載されています。
感想などコメントをお待ちしています!
結
今回は、有限アーベル群の基本定理の証明の一部を解説しました。
有限アーベル群の基本定理は、「任意の有限アーベル群が巡回群の直積に同型である」という主張の定理です。
今回は、同型写像が存在するということを証明しました。
次回も続きとして、存在する整数の一意性を証明します。
乞うご期待!
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