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「シローの定理の証明の準備①(部分集合への作用)」【代数学の基礎シリーズ】群論編 その25

代数学

本記事の内容

本記事はシローの定理の証明の準備として、部分集合への作用について解説する記事です。

本記事を読むに当たり、群の作用について知っている必要があるため、以下の記事も合わせてご覧ください。

群作用の軽い復習

群作用の大雑把な意味

群作用は、群を用いて対象の対称性を記述する方法。

です。

群作用とは?(数学的な話)

群作用を数学的に述べます。

群作用

\(G\)を群、\(X\)を集合とする。\(G\)の\(X\)への左作用とは、写像\(\varphi:G\times X\ni (g,x)\mapsto \varphi(g,x)\in X\)であり、次の性質1.、2.を満たすものをいう。
  1. \(\varphi(1_G,x)=x\)
  2. \(\varphi(g,\varphi(h,x))=\varphi(gh,x)\)
また、写像\(\varphi:G\times X\ni (g,x)\mapsto \varphi(g,x)\in X\)が
  1. \(\varphi(1_G,x)=x\)
  2. \(g(hx)=xgh)\)
を満たすなら、\(\varphi\)を右作用という。
 \(G\)の\(X\)への作用が存在するとき、\(G\)は\(X\)に作用するという。左作用なら、\(G\)は\(X\)に左から作用するという。右作用も同様である。

結局、群作用の正体は写像です。
しかし、群の演算のときもお話しましたが、写像の言葉で書くと少々見にくいと思われますので、写像の部分を少々省略した形で再掲することにします。

群作用\(\varphi:G\times X\longrightarrow X\)に対して\(\varphi(g,x)\)を\(gx\)と書いたとします。

群作用

\(G\)を群、\(X\)を集合とする。\(G\)の\(X\)への左作用とは、次の性質1.、2.を満たす写像\(\varphi:G\times X\longrightarrow X\)をいう。ただし、\(\varphi(g,x)=gx\)と書くことにする。
  1. \(1_Gx=x\)
  2. \(g(hx)=(gh)x\)
また、写像\(\varphi:G\times X\ni (g,x)\mapsto \varphi(g,x)\in X\)が
  1. \(1_Gx=x\)
  2. \((g(hx))=\varphi(hg,x)\)
を満たすなら、\(\varphi\)を右作用という。
 \(G\)の\(X\)への作用が存在するとき、\(G\)は\(X\)に作用するという。左作用なら、\(G\)は\(X\)に左から作用するという。右作用も同様である。

\(G\)が\(X\)に左から作用し、\(x,y\in X\)、\(g\in G\)、\(gx=y\)なら、\(g\)により\(x\)は\(y\)に移るといいます。

詳しくは、【代数学の基礎シリーズ】群論編 その11をご覧ください。

部分集合への作用

以前の記事でもサラッと述べましたが、シローの定理は有限群の性質を調べる上で重要な役割を果たします。
そこで、シローの定理の証明に必要な、部分集合への作用について解説します。

この節では群は有限群だとします。

部分集合への作用とは?(説明)

群\(G\)が集合\(X\)に左から作用するとします。
\(Y=\mathcal{P}(X)\)を\(X\)の冪集合、すなわち、\(X\)の部分集合全てを要素とする集合とします。
簡単な復習として、\(X=\left\{1,2,3\right\}\)とすると、
$$
Y=\mathcal{P}(X)=\left\{\left\{1\right\},\left\{2\right\},\left\{3\right\},\left\{1,2\right\},\left\{2,3\right\},\left\{1,3\right\},\left\{1,2,3\right\},\emptyset\right\}
$$
でした。
空集合\(\emptyset\)は任意の集合の部分集合ですので、必ず冪集合の要素となっていることが注意でした。

さて、このとき、\(g\in G\)、\(S\in Y\)に対して、
$$
gS=\left\{gx\middle| x\in S\right\}
$$
と定めることで、\(G\)の\(Y\)への左作用が定まります(後述)。
右作用も同様です。
右作用の場合、\(S^g\)などとも書きます。
これを\(G\)の\(X\)への作用から引き起こされた作用といいます。

ちなみに、\(gx\in gS\)は\(S\in Y\)により\(S\subset G\)だから、\(x\in S\)ということは\(x\in G\)ということなので、\(gx\)は\(G\)における演算の結果です。

サラッと「作用が定まる」と言ってましたけど…

サラッと「左作用が定まる」と差も当然かのように述べましたが、証明しておきます。

再掲になりますが、次を満たすような写像が存在すれば良いことになります。

群作用

\(G\)を群、\(X\)を集合とする。\(G\)の\(X\)への左作用とは、写像\(\varphi:G\times X\ni (g,x)\mapsto \varphi(g,x)\in X\)であり、次の性質1.、2.を満たすものをいう。
  1. \(\varphi(1_G,x)=x\)
  2. \(\varphi(g,\varphi(h,x))=\varphi(gh,x)\)
また、写像\(\varphi:G\times X\ni (g,x)\mapsto \varphi(g,x)\in X\)が
  1. \(\varphi(1_G,x)=x\)
  2. \(g(hx)=xgh)\)
を満たすなら、\(\varphi\)を右作用という。
 \(G\)の\(X\)への作用が存在するとき、\(G\)は\(X\)に作用するという。左作用なら、\(G\)は\(X\)に左から作用するという。右作用も同様である。

\(\varphi: G\times Y\ni (g,S)\mapsto \varphi(g,S)\in Y\)を\(\varphi(g,S)=gS\)により定めます。
すると、以下が成り立ちます。

  • \(\varphi(1_G,S)=S\)が成り立ちます。
    実際、
    $$
    \varphi(1_G,S)=1_GS=\left\{1_Gx\middle| x\in S\right\}=\left\{x\middle| x\in S\right\}=S
    $$
    だからです。
  • \(\varphi(g,\varphi(h,S))=\varphi(gh,S)\)です。
    実際、
    \begin{eqnarray}
    \varphi(g,\varphi(h,S))=\varphi\left(g,hS \right)=ghS=\varphi\left(gh,S \right)
    \end{eqnarray}
    だからです。

以上により、\(\varphi:G\times Y\longrightarrow Y\)は左作用です。

まとめます。

まとめると、以下です。

部分集合への作用

群\(G\)が集合\(X\)に左から作用しているとする。\(Y=\mathcal{P}(X)\)を\(X\)の冪集合とするとき、\(g\in G\)、\(S\in Y\)に対して $$ gS=\left\{gx\middle| x\in S\right\} $$ と定めることにより、\(G\)の\(Y\)への左作用が定まる。右作用の場合も同様である。右作用の場合、\(S^g\)などともかく。これを\(G\)の\(X\)への作用から引き起こされた作用という。

注意(記号のお話)

\(G\)の自分自身へお枝垂からの席による作用を考える場合、\(S\subset G\)とすると、\(G\)による作用の軌道を考えることができます。
その場合、軌道を\(GS\)と書くと、部分集合\(\left\{gx\middle|g\in G,\ s\in S\right\}\)と混同のおそれがあります(\(S\)の軌道はこの集合ではありません)。

故に、部分集合の集合への作用を考えるときには、軌道のことを\(O(S)\)と書くことにします。
また、\(S\)の安定化群のことも\({\rm Stab}(S)\)と書くことにします。

部分集合の集合への作用の例

例1.

\(G=\mathcal{G}_4\)、\(X=\left\{1,2,3,4\right\}\)とします。
ちなみに、\(G\)は対称群です(詳しくは【代数学の基礎シリーズ】群論編 その1を御覧ください)。

このとき、\(G\)の\(X\)への自然な左作用を考えます。
$$
\sigma=(1\ 4\ 3),\quad S_1=\left\{1,3\right\},\quad S_2=\left\{2,3,4\right\}
$$
であれば、\(\sigma S_1=\left\{4,1\right\}=\left\{1,4\right\}\)、\(\sigma S=\left\{2,1,3\right\}=\left\{1,2,3\right\}\)です。

例2.

部分集合の集合への作用による軌道の例を考えてみましょう。
\(G=\mathcal{G}_3\)、\(X=G\)、\(Y\)を要素の個数が\(2\)個の\(X\)の部分集合全体の集合とします。
\(G\)は\(X\)に左からの席により作用するので、\(Y\)にも作用します。

\(S=\left\{(1\ 2),\ (1\ 2\ 3)\right\}\)とします。
計算すると、
\begin{eqnarray}
&&1S=S,\quad (1\ 2)S=\left\{1,(2\ 3)\right\},\quad (1\ 3)S=\left\{(1\ 2\ 3),(1\ 2)\right\},\\
&&(2\ 3)S=\left\{(1\ 3\ 2),(1\ 3)\right\},\quad (1\ 2\ 3)S=\left\{(1\ 3),(1\ 3\ 2)\right\},\quad (1\ 3\ 2)S=\left\{(2\ 3),1\right\}
\end{eqnarray}
となります。
したがって、\(S\)の軌道\(O(S)\)は
\begin{eqnarray}
O(S)&=&\{\left\{(1\ 2),(1\ 2\ 3)\right\},\left\{1,(2\ 3)\right\},\left\{(1\ 2\ 3),(1\ 2)\right\},\\
&&\left\{(1\ 3\ 2),(1\ 3)\right\},\left\{(1\ 3),(1\ 3\ 2)\right\},\left\{(2\ 3),1\right\}\}\\
&=&\left\{\left\{(1\ 2),(1\ 2\ 3)\right\},\left\{1,(2\ 3)\right\},\left\{(1\ 3),(1\ 3\ 2)\right\}\right\}
\end{eqnarray}
です。

皆様のコメントを下さい!

今回は数学的帰納法について少々お話しようかな、と思います。

国語辞典的な「帰納」と「演繹」の意味は以下です。

国語辞典での「帰納」と「演繹」
  • 帰納
  • 帰納(induction)とは、推理・思考の手続きの一つ。個々の具体的な事柄から、一般的な命題や法則を導き出すこと。
  • 演繹
  • 演繹(deduction)とは、普遍的命題から特殊命題を導き出すこと。一般的に、組み立てた理論によって、特殊な課題を説明すること。

歴史的には、プラトンの『パルメニデス』の中で暗に数学的帰納法を使った議論が与えられています。
ユークリッドの『原論』にも帰納法らしき証明が見られますが、現在使われているような形式にはなっ ていません。
インドの数学者であり天文学者であったバスカラ(Bhaskara;1114-1185)や、イタリアの数学者マウロリコ(Francesco Maurolico;1494-1575)は、数学的帰納法に近い証明法を持っていましたが完全なものではありませんでした。
最初に明確な形での帰納法を定式化したのはパスカルです(Trait ́e du triangle arithm etique; 1665)。

一般に、少数の場合から一般的パターンを見つけ出す方法を帰納(的)方法といいます。
この意味での帰納的方法(推理)は、アリストテレス以来認識されていた推理形式であって、ガリレオ・ガリレイやイギリスの神学者・哲学者フランシス・ベーコン(Bacon, Francis;1561-1626)らによって、科学研究におけるその意義と価値が明らかにされました。
帰納的方法は発見的方法としては威力を発揮しますが、「検証」の過程では数学的帰納法と比較して完全なものとは言ません(数学的帰納法を完全帰納法ということがあります)。

例えば、最初の5項が\(0, 1, 3, 6, 10\)と一致する数列\(a_1, a_2, a_3,\cdots\)の一般項を推理しようとするとき、 このような数列はいくらでも存在します。
これらの数項から、例えば\(\displaystyle a_n=\frac{n(n − 1)}{2}\)であることを推測するのは、論理ではなく、経験から獲得した「職人技」のようなものと言えるのではないでしょうか。

今の例では、\(a_2 = a_1 +1, a_3 = a_2 +2, a_4 = a_3 +3, a_5 = a_4 +4\)であるから,\(a_n = a_n−1 +(n−1)\)であること、及び
\begin{eqnarray}
a_n&=&a_{n-2}+(n-2)+(n-1)\\
&=&\cdots\\
&=&a_2+2+3+\cdots+(n-1)\\
&=&1+2+\cdots+(n-1)=\frac{n(n-1)}{2}
\end{eqnarray}
が推測されるわけです。

数学的帰納法の考え方は、証明に使われるだけでなく、自然数により順序づけられた「無限のプロセス」を定めるときにも使われます。
特に、\(n\)番目の対象(「手続き」)が1つ手前の\(n-1\)番目の対象(「手続き」)に依存しているとき、帰納的定義(recursive definition, inductive definition)というものが行われるのです。
場合によっては\(n\)番目がその前の\(k\)個の対象に依存するときもあります。
このときには、\(1\)番目から\(k\)番目までの対象を予め与えておけば、\(n\geq k + 1\) に対して\(n\)番目の対象が順次決まっていきます。

例. 条件\(a_n= a_n−1 + a_n−2\)を満たす数列\(a_1, a_2,\cdots\)を考えます。
これは対象\(a_n\)の帰納的定義と考えられます。
数列を帰納的に定める式を漸化式(recurrence formula, recurrence relation)ともいいます。
例えば\(a_1 =a_2 =1\)とすれば,数列\(1,1,2,3,5,8,\cdots\)が得られます。
この数列はフィボナッチ数列とよばれます。

例 帰納的定義の例として,ゼノンの「アキレスと亀」のパラドックスに関係するプロセスを考え よう.

要するに、平たく言えば「前と同じプロセスを行う」という状況には数学的帰納法が使える、という話です。

高校数学から数学的帰納法を扱いますが、数学的帰納法についてより詳しくご存じの方は是非コメントで教えて下さい!

今回はシローの定理を証明するための準備として部分集合への作用について解説しました。
これは、冪集合に適切な集合を考えることで作用が定まり、その作用のことを指します。
部分集合への作用はシローの定理を証明するために必要な概念です。

次回は、シローの定理を証明するための準備②として、部分集合への作用の諸性質を解説します。

乞うご期待!
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