本記事の内容
本記事は、軌道、推移的な作用、等質空間、安定化群について解説する記事です。
本記事を読むに当たり、群作用について知っている必要があるため、以下の記事も合わせてご覧ください。
軌道
まずは、例から考えてみます。
まずは例から。
G=SO(2)={Rθ=(cosθ−sinθsinθcosθ)|θ∈R},X=R2
とします。
このとき、Gは行列の積でXに左から作用しています。
R2の要素は(xy)と書きます。
a(>0)∈Rに対して、
(a0)=(acosθasinθ)
です。
ここで、x∈X=R2に対して集合
Gx={gx|g∈G}
という集合を考えます。
このとき、
Gx=SO(2)x={gx|g∈SO(2)}={(cosθ−sinθsinθcosθ)(xy)|θ∈R}={(xcosθ−ysinθxsinθ+ycosθ)|θ∈R}
です。
故に、点(xy)=(a0)は半径aの円上を動きます。

この集合
Gx={gx|g∈G}
をxのGによる軌道といいます。
軌道を数学的に書くと以下です。
軌道
群Gが集合Xに左から作用するとする。x∈Xのとき Gx={gx|g∈G} と書き、xのGによる軌道という。言い換えれば、軌道というのはGの要素で移り合うようなXの要素全体の集合です。
推移的な作用、等質空間
これらについては早速ながら、数学的に説明していまいます。
推移的な作用と等質空間の数学的な説明
推移的な作用、等質空間
群Gが集合Xに左から作用するとする。x∈Xが存在して、Gx=Xとなるとき、この作用は推移的であるという。また、XはGの等質空間という。つまりどういうことですか?(推移的な作用)
推移的な作用を論理式で書くと
(∀p, q∈X) (∃g∈G) s.t. gp=q
ということです。
つまり、推移的な作用を粗く言えば
ということです。
つまりどういうことですか?(等質空間)
また、等質というのは、粗く言えば
ということです。
例えば、円S1={(x,y)∈R2|x2+y2=1}はどの点の周りでも性質が同じです。
というのも、任意のx,y∈S1に対して、回転させることでxをyに移すことができるからです。
群作用の言葉を使えば、SO(2)がS1に推移的に作用している、ということです。
まとめると…
要するに、まとめれば、群が集合に推移的に作用していると、どの点の周りでも性質が等しいので、軌道空間が特別な集合になる、ということになります。
つまり、もとの集合Xを考える代わりに、軌道空間で考えることができる、というわけです。
軌道空間で考えることで、群の性質だったりを使うことができるため、扱う武器が増える、ということになります。
安定化群
軌道を言い換えれば、「Gの要素で移り合うXの要素全体の集合」でした。
1つの軌道に含まれる要素の個数を軌道の長さと言ったりします。
軌道Gxにおいて、g∈GはG全体を動くので、Gxは直感的にはGの要素の同じ数の要素を持ちます。
しかしながら、この中には同じものも含まれていて、実際にはGの要素の数よりも少ないこともあります。
そこで、g,h∈Gに対して、いつgx=hxが成り立つのか?ということを考えます。
gx=hxとすると、
x=1Gx=(g−1g)x=g−1(gx)=g−1(hx)=(g−1h)x
です。
そこで、
Gx={g∈G|gx=x}
として、これをxのGにおける安定化群といいます。
実は、安定化群はGの部分群になります。
それ故、安定化群は安定化部分群と呼ばれたりもします。
安定化群
群Gが集合Xに左から作用するとする。x∈Xのとき、 Gx={g∈G|gx=x} をxの(Gにおける)安定化群という。例
例1.
群GのG自身への左からの席による作用を考えます。
つまり、X=Gとし、g∈G、x∈X=Gに対して、gx∈G=Xをgの要素としての演算とします。
すなわちψ:G×X=G×G∋(g,x)↦ψ(g,x)∈X=Gをψ(g,x)=gxと定めた、ということです。
故に、
- ψ(1G,x)=1Gx=x、
- ψ(g,ψ(h,x))=ψ(g,hx)=ghx=(gh)x=ψ(hg,x)
となるため、ψはGのX=Gへの左作用です。
右からの演算を考えると、GからGへの右作用を得ます。
g∈Gならば、g=g1Gですので、g∈G1Gです。
故に、G=G1Gですのでこの作用は推移的です。
g1G=1Gであれば、g=1Gですので、1Gの安定化群は自明な群、すなわち{1G}です。
例2.
G=GnのX={1,…,n}への作用を考えます。
ただし、Gnは対称群と呼ばれる群でした(詳しくは【代数学の基礎シリーズ】群論編 その1を御覧ください)。
σ=(i n)であれば、σ(n)=iなので、この作用は推移的です。
nの安定化群はH={σ∈Gn|σ(n)=n}です。
σ∈Hはnを普遍にするので、Y={1,…,n−1}の置換を引き起こします。
故に、安定化群GnをGn−1とみなすことが出来ます。
従って、Gn/Gn−1は{1,…,n}と一対一対応します。
諸性質
命題1.
GがXに作用し、x,y∈X、g∈Gでgx=yなら、Gy=Gx、Gy=gGxg−1である。命題1.の証明
h∈Gならhy=hgx∈Gxなので、Gy⊂Gxです。
x=g−1yなので、Gx⊂Gyとものあり、Gx=Gyです。
h∈Gであれば、
h∈Gy⟺hy=y⟺hgx=gx⟺g−1hgx=x⟺g−1hg∈G⟺h∈gGxg−1
です。
従って、Gy=gGxg−1です。
命題1.の証明終わり
系2.
Gが集合Xに作用し、x,y∈XでGx∩Gy≠∅なら、Gy=Gx、Gy≅Gxである。系2.の証明
z∈Gx∩Gyなら、z=g1x=g2yとなるようなg1,g2∈Gが存在します。
y=g−12g1xとなるので、命題1.からGx=Gyです。
g=g−12g1とおくと、Gy=gGxg−1ですが、φ:Gx∋h↦ghg−1∈Gyとすると、h1,h2∈Gxに対して
φ(h1h2)=gh1h2g−1=gh1h2g−1=hg1g−1gh2g−1=φ(h1)φ(h2)
によりφは準同型です。
h↦g−1hgがφの逆写像なので、φは同型写像です。
系2.の証明終わり
系3.
群Gが集合Xに作用するとき、x,y∈XでGx=Gyのときにx∼yとして関係を定める。このときの関係∼はX上の同値関係である。また、この同値関係による剰余類はX上の軌道と一対一対応する。系3.の証明
まずは関係∼が同値関係になることを示しますが、証明するまでもないような感じです。
Gx=Gxなのでx∼xです。
Gx=GyならGy=Gxなのでx∼yならy∼xです。
Gx=Gy、Gy=GzならGx=Gzなのでx∼y、y∼zならx∼zです。
故に∼は同値関係です。
命題1.により、y∼xはy∈Gxと同値です。
故に、xの同値類はGxと一致します。
系3.の証明終わり
同じ軌道に属することが同値関係なので、y∈Gxであるとき、yはこの軌道の代表元であるといいます。
また、各軌道の代表元をちょうど一つずつ含む部分集合を軌道の完全代表系といいます。
皆様のコメントを下さい!
今回はブルバキです。
ニコラ・ブルバキ(Bourbaki)は、1934年にフランスにおいて「数学原論」という著作を刊行するための共同作業に加わった数学者集団のペンネームです。
1939年に最初の巻が出版されて以来、集合論、代数学、実1変数関数論、位相線形空間、積分、リー群とリー環、可換環、スペクトル理論、可微分多様体、解析多様体についての巻が継続的に出版されましたが、現在は「数学原論」の出版については一応終止符を打っています。
しかし、ブルバキセミナーの名のもとに、現在でも最先端の数学について質の高い報告が行われており、セミナーノートの出版が続いています。
初期のブルバキのメンバーは、アンリ・カルタン、クロード・シュヴァレー、ジャン・デルサルト、ジャン・デュドネ、スツオレム・マンデルブロー、ルネ・ド・ボッセル、アンドレ・ヴェイユです。
ブルバキの活動の背景には、ヒルベルトの影響化でドイツにおける数学研究(特に代数学、解析学)が現代化しつつあったことに比べて、フランスが概して古典的な数学に留まっていたことに対する若い世代の不満があったといわれます。
従って,フランスの大学における数学教育の改革が所期の目標でした。
また、数学の諸理論を、1つの「原理」のもとに纏めようという機運は、当時の数学の発展の状況下では自然なことでした。
ブルバキ自身による構造主義に対する考え方は、「数学的建築術」(1948年)という短い著作の中に表明されています。
如何でしたか?
ペンネームで有名な数学者集団もいるのですね。
ここに書かれれいることの他にブルバキについてご存知のことがあれば、ぜひコメントで教えて下さい!
結
今回は、軌道、推移的な作用、等質空間、安定化群について解説しました。
それぞれ
- 軌道:群の要素で移り合うような集合の要素全体。
- 推移的な作用:群の作用によって、集合のどこからどこへでも移れるような作用。
- 等質:どの点の周りでも性質が等しい。
- 安定化群:作用しても不変な群の要素の集合。
です。
次回は推移的な作用と有限群の要素の個数に関する事実を解説します。
乞うご期待!
質問、コメントなどお待ちしております!
どんな些細なことでも構いませんし、「定理〇〇の△△が分からない!」などいただければお答えします!
お問い合わせの内容にもよりますが、ご質問はおおよよ一週間以内にお答えします。
代数についてより詳しく知りたい方は以下を参考にすると良いと思います!
コメントをする
系3の証明終わり、以降に誤字がたくさんあります。
名無し様
ご指摘ありがとうございます。
訂正いたしました。
「プリンストン数学大全」より、軌道、推移的作用などについてモチベーションをわからせようにと書かれています。曰く、「GのXへの作用は、一つの軌道しか持たないとき推移的であるという。言い換えれば、…。作用が推移的でないときは、それぞれの軌道への作用を別々に考えることができ、元の作用を共通部分のない軌道それぞれへの作用に事実上分けることができる。そこで、Gの集合への作用をすべて調べるには、推移的作用のみを調べればよい」(p.469,「作用」の項)
読み取りにくいのです。推移的作用の定義があり、推移的でない場合は、と続く。「作用をすべて調べるには、推移的作用のみを調べればよい」。推移的作用のみ?推移的でない場合は、どうすればいいのか、わかりにくいです。ご教示ください。
naru様
返信が遅れてしまい申し訳ありません。
私はプリンストン数学大全を持ち合わせておりませんので、厳密な解答とはならないかもしれませんが、その点ご了承下さい。
>「作用をすべて調べるには、推移的作用のみを調べればよい」。推移的作用のみ?推移的でない場合は、どうすればいいのか、わかりにくいです。ご教示ください。
というお問い合わせですが、推移的でない場合は、naru様のコメントにあるように「作用が推移的でないときは、それぞれの軌道への作用を別々に考えることができ、元の作用を共通部分のない軌道それぞれへの作用に事実上分けることができる。」ということになります。
この文章を平たく言い換えれば、「推移的でない作用は、推移的な作用の”集まり”としてある種”分解”することができるため、結局は”分解した”個々の推移的な作用を考えれば良い」ということだと思います。
なぜそのようにできるのか?ということの触りをここで解説致します。
Gを群、Xを集合、φ:G×X⟶XをGのXへの左作用とします(右作用も同じように考えることができます)。
このとき、Xに関係∼を以下で定めます。
(∀x,y∈X)x∼y⟺(∃g∈G) s.t. y=gx(=φ(g,x))
この関係∼は同値関係です(簡単に確かめられます)。
このときx∈Xの同値類C(x)は
C(x)={y∈X|y∼x}={y∈X|(∃g) s.t. y=gx}={gx|g∈G}=Gx
となります。
ただし、Gxはx∈XのGによる軌道(空間)です。
すなわち、先程定めた関係∼は同値関係であり、その同値類は軌道(空間)と一致するわけです。
さて、∀a,b∈Gxに対して、Gxは同値関係∼の同値類ですから、a∼bです。
すなわち、
(∃g′∈G) s.t. a=g′b(=φ(g′,b))
が成り立っています。
ここで、推移的な作用とは何だったかというと、
推移的な作用(言い換え。記事内に有り)
群Gが集合Xに左から作用するとする。このとき作用φ:G×X⟶Xが
(∀p,q)(∃g∈G) s.t. q=φ(g,p)
を満たすならば、φは推移的、または作用φは推移的な作用という。
でした。
故に、今考えている作用φは推移的であるということになります。
したがって、平たく言えば、各軌道では作用が推移的になっており、各軌道は同値類であるから、Xをクラス分け(共通部分が存在しない集合の和集合)しています。
そういう意味で、結局の所は各軌道では作用が推移的だから、各軌道で推移的な作用を考える、ということを繰り返せばよいのだ、ということになります。
恐らく、プリンストン数学大全で述べているのはそういうことだと思われます。
軌道をもっと例を挙げて
具体的に説明して頂きたい
名無し様
>軌道をもっと例を挙げて具体的に説明して頂きたい
とのお問い合わせですが、お答えします。
例1.
本記事で挙げた例とほぼ同じですが、SO(3)のR3への作用による軌道空間は同心球面です。
例2.(これは作用の例も含まれますが)
nを正の整数とし、Sを集合とします。
SnをSのn個の直積集合、すなわち
Sn:=S×⋯×S={(s1,…,sn)∣si∈S, i=1,…,n}
とします。
このとき、写像φ:Sn×Sn⟶Smを
(σ,(s1,…,sn))↦σ⋅(s1,…,sn):=(sσ−1(1),…,sσ−1(n))
で定めます。
ただし、Snはn次対称群です。
この写像φは、Sn穰のSnの作用です。
ちなみに
「どうしてσ−1?」と思われたかもしれませんが、σの作用がskをσ(k)に移動させる、と考えればOKです。
例えば、n=6、S={C, E, F, O}とすると、
(123456263541)⋅(C, O, F, F, E, E)=(E, C, F, E, F, O)(123456132456)⋅(C, O, F, F, E, E)=(C, F, O, F, E, E)(123456124365)⋅(C, O, F, F, E, E)=(C, O, F, F, E, E)
ということです。
とどのつまり、n次対称群Snを長さnのSの要素からなる文字列の置換として作用させているということです。
n次二面体群Dnは、n≥3のときDn⊂Snです(二面体群については【代数学の基礎シリーズ】群論編 その12を御覧ください)。
故に、SnのSnへの作用は、DnのSnへの作用も誘導します。
例えば、σ=(1 2 3 4 5 6)∈D6、τ=(2 6)(3 5)∈D6により、
σ⋅(C, O, F, F, E, E)=(E, C, O, F, E, E)τ⋅(C, O, F, F, E, E)=(C, E, E, F, F, O)
などなどです。
さて、この作用D6×S6⟶S6に対して、
e⋅(C, O, F, F, E, E)=(C, O, F, F, E, E)σ⋅(C, O, F, F, E, E)=(E, C, O, F, F, E)σ2⋅(C, O, F, F, E, E)=(E, E, C, O, F, F)σ3⋅(C, O, F, F, E, E)=(F, E, E, C, O, F)σ4⋅(C, O, F, F, E, E)=(F, F, C, E, C, O)σ5⋅(C, O, F, F, E, E)=(O, F, F, E, E, C)τ⋅(C, O, F, F, E, E)=(C, E, E, F, F, O)στ⋅(C, O, F, F, E, E)=(O, C, E, E, F, F)σ2τ⋅(C, O, F, F, E, E)=(F, O, C, E, E, F)σ3τ⋅(C, O, F, F, E, E)=(F, F, O, C, E, E)σ4τ⋅(C, O, F, F, E, E)=(E, F, F, O, C, E)σ5τ⋅(C, O, F, F, E, E)=(E, E, F, F, O, C)
です。
これはC↔O↔F↔F↔E↔Eという順序に並べたアルファベットを何処かの文字から初めて、連続して文字を読んだときに得られる文字列の全体の集合です。
別の言い方をすれば、円順列において、(C, O, F, F, E, E)と同一視されるような順列の全体の集合です。
このとき、軌道空間D6⋅(C, O, F, F, E, E)は
D6⋅(C, O, F, F, E, E)={(X1,…,X6)∣X1↔X2↔X3↔X4↔X5↔X6とC↔O↔F↔F↔E↔Eは同じ順列}
となります。
例3.(具体的、というわけでは無いかもしれませんが)
ざっくりと述べます。
軌道空間は力学系と密接な関係があります。
ここで、力学系とは、「時間」、「状態空間」、「時間発展のルール」の3つ組のことだ、と言えます。
つまり、群(または半群)Gの空間Xへの作用ψ:F×X⟶X, (g,x)↦ψ(g,x)が
ψ(e,x)=x,(∀x∈X)ψ(gh,x)=ψ(h,ψ(g,x))(∀x∈X, ∀g,h∈G)
で与えられると、Gを時間、Xを状態空間、ψを時間発展のルールとするような力学系が定まるといいます。
状態空間の点x∈Xが、ある「状態」を表すとすれば、そのGによる軌道空間Gx={ψ(g,x)∣g∈G}は時間とともに状態がどのように変化するか、ということを表現します。
例えば、時間Gとして加法群Zを取りましょう。この場合、ψe:{e}×X⟶Xという写像を考えると、軌道は
Gx=Zx={ψke(e,x)|k∈Z}
となり、状態xの時間k後の状態がψke(e,x)です。
ただし、ψke(e,x)はψe(e,x)のk回の合成写像です。
時間がRであり、ψが連続写像であれば、軌道はRの連続写像による像、すなわち曲線となります。