本記事の内容
本記事は正規行列の対角化について解説する記事です。
本記事を読むにあたり、行列の対角化について知っている必要があるため、以下の記事も合わせてご覧ください。
何すんの今回?
前回、行列の対角化について解説しましたが、どんな行列も対角化できるわけではありませんでした。
対角化できる行列Aの条件の1つとして、Aが相異なる固有値を持つことがありました。
そして、Aの各固有値に属する固有ベクトルを並べて得られる行列Pによって
B=P−1AP
を計算すると、Bの対角成分がAの固有値となるような対角行列Bに変形できるのでした。
今回は、特別な行列は特別な行列でもって対角化できる、ということについて話します。
実対称行列、エルミート行列のチャラい復習とエルミート内積
実対称行列とエルミート行列のチャラい復習
もうすでに実対称行列とエルミート行列については解説していますので、チャラく復習します。
対称行列、エルミート行列
Aをn次複素正方行列とする。- 対称行列 A⊤=Aを満たすとき、Aを対称行列という。
- エルミート行列 A∗=ˉA⊤とするとき、A∗=Aを満たす行列Aをエルミート行列という。
- 実対称行列 実数を成分とする対称行列を実対称行列という。
- 歪エルミート行列 A∗=−Aを満たすとき、Aを歪(わい)エルミート行列という。
復習と言っておきながら新しい行列も出てきていますが、難しい話ではないので、ここで定めてしまいました。
歪エルミート行列はちょっとだけ歪んだエルミート行列で、共役をとって転置したときの行列が自身と異符号な行列のことです。
エルミート内積
内積は高校数学で学習していましたが、あくまで実数の範囲であって、「ベクトルの成分同士をかけて和をとるんだぜ〜」ということくらいしか述べられていません。
ここでは複素数の範囲で、内積というものを厳密に定めることにします。
エルミート内積
C上の線型空間Vにおいて、任意の2つのベクトルa,bに対して、複素数(a,b)が定まり、次の1.〜4.を満たすとき、(a,b)をaとbのエルミート内積または単に内積という。- (a,b)=¯(b,a)(¯ は共役複素数を表す。)
- (a+c)=(a,c)+(b,c), (a,b+c)=(a,b)+(a,c)
- (ka,b)=k(a,b), (a,kb)=¯k(a,b)
- (a,a)は実数であり、(a,a)≥0である。また、(a,a)=0⇔a=0
エルミート内積において、a,b,cの要素がすべて実数であって、かつk∈Rであるときには、実数の範囲での内積となります。
我々がすでに知っている「ベクトルの各成分同士をかけて、和を取る」という内積はしっかり上記を満たしています。
実際、
(a,b)=n∑i=1aibi
として確かめられます。
標準的なエルミート内積
Cnのn項数線型空間Cnの2つのベクトル a=(a1⋮an),b=(b1⋮bn) に対して、 (a,b)=a1¯b1+⋯+an¯bn=¯b⊤a=a⊤¯b とすると、( , )はエルミート内積である。この内積のことをCnの標準的なエルミート内積または自然なエルミート内積という。また、√(a,a)をaの大きさといい、|a|で表す。これからも分かる通り、内積というのは1つしか無いわけではなくて、沢山定め方があります。
そのうち、最も基本的な定め方をしたエルミート内積を標準的なエルミート内積と呼ぼうぜ、という話です。
余談(内積)
よく知っている内積の性質として、|a|=a⊤aというものがあります。これは、aの大きさを表しているわけですが、内積は大きさを定める概念でもある、ということになります。
先の通り、内積というのは1つしか存在しないわけではなくて、たくさんあります。
異なる内積同士のイメージを言うと、「計るモノサシを変えている」ということです。
要するに、「ある対象を内積①で定める大きさで計るとと2cm、内積②で定める大きさで計ると10m」というような具合です。
エルミート行列の固有値
では、エルミート行列の固有値について観察してみます。
エルミート行列の固有値はすべて実数です。
エルミート行列の成分は複素数です。
通常、複素行列の固有値は複素数なのですが、エルミート行列の固有値はなんとびっくり、実数なのです。
定理1.
エルミート行列、特に、実対称行列の固有値はすべて実数である。定理1.の証明
n次のエルミート行列Aの固有値の1つをλとして、λに属する固有ベクトルをx∈Cnとしましょう。
すなわち、
Ax=λx(x≠0)
とします。
このとき、Cnの標準的なエルミート内積( , )に関して、
(Ax,x)=(λx,x)=λ(x,x)
となります。
ここで、次の事実を使います。
補題2.
n次正方行列Aの随伴行列A∗=¯A⊤は以下を満たす。 (Ax,y)=(x,A∗y)(x,y∈Cn)補題2.の証明
簡単です。
A∗∗=Aに注意すると、
(左辺)=y∗(Ax)=(y∗A)x=(y∗A∗∗)x=(A∗y)∗x=(右辺)
となるからです。
補題2.の証明終わり
さて、今、A∗=Aだったことに注意して補題2.を使うと
(Ax,x)=(x,A∗x)=(x,Ax)=(x,λx)=¯λ(x,x)
です。
ここで、(Ax,x=λ(x,x))だったことを思い出すと、
λ(x,x)=¯λ(x,y)
です。
さて、xはAの固有ベクトルだったのでx≠0です。
エルミート行列において、x≠0に対して(x,x)>0だったわけですので、
λ=¯λ
となります。
つまり、共役をとっても値が変わらないので、λ∈Rです。
従って、 エルミート行列の固有値は実数です。
定理1.の証明終わり
本当にエルミート行列の固有値は実数なのけ?
実際に確かめてみましょう。
例3.虚数単位をi、A=(0i1−i0−i1i1)とすると、A∗=Aですので、エルミート行列です。
Aの固有多項式φA(t)は
φA(t)=|−ti1−i−t−i1i1−t|=t2(1−t)−i2−i2−(−t)−i2t+i2(1−t)
です。
※ちなみにこの場合は行基本変形、列基本変形よりもサラスの公式一発で計算してしまったほうが楽ちんだと思います。
従って、固有方程式φA(t)=0の解は
φA(t)=0⇔t2(1−t)−i2−i2−(−t)−i2t+i2(1−t)=0⇔t2−t3+1+1+t+t−(1−t)=0⇔t3−t2−3t−1=0⇔(t+1)(t2−2t−1)=0
となるので、t=−1,1+√2,1−√2となって、固有値はすべて実数です。
そこで、λ1=−1,λ2=1+√2,λ3=1−√2とします。
エルミート行列の相異なる固有値に属する固有ベクトルは直交します。
そうなんです。
直交するんです。
つまり内積=0なのです。
定理4.
エルミート行列、特に実対称行列の相異なる固有値に属する固有ベクトルは互いに直交する。定理4.の証明
エルミート行列Aの相異なる固有値をλ,μとして、それぞれに属する固有ベクトルをx,yとしましょう。
すなわち、
Ax=λx,Ay=μy(x,y≠0)
とします。
このとき、
(Ax,y)=(λx,y)=λ(x,y)
となります。
一方で、仮定からAはエルミート行列なので、A∗=Aですから、補題2.を用いて
(Ax,y)=(x,A∗y)=(x,Ay)=(x,μy)=¯μ(x,y)
です。
定理1.からエルミート行列の固有値は実数ですので、μ=¯μだから、
λ(x,y)=μ(x,y)
となります。
従って、
(λ−μ)(x,y)=0
です。
ところが、λとμは相異なっているので、λ≠μです。
故に、
(x,y)=0
となります。
定理4.の証明終わり
本当にエルミート行列の相異なる固有値に属する固有ベクトルは直交すんのけ?
例3.の固有ベクトルが直交するのかについて実際に計算してみます。
(λ1=−1のときの固有ベクトル)
(1i1−i1−i1i2)(xyz)=0
を解くと、x+iy+z=0かつz=0が導けるので、x+iy=0という関係式が得られます。
従って、y=c1とすると、x=−ic1となります。
故に固有ベクトルx′1は
x′1=c1(−i10)
です。
そこでc1=1の場合をx1とします。
つまり、
x1=(−i10)
とします。
(λ2=1+√2のときの固有ベクトル)
(−1−√2i1−i−1−√2−i1i−√2)(xyz)=0
の解は、
{x+iy−√2z=0√2y+iz=0
の解ですので、
z=√2c2とすると、y=−ic2となります。
故にx−i2c2−2c2=0により、x=c2となります。
従って固有ベクトルx′2は
x′2=c2(1−i√2)
です。
そこでc2=1の場合をx2とします。
つまり、
x2=(1−i√2)
とします。
(λ3=1−√2のときの固有ベクトル)
(−1+√2i1−i−1+√2−i1i√2)(xyz)=0
の解は、
{x+iy+√2z=0−√2y+iz=0
の解ですので、
y=c3とすると、z=√2iy=i2√2ic3=−√2ic3となります。
故にx−ic3−2ic3=0により、x=ic3となります。
従って固有ベクトルx′3は
x′3=c3(i1−√2i)
です。
そこでc3=1の場合をx3とします。
つまり、
x3=(i1−√2i)
とします。
では、内積(x1,x2)、(x2,x3)、(x3,x1)を計算してみます。
(x1,x2)=x⊤1¯x2=−i+i+0=0(x2,x3)=x⊤2¯x3=−i−i+2i=0(x1,x3)=x⊤1¯x3=(−i)2+1=0
となって、直交します。
実対称行列は直交行列で対角化できます。
与えられた行列が実対称行列だったらば、直交行列でもって対角化ができます。
どういうことか、というと、Aが実対称行列であれば、ある直交行列Pが存在してB=P−1APが対角行列となる、というわけです。
「なぜ?」というと実は理由はシンプルで、B=P−1APとなるようなPは固有ベクトルを並べた行列として取れるのでした。
今、エルミート行列、特に実対称行列の相異なる固有値に属する固有ベクトルは直交するので、その固有ベクトルを並べてできた行列Pは直交行列になるからです。
直交行列のチャラい復習
チャラくユニタリ行列と直交行列を復習します。
ユニタリ行列、直交行列
m∈Nとし、Aをm次正方行列(すなわち(m,m)型の行列)とする。 このとき、 AA∗=A∗A=Im が成り立つならば、Aをユニタリ(ユニタリー、ユニタリ)行列という。特に、Aが実行列であれば、¯A=Aにより、先の条件は AA⊤=A⊤A=Im となる。このときAは直交行列とよばれる。なぜ”直交”行列と呼ばれるのか、については【線型代数学の基礎シリーズ】行列編 その4を御覧ください。
「くどいなぁ」と思うかもしれませんが、どんなのがユニタリ行列か、どんなの直交行列か、という例を挙げます。
とはいえ、ユニタリ行列については例3.の相異なる固有値に属する固有ベクトルを大きさが1になるように調節して並べてできた行列がユニタリ行列です。
例3.において、
|x1|=√2,|x2|=2,|x3|=2
ですので、
P=(1√2x1 12x2 12x3)=(−i√212i21√2−i2120√22−√22i)
としたとき、
P∗=(i√21√2012i2√22−i212√22i)
ですので、
P∗P=(−i√212i21√2−i2120√22−√22i)(i√21√2012i2√22−i212√22i)=(−i22+12+0i2√2−i2√2+0i22√2+12√2+0−i2√2+i2√2+014−i24+24i4+i4−24ii22√2+12√2+0−i4−i4+24i−i24+14−24i2)=(100010001)=I3
です。
また、
PP∗=(i√21√2012i2√22−i212√22i)(−i√212i21√2−i2120√22−√22i)=(−i22+12+0i2√2−i2√2+0i22√2+12√2+0−i2√2+i2√2+014−i24+24i4+i4−24ii22√2+12√2+0−i4−i4+24i−i24+14−24i2)=(100010001)=I3
となって、ユニタリ行列です。
例5.(直交行列の例) C=(1√21√2−1√21√2)は直交行列です。
実際、
CC⊤=(12+12−12+12−12+1212+12)=(1001)=I2,C⊤C=(12+1212−1212−1212+12)=(1001)=I2
となるからです。
実対称行列は直交行列で対角化可能です。
定理6.
n次実正方行列Aに対して、次の2つの条件は同値である。- Aは対称行列である。
- Aは適当な直交行列Pによって対角化できる。 すなわち、 P−1AP=(λ1O⋱Oλn) である。
定理6.の証明
(1.⇒2.)
Aをn次実対称行列とします。
Aは複素数の範囲では、重複を込めてn個の固有値λ1,…,λnを常に持ちます(代数学の基本定理から)。
また、Aは対称行列なので、定理1.からλ1,…,λnはすべて実数です。
ここで、次の事実を使います。
定理7.(固有値と三角化)
n次正方行列Aが、重複も含めてn個の固有値λ1,…,λnをもつとき(すなわち、φA(t)=(λ1−t)⋯(λn−t)となるとき)、Aは適当な正則行列Pによって次の形に三角化される。 P−1AP=(λ1∗λ2⋱Oλn)定理7.の証明は【線型代数学の基礎シリーズ】固有値編 その3を御覧ください。
さて、定理7.からある直交行列Pが存在して、
P−1AP=(λ1∗λ2⋱Oλn)
と三角化できます。
今、Pは直交行列なので、PP⊤=P⊤P=Inを満たすから、Pの逆行列P−1はP−1=P⊤です。
さらに、Aは実対称行列なので、A⊤=Aです。
従って、
(P−1AP)⊤=(P⊤AP)⊤=P⊤A⊤(P⊤)⊤=P⊤A⊤P=P−1AP
を満たすので、三角行列P−1APも対称行列です。
すなわち、
(λ1∗λ2⋱Oλn)⊤=(λ1∗λ2⋱Oλn)
ということになります。
これは、
(λ1∗λ2⋱Oλn)⊤=(λ1Oλ2⋱∗λn)
なので、
(λ1Oλ2⋱∗λn)=(λ1∗λ2⋱Oλn)
ということになります。
従って、*の部分はすべて0ということになります。
故に、
P−1AP=(λ1Oλ2⋱Oλn)
となるから、Aは直交行列Pによって対角化できます。
(2.⇒1.の証明)
Aが直交行列Pによって
P−1AP=(λ1Oλ2⋱Oλn)
と対角化できるとします。
対角行列なので、対角成分以外はすべて0ですから、対称行列です。
故に(P−1AP)⊤=P−1APです。
一方で、Pは直交行列だったので、P−1=P⊤です。
故に、
(P−1AP)⊤=(P⊤AP)⊤=P⊤A⊤(P⊤)⊤=P⊤A⊤P=P−1A⊤P
です。
従って、
P−1AP=P−1A⊤P
です。
この様式に左からPを、右からP−1をかけると、
P−1AP=P−1A⊤P⇔PP−1APP−1=PP−1A⊤PP−1⇔A=A⊤
によりA=A⊤が得られて、Aが対称行列であることが示されました。
定理6.の証明終わり
いっちょ計算してみっか。
してみましょう。
例8. A=(0010−10100)を直交行列でもって対角化してみます。
AはA⊤=Aですので、対称行列です。
Aの固有値は
|A−tI3|=|−t010−1−t010−t|=−(t−1)(t+1)2
により、1,−1(−1の重複度は2)です。
次に、固有値λ1=1,λ2=−1に属する固有空間V(1)およびV(−1)を求めます。
(λ1=1に属する固有空間V(1))
(−1010−2010−1)(xyz)=(−x+z−2yx−z)=(000)
つまり、x=zかつy=0なので、
V(1)={c(101)|cは任意}
です。
(λ2=−1に属する固有空間V(−1))
(−101000101)(xyz)=(x+z0x+z)=(000)
つまり、x+z=0かつyは任意です。
従って、
V(−1)={c1(010)+c2(10−1)|c1,c2は任意}
です。
ここで、「yは任意なのだから
V(−1)={c(11−1)|cは任意}
でもいいじゃないの?」と思うかもしれませんが、これではダメなんです。
なぜかというと、上記のようにしてしまうと、x=yという条件が追加されてしまって、yが任意ではなくなってしまうからです。
さて、以上の固有ベクトルの集合から、大きさが1で、かつ直交するような基底を選んで並べます。
ここで、Aは対称行列なので、相異なる固有値の固有ベクトルは直交しています(計算してもすぐ分かります)。
つまり、
a1=(101),a2=(010),a3=(10−1)
としたとき、a1とa2、a1とa3は互いに直交しています。
今回は、a2とa3も直交しています。
※直交しない場合もありますので、その際は次回の記事で解説するシュミットの直交化法を使います。
従って、長さのみ調節すればOKです。
|a1|=√2,|a2|=1,|a3|=√2
ですので、新たに
v1=1√2a1=1√2(101),v2=a2=(010),v3=1√2a3=1√2(10−1)
とします。
そして、これらを列ベクトルに持つ行列
P=(1√201√20101√20−1√2)
は直交行列です(実際に計算してみると分かります)。
そして、Pは直交行列なので、P−1=P⊤ですから
P−1=(1√201√20101√20−1√2)
です。
以上により、
P−1AP=(1√201√20101√20−1√2)(0010−10100)(1√201√20101√20−1√2)=(1000−1000−1)
として、対角化できました(途中計算は省略しましたが、順々に計算すればOKです)。
エルミート行列のユニタリ行列による対角化
先程は実対称行列を直交行列で対角化する、という話をしました。
今回はその複素数バージョンです。
この記事を読んでいただければ、
- 実対称行列↔エルミート行列
- 直交行列↔ユニタリ行列
というように対応していることが分かると思います。
というより、エルミート行列の成分がすべて実数であれば、実対称行列と言って、ユニタリ行列の成分がすべて実数であれば、直交行列という、という話でした。
エルミート行列はユニタリ行列で対角化可能です。
以下は定理6.の複素数バージョンです。
定理9.
n次複素正方行列Aに対して、次の2つの条件は同値である。- Aはエルミート行列である。
- Aは適当なユニタリ行列Uによって対角成分が実数からなる行列に対角化できる。 すなわち、 U−1AU=(λ1O⋱Oλn)(λ1,…,λn∈R) である。
この定理9.の証明は定理6.の証明において、直交行列Pをユニタリ行列Uに置き換えて、転置行列の代わりに随伴行列を取れば同じく証明できますので、省略します(同じことを二度書くというのも読みにくいですしね)。
いっちょ計算してみっか
してみましょう。
例10. 虚数単位をi、A=(1i0−i01011)とすると、A∗=Aですので、エルミート行列です。
このとき、Aの固有値は、
|A−tI3|=|1−ti0−i−t1011−t|=−(t−1)(t+1)(t−2)
により1,−1,2です。
次にこれらに属する固有空間V(1),V(−1),V(2)を求めます。
(固有値が1のとき)
(0i0−i−11010)(xyz)=(iy−ix−y+zy)=(000)
つまり、y=0かつ-ix-y+z=0なので、
V(1)=\left\{ c\left( \begin{array}{c} 1\\ 0\\ i\\ \end{array} \right)\middle|cは任意 \right\}
です。
(固有値が-1のとき)
\begin{pmatrix} 2&i&0\\ -i&1&1\\ 0&1&2 \end{pmatrix} \left( \begin{array}{c} x\\ y\\ z\\ \end{array} \right) = \left( \begin{array}{c} 2x+iy\\ -ix+y+z\\ y+2z\\ \end{array} \right) = \left( \begin{array}{c} 0\\ 0\\ 0\\ \end{array} \right)
つまり、2x+iy=0かつ-ix+y+z=0かつy+2z=0なので、
V(-1)=\left\{ c\left( \begin{array}{c} 1\\ 2i\\ -i\\ \end{array} \right)\middle|cは任意 \right\}
です。
(固有値が2のとき)
\begin{pmatrix} -1&i&0\\ -i&-2&1\\ 0&1&-1 \end{pmatrix} \left( \begin{array}{c} x\\ y\\ z\\ \end{array} \right) = \left( \begin{array}{c} -x+iy\\ -ix-2y+z\\ y-z\\ \end{array} \right) = \left( \begin{array}{c} 0\\ 0\\ 0\\ \end{array} \right)
つまり、-x+iy=0かつ-ix-2y+z=0かつy-z=0なので、
V(2)=\left\{ c\left( \begin{array}{c} 1\\ -i\\ -i\\ \end{array} \right)\middle|cは任意 \right\}
です。
次に、V(1),V(-1),V(2)からそれぞれ基底を選んで
\boldsymbol{a}_1= \left( \begin{array}{c} 1\\ 0\\ i\\ \end{array} \right),\quad \boldsymbol{a}_2= \left( \begin{array}{c} 1\\ 2i\\ -i\\ \end{array} \right),\quad \boldsymbol{a}_3= \left( \begin{array}{c} 1\\ -i\\ -i\\ \end{array} \right)
とします。
今回は固有値がすべて相異なるので、定理4.から\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\boldsymbol{a}_3は直交しています。
故に、大きさを調節します。
|\boldsymbol{a}_1|=\sqrt{2},\quad |\boldsymbol{a}_2|=\sqrt{6},\quad |\boldsymbol{a}_3|=\sqrt{3}
となるので、新たに
\boldsymbol{v}_1= \frac{1}{\sqrt{2}}\boldsymbol{a}_1= \frac{1}{\sqrt{2}}\left( \begin{array}{c} 1\\ 0\\ i\\ \end{array} \right),\quad \boldsymbol{v}_2=\frac{1}{\sqrt{6}}\boldsymbol{a}_2= \frac{1}{\sqrt{6}}\left( \begin{array}{c} 1\\ 2i\\ -i\\ \end{array} \right),\quad \boldsymbol{v}_3= \frac{1}{\sqrt{3}}\boldsymbol{a}_3= \frac{1}{\sqrt{3}}\left( \begin{array}{c} 1\\ -i\\ -i\\ \end{array} \right)
とします。
そして、これらを列ベクトルに持つ行列
U= \begin{pmatrix} \displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}}&\displaystyle\frac{1}{\sqrt{6}}&\displaystyle\frac{1}{\sqrt{3}}\\ 0&\displaystyle\frac{2i}{\sqrt{6}}&\displaystyle-\frac{i}{\sqrt{3}}\\ \displaystyle\frac{i}{\sqrt{2}}&\displaystyle-\frac{i}{\sqrt{6}}&\displaystyle-\frac{i}{\sqrt{3}} \end{pmatrix}
はユニタリ行列です(実際に計算してみると分かります)。
Uはユニタリ行列なので、U^{-1}=U^*ですから
U^{-1}= \begin{pmatrix} \displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}}&0&\displaystyle-\frac{i}{\sqrt{2}}\\ \displaystyle\frac{1}{\sqrt{6}}&\displaystyle-\frac{2i}{\sqrt{6}}&\displaystyle\frac{i}{\sqrt{6}}\\ \displaystyle\frac{1}{\sqrt{3}}&\displaystyle\frac{i}{\sqrt{3}}&\displaystyle\frac{i}{\sqrt{3}} \end{pmatrix}
となります。
従って
\begin{eqnarray} U^{-1}AU&=& \begin{pmatrix} \displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}}&0&\displaystyle-\frac{i}{\sqrt{2}}\\ \displaystyle\frac{1}{\sqrt{6}}&\displaystyle-\frac{2i}{\sqrt{6}}&\displaystyle\frac{i}{\sqrt{6}}\\ \displaystyle\frac{1}{\sqrt{3}}&\displaystyle\frac{i}{\sqrt{3}}&\displaystyle\frac{i}{\sqrt{3}} \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 1&i&0\\ -i&0&1\\ 0&1&1 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} \displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}}&\displaystyle\frac{1}{\sqrt{6}}&\displaystyle\frac{1}{\sqrt{3}}\\ 0&\displaystyle\frac{2i}{\sqrt{6}}&\displaystyle-\frac{i}{\sqrt{3}}\\ \displaystyle\frac{i}{\sqrt{2}}&\displaystyle-\frac{i}{\sqrt{6}}&\displaystyle-\frac{i}{\sqrt{3}} \end{pmatrix}\\ &=& \begin{pmatrix} 1&0&0\\ 0&-1&0\\ 0&0&2 \end{pmatrix} \end{eqnarray}
となって、対角化完了です(途中計算は省略しましたが、順々に計算していけばOKです)。
ユニタリ行列によって対角化できるための必要十分条件
今までの話は、複素行列Aがユニタリ行列によって対角成分が実数であるような行列に対角化できる必要十分条件を与える、という話でした。
今回は、一般に行列Aがユニタリ行列によって対角化できる必要十分条件を与えることにします。
まず、正規行列というものを説明します。
正規行列
正規行列
n次正方行列Aが A^*A=A^*A を満たすときに、Aを正規行列という。正規行列というのは、自身の随伴行列との積が可換であるような行列ということです。
見ていただければ分かるかと思いますが、ユニタリ行列、直交行列、エルミート行列、実対称行列、歪エルミート行列はすべて正規行列です。
勿論、他にもあります。
例えば、\displaystyle \begin{pmatrix} 2&0\\ 0&i \end{pmatrix} も正規行列です。
Aがユニタリ行列によって対角化されることの必要十分条件はAが正規行列であることです。
そうなんです。
実は、今までのエルミート行列やらの対角化はすべて正規行列の対角化に集約されます。
定理11.
n次複素正方行列Aに対して、以下が成り立つ。定理11.の証明
①”\Leftarrow”の証明
Aがユニタリ行列Uによって対角化されたとしましょう。
このとき、
T=U^{-1}AU
をその対角化として、Tが対角行列だとします。
このとき、Uはユニタリ行列ですので、UU^*=U^*U=I_nですから、U^{-1}=U^*です。
従って、T=U^*AUです。
また、
T^*=U^*A^*\left(U^* \right)^*=U^*A^*U
です。
Tは対角行列だったので、転置をして共役を取ったT^*もまた対角行列です。
従って、TT^*=T^*Tが成り立ちます。
ここに先程の式を代入して、
TT^*=T^*T\Leftrightarrow \left( U^*AU\right)\left( U^*A^*U\right)=\left( U^*A^*U\right)\left( U^*AU\right)
となります。
ここで、Uがユニタリ行列だったことを思い出すと、UU^*=U^*U=I_nなのですから、
U^*AA^*U=U^*A^*AU
という式を得ます。
再度Uがユニタリ行列であることから、Uには逆行列U^*が存在するので、この等式に左からU、右からU^*をかけることによって、
\begin{eqnarray} U^*AA^*U=U^*A^*AU&\Leftrightarrow&UU^*AA^*UU^*=UU^*A^*AUU^*\\ &\Leftrightarrow&I_nAA^*I_n=I_nA^*AI_n\\ &\Leftrightarrow&AA^*=A^*A \end{eqnarray}
となるので、Aは正規行列です。
②”\Rightarrow”の証明
Aを正規行列として、まず、以下の定理を使います。
定理12.
n次複素正方行列Aに対して、適当な正則行列Pを取れば、P^{-1}APは三角行列となる。すなわち、 P^{-1}AP= \begin{pmatrix} \lambda_1&&&\huge{*}\\ &\lambda_2&&\\ &&\ddots&\\ \huge{O}&&&\lambda_n \end{pmatrix} である。Pとしてユニタリ行列をとることもできる。定理12.の証明は【線型代数学の基礎シリーズ】固有値編 その3を御覧ください。
さて、定理12.から、一般に行列Aはあるユニタリ行列Uによって
B=U^{-1}AU=U^*AU= \begin{pmatrix} b_{11}&b_{12}&\cdots&b_{1n}\\ &b_{22}&&\vdots\\ &&\ddots&\vdots\\ \huge{O}&&&b_{nn} \end{pmatrix}
と三角化されます。
このとき、
B^*=U^*A^*U= \begin{pmatrix} \overline{b_{11}}&&&\huge{O}\\ \overline{b_{12}}&\overline{b_{22}}&&\\ \vdots&&\ddots&\\ \overline{b_{1n}}&\cdots&\cdots&\overline{b_{nn}} \end{pmatrix}
で、Aが正規行列で、Uがユニタリ行列だから、
\begin{eqnarray} B^*B&=&\left( U^*A^*U\right)\left( U^*AU\right)\\ &=&U^*A^*\left(UU^*\right)AU\\ &=&U^*AA^*U\\ &=&U^*A\left(UU^*\right)A^*U\\ &=&\left( U^*AU\right)\left( U^*A^*U\right)=BB^* \end{eqnarray}
となるため、Bもまた正規行列です。
ここで、BB^*=B^*Bという等式において、(1,1)成分に注目してみます。
\begin{eqnarray} BB^*&=& \begin{pmatrix} b_{11}&b_{12}&\cdots&b_{1n}\\ &b_{22}&&\vdots\\ &&\ddots&\vdots\\ \huge{O}&&&b_{nn} \end{pmatrix} \begin{pmatrix} \overline{b_{11}}&&&\huge{O}\\ \overline{b_{12}}&\overline{b_{22}}&&\\ \vdots&&\ddots&\\ \overline{b_{1n}}&\cdots&\cdots&\overline{b_{nn}} \end{pmatrix}\\ B^*B&=& \begin{pmatrix} \overline{b_{11}}&&&\huge{O}\\ \overline{b_{12}}&\overline{b_{22}}&&\\ \vdots&&\ddots&\\ \overline{b_{1n}}&\cdots&\cdots&\overline{b_{nn}} \end{pmatrix} \begin{pmatrix} b_{11}&b_{12}&\cdots&b_{1n}\\ &b_{22}&&\vdots\\ &&\ddots&\vdots\\ \huge{O}&&&b_{nn} \end{pmatrix} \end{eqnarray}
により、BB^*の(1,1)成分は
であり、B^*Bの(1,1)成分は
であるので、
b_{11}\overline{b_{11}}=b_{11}\overline{b_{11}}+b_{12}\overline{b_{12}}+\cdots+b_{1n}\overline{b_{1n}}
を得ます。
故に、
b_{12}\overline{b_{12}}+\cdots+b_{1n}\overline{b_{1n}}=0
です。
ここで、b_{1i}\overline{b_{1i}}は複素数b_{1i}の大きさの2乗|b_{1i}|^2を表すので、b_{1i}\overline{b_{1i}}\geq0です。
従って、b_{12}\overline{b_{12}}+\cdots+b_{1n}\overline{b_{1n}}=0を満たすためには、
b_{12}=b_{13}=\cdots=b_{1n}=0
でなければなりません。
同様にして、順番に(i,i)成分を比べることで、
b_{i\ i+1}=b_{i\ i+2}=\cdots=b_{in}=0
を得ます。
すなわち、任意のi=1,2,\dots,nに対してBの(i,i)成分以外はすべて0ということになります。
従って、Bは対角行列です。
定理12.の証明終わり
いっちょ計算してみっか。
してみましょう。
例13. \displaystyle A= \begin{pmatrix} -1-4i&-2i\\ 2i&-1-4i \end{pmatrix} が正規行列であることを示し、さらにユニタリ行列で対角化してみます。
まず、\displaystyle A^*= \begin{pmatrix} -1+4i&-2i\\ 2i&-1+4i \end{pmatrix} ですので、
\begin{eqnarray} AA^*&=& \begin{pmatrix} -1-4i&-2i\\ 2i&-1-4i \end{pmatrix} \begin{pmatrix} -1+4i&-2i\\ 2i&-1+4i \end{pmatrix}= \begin{pmatrix} 21&4i\\ -4i&21 \end{pmatrix}\\ A^*A&=& \begin{pmatrix} -1+4i&-2i\\ 2i&-1+4i \end{pmatrix} \begin{pmatrix} -1-4i&-2i\\ 2i&-1-4i \end{pmatrix}= \begin{pmatrix} 21&4i\\ -4i&21 \end{pmatrix} \end{eqnarray}
となるから、Aは正規行列です(真正直に計算を頑張ります)。
さて、Aが正規行列なので、先程示した定理12.から、ユニタリ行列で対角化可能です。
そこで、Aの固有値を求めます。
Aの固有多項式\varphi_A(t)は
\varphi_A(t)= \left| \begin{array}{c} -1-4i-t&-2i\\ 2i&-1-4i-t \end{array} \right|=t^2+(2+8i)t+(-19+8i)
なので、固有方程式\varphi_A(t)=0の解は1-4i,-3-4iとなります。
従って、固有値は1-4i,-3-4iです。
各固有値に属する固有ベクトルを求めてみます。
(固有値1-4iに属する固有ベクトル)
\begin{eqnarray} \begin{pmatrix} -1-4i-1+4i&-2i\\ 2i&-1-4i-1+4i \end{pmatrix} \left( \begin{array}{c} x\\ y \end{array} \right) &=& \begin{pmatrix} -2&-2i\\ 2i&-2 \end{pmatrix} \left( \begin{array}{c} x\\ y \end{array} \right)\\ &=& \left( \begin{array}{c} -2x-2iy\\ 2ix-2y \end{array} \right)= \left( \begin{array}{c} 0\\ 0 \end{array} \right) \end{eqnarray}
により、y=ixなので、x=1とするとy=iです。
従って、固有ベクトルの1つとして\displaystyle \left( \begin{array}{c} 1\\ i \end{array} \right)が得られます。
(固有値3-4iに属する固有ベクトル)
\begin{eqnarray} \begin{pmatrix} -1-4i+3+4i&-2i\\ 2i&-1-4i+3+4i \end{pmatrix} \left( \begin{array}{c} x\\ y \end{array} \right) &=& \begin{pmatrix} 2&-2i\\ 2i&2 \end{pmatrix} \left( \begin{array}{c} x\\ y \end{array} \right)\\ &=& \left( \begin{array}{c} 2x-2iy\\ 2ix+2y \end{array} \right)= \left( \begin{array}{c} 0\\ 0 \end{array} \right) \end{eqnarray}
により、x=iyなので、x=iとするとy=1です。
従って、固有ベクトルの1つとして\displaystyle \left( \begin{array}{c} i\\ 1 \end{array} \right)が得られます。
各固有値に属する固有ベクトルは直交しています。
実際、
\left( \left( \begin{array}{c} 1\\ i \end{array} \right), \left( \begin{array}{c} i\\ 1 \end{array} \right)\right) =-i+i=0
です。
そこで、大きさを調整します。
双方とも大きさは\sqrt{2}ですので、
\boldsymbol{u}_1= \frac{1}{\sqrt{2}}\left( \begin{array}{c} 1\\ i \end{array} \right),\quad \boldsymbol{u}_2=\frac{1}{\sqrt{2}} \left( \begin{array}{c} i\\ 1 \end{array} \right)
として、
U= \begin{pmatrix} \displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}}&\displaystyle\frac{i}{\sqrt{2}}\\ \displaystyle\frac{i}{\sqrt{2}}&\displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}} \end{pmatrix}
とすると、Uはユニタリ行列です(計算すると分かります)。
従ってU^*がUの逆行列ですので、
\begin{eqnarray} U^*AU&=& \begin{pmatrix} \displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}}&\displaystyle-\frac{i}{\sqrt{2}}\\ \displaystyle-\frac{i}{\sqrt{2}}&\displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}} \end{pmatrix} \begin{pmatrix} -1-4i&-2i\\ 2i&-1-4i \end{pmatrix} \begin{pmatrix} \displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}}&\displaystyle\frac{i}{\sqrt{2}}\\ \displaystyle\frac{i}{\sqrt{2}}&\displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}} \end{pmatrix}\\ &=& \begin{pmatrix} -1-4i&0\\ 0&-3-4i \end{pmatrix} \end{eqnarray}
となって、対角化完了です。
途中計算は省略しましたが、真正直に頑張って計算すると導けます。
結
今回は、実対称行列は直交行列で対角化できること、エルミート行列はユニタリ行列で対角化できること、ユニタリ行列によって対角化できるための必要十分条件について解説しました。
ユニタリ行列によって対角化できるための必要十分条件は正規行列であることでした。
しかし、今回まで扱った固有値固有ベクトルは直交しているものばかりでした。
固有ベクトル同士は必ずしも直交するとは限りません。
そこで、次回は基底を直交化する手法について解説します。
乞うご期待!質問、コメント等お待ちしております!
コメントをする