本記事の内容
本記事は、「写像って数学的に何のこと?」ということに答える記事である。
写像は数学の専門書でも「対応」やら「規則」やらという抽象的な表現で語れれることもしばしばである。
今回は素朴な立場と厳密な立場の2立場で説明する。
で、何すか写像って?
というわけで、今まで述べた写像の正体を素朴に述べる。
XXとYYを集合とする。ffがXXからYYの写像であるとは、XXの任意の要素xxに対して、YYの要素yyがただ一つ定まることをいう。 このとき、y=f(x)y=f(x)と書く ffがXXからYYへの写像であることをf:X→Yf:X→YやらXf→YXf→Yと書く。 また、ffによりxxがyyに対応することをf:x↦yf:x↦yとも表す。 これは、y=f(x)y=f(x)と同じ意味である。
つまり、任意のXXの要素に対して、その対応先を指定することで写像が決まる、というわけだ。
さて、先に述べた通り、これ素朴な写像の説明である。
これだと「ん?」となるかもしれない。
というのも、先は
「ffがXXからYYへの写像である。」ことを「XXの任意の要素xxに対してYYの要素yyがただ一つ定まる。」ことという説明だからである。
すなわち、ffがXXからYYへの写像であるという状態は、任意のXXの要素xxに対してYYの要素yyがただ一つ定まっている状態である、という説明である。
くどいかもしれないが、これでは「写像である、という状態」は説明しているのだが、写像とは何か?という問には答えられていない。
例えば、「奇数って何すか?」と言われたらば、「22で割って11あまる整数。」と答えるのだが、奇数の正体は「整数」である。
この例における「整数」に対応するものが上記の写像の説明にはない。
しかし一方で、上記の説明は正しいのもまた事実である。
つまり、「XXの任意の要素xxに対して、YYの要素yyがただ一つ定まっている状態のとき、ffはXXからYYへの写像であると呼ぶ。」のだから、このffが写像である、と言いかえることができるからである。
例1.,2.,3.,を再度見直してみよう。
例1.(料理を食べるときに使う食器との対応規則)
X={カレー,ステーキ、おにぎり,チャーハン}X={カレー,ステーキ、おにぎり,チャーハン}、Y={スプーン,ナイフ,手,足}Y={スプーン,ナイフ,手,足}とする。
このとき、
- カレーとスプーン
- ステーキとナイフ
- おにぎりと手
- チャーハンとスプーン
という対応hhを考える。
このとき、任意のx∈Xx∈X(xxの正体はカレー、ステーキ、おにぎり、チャーハン)に対して、y∈Yy∈Y(yyの正体はスプーンで、ナイフ、手、足)がただ一つ定まっているため、
- スプーン=h(カレー)スプーン=h(カレー)、
- ナイフ=h(ステーキ)ナイフ=h(ステーキ)、
- 手=h(おにぎり)手=h(おにぎり)
- スプーン=h(チャーハン)スプーン=h(チャーハン)
と書くことができる。
従って、この対応hhはXXからYYへの写像であり、h:X→Yh:X→YやらXh→YXh→Yと書く。
例2.(数学っぽい例)
X={1,2,3}X={1,2,3}、Y={1,4,9}Y={1,4,9}とする。
XXの要素1,2,31,2,3に対してYYの要素1,4,91,4,9を次のように対応させる。
- 1∈X1∈Xと1∈Y1∈Y、
- 2∈X2∈Xと4∈Y4∈Y、
- 3∈X3∈Xと9∈Y9∈Y。
この対応ggを考える。
このとき、任意のx∈Xx∈X(xxの正体は1,2,31,2,3)に対して、y∈Yy∈Y(yyの正体は1,4,91,4,9)がただ一つ定まっているため、
- g(1)=1g(1)=1、
- g(2)=4g(2)=4、
- g(3)=9g(3)=9。
と書く事ができる。
従って、この対応ggはXXからYYへの写像(この場合は関数と言っても良い)であり、g:X→Yg:X→YやらXg→YXg→Yと書く。
例3.(実数値の関数)
X=Y=RX=Y=Rとする。
このとき、任意のx∈X=Rx∈X=Rに対して、Y=Rの要素yとx2とを対応させるような対応fを考える。
このとき、任意のx∈X(xの正体は実数)に対して、y∈Y(yの正体は実数)がただ一つ定まっているため、
- f(1)=1、
- f(32)=94、
- f(7)=49、
- f(√2)=2
- などなど…
と書く事ができる。
従って、この対応fはXからYへの写像(この場合は関数と言っても良い)であり、f:X→YやらXf→Yと書く。
写像(素朴ver.)を見て「なるほどね」となったらば、それでOKである。
しかし、「なんか納得できねえな。対応ってなんだ。」となっている方は次の集合の言葉を使った説明を読むと一手に解決されると思われる。
2つの空でない集合X、Yの直積集合X×Yの部分集合fが次の2条件を満たすとき、fをXからYへの写像(the map from X to Y)と呼ぶ。
- (∀x∈X)(∃y∈Y) s.t. (x,y)∈f. 任意のx∈Xに対してy∈Yが存在する、ということ。
- (∀(x1,y1)∈f)(∀(x2,y2)∈f) x1=x2⇒y1=y2. 1つのx∈Xに対応するyは1つしかない。 このとき、x∈Xに対して、(x,y)∈fを満たすy∈Y(2.によりただ1つ定まる。)をf(x)と書く。
ここで注意なのが、
Xの要素全てに対して、Yの要素がただ1つ定まっている。
ということである。
Xの要素の中にYの要素と対応しない要素があれば、その対応fは写像ではない。
さて、XからYへの写像fの正体はなにか、というと、
X×Yの部分集合だ!
ということである。
くどいかもしれないが、再度例1.,2.,3.,を見てみよう。
例1.(料理を食べるときに使う食器との対応規則)
X={カレー,ステーキ、おにぎり,チャーハン}、Y={スプーン,ナイフ,手,足}とすると、
X×Y={(カレー,スプーン),(カレー,ナイフ),(カレー,手),(カレー,足), (ステーキ,スプーン),(ステーキ,ナイフ),(ステーキ,手),(ステーキ,足), (おにぎり,スプーン),(おにぎり,ナイフ),(おにぎり,手),(おにぎり,足), (チャーハン,スプーン),(チャーハン,ナイフ),(チャーハン,手),(チャーハン,足),}
である。
このとき、
h={(カレー,スプーン),(ステーキ,ナイフ),(おにぎり,手),(チャーハン,スプーン)}
とすれば、h⊂X×Yであり、任意のx∈X(xの正体はカレー、ステーキ、おにぎり、チャーハン)に対して、y∈Y(yの正体はスプーン、ナイフ、手、足)が存在して、(x,y)∈hである。
実際、
- カレー∈Xに対して、スプーン∈Yが存在して、(カレー,スプーン)∈h,
- ステーキ∈Xに対して、ナイフ∈Yが存在して、(ステーキ,ナイフ)∈h,
- おにぎり∈Xに対して、手∈Yが存在して、(おにぎり,手)∈h,
- チャーハン∈Xに対して、スプーン∈Yが存在して、(チャーハン,スプーン)∈h.
であるからである。
さらに、(∀(x1,y1)∈h)(∀(x2,y2)∈h) (x1=x2⇒y1=y2)も満たしている。
特に、この命題の対偶(∀(x1,y1)∈h)(∀(x2,y2)∈h) (y1≠y2⇒x1≠x2)を満たしている。
実際、
- (カレー,スプーン)∈hと(ステーキ,ナイフ)∈hをhから任意に選んだとき、カレー≠ステーキである。
- (カレー,スプーン)∈hと(おにぎり,手)∈hをhから任意に選んだとき、カレー≠おにぎりである。
- (ステーキ,ナイフ)∈hと(おにぎり,手)∈hをhから任意に選んだとき、ステーキ≠おにぎりである。
- (ステーキ,ナイフ)∈hと(チャーハン,スプーン)∈hをhから任意に選んだとき、ステーキ≠チャーハンである。
- (おにぎり,手)∈fと(チャーハン,スプーン)∈hをhから任意に選んだとき、おにぎり≠チャーハンである。
従って、この対応hはXからYへの写像である。h:X→YやらXh→Yと書き、h(カレー)=スプーン、h(ステーキ)=ナイフ、h(おにぎり)=手、h(チャーハン)=スプーンと書く。
例2.(数学っぽい例)
X={1,2,3}、Y={1,4,9}とすると、
X×Y={(1,1),(1,4),(1,9), (2,1),(2,4),(2,9), (3,1),(3,4),(3,9),}
である。
このとき、
g={(1,1),(2,4),(3,9)}
とすれば、g⊂X×Yであり、任意のx∈Xに対して、y∈Yが存在して、(x,y)∈gである。
実際、
- 1∈Xに対して、1∈Yが存在して、(1,1)∈g,
- 2∈Xに対して、4∈Yが存在して、(2,4)∈g,
- 3∈Xに対して、9∈Yが存在して、(3,9)∈g,
であるからである。
さらに、(∀(x1,y1)∈h)(∀(x2,y2)∈h) (x1=x2⇒y1=y2)も満たしている。
特に、この命題の対偶(∀(x1,y1)∈h)(∀(x2,y2)∈h) (y1≠y2⇒x1≠x2)を満たしている。
実際、
- (1,1)∈gと(2,4)∈gをgから任意に選んだとき、1≠2である。
- (1,1)∈gと(3,9)∈gをgから任意に選んだとき、1≠3である。
- (2,4)∈gと(3,9)∈gをgから任意に選んだとき、2≠3である。
従って、この対応gはXからYへの写像であり、g:X→YやらXg→Yと書き、g(1)=1、g(2)=4、g(3)=9と書く。
例3.(実数値の関数)
X=Y=Rとすると、X×Y=R×R=R2である。
このとき、
f={(x,x2)∣x∈X}
とすれば、f⊂X×Yであり、任意のx∈Xに対して、y∈Yが存在して、(x,y)∈fである。
実際、任意の実数xに対して、それを二乗した数x2もまた実数であり、x2という値は必ず1つである。
(※例えば自然数7に対して、その二乗した数は49であり、49以外の数にはなりえない。これがすべての実数で成り立つ。)
さらに、(∀(x1,y1)∈f)(∀(x2,y2)∈f) (x1=x2⇒y1=y2)も満たしている。
実際、任意の(x1,y1)∈fと任意の(x2,y2)∈fに対して、y1=x21かつy2=x22を満たしているので、(x1,y1)=(x1,x21)かつ(x2,y2)=(x2,x22)である。
今、x1=x2なのだから、x21=x22であるので、y1=y2である。
従って、この対応fはXからYへの写像であり、f:X→YやらXf→Yと書き、任意のx∈Xに対して(x,y)∈fとなるy∈Yをy=f(x)と書く。
すなわち、x2=f(x)と書く。
え?結局のところ写像って関数なんじゃね?
序盤でも述べたとおり、概ねそのとおりである。
上記の3つの例は関数色が強い例を挙げたからである。
そこで、関数というより写像っぽい(と筆者が思う)例を挙げる。
例4.(\(\mathbb{R}\(の一次変換)
a,b,c,d∈Rとする。
写像f:R2→R2を以下のように定める。
(x′,y′)=f(x,y)として、
(x′y′)=(abcd)(xy)
とする。
これは、ad−bc≠0のとき、(x,y)が直線上の点であれば、(x′,y′)は別の直線上の点である。
要は、ad−bc≠0のとき、直線は直線に、線分は線分に、三角形は三角形に、平面全体は平面全体に写す。
すなわち、ある点を別の点に写す(移動する)という写像である。

結
今回は「で、写像って何?」ということを素朴な立場と厳密な立場で解説した。
以前の記事(【論理と集合シリーズ】その7)で述べた「関係」(特に二項関係)のように、2つの対象の間の”つながり”を表現するときは直積集合を使うことがよくある、ということである。
次回は写像f:X→YのX、Yおよびそれに付随する諸概念とその名称を説明する。
乞うご期待!質問、コメントなどお待ちしております!
この記事の内容をより詳しく知りたい方は以下のリンクの本を参照してください!
ちなみに、「集合・写像・論理ー数学の基本を学ぶ」の方が入門者にはオススメです!
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お世話になります。
「写像(集合の言葉ver.)」の定義後半の対偶が、単射の定義とどう違うのかわからず、困っています。
ご指導お願いいたします。
うさぎ様
コメントありがとうございます。
>「写像(集合の言葉ver.)」の定義後半の対偶が、単射の定義とどう違うのかわからず、困っています。
とのお問い合わせですが、お答えいたします。
「何が違うのか?」について一言で申し上げますと、
という意味で互いに異なります。
「写像(集合の言葉ver.)」を再掲いたしますと、
写像(集合の言葉ver.)
2つの空でない集合X及びYの直積集合X×Yに対し、f⊂X×Yが次の2条件を満たすならば、fをXからYへの写像と呼ぶ。
このとき、2.によりx∈Xに対して、(x,y)∈fを満たすy∈Yは唯一つ定まる。このy∈Yをf(x)と書く。
です。
2.の対偶を取ってみます。
(∀(x1,y1), (x2,y2)∈f)y1≠y2⟹x1≠x2
一方で、単射とは何かというと、
単射
写像f:X⟶Yに対し、y1,y2∈Yが
(∀x1,x2∈X)y1=f(x1), y2=f(x2)
を満たしているとする。このとき、写像fが単射であるとは、次を満たすことをいう。
(∀x1,x2∈X)x1≠x2⟹y1≠y2
です。
ちなみに
先の条件式の対偶
f(x1)=f(x2)⟹x1=x2
を単射の条件式として用いることが多いと筆者は感じています(状況によりけりでしょうけど…)。
以上のことから、
となるわけです。
ちなみに、ご存知かもしれませんが、「写像(集合の言葉ver.)」の2.の意味は
です。
とある対応規則が写像たりえるのは、定義域の要素に対して値域の要素が唯一だけ定まっているときのみ、ということです。
写像(集合の言葉ver.)の2.の条件式は「well-defined性」と呼びます。
自身で写像を定めたとき、それが本当に写像たりえるかを示す必要があるため、このwell-defined性を議論する必要があります。
以上です。