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「多変数ベクトル値関数って?」【解析学の基礎シリーズ】多変数関数編 その1

多変数関数

本記事の内容

本記事は「多変数ベクトル値関数って何?」ということについて解説する記事です。
本記事を読むにあたり、「関数(写像)ってなんだっけ」ということを知っている必要があるため、その際は以下の記事を参照してください。

また、点列について知っているとより理解が進むと思われるので、まずは点列の記事を読んで頂くことをおすすめします。

どんなものが多変数ベクトル値関数なのかネ?

「今まで扱ってきた関数と違うのかネ?」と言われれば「確かに違いますが、点列と同じで、多次元バージョンです。」と答えます。
まずはどんなのが多変数ベクトル値関数なのか、ということの例を挙げることにします。

例1. \(f:\mathbb{R}^2\to\mathbb{R}\)が\((x,y)\in\mathbb{R}^2\)に対して\(f(x,y)=x+2y\)で定められているとします。
この写像(関数)\(f\)は2変数の実数値関数といいます。
変数の個数は2個、関数の値は実数ですので、このように言います。

例2. \(g:\mathbb{R}^2\to\mathbb{R}^2\)が\((x,y)\in\mathbb{R}^2\)に対して
$$
g(x,y)=\left(
\begin{array}{c}
x+2y \\
3x+4y\\
\end{array}
\right)
$$
で定められているとします。
この写像(関数)\(f\)は2変数の2次元ベクトル値関数といいます。
変数の個数は2個、関数の値は2次元のベクトルなのでこのように言います。

「何じゃこのグラフは?」と思われるかもしれませんが、至ってシンプルです。
というのも、この関数\(g:\mathbb{R}^2\to\mathbb{R}^2\)は「座標\((x,y)\)に対してベクトル\((x+2y,3x+4y)^\top\)を対応させる関数」と言いかえることができます。
従って、平面上の各座標(各点)に対してベクトルを表示するようなグラフになります。
全ての座標に矢印は書ききれないので、代表的な座標の部分だけに矢印を描画しています。

使っている言葉

ここで、使っている言葉について説明します。
それは変数〇〇値という言葉です。

変数

変数には”独立変数”と”従属変数”の2種類があります。
\(y=f(x)\)のとき、

  • 独立変数:\(x\)のこと。
  • 従属変数:\(y\)のこと。

です。
単に「変数」と言われたらば、基本的には独立変数のことを指します。
\(z=f(x,y)\)のようなときも同様で、\(x,y\)が独立変数、\(z\)が従属変数です。

要は、写像の定義域の要素を文字で表したモノを独立変数と言って、定義域の要素と対応している終域の要素を従属変数といいます。

〇〇値

これはそのままです。
というのも、関数の値が何かを表しているだけだからです。
先程の言葉を使えば、

  • 従属変数が実数ならば実数値関数
  • 従属変数がベクトルならばベクトル値関数
  • 従属変数が複素数なら複素数値関数

と呼ぶ、というだけです。

今まで扱ってきた関数は1変数(の)実数値関数呼びます。

つまりどういうことかネ?

このように、変数の数が複数あり、関数の値がベクトルであるような関数のことを多変数ベクトル値関数といいます。

で?多変数ベクトル値関数とは何かネ?

まずは直感的な話をしましょう。

直感的なお話

直感的とはいってもほとんど語ることはありません。

  多変数ベクトル値関数は、変数が複数あって、関数の値がベクトルな関数のこと。

という単にこれだけです。

次に数学的な話をしましょう。

数学的なお話

数学的に明示、といっても非常にシンプルなものです。

多変数ベクトル値関数 \(\Omega\subset \mathbb{R}^n\)、\(\boldsymbol{f}:\Omega\to\mathbb{R}^m\)のとき、\(\boldsymbol{f}\)を\(n\)変数の\(m\)次元ベクトル値関数と呼ぶ。

\(\boldsymbol{x}\in\Omega\)は\(\boldsymbol{x}\in\mathbb{R}^n\)ですので、\(\boldsymbol{x}\)は\(n\)次元のベクトルです。
従って、
$$
\boldsymbol{x}=\left(
\begin{array}{c}
x_1 \\
x_2\\
\vdots
\\
x_n
\end{array}\right)
$$
と書くことができます。
故に関数の値\(\boldsymbol{f}(\boldsymbol{x})\)は\(\boldsymbol{f}(x_1,x_2,\cdots,x_n)\)とも書かれます。
同様に、関数の値\(\boldsymbol{f}(\boldsymbol{x})\)は\(\boldsymbol{f}(\boldsymbol{x})\in\mathbb{R}^m\)ですので、\(m\)次元ベクトルです。
従って、
$$
\boldsymbol{f}(\boldsymbol{x})=\left(
\begin{array}{c}
f_1(\boldsymbol{x}) \\
f_2(\boldsymbol{x})\\
\vdots
\\
f_m(\boldsymbol{x})
\end{array}\right)=
\left(
\begin{array}{c}
f_1(x_1,x_2,\cdots,x_n) \\
f_2(x_1,x_2,\cdots,x_n)\\
\vdots
\\
f_m(x_1,x_2,\cdots,x_n)
\end{array}\right)
$$
のようにも書かれます。

今まで扱ってきた関数と何が違うのかネ?

「多変数ベクトル値関数は今まで扱ってきた関数と何が違うのかネ?」というと、変数の数が複数ある、ということと値がベクトルだ、という違いです。
要は

  定義域と終域の次元が違う。

というわけです。

これを幾何的に言い換えてみます。
(幾何的に、というと少々大げさかもしれません。)

とどのつまり、

  • 今まで(1次元のとき)は定義域が”区間”だったのに対して多変数ベクトル値関数は定義域が”領域”(図形のようなもの)になる。
  • 今まで(1次元のとき)は変数と関数の値のペア\((x,f(x))\)が”平面上の点”だったのに対して多変数ベクトル値関数は変数と関数の値のペア\((\boldsymbol{x},\boldsymbol{f}(\boldsymbol{x}))\)が”空間内の点”になる。

というわけです。

いつ使うのかネ?

「いつ使われるか」と言われれば「いつでも」というチープな回答になってしまいますが、世の中を記述するときに1変数で書かれるよりも圧倒的に多変数で書かれる場合が多いです。

そもそも我々は3次元で生きています。
(時間を入れた時空間で生きていると思うと縦、横、高さ、時間の4次元ですが…)
我々の周りの現象も基本的には3次元的(空間的)です。
1変数の場合、その現象が何に依存しているか、というその依存している対象の個数(つまり独立変数の個数)が1個ということになってしまうので誠にシンプルな現象にしか適用できません。

例えば、風の流れを考えてみましょう。
風は平面的には動きませんので、風の流れはベクトル値です。
(標高によって風の向きが違ったりしますよね。)
風の流れは何に依存していそうでしょうか。
天気、気圧、地形、などなど。
これが全てではないでしょうが、ぱっと思いつくだけで既に3つ、すなわち少なくとも3次元ということです。

このように実は世の中を記述するということであれば、1変数ということは難しい場合が多いわけです。

これは筆者の感想ですが、数学者は一般化が大好きです。
より一般の場合、すなわち1次元で考えた後は、ある種のDNAとして刻まれているかのように\(n\)次元で考えます。
これは「\(n\)次元だとどうなるかな?」という素朴な疑問から来ているとも考えられます。
そういう意味で実用性は一旦置いておいて、気になるから研究するということで多変数関数を導入したのかもしれません。
以上、筆者の感想でした。

今回は多変数ベクトル値関数とはどういうものかについて解説しました。
結局は

  多変数ベクトル値関数は、変数が複数あって、関数の値がベクトルな関数のこと。

です。
また、世の中を記述するには1変数よりも多変数の場合が圧倒的に多いということもサラッとではありますが説明しました。

次回は多変数ベクトル値関数の極限について説明します。

乞うご期待!質問、コメントなどお待ちしております!

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