本記事の内容
本記事は累次積分の順序、すなわち積分する順番について解説する記事です。
本記事を読むにあたり、累次積分について知っている必要があるため、以下の記事も合わせてご覧ください。
累次積分の軽い復習
まずは、累次積分を軽く復習します。
定理0.
有界な実数値関数f:I=J×K→Rが次の2つの条件1.、2.を満たすとする。- fはI上で可積分である。
- 各x∈Jを固定するとき、yの関数fx:y↦f(x,y)はK上で可積分である。
定理0.の証明は【解析学の基礎シリーズ】積分編 その23を御覧ください。
要するに、関数が可積分で、かつ1つの変数を固定してもう一つの変数について可積分であれば、各変数について順々に積分を計算すればよい、ということです。
さらに言えば、結局のとろこは1変数の積分に帰着する、というわけです。
では
ということです。
先の定理0.の字面だけを見るとまずyについて積分して、その後xについて積分するということを述べているように感じられるかもしれません。
しかし、実は違います。
特定の状況下ではどちらの変数から計算してもOKという事実があります。
この事実は定理0.から導けます。
定理0.の系①(累次積分の順序)
先程も述べたように、要するに特定の状況下ではどの変数から計算しても良い、という主張です。
主張の明示
系1.(定理0.の系)
有界な関数f:I=J×K→Rが定理0.の仮定1.および2.、すなわち- fはI上で可積分である。
- 各x∈Jを固定するとき、yの関数fx:y↦f(x,y)はK上で可積分である。
条件が錯綜している気がするのでより見やすい形で主張を明示すると以下です。
系1.(定理0.の系)をもっと見やすい形で
有界な関数f:I=J×K→Rが以下の条件1、,2.、3.を満たすとする。- fはI上で可積分である。
- 各x∈Jを固定するとき、yの関数fx:y↦f(x,y)はK上で可積分である。
- y∈Kを固定したとき、関数x↦f(x,y)がJ上で可積分である。
要するに、平たく言えば、
ということです。
証明は定理0.とほぼ同じです(定理0.の系なのだからそりゃそうだ、という話なのですが)。
主張の証明
では、証明に入っていきます。
とはいえ、お察しの通り殆ど定理0.と同じというか、定理0.を使うだけです。
系1.の証明
①式の1つ目の等式が成り立つのは定理0.の主張そのものなので、定理0.が証明されているから、成り立ちます。
また、2つめの等式が成り立つことは、仮定2.と仮定3.によりxとyの役割を交換することができるため、定理0.の証明と全く同様にして証明されます(つまり、yの部分をxに書き換えるだけ)。
(※定理0.の証明は【解析学の基礎シリーズ】積分編 その23を御覧ください。)
系2.の証明終わり
系1.は、先程述べたように「xについての積分とyについての積分がどちらを先にやっても結果は変わりませんよ」ということを示しています。
これは積分の範囲がI=J×Kというように直積集合になっていて、かつxを固定したときにyの動く範囲がxに依存せずに一定となっているからです。
一般の範囲で積分するときには、積分の範囲に注意をする必要があります。
定理0.の系②(特定の状況下では累次積分の順序はどの変数から積分してもOK)
もう一つ定理0.の系を紹介します。
そのために、直和について述べておきます(もしかしたら以前の記事で述べていたかもしれません)。
集合の直和と直和分解
なんてことありません。
集合の直和、直和分解
集合Xが共通部分が空集合であるような2つの集合AとBの和集合となるとき、すなわち X=A∪B,A∩B=∅ のとき、XはA、Bの直和であるといい、 X=A⊔B と書く。また、このときX=A⊕Bと書くこともある。 集合Xに対して、共通部分が空集合であるような集合AおよびBによりX=A⊔Bと書くことをXの直和分解という。例えば、X={1,2,3,4,5}として、
A={1,3,5},B={2,4}
とすると、X=A∪BかつA∩B=∅ですので、X=A⊔Bです。
勿論、Xの直和分解はXに対して一意的に定まるわけではありません。
C={1,4},D={2,3,5}
としてもX=C∩DかつC∩D=∅ですので、X=C⊔Dです。
主張の明示
主張を明示します。
系2.(定理0.の系②)
p+q=nとし、 {1,2,…,n}={i1,i2,…,ip}⊔{ip+1,ip+2,…,in} となるような任意の直和分解を取り、z=(z1,z2,…,zn)に対してx=(zi1,zi2,…,zip)、y=(zip+1,zip+2,…,zin)とおき、f(z)=f(x,y)と考えれば、定理0.がこの場合にも成り立つ。この主張はまさに、
ということです。
少々強く言うと、「好きなところから積分してOK」ということです。
主張の証明
では、証明に入っていきます。
とはいえ、結局定理0.に帰着されます。
系2.の証明
今回の場合でも、
I=[a1,b1]×[a2,b2]×⋯×[an,bn]
に対して、
J=[ai1,bi1]×[ai2,bi2]×⋯×[aip,bip],K=[aip+1,bip+1]×[aip+2,bip+2]×⋯×[ain,bin]
とすると、
v(I)=v(J)⋅v(K)
が成り立ちます。
後は、定理0.の証明と全く同じです。
(※定理0.の証明は【解析学の基礎シリーズ】積分編 その23を御覧ください。)
系2.の証明終わり
計算して確かめてみます。
例3. I=∫∫[0,a]×[0,b](x2+y2) dxdyを計算してみます。
I=∫a0{∫b0(x2+y2) dy}dx=∫a0[x2y+13y3]y=by=0 dx=∫a0(bx2+13b3) dx=[13bx3+13b3x]a0=ab3(a2+b2)
です。
一方で、
∫b0{∫a0(x2+y2) dx}dy=∫b0[13x3+xy2]x=ax=0 dy=∫b0(13a3+ay2) dy=[13a3y+13ay3]b0=ab3(a2+b2)
となります。
確かに、一致しています。
皆様のコメントを下さい!
記事の内容とまったくもって関係ないお話をします。
筆者は作業用BGMを聞きながら記事を執筆しています。
実際に数学の問題だったり内容を精査するときは無音状態で作業しますが。
最近の筆者のお気に入りはlofi-hiphopです。
皆様は作業中に何か音楽を聞きながら作業していますか?
お気に入りの作業用BGMを教えて下さい!
結
今回は、累次積分の計算の順序について解説しました。
前回示した定理0.により、多変数の積分といえど、結局は1変数の積分を何度も繰り返すことで計算が可能だ、ということが保証されます。
そして、各変数に対して、その変数の定義域上で可積分であれば、積分する順序は全く関係ない、ということを今回説明しました。
次回は、1時間チャレンジです!
乞うご期待!
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この記事の内容をより詳しく知りたい方は以下のリンクの本を参照してください!
ちなみに「解析概論」は日本の歴史的名著らしいので、辞書的にもぜひ1冊持っておくと良いと思います!
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