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「初等関数の連続性を証明してみよう!(三角関数、逆三角関数)」【解析学の基礎シリーズ】関数の極限編 その12

解析学

本記事の内容

本記事は三角関数、逆三角関数の連続性と不連続性の証明を与える記事です。
本記事を読むにあたり、関数の連続とはどういうことかを知っている必要があるため、以下の記事を参照してください。

では早速証明に入っていきます。

三角関数

最初に三角関数が出現したのは恐らく数Ⅰの三角比の分野だった記憶があります。
(実際に関数として扱う(グラフを学んだりする)のは数Ⅱだった気がします。)

三角関数は定義域を\([0,2\pi)\)とすることが多いのですが、本来関数としては\(\sin x\)と\(\cos x\)は\(\mathbb{R}\)、\(\tan x\)は\(\displaystyle \mathbb{R}\setminus\left\{\frac{n}{2}\pi\mid n\in\mathbb{Z}\right\}\)(つまり\(\displaystyle\frac{\pi}{2}\)の整数倍以外のところ)を定義域とします。

勿論、\([0,2\pi)\)を定義域とする場合も普通にあります。

では早速証明に入りましょう。

\(\sin x\)が\(\mathbb{R}\)で連続であることの証明

命題1. 関数\(f:\mathbb{R}\to\mathbb{R}\), \(f(x)=\sin x\)は\(\mathbb{R}\)で連続である。すなわち、任意の\(A\in\mathbb{R}\)に対して、 $$\lim_{x\to\ A}\sin x=\sin A$$ が成り立つ。言い換えれば、 $$(\forall A\in\mathbb{R})(\forall \epsilon>0)(\exists \delta>0)\ {\rm s.t.}\ (\forall x\in \mathbb{R}:0<|x-A|<\delta\Rightarrow |\sin x-\sin A|<\epsilon)$$ が成り立つ。
証明

証明したいことは、
$$(\forall A\in\mathbb{R})(\forall \epsilon>0)(\exists \delta>0)\ {\rm s.t.}\ (\forall x\in I:0<|x-A|<\delta\Rightarrow |\sin x-\sin A|<\epsilon)$$
です。(関数が連続である、とはこれが成り立つことでした。【解析学の基礎シリーズ】関数の極限編 その5)
つまり、上記を満たすような、\(\delta>0\)見つけてきてね、ということです。
示したいことを更に噛み砕けば、
$$0<|x-A|<\delta\Rightarrow |\sin x-\sin A|<\epsilon$$
となるような\(\delta>0\)を見つけたいということです。
従って、\(\epsilon>0\)に依存するような\(\delta>0\)を見つけてきて、\(|\sin x-\sin A|<\)(何かしらの式)\(<\epsilon\)という形に持っていきたいわけです。

そのために、いったいどのようなモノが\(\delta>0\)になりえるのかというその候補を探索するために、\(|\sin x-\sin A|<\epsilon\)から逆算してみます。

早速、\(|\sin x-\sin A|<\epsilon\)を見てみましょう。
\(|\sin x-\sin A|<\epsilon\)をどうにかこうにかして変形したいわけです。
変形する際の候補として、

  • 加法定理
  • 和積の公式(この公式は加法定理から導かれるので、加法定理の範疇かもしれないですね。)

が挙げられると思います。
勿論、他にも\(\sin^2 x+\cos^2=1\)という性質やら倍角の公式やらと様々ありますが、\(\sin x-\sin y\)の形が出現しそうなのは加法定理と積和・和積の公式ですので、まずはこれらについて考えてみます。

①加法定理で変形してみる
加法定理\(\sin (x+y)=\sin x\cos y+\sin y\cos x\)を考えてみましょう。
今回の場合に適用させると、
$$\sin (x+A)=\sin x\cos A+\sin A\cos x$$
が使えそうだな、と思えます。
しかしながら、この事実から\(\sin x-\sin A\)を導こうと思うと\(\cos A=1\)、\(\cos x=-1\)という条件が必要になりますが、そうすると\(x\)と\(A\)は特定の値になってしまいます。
従って、加法定理そのもので変形する、という手はあまり良くなさそうです。

②和積の公式で変形してみる。
\(\sin\)に対する和積の公式は
\begin{eqnarray}
\sin A+\sin B&=&2\sin \frac{A+B}{2}\cos\frac{A-B}{2}\\
\sin A-\sin B&=&2\sin \frac{A-B}{2}\cos\frac{A+B}{2}
\end{eqnarray}
でした。
ちなみに、加法定理をうまく足したり引いたりすると積和の公式を導き出すことができます。
さらにその積和の公式の2つの変数を足して2で割った新たな変数と引いて2で割った新たな変数に対して積和の公式を考えると、和積の公式が導けます。

さて、今回は\(\sin\)に対する和積の公式のうち\(\sin A-\sin B=2\sin \frac{A-B}{2}\cos\frac{A+B}{2}\)を使ってみます(\(|\sin x-\sin A|\)を変形したいから)。
すると、
\begin{eqnarray}
|\sin x-\sin A|&=&2\left|\cos \frac{x+A}{2}\sin\frac{x-A}{2}\right|\\
&=&2\left|\cos \frac{x+A}{2}\right|\cdot \left|\sin\frac{x-A}{2}\right|
\end{eqnarray}
が得られます。
これを見ると、\(\sin\)の変数の中ではありますが、\(x-A\)が出てきました。
しかしながら、\(x-A\)が出てきたのは良いとして、変数に\(x+A\)がある\(\displaystyle\left|\cos \frac{x+A}{2}\right|\)が邪魔です。(これも\(x-A\)が変数だったらなんかうまいことできそうだな、と筆者は思えるのですが。)
ここで何を導きたかったのか、ということを思い出すと、\(|\sin x-\sin A|<\epsilon\)でした。
つまり、\(|\sin x-\sin A|\)を\(=\)で変形したいわけではなく\(|\sin x-\sin A|\)より大きい何かを見つけてきて、それよりも更に\(\epsilon>0\)が大きいということを言いたいわけです。
従って、\(\displaystyle\left|\cos \frac{x+A}{2}\right|\)を\(=\)で変形しなくても良いのです。\(\displaystyle\left|\cos \frac{x+A}{2}\right|\)が何か別の実数よりも小さいという、そういう実数があれば、それを見つけてくればよいのです。
もしそういう実数\(c>0\)があれば、\(\displaystyle\left|\cos \frac{x+A}{2}\right|<c\)を満たすわけですから、
\begin{eqnarray}
2\left|\cos \frac{x+A}{2}\right|\cdot \left|\sin\frac{x-A}{2}\right|<2c\left|\sin\frac{x-A}{2}\right|
\end{eqnarray}
となり、邪魔な\(\displaystyle\left|\cos \frac{x+A}{2}\right|\)が消え、\(x-A\)だけが変数に残る形になります。
従って、\(\displaystyle\left|\cos \frac{x+A}{2}\right|<c\)を満たす\(c>0\)はあるのかな?と考えてみるわけです。
実は、高校数学で既に、\(-1\leq \cos x\leq 1\)、すなわち\(|\cos x|\leq 1\)であることを知っています。(グラフを描いてみてもわかります。)
つまり、\(c=1\)です。
従って、
$$|\sin x-\sin A|<2\left|\sin\frac{x-A}{2}\right|$$
を得ます。
(「いい感じだな。」と心の中でつぶやく。)

次に考えるのは\(2\left|\sin\frac{x-A}{2}\right|\)と\(|x-A|\)の関係です。
いきなり過ぎるかもしれませんが、言ってしまえば\(2\left|\sin\frac{x-A}{2}\right|\leq|x-A|\)が成り立ってくれれば万々歳です。
「一気にゴールまでひとっ飛び!というわけには行かないかもしれないけど、考えてみようかな」というある種成り立ってほしいという期待のもとで考えてみます。
つまり、任意の\(y\in\mathbb{R}\)で\(|\sin y |\leq |y|\)が成り立ってくれると嬉しいわけです。
\(\cos\)と同様に、\(|\sin y|\leq 1\)ですから、\(|y|\geq 1\)のときは\(|\sin y |\leq |y|\)が成り立っていることがわかります。
ということは\(|y|<1\)のときに\(|\sin y |\leq |y|\)が成り立ってくれればいいわけです。
しかし、例えば\(y=1\)のときの\(\sin\)の値\(\sin 1\)がどんな値かは調べればわかりますが、扱いにくいです。
\(\pi=3.14159\cdots\)なので、\(\dfrac{\pi}{2}=1.52\cdots\)だから、\(|y|<\dfrac{\pi}{2}\)のときを考えれば、\(|y|<1\)の場合もカバーしているし、しかも値も考えやすいです。
この発想から\(|y|<\dfrac{\pi}{2}\)のときに\(|\sin y |\leq |y|\)が成り立つことが分かれば、任意の\(y\in\mathbb{R}\)で\(|\sin y |\leq |y|\)が成り立っていることがわかります。
これは図を用いて証明します。

このように、点\(A\)の高さ(\(AB\)の長さ)よりも、弧の方が長いです。
ただし、\(y=0\)のときのみは\(\sin 0=0\)なので一致します。
従って、
任意の実数\(y\)に対して、\(|\sin y|\leq |y|\)が成り立ちます。

さて、戻りましょう。
今、任意の実数\(y\)に対して、\(|\sin y|\leq |y|\)が成り立つことが分かったので、
$$2\left|\sin\frac{x-A}{2}\right|\leq2|x-A|<2\cdot \left|\frac{x-A}{2} \right|=|x-A|$$
を得ることができます。
つまり、まとめると
$$|\sin x-\sin A|\leq |x-A|$$
を得たことになります。

もともとの目標に立ち返ってみると、
$$0<|x-A|<\delta\Rightarrow |\sin x-\sin A|<\epsilon$$
となるような\(\delta>0\)を見つけたいということでした。
先程、\(|\sin x-\sin A|\leq |x-A|\)が成り立つということは確認しました。
従って、\(\delta=\epsilon\)とする、すなわち\(\delta\)として\(\epsilon\)を採用すれば、目標が達成されたことになります。
これで、\(\delta\)が見つかりました。

証明終わり

\(\cos x\)が\(\mathbb{R}\)で連続であることの証明

命題2. 関数\(f:\mathbb{R}\to\mathbb{R}\), \(f(x)=\cos x\)は\(\mathbb{R}\)で連続である。すなわち、任意の\(A\in\mathbb{R}\)に対して、 $$\lim_{x\to\ A}\cos x=\cos A$$ が成り立つ。言い換えれば、 $$(\forall A\in\mathbb{R})(\forall \epsilon>0)(\exists \delta>0)\ {\rm s.t.}\ (\forall x\in \mathbb{R}:0<|x-A|<\delta\Rightarrow |\cos x-\cos A|<\epsilon)$$ が成り立つ。

\(\sin x\)の場合と殆ど同じなので、\(\sin x\)のときほどは丁寧に書きませんが、「おや?」と思ったらば\(\sin\)のときの証明に立ち戻ってみてください。

証明

証明したいことは、
$$(\forall A\in\mathbb{R})(\forall \epsilon>0)(\exists \delta>0)\ {\rm s.t.}\ (\forall x\in I:0<|x-A|<\delta\Rightarrow |\cos x-\cos A|<\epsilon)$$
です。(関数が連続である、とはこれが成り立つことでした。【解析学の基礎シリーズ】関数の極限編 その5)
つまり、上記を満たすような、\(\delta>0\)見つけてきてね、ということです。
示したいことを更に噛み砕けば、
$$0<|x-A|<\delta\Rightarrow |\cos x-\cos A|<\epsilon$$
となるような\(\delta>0\)を見つけたいということです。

\(\sin\)のときは和積の公式を使うことでうまく行きました。
\(\cos\)は\(\sin\)を\(x\)軸方向に平行移動しただけなので、今回も和積の公式が有用だろう、という期待のもとで和積の公式を使って\(|\cos x-\cos A|\)を変形してみます。

\(\cos\)に対する和積の公式は
\begin{eqnarray}
\cos A+\cos B&=&2\cos \frac{A+B}{2}\cos\frac{A-B}{2}\\
\cos A-\cos B&=&2\sin \frac{A-B}{2}\sin\frac{A+B}{2}
\end{eqnarray}
でした。
これを用いることで、
\begin{eqnarray}
|\cos x-\cos A|&=&2\left|\sin \frac{x+A}{2}\sin\frac{x-A}{2}\right|\\
&=&2\left|\sin \frac{x+A}{2}\right|\cdot \left|\sin\frac{x-A}{2}\right|
\end{eqnarray}
今回も邪魔な\(\displaystyle\left|\sin \frac{x+A}{2}\right|\)が出てきました。
しかし、任意の\(y\in\mathbb{R}\)に対して\(|\sin y|\leq 1\)ですから、\(\displaystyle\left|\sin \frac{x+A}{2}\right|\leq 1\)です。
従って、
\begin{eqnarray}
2\left|\sin \frac{x+A}{2}\right|\cdot \left|\sin\frac{x-A}{2}\right|\leq 2\left|\sin\frac{x-A}{2}\right|
\end{eqnarray}
です。
さらに、任意の実数\(y\)に対して、\(|\sin y|\leq |y|\)が成り立つので、
$$2\left|\sin\frac{x-A}{2}\right|\leq |x-A|$$
が成り立ちます。

従って、当初の目標だった\(\delta>0\)を見つけることは\(\sin\)と同様に\(\delta=\epsilon\)とすることで達成されます。

証明終わり

\(\tan x\)が\(\mathbb{R}\setminus\displaystyle \left\{\frac{n}{2}\pi\mid n\in\mathbb{Z}\right\}\)で連続であることの証明

命題3. 関数\(f:\mathbb{R}\setminus\displaystyle \left\{\frac{n}{4}\pi\mid n\in\mathbb{Z}\right\}\to\mathbb{R}\), \(f(x)=\tan x\)は\(\mathbb{R}\setminus\displaystyle \left\{\frac{n}{4}\pi\mid n\in\mathbb{Z}\right\}\)で連続である。すなわち、任意の\(A\in\mathbb{R}\setminus\displaystyle \left\{\frac{n}{4}\pi\mid n\in\mathbb{Z}\right\}\)に対して、 $$\lim_{x\to\ A}\tan x=\tan A$$ が成り立つ。言い換えれば、\(\forall A\in\mathbb{R}\setminus\displaystyle \left\{\frac{n}{4}\pi\mid n\in\mathbb{Z}\right\}\)に対して $$(\forall \epsilon>0)(\exists \delta>0)\ {\rm s.t.}\\ \left(\forall x\in\mathbb{R}\setminus\displaystyle \left\{\frac{n}{2}\pi\mid n\in\mathbb{Z}\right\}:0<|x-A|<\delta\Rightarrow |\tan x-\tan A|<\epsilon\right)$$

この命題3.の証明は\(\sin\)と\(\cos\)が\(\mathbb{R}\)で連続であることと、さらに「連続な関数の商も分母が\(0\)でないような定義域で連続である。」という事実からすぐに分かります。

なぜならば、\(\displaystyle \tan x=\frac{\sin x}{\cos x}\)だからです。

証明

正直に証明するなら、
$$(\forall \epsilon>0)(\exists \delta>0)\ {\rm s.t.}\\ \left(\left(\forall x\in\mathbb{R}\setminus \left\{ \frac{n}{2}\pi\middle|n\in\mathbb{Z} \right\}\right):0<|x-A|<\delta\Rightarrow |\tan x-\tan A|<\epsilon\right)$$
ですが、\(\sin\)と\(\cos\)のときと同じようには行かなそうです。
というのも、\(\sin\)と\(\cos\)には和積の公式がありますが、\(\tan\)にはありません。
その代わり、\(\displaystyle \tan x=\frac{\sin x}{\cos x}\)という事実があります。
既に\(\sin\)と\(\cos\)は\(\mathbb{R}\)で連続であることが分かっています。
「この事実が使えないかな?」と思うわけです。
そして思い出すのが、これです。

定理1. \(I\)を\(\mathbb{R}\)の区間、\(f:I\to\mathbb{R}\)、\(g:I\to\mathbb{R}\)とする \(f\)と\(g\)は\(I\)で連続であるとするとき、 \(\displaystyle g(a)\neq 0\)ならば、\(\dfrac{f(x)}{g(x)}\)は\(I’=\{x\in\mid g(x)\neq 0\}\)で連続である。すなわち、 $$(\forall a\in I’)\ \lim_{x\to a}\dfrac{f(x)}{g(x)}=\dfrac{f(a)}{g(a)}$$ である。

この定理1.において、\(I=\mathbb{R}\)で、\(f:I=\mathbb{R}\to \mathbb{R}\)が\(f(x)=\sin x\)であり、\(g:I=\mathbb{R}\to \mathbb{R}\)が\(g(x)=\cos x\)です。
では、\(I’\)は何でしょうか。
今、\(g(x)=\cos x\)ですから、\(\cos x=0\)であるような\(x\)を\(\mathbb{R}\)から取り除いた集合が\(I’\)です。
\(\cos x=0\)であるような\(x\)は既に高校で学んでるとおり、\(\dfrac{\pi}{2}\)の整数倍です。
つまり、この定理1.から\(f:I=\mathbb{R}\to \mathbb{R}\)が\(f(x)=\sin x\)、\(g:I=\mathbb{R}\to \mathbb{R}\)が\(g(x)=\cos x\)としたとき、\(\dfrac{f(x)}{g(x)}=\dfrac{\sin x}{\cos x}\)が\(\mathbb{R}\setminus \left\{ \frac{n}{2}\pi\middle|n\in\mathbb{Z} \right\}\)で連続であることが導けます。
従って、これはそのまま\(\tan x\)が\(\mathbb{R}\setminus \left\{ \frac{n}{2}\pi\middle|n\in\mathbb{Z} \right\}\)連続であるという命題3.を証明したことになります。

ちなみに、\(\displaystyle \tan x=\frac{\sin x}{\cos x}\)から、\(\tan x\)は\(x=\frac{n}{2}\pi\quad (n\in\mathbb{Z})\)で値が存在しないので連続でない事もわかります。

証明終わり

次に逆三角関数がある定義域で連続であることを証明してみます。

逆三角関数

逆三角関数は高校では出現しません。
大学に入って初めて接する人が多いのではないでしょうか。
若干余談ですが、逆三角関数は

  • \(\sin^{-1}x\)やら\(\arcsin x\)やら\({\rm Arcsin}x\)、
  • \(\cos^{-1}x\)やら\(\arccos x\)やら\({\rm Arccos}x\)、
  • \(\tan^{-1}x\)やら\(\arctan x\)やら\({\rm Arctan}x\)、

やらと書きます。しかし、\(\sin^{-1}x\)、\(\cos^{-1}x\)、\(\tan^{-1}x\)、は\(\sin^{2}x=(\sin x)^2\)、\(\cos^{2}x=(\cos x)^2\)、\(\tan^{2}x=(\tan x)^2\)という記法に近く、\(\sin^{-1}x\)を、\(\dfrac{1}{\sin x}\)、\(\cos^{-1}x=\)を\(\dfrac{1}{\cos x}\)、\(\tan^{-1}x\)を\(\dfrac{1}{\tan x}\)と誤認しそうなのであまり好きではありません(個人の感想)。
少なくとも私が書く記事は一貫して逆三角関数を\(\arcsin x\)、\(\arccos x\)、\(\arctan x\)と書くことにします。

逆三角関数の簡単な復習

逆三角関数は三角関数と比べて注意しなければならないことがありました。
それは定義域と値域が\(\mathbb{R}\)でない場合がある、つまり全ての実数に対して値が存在するわけではない、ということです。
少々復習しましょう。

  • \(\arcsin:[-1,1]\to\left[-\dfrac{\pi}{2},\dfrac{\pi}{2}\right]\)、
  • \(\arccos:[-1,1]\to[0,\pi]\)、
  • \(\arctan:\mathbb{R}\to\left( -\dfrac{\pi}{2},\dfrac{\pi}{2} \right)\)

でした。

逆三角関数の連続性を示す方針

逆三角関数が連続な関数であることの証明は今まで通り、
$$(\forall A\in\mathbb{R})(\forall \epsilon>0)(\exists \delta>0)\ {\rm s.t.}\ (\forall x\in I:0<|x-A|<\delta\Rightarrow |f(x)-f(A)|<\epsilon)$$
を正直に証明しても全く問題ないのですが、骨が折れます。
実際、\(\arcsin x\)、\(\arccos x\)、\(\arctan x\)の性質は\(\sin x\)、\(\cos x\)、\(\tan x\)のそれとはほぼ別物だからです。

実は、\(\arcsin x\)、\(\arccos x\)、\(\arctan x\)の連続性を一手に解決してしまう強い定理があります。
それが「連続な関数の逆関数があれば、その逆関数もまた連続である。」という定理です。

定理2. \(I\)を\(\mathbb{R}\)の区間、\(f:I\to\mathbb{R}\)とする。 \(f\)が\(I\)で連続でありかつ全単射であるとき、逆関数\(f^{-1}:f(I)\to I\)も\(f(I)\)で連続である。 つまり、 $$(\forall a\in I)\lim_{x\to a}f(x)=f(a)\Rightarrow (\forall b\in f(I))\lim_{x\to b}f^{-1}(x)=f^{-1}(b)$$ が成り立つ。

定理2.の証明

証明

示したいことは
$$(\forall b\in f(I))(\forall \epsilon>0)(\exists \delta>0)\ {\rm s.t.}\ (\forall x\in I:0<|x-b|<\delta\Rightarrow |f^{-1}(x)-f^{-1}(b)|<\epsilon)$$
です。
定理2.の主張を見ると「難しそうだな」と思うかもしれませんが(筆者は最初思いました)、示したいことを明示してみると、結局はシンプルでいつもの連続性の証明です。
(逆関数だろうがなんだろうが、結局連続であることを示したいのでそりゃそうか、と心のなかでつぶやく)

\(\delta\)を見つけるために\(|f^{-1}(x)-f^{-1}(b)|<\epsilon\)を変形してみましょう。
今までは\(|f^{-1}(x)-f^{-1}(b)|\)を変形してみました。
それは\(f^{-1}\)が具体的な関数だったからです。
しかし、今回の\(f^{-1}\)は具体的ではなく\(I\)で連続で全単射な関数\(f\)の逆関数であれば何でもいいわけですから、これ以上変形するのは難しそうです。
結局は\(\delta\)を見つけるために\(|x-b|\)の形にしたいので、今回は\(|f^{-1}(x)-f^{-1}(b)|<\epsilon\)を変形してみます。
\begin{eqnarray}
|f^{-1}(x)-f^{-1}(b)|<\epsilon&\Leftrightarrow&-\epsilon<f^{-1}(x)-f^{-1}(b)<\epsilon \\
&\Leftrightarrow&f^{-1}(b)-\epsilon<f^{-1}(x)<f^{-1}(b)+\epsilon \\
\end{eqnarray}
もし、仮に\(f\)が単調増加関数であれば、
$$f(f^{-1}(b)-\epsilon)<f(f^{-1}(x))<f(f^{-1}(b)+\epsilon)$$
が成り立ちますし、
仮に\(f\)が単調減少関数であれば、
$$f(f^{-1}(b)+\epsilon)<f(f^{-1}(x))<f(f^{-1}(b)-\epsilon)$$
が成り立ちます。
\(f\)は全単射ですので、\(f^{-1}\)も全単射です。
この\(f^{-1}\)は単調増加関数かもしくは単調減少関数です。
仮に単調増加関数でも単調減少関数でもなければ\(f^{-1}(s)=f^{-1}(t)\)となるような\(s,t\in f(I)\)が存在してしまい、全単射であることに反してしまいます。

さて、\(f\)が単調増加だった場合は、
$$f(f^{-1}(b)-\epsilon)<f(f^{-1}(x))<f(f^{-1}(b)+\epsilon)$$
が成り立つのでした。
つまり
$$f(f^{-1}(b)-\epsilon)<x<f(f^{-1}(b)+\epsilon)$$
が成り立つということです。
一方で\(f\)が単調減少であれば、
$$f(f^{-1}(b)+\epsilon)<x<f(f^{-1}(b)-\epsilon)$$
が成り立ちます。
従って、\(\delta>0\)の候補として

  • \(f(f^{-1}(b)-\epsilon)\)、
  • \(f(f^{-1}(b)+\epsilon)\)

の2つが挙げられます。
しかしながら、\(f(f^{-1}(b)-\epsilon)\)も\(f(f^{-1}(b)+\epsilon)\)も必ず正の値をとるとは限らないので、このままでは\(\delta\)にこれらを採用できません。

まずは\(f\)が単調増加の場合に絞って考えてみましょう。
\(f\)は単調増加関数なのだから、
$$f(f^{-1}(b)-\epsilon)<f(f^{-1}(b))<f(f^{-1}(b)+\epsilon)$$
が成り立ちます。
\(f^{-1}(b)-\epsilon<f^{-1}(b)+\epsilon\)であるためです。
ということは、

  • \(f(f^{-1}(b))-f(f^{-1}(b)-\epsilon)\)>0\)
  • \(f(f^{-1}(b)+\epsilon)-f(f^{-1}(b))>0\)

です。
このうち、小さい方を新たに\(F\)としてみましょう。
すると、\(f(f^{-1}(b)-\epsilon)-F<f(f^{-1}(b)-\epsilon)\)ですし、\(f(f^{-1}(b)+\epsilon)<f(f^{-1}(b)+\epsilon)+F\)です。
従って、
$$f(f^{-1}(b)-\epsilon)-F<x<f(f^{-1}(b)+\epsilon)+F$$
が成り立ってくれます。
以上から、この場合\(\delta\)は\(\min\{f(f^{-1}(b))-f(f^{-1}(b)-\epsilon),f(f^{-1}(b)+\epsilon)-f(f^{-1}(b))\}\)とすれば解決だとわかります。

同様に、\(f\)が単調減少の場合に絞って考えてみましょう。
$$f(f^{-1}(b)+\epsilon)<f(f^{-1}(b))<f(f^{-1}(b)-\epsilon)$$
ということは

  • \(f(f^{-1}(b))-f(f^{-1}(b)+\epsilon)>0\)
  • \(f(f^{-1}(b)-\epsilon)-f(f^{-1}(b))>0\)

です。
先程と同じように考えれば、\(\delta\)は\(\min\{f(f^{-1}(b))-f(f^{-1}(b)+\epsilon),f(f^{-1}(b)-\epsilon)-f(f^{-1}(b))\}\)とすれば解決だとわかります。

従って、このように\(\delta\)を決めてあげることによって、
$$(\forall b\in f(I))(\forall \epsilon>0)(\exists \delta>0)\ {\rm s.t.}\ (\forall x\in I:0<|x-b|<\delta\Rightarrow |f^{-1}(x)-f^{-1}(b)|<\epsilon)$$
が得られます。

証明終わり

逆三角関数の連続性

\(\arcsin x\)も\(\arctan x\)も\(\arctan x\)も定理2.から直ちにわかります。
定理2.を再掲すると、

定理2. \(I\)を\(\mathbb{R}\)の区間、\(f:I\to\mathbb{R}\)とする。 \(f\)が\(I\)で連続でありかつ全単射であるとき、逆関数\(f^{-1}:f(I)\to I\)も\(f(I)\)で連続である。 つまり、 $$(\forall a\in I)\lim_{x\to a}f(x)=f(a)\Rightarrow (\forall b\in f(I))\lim_{x\to b}f^{-1}(x)=f^{-1}(b)$$ が成り立つ。

でした。

  • \(\arcsin\)について
    \(f^{-1}=\arcsin:[-1,1]\to\left[-\dfrac{\pi}{2},\dfrac{\pi}{2}\right]\)は\(f=\sin:\left[-\dfrac{\pi}{2},\dfrac{\pi}{2}\right]\to[-1,1]\)の逆関数なので、定理2.において\(I=\left[-\dfrac{\pi}{2},\dfrac{\pi}{2}\right]\)です。
    また、\(f(I)=[-1,1]\)です(全単射だから)。
    つまり、定理2.において、\(f^{-1}\)は\(f(I)=[-1,1]\)で連続です。
    すなわち、\(\arcsin\)は\([-1,1]\)で連続です。
  • \(\arccos\)について
    \(f^{-1}=\arctan:\mathbb{R}\to[0,\pi]\)は\(f=\cos:[0,\pi]\to[-1,1]\)の逆関数なので、定理2.において\(I=[0,\pi]\)です。
    また、\(f(I)=[-1,1]\)です(全単射だから)。
    つまり、定理2.において、\(f^{-1}\)は\(f(I)=[-1,1]\)で連続です。
    すなわち、\(\arccos\)は\([-1,1]\) で連続です。
  • \(\arctan:\mathbb{R}\to\left( -\dfrac{\pi}{2},\dfrac{\pi}{2} \right)\)
    \(f^{-1}=\arctan:[-1,1]\to\left( -\dfrac{\pi}{2},\dfrac{\pi}{2} \right)\)は\(f=\tan:\left( -\dfrac{\pi}{2},\dfrac{\pi}{2} \right)\to\mathbb{R}\)の逆関数なので、定理2.において\(I=\left( -\dfrac{\pi}{2},\dfrac{\pi}{2} \right)\)です。
    また、\(f(I)=\mathbb{R}\)です(全単射だから)。
    つまり、定理2.において、\(f^{-1}\)は\(f(I)=\mathbb{R}\)で連続です。
    すなわち、\(\arctan\)は\(\mathbb{R}\)で連続です。

今回は三角関数と逆三角関数の連続性について説明しました。
今までとは毛色を変えて、どうやって\(\delta\)を見つけるのか、ということに主眼を置きました。
今後、自分で証明できるようになることへの足しになれば嬉しいです。

次回は関数の連続性から得られる有名な定理、中間値の定理のイメージについて解説します。

乞うご期待!質問、コメントなどお待ちしております!

この記事の内容をより詳しく知りたい方は以下のリンクの本を参照してください!
ちなみに「解析概論」は日本の歴史的名著らしいので、辞書的にもぜひ1冊持っておくと良いと思います!

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