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「共役類の基本的な性質と類等式」【代数学の基礎シリーズ】群論編 その17

代数学

本記事の内容

本記事は、共役類の基本的な性質と類等式について解説する記事です。

本記事を読むにあたり、軌道、中心化群、共役類について知っている必要があるため、以下の記事も合わせてご覧ください。

↓群作用、軌道の記事

↓正規化部分群、中心化群、共役、共役類の記事

正規化(部分)群、中心化群、共役類の軽い復習

正規化部分群、中心化群、共役類の軽い復習をします。

正規化(部分)群

正規化(部分)群

\(H\)を群\(G\)の部分群とする。 $$ {\rm N}_G(H)=\left\{g\in G\middle| gHg^{-1}=H\right\} $$ と定め、この\({\rm N}_G(H)\)を\(H\)の正規化(部分)群という。

中心化群

中心化群

\(H\)が群\(G\)の部分群とする。このとき $$ {\rm Z}_G(H)=\left\{g\in G\middle|\forall h\in H,\ gh=hg\right\} $$ を\(H\)の中心化群という。また、 $$ {\rm Z}(G)={\rm Z}_G(G) $$ と書き、\(G\)の中心という。\(x\in G\)で\(H=\langle x\rangle\)のとき、\({\rm Z}_G(H)\)の代わりに\({\rm Z}_G(x)\)とも書き、\(x\)の中心化群という。

共役、共益類

共役、共役類

群\(G\)の要素\(x,y\)に対して、ある\(g\in G\)が存在して、\(y=gxg^{-1}\)となるとき、\(x\)と\(y\)は共役であるという。\(x\)と共役である要素の集合を\(x\)の共役類といい、\(C(x)\)と書く。

正規化部分群、中心化群、共役、共益類についての詳しい説明は【代数学の基礎シリーズ】群論編 その16を御覧ください。

共役による作用の軽い復習

\(G\)を群、\(X=G\)とします。
\(g\in G\)、\(h\in X\)とするとき、\({\rm Ad}(g)(h)=ghg^{-1}\)と定めます。
\(g_1,g_2,h\in G\)なら、
$$
{\rm Ad}(g_1g_2)(h)=(g_1g_2)h(g_1g_2)^{-1}=g_1\left( g_2hg_2^{-1}\right)g_2^{-1}={\rm Ad}(g_1)\left( {\rm Ad}(g_2)(h)\right)
$$
です。
\(G\times X\)から\(X\)への写像を\((g,x)\mapsto {\rm Ad}(g)(x)\)で定めると、これは左作用になります。
この作用のことを共役による作用といいます。

共役類の基本的な性質と類等式

本題です。

定理1.

\(G\)を有限群とする。
  1. \(x\in G\)ならば、\(\displaystyle\left|C(x)\right|=\frac{\left|G\right|}{\left|{\rm Z}_G(x)\right|}\)である。また、\(C(x)=\left\{x\right\}\)であることと\(x\)が\(G\)の中心\({\rm Z}(G)\)の要素であることは同値である。
  2. (類等式) 等式\(\displaystyle\left|C(x)\right|=\sum\left|C(x)\right|\)が成り立つ。ただし、和は全ての共役類を重複なく数えるとする。

定理1.の証明

1.の証明

群\(G\)の\(G\)への共役による作用を考えます。
\(x\in G\)に対して、\({\rm Ad}(g)(x)=x\)であることは、\(gxg^{-1}=x\)であることと同値です。
したがって、この作用に関する\(x\)の安定化群は\({\rm Z}_G(x)\)です。
また\(x\)の軌道は\(x\)の共役類\(\left\{gxg^{-1}\middle| g\in G\right\}\)です。
ここで、以下の事実を使います。

命題2.

\(G\)が集合\(X\)に作用するとする。\(x\in X\)であるとき、集合\(Gx\)と\(G/{G_x}\)は、対応 $$ G/{G_x}\ni gG_x\mapsto gx\in Gx $$ により、一対一対応する。故に、\(\left|G\right|<\infty\)ならば、\(\left|Gx\right|=(G:G_x)=\left|G/{G_x}\right|\)となる。

命題2.の証明は【代数学の基礎シリーズ】群論編 その15を御覧ください。

命題2.から、
$$
\left|C(x)\right|=\frac{\left|G\right|}{\left|{\rm Z}_G(x)\right|}
$$
が得られます。

\(C(x)=\left\{x\right\}\)であることは、任意の\(g\in G\)に対して\(gxg^{-1}=x\)であることと同値です。
これは\(gx=xg\)と同値なわけですので、\(x\in {\rm Z}(G)\)と同値です。

2.の証明

共役類は同値類でした。
以下の同値類の性質を使います。

定理3.

\(x\in X\)と同値な要素全体を\(C_x\)と書き、これを\(x\)の同値類(equivalence class)という。すなわち、 $$C_x=\{y\in X\mid x\sim y\}$$ である。 このとき、次が成り立つ。
  • \(x\in C_x\),
  • \(C_x\cap C_y\neq \emptyset \Rightarrow C_x=C_y\),
  • \(C_x\neq C_y\Rightarrow C_x\cap C_y= \emptyset\),
  • \(\displaystyle\bigcup_{x\in X}C_x=X\),
  • \(x,y\in X,\ x\neq y,\ \Rightarrow\ C_x\cap C_y=\emptyset\)

定理3.の証明は【論理と集合シリーズ】その7を御覧ください。

さて、定理3.から、\(G\)は同値類の直和なので、2.が得られます。

定理1.の証明終わり

\(G\)が有限群のときの類等式についてちょっと深堀り

定理1.により、\(G\)が有限群であれば、類等式は次の制約を受けることがわかります。

  1. 類等式の右辺には必ず\(1\)が少なくとも1回は現れる。
  2. 類等式の右辺に現れる数は全て\(\left|G\right|\)の約数である。
  3. 類等式の右辺に現れる\(1\)の数は\(\left|G\right|\)の約数である。

1.は単位元\(1_G\)の共役は\(1_G\)しかないことからわかります。
2.は\(\left|C(x)\right|\)は\(\left|G\right|\)の約数であることからわかります。
\(\left|C(x)\right|=1\)であることは\(x\in{\rm Z}(G)\)と同値なので、類等式の右辺に現れる\(1\)の数は\(\left|{\rm Z}(G)\right|\)です。
3.はこのことより従います。
このようにある式が類等式かどうかを1.、2.、3.を用いて調べることを自明な考察と呼ぶことにしましょう。

例えば、\(\left|G\right|=3\)なら、\(3=1+2\)は2.が成り立たないので、自明な考察により類等式ではありえません。

皆様のコメントを下さい!

今回はカントールです。

カントール(Cantor, Georg;1845–1918)はロシアのぺテルスブルグ生まれのユダヤ人数学者。
集合論の創始者です。
1856年にドイツに移住。
チューリッヒとベルリン大学を卒業後ベルリンで学位を得ました。
1879‐1905年Halle大学教授を勤めましたが、晩年には研究による極度の緊張から精神を病み、1918 年に病院で逝きました。
フーリエ級数展開の一意性に関する研究から集合論を創始しました。
1874年に濃度の概念を導入しました。
無限を実在のものと捉え、しかも無限の種類が1つではないことを言いきったことは、当時の数学界に衝撃を与えました。
クロネッカーは集合論に反対する立場を取り、カントールを苦しめましたが、デデキントやミッタグ‐レフラーにより支持を受けました。
ユークリッド空間の一般の点集合を扱い、集積点、開集合、閉集合の概念を定め、位相空間論の出発点を確立しました。
学界の頑迷さに対抗して、「数学の本質はその自由性にある」と叫んだといわれています。

如何でしたか?
今現在さも当然のように使っている集合という概念はカントールが創始したのです。
誠に偉大ですね。

ここに書かれれいることの他に、カントールについてご存知のことがあれば是非コメントで教えて下さい!

今回は、共役類の基本的な性質と類等式について解説しました。
どちらも有限群(要素が有限個の群)をより深く理解する上で良い武器になります。

次回は対称群の共役類の初歩について解説します。

乞うご期待!
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