本記事の内容
本記事は、素数を導入し、素因数分解定理の証明の準備をする記事です。
また、素数について筆者が思う面白い定理(有名な定理)を紹介します。
本記事を読むに当たり、最大公約数について知っている必要があるため、以下の記事も合わせてご覧ください。
素数とは?
「素数って何?」と言われたらどう答えますか?
素数自体は中学数学で出現しますし、概念自体難しいものではありません。
では、どう答えますか?
素数って何でしょうか?
\(1\)とその数でしか割り切れない数です。
では\(2\)は素数ですか?
素数ですね。
でも、\(2\)は\(2\)でも\(-2\)でも割り切れますよね?
ということは素数じゃないのではないですか?
確かに…その通りだ…
すごいね!気が付かなかった。
助け舟を出そう!
まずAくん、素晴らしい指摘だと思う!
そしてBさん、真摯に受け止めていて偉い!
私だったら投げ出しちゃうかもしれない。
さて、実は素数は「\(1\)とその数でしか割り切れない数」では不十分なんですよね。
「”真摯に受け止めていて偉い!”だなんて何様だよ」という気もしますが、お手柔らかに…
素数とは何か?(厳密な話)
確かに、直感的には素数は「\(1\)とその数でしか割り切れない数」です。
しかしながら、Aくんが指摘した通り\(2\)は素数ではなくなってしまいます。
では、素数というは一体何でしょうか?
答えは、
です。
つまり、素数は必ず正の整数であり、そして考える約数も正のものだけなのです。
故に、\(2\)は素数となるわけです。
厳密に明示しておきます。
素数
\(p\neq1\)が正の整数で、\(p\)の正の約数が\(1\)および\(p\)のみであるとき、\(p\)を素数(prime nubmer)という。素数以外の正の整数は?
正の整数は素数だけではありません。
素数でない正の整数もあります。
\(4\)とか\(6\)とか\(9\)などがそうですね。
このように、正の整数で、\(1\)とその数以外にも正の約数を持つような数は合成数と呼ばれます。
合成数
\(n\)が正の整数で、\(1\)および\(n\)以外にも正の約数をもつとき、\(n\)を合成数という。なぜ\(1\)は素数に含まれないのか?
どうして\(1\)は素数に含まれないのでしょうか。
それは次回解説する素因数分解定理を学ぶと分かると思います。
詳しくは次回解説しますが、一言で言えば、
です。
少しネタバラシしておくと、\(1\)を素数に含めてしまうと、素因数分解の一意性が成り立たなくなってしまうのです。
ほかの理由としてはエラトステネスのふるい(平たく言えば、虱潰しに素数を探索するアルゴリズム)と関係があります。
素数のよく使う性質
素数に対する事実は星の数ほどあります。
それほど素数というのは研究対象として非常に面白い性質を持っているということになります。
筆者は整数論を専門的に学習、研究したわけではありませんが、素数における最も重要な事実は素因数分解定理だと感じています。
(その他にもたくさん重要な事実はありますが、1つ選べといわれたら素因数分解定理を挙げます)
今回は素因数分解定理の証明にも使いますが、広く整数論で使われる素数の事実を証明します。
定理1.
\(p\)を素数、\(a_1,a_2,\cdots,a_n\in\mathbb{Z}\)とする。このとき\(p|(a_1a_2\cdots a_n)\)ならば、\(p\)は\(a_i\ (1\leq i\leq n)\)のうち少なくとも1つを割り切る。定理1.の証明
数学的帰納法で証明します。
①\(n=1\)のとき
これはほぼ証明の必要がありませんが、\(p|a_1\)であれば、\(p\)は\(a_1\)を割り切るため成り立ちます。
②\(n=2\)のとき
\(a_1a_2\)が素数\(p\)で割り切れるとします。
\(a_1\)と\(p\)の最大公約数\(\gcd(a,p)\)は\(p\)の約数でもあるから、
$$
(\exists k_1\in\mathbb{Z})\ {\rm s.t.}\ p=\gcd(a_1,p)\cdot k_1
$$
です。
今、\(p\)は素数ですので、\(1\)か\(p\)自身でしか割り切れません。
故に、
- \(\gcd(a_1,p)=p\)かつ\(k_1=1\)
- \(\gcd(a_1,p)=1\)かつ\(k_1=p\)
のいずれか一方が成り立ちます。
仮に1.が成り立ったとします。
すなわち、\(\gcd(a_1,p)=p\)かつ\(k_1=1\)だとします。
このとき、\(\gcd(a_1,p)\)は\(a_1\)の約数でもあることから
$$
(\exists k_2\in\mathbb{Z})\ {\rm s.t.}\ a_1=\gcd(a_1,p)\cdot k_2
$$
です。
今、\(\gcd(a_1,p)=p\)であるため、\(a_1=p\cdot k_2\)となるから、\(a\)は\(p\)で割り切れます。
一方、2.が成り立ったとします。
すなわち、\(\gcd(a_1,p)=1\)かつ\(k_1=p\)だったとします。
このとき、次の事実を使います。
定理2.
\(a,b,c\in\mathbb{Z}\)とする。\(\gcd(a,b)=1\)で、かつ\(bc\)が\(a\)で割り切れるならば、\(c\)は\(a\)で割り切れる。定理2.の証明は【代数学の基礎シリーズ】初等整数論編 その4を御覧ください。
定理2.において、\(a=p\)、\(b=a_1\)、\(c=a_2\)とすると\(p|a_2\)が成り立ちます。
したがって、\(p\)は\(a_1\)および\(a_2\)のうち少なくとも一方を割り切ります。
③\(n=k\)のとき成り立つと仮定する。
すなわち、\(p|(a_1a_2\cdots a_k)\)ならば、\(p\)は\(a_i\ (1\leq i\leq k)\)のうち少なくとも1つを割り切るとします。
すなわち、
$$
(1\leq \exists i\leq k)\ {\rm s.t.}\ p|a_i
$$
とします。
さて、\(p|(a_1a_2\cdots a_ka_{k+1})\)とし、\(A=a_1a_2\cdots a_k\)とします。
すると、仮定は\(p|Aa_{k+1}\)と書き換えられます。
このとき、②により\(p|A\)または\(p|a_{k+1}\)となります。
さらに仮定から、
$$
p|a_1\ \lor\ p|a_2\ \lor \cdots \lor \ p|a_k
$$
であるため、
$$
p|a_1\ \lor\ p|a_2\ \lor \cdots \lor \ p|a_k\ \lor\ p|a_{k+1}
$$
となります。
したがって証明完了です。
定理1.の証明終わり
素数についての個人的に面白い定理
ここでは素数について個人的に面白い定理を紹介します。
素数は無限個存在する。
「アタリマエじゃないか?」と思うかもしれません。
勿論そうなのですが、これは主張そのものが面白いというというよりも、証明方法が有名なのです。
定理3.(ユークリッド)
素数は無限個存在する。定理3.の証明
背理法で証明します。
仮に、素数が高々有限個しか存在しないとします。
その素数すべてを\(p_1,\cdots,p_n\)と書いたとします。
このとき、自然数
$$
N=p_1\cdots p_n+1
$$
を考えると、\(p\)はどの素数\(p_1,\cdots,p_n\)でも割り切れません。
したがって素数となり、新たな素数が出現します。
仮定は素数が\(p_1,\cdots,p_n\)だけというものでしたので矛盾です。
定理3.の証明終わり
これはユークリッドの証明です。
『原論』に書かれていて、紀元前に証明されたものです。
個々で驚きなのが、紀元前にユークリッドが背理法を巧みに使っていた、ということです。
ちなみに、『原論』は幾何学についての書籍というイメージがあるかもしれませんが、整数論についての命題も数多く書かれています。
素数定理(証明はしません)
素数定理は何を主張する定理なのか?というと、
です。
素数を並べてみると、飛び飛びだったり連続して出たりしますが、それがどのくらいの割合で出現するのかということを表わしている定理なのです。
素数定理
任意の正の数\(x\)に対して、\(x\)を超えない素数の数を\(\pi(x)\)で表す。このとき、 $$ \lim_{x\to\infty}\frac{\pi(x)}{\displaystyle\frac{x}{\log x}}=1 $$ が成り立つ。すなわち、\(\displaystyle\frac{x}{\log x}\)は\(\pi(x)\)の漸近値を表わしている、ということになります。
この定理はガウスが予想したものですが、約100年後にアダマールとバレ・プサンがほぼ同時に証明しました。
何が面白いかというと、単に「へえ!素数の分布って分かるんだ!」ということでもありますが、\(\pi(x)\)のような不連続であるような関数と\(\displaystyle\frac{x}{\log x}\)という初等関数の間に定理のような関係が成り立つということに驚いたのです。
皆様のコメントを下さい!
オイラーの公式
$$
e^{i\theta}=\cos\theta+i\sin\theta
$$
は世界一美しいと言われています。
皆様はこの数式のどの部分が「美しい」と思いますか?
是非コメントで教えて下さい!
結
今回は「素数とはなにか?」ということから、素数の基本的な性質を述べました。
また、素数定理についても紹介程度ですが述べました
素数は整数論を語る上では絶対に避けては通れない概念です。
それは素因数分解というものが誠に強力だからです。
素数は「1とその数でしか割り切れない数」と説明されがちですが、実はそれは厳密ではないのです。
次回は素因数分解定理を解説します。
乞うご期待!
質問、コメントなどお待ちしております!
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(難しかったらもう少しかかるかもしれませんが…)
初等整数論について、以下の書籍をオススメします!
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