本記事の内容
本記事は「数学の文章って何言ってるかわかんない」、「論理的ってどういうこと?」、「数学の勉強をしてみたいけど、何が書いてあるか読めない」という方向けである。
そういう方に向けて、命題の否定および真理値表について解説する。
※「命題って何?」という方は以下(前回の記事)をご参照ください。
序
命題の証明をする際、その否定に興味がある場合がある。
例えば、「背理法」という証明方法を用いるときに命題の否定の概念が必要になる。
次の命題(厳密にはすでに真なることが証明されているため定理だが)を考えてみよう。
定理1.「素数は無限個存在する。」
これは前回の記事の余談で述べたユークリッドが証明した命題(故に定理)なのだが、どう証明するだろうか。この定理の証明方法は数多く存在するがユークリッドは背理法を用いて証明した。
つまり、
「素数が有限個しか存在しない場合、矛盾が起こる。」
ことを示すことで定理1を示した。(なぜこれで証明したことになるのか、というのは後述する排中律および無矛盾律の部分で少し述べます。)
このように証明という操作を行うときに否定の概念が必要になる場合があるのである。
「難しそうだな」と思うかもしれないが、実はそうでもない。
前回の記事でも述べたが、数学の主張、特に命題の真偽は人間の直感とは全く関係が無いので規則性さえ覚えてしまえば(論理規則とはそういうものだ、と割り切ってしまえば)なんてことないのである。
否定
命題\(p\)について「\(p\)でない」ということを「\(p\)の否定(negation)」とよび、「\(\lnot p\)」で表す。読むときには「\(p\)でない」または「not \(p\)」という。
また、命題\(p\)の否定を表す記号として、\(\bar{p}\)やら\(〜p\)という記号を用いることもある。
本シリーズでは一貫して\(\lnot p\)を用いる。
命題を否定するという操作は英語で考えるとわかりやすい。
「A is B.」という命題を「A is not B.」という命題に直す操作が否定の操作である。
(例)
(\( p_1 \)):「円周率は有理数である。」 の否定は (\(\lnot p_1 \)):「円周率は有理数でない。」
(\( p_2 \)):「\(1+1=2\)」 の否定は (\(\lnot p_2 \)):「\( 1+1\neq 2\)」
(\( p_3 \)):「\(\sqrt{10}>\pi\)」 の否定は (\(\lnot p_3 \)):「\( \sqrt{10}\leq \pi\)」
ここで、疑問が生まれるかもしれない。というのも「命題の否定もまた命題なの?」ということである。答えは「命題の否定もまた命題である。」である。
命題というのは「正しいか、正しくないかか判定できる主張」だった。
この命題を否定したところで、あくまで変わるのは真偽なのであって、正しいか、正しくないかを判定できなくなるわけではない。
例えば、「円周率は有理数である。」という主張の否定は「円周率は有理数でない。」である。
これらは真偽は異なるが正しいか、正しくないを判定する事ができる。
多少余談になってしまうのだが、筆者が初めてこの「否定」を学んだときの課題で次のようなものが出た。
「私はヨドバシカメラで冷蔵庫を買う。」を否定しなさい。
これは命題ではないのだが、否定の操作の訓練として良い問題だなと思ったのを覚えている。
解答は「私はヨドバシカメラで冷蔵庫を買わない。」であるが、筆者は最初「要は全部逆さまに(否定)すりゃいいんでしょ?」と思って次のように書いた。
「私以外の全員はヨドバシカメラでない場所で冷蔵庫でないものを買わない。」
当然、これは間違いである。
なぜならば、先の主張を英語にすると
「I buy a refrigerator at YODOBASHI-CAMERA.」
であるため、その否定は
「I do not buy a refrigerator at YODOBASHI-CAMERA.」
であるから「私はヨドバシカメラで冷蔵庫を買わない。」がこの主張の否定となるわけである。
つまり、全部を全部否定すればいいのではなく、「買う」という主張を否定する必要があるので、間違いなのである。
排中律および無矛盾律
矛盾(contradiction)とは、ある命題\(p\)とその否定\(\lnot p\)が同時に真であることをいう。
実は、本記事では暗に認めていたことがある。それは「排中律」と「無矛盾律」である。
これらはそれぞれ
排中律(The Principle of Excluded Middle):任意の命題\(p\)について、\(p\)または\(\lnot p\)のいずれか一方が成り立つ。
無矛盾律(The Law of Noncontradiction):任意の命題\(p\)について、\(p\)と\(\lnot p\)が同時に成り立つことはない。
である。
故に無矛盾律は「矛盾が存在しない」と言い換えることができる。
ちなみに、”任意の”とは”すべての”、”どんな”という意味である(詳しくは別記事を書きます)。
それぞれを言い換えれば、排中律は「正しいか正しくないかどちらとも言えない、なんてことは起こりません」ということである。
また無矛盾律は「どんな命題も、正しいくもあるが正しくなくもある、なんてことは起こりません」ということである。
排中律を認めているおかげで、「真の否定は偽」であることが保証されるのである。この排中律がなければ、「その主張は正しくはないけど、あながち間違っているというわけでもないな」なんてことが起こってしまうのである。これは数学において意味をなさない主張である。
例えば、Aさんは「Cさんってカツラかぶってるよ。」と主張し、一方Bさんは「Cさんはカツラをかぶってないよ。」と主張していたとする。
この場合、論理の世界では排中律が認められているため、「Cさんはカツラをかぶっているし、カツラをかぶってはいない」なんてことは起こり得ない。
すなわち、AさんかBさんのいずれか一方が嘘をついている、ということが保証される。
さらに、冒頭で述べた背理法は排中律と無矛盾律を認めているおかげで、正しい証明の手法として認められている。
背理法は「命題\(p\)が真であること」を証明するために、「\(p\)が成り立たない」、つまり\(\lnot p\)が成り立つと仮定して矛盾が起こることを示す証明方法である。
排中律により、\(p\)か\(\lnot p\)のいずれかが成り立つ。\(\lnot p\)が成り立つと仮定すると矛盾が生じるならば、無矛盾律により\(\lnot p\)は成り立たないということが導かれれる。
よって\(p\)が成り立つのである。
(「ならば」についてはまだやっていないので、「ふーん。そうなんだ」くらいでいいです。)
排中律が強力なのは「真の否定は偽であることの保証」だけにとどまらない。というのも、次の命題を考えてみる。
「\(4\)以上のすべての偶数は\(2\)つの素数の和で表すことができる。」
これを真か偽かをパッと判別せよ、というのは難しいと思われれる。
しかし排中律を認めることで、正しいか、正しくないかのどちらかしかありえない、ということが保証されるのである。
つまり、真偽を判別しにくい命題に対しても正しいか正しくないかのどちらかしかありえないのだ、ということが保証されるのである。
結
今回は【論理と集合シリーズ】その2ということで「否定」について解説した。
要するに、命題\(p\)に対して\(p\)でない、を\(p\)の否定といい\(\lnot p\)で表す。
次回は「真理値表」、「かつ(論理積)」、「または(論理和)」、「ならば」を解説する。長丁場になるが、誠に重要な単元であるので、ぜひ呼んでいただきたい。
乞うご期待!
質問、コメントなどお待ちしております。
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