本記事の内容
本記事は、オイラーのφ関数の重要な性質φ(ab)=φ(a)φ(b)を証明する記事です。
本記事を読むに当たり、オイラーのφ関数について知っている必要があるため、以下の記事も合わせてご覧ください。
前回の軽い復習
そもそも、オイラーのφ関数とは何だったか?ということも含め、前回説明したことについて軽く復習します。
オイラー関数とは何か?
n以下の自然数に対し、nと互いに素な整数の個数を対応させる関数φ:N⟶Nをオイラーのφ関数と呼ぶのです。
オイラーのφ関数
関数φ:N⟶Nを、n∈Nに対して書き方は色々ありますが、例えば以下のように書くことができます。
φ(n)=|{x∈N|x≤n, gcd(x,n)=1}|=∑x∈Nx≤ngcd(x,n)=11
オイラーのφ関数の性質
定理1.
φ:N⟶Nをオイラーのφ関数、p∈Nを素数とする。このとき φ(p)=p−1 である。すなわち、p以下の自然数で、pと互いに素な自然数はp−1個存在する。定理1.の証明は【代数学の基礎シリーズ】初等整数論編 その16を御覧ください。
定理2.
φ:N⟶Nをオイラーのφ関数、p∈Nを素数、e∈Nとする。このとき φ(pe)=pe−pe−1 である。すなわち、pe以下の自然数で、peと互いに素な自然数はpe−pe−1個存在する。定理2.の証明は【代数学の基礎シリーズ】初等整数論編 その16を参照して下さい。
定理3.
n∈Nを定理3.の証明は【代数学の基礎シリーズ】初等整数論編 その16を参照して下さい。
この記事で言いたいこと
一言で述べれば
です。
オイラーのφ関数の性質(乗法性)
本記事では2種類の証明を解説します。
と、その前に(既約類と既約の代表の一組)
ここでは、以下の証明で使う言葉を定めます。
nを法とするときの数の類の中でnと互いに素である数のみを含むものをnを法としての既約類と呼ぶことにします。
すると、nを法としての既約類の個数が、すなわちφ(n)なのです。
既約類
n∈Zを法とするときの整数の剰余類の中で、nと互いに素である整数のみを含むような剰余類をnを法としての既約類と呼ぶ。さて、nを法としての各剰余類を代表するn個の整数の一組の中から、既約類を代表するφ(n)個だけをとって、そのφ(n)個の剰余類を既約代表の一組と呼ぶことにします。
既約の代表の一組
nを法としての各剰余類を代表するn個の整数のうち、既約類の代表であるようなφ(n)個の整数から成る組を、nを法としての既約代表の一組と呼ぶ。主張の明示
では、主張を明示します。
定理0.
φ:N⟶Nをオイラーのφ関数とする。a,b∈Nに対して gcd(a,b)=1 ⟹ φ(ab)=φ(a)⋅φ(b)今回は、この定理の2種類の証明を解説します。
証明その1(ちょっと難しい)
定理0.の証明(パターン1)
仮定からa,b∈Zはgcd(a,b)=1ですから、任意のk∈Zは
ay+bx=k(x,y∈Z)
という形で書くことができます。
なぜなら、次が成り立っているからです。
定理4.
一次の不定方程式 ax+by+cz=k(a,b,c,k∈Z) が整数解を持つための必要十分条件は、kがd=gcd(a,b,c)で割り切れることである(変数の数は任意)。定理4.の証明は【代数学の基礎シリーズ】初等整数論編 その6を御覧ください。
今、abを法として考えたとき、xをaの倍数だけ増減したとしても、またはyをbの倍数だけ増減しても、ay+bxはabの倍数だけ増減します。
実際、r,s∈Zとしたとき、
ay+bx−{ay+b(x+ra)}=ay+bx−ay−bx−ab⋅r=abray+bx−{a(y+sb)+bx}=ay+bx−ay−ab⋅s+bx=abs
となるため、
ay+bx≡ay+b(x+ra) (mod ab),ay+bx≡a(y+sb)+bx (mod ab)
であるからです。
したがって、ay+bxなるに置いては、xにはaを法としての各剰余類の代表の一組であるようなa個の値を与え、またyにはbを法としての代表の一組であるb個の値を与えるときに、この式ay+bxから出てくるab個の値は、abうぃお法としての各類の代表の一組でなければなりません。
このようにして、ay+bxから得られるab個の値の中から、法abと互いに素でないものを取り除けば、abを法としての既約代表の一組を得るのです。
ただ、gcd(x,a)≠1だった場合、gcd(x,a)∣ay+bxであり、またgcd(y,b)≠1である場合もどうようですから、ay+bxにおいてxがaと互いに素でないものとyがbと互いに素でないものは取り除かなければなりません。
故にgcd(x,a)=1、gcd(y,b)=1とすれば、
であるから、gcd(ay+bx,ab)=1となります。
したがって、ay+bxにおいて、xにはaを法としての既約代表の一組の値(φ(a)個)、またyにはbを法としての既約代表としての一組(φ(b)個)を与えるときに、ay+bxが取るφ(a)φ(b)個の値は、abを法としての既約代表の一組ということになります。
故に、
φ(ab)=φ(a)φ(b)
です。
定理0.の証明終わり
主観ですが、この証明はちょっと難しい(分からなかったからどうだと言う話ではなくて)と感じました。
ただ、剰余の話を理解する上では良い頭の体操になると思いましたので載せました。
一方で、もっと正直な証明もありますので、それも紹介します。
証明その2(正直)
では、行きましょう。
定理0.の証明(パターン2)
1,2,⋯,mnをmで割った余りでm個の集合に分ける、ということを考えます。
mn以下でありmで割った余りが0≤r≤m−1であるような整数の集合Xrは以下のように書けます。
Xr={0×m+r, 1×m+r, 2×m+r,⋯,(n−2)×m+r, (n−1)×m+r}={r, m+r, 2m+r,⋯,(n−2)m+r, (n−1)m+r}
このXrを用いることで
{1,2,⋯,mn}=m−1∐r=1Xr
と書くことができます。
ただし、∐は共通部分が空集合であるような和集合を表す記号です。
この各Xr (0≤r≤m−1)の中から、mnと互いに素であるような整数を数え上げます。
それがφ(m)φ(n)個であれば証明完了です。
まず、r=0の場合を考えます。
このとき、
X0={0, m, 2m,⋯,(n−2)m, (n−1)m}
です。
すなわち、X0の要素は全てmの倍数です。
したがって、X0の要素の中にmnと互いに素な自然数は存在しません。
次に、r≠0の場合、すなわち0<r<m−1の場合を考えます。
- gcd(r,m)=d≠1である場合(つまり、rとmが互いに素でない場合)
このとき、dはrとmの最大公約数ですので、
r=k1d,m=k2d(k1,k2∈N)
と書くことができます。
するとXrは
Xr={k1d, k2d+k1d, 2k2d+k1d,⋯,(n−2)k2d+k1d, (n−1)k2d+k1d}={k1d, d(k2+k1), d(2k2+k1),⋯,d[(n−1)k2+k1]}
となります。
故に、Xrの要素はすべてdの倍数です。
一方で、今回の場合はmn=d⋅k2nですから、mnもdの倍数です。
d≠1だったため、gcd(r,m)≠1のときは、Xrの要素にmnと互いに素であるような整数は存在しません。 - gcd(r,m)=1である場合(つまり、rとmが互いに素である場合)
Xrの要素を再掲すると
Xr={r, m+r, 2m+r,⋯,(n−2)m+r, (n−1)m+r}
でした。
今、gcd(r,m)=1のため、Xrのどの要素もmで割り切れない為、
(∀x∈Xr)gcd(x,m)=1
です。
さらに、Xrの要素をnで割った余りは全て異なります。
仮に、Xrの要素にnで割ったときの余りが一致しているペアがあったとします。
それをs,t∈Nを用いてsm+r, tm+rと書きましょう。
ただし、s>tとし、0≤s,t≤n−1に注意です。
するとこれらは0≤R≤n−1を用いて
sm+r=l1⋅n+R,tm+r=l2⋅n+R(l1,l2∈N)
と書けます。
このときsm+r−(tm+r)=(s−t)mであり
(s−t)m=(l1−l2)n
となるため、(s−t)mはnの倍数です。
今0≤s−t≤n−1であるので、s−tはnで割り切れないからmがnで割り切れることになります。
しかしながらこれは仮定gcd(m,n)=1に矛盾します。
故に、Xrの要素をnで割った余りは全て異なります。
さて、Xrの要素をnで割った余りは全て異なることに加え0からn−1の自然数の全てを網羅するから、Xrの要素のうちφ(n)個がnと互いに素ということが分かります。
このような類はφ(m)個存在するわけですので、結局はgcd(m,n)=1のとき
φ(m,n)=φ(m)φ(n)
です。
定理0.の証明終わり
計算で確かめてみる
では、実際に確かめてみましょう。
前回挙げた例を使います。
φ(100)を求めてみます。
100以下の自然数で、100と互いに素な自然数は
1, 3, 7, 9, 11, 13, 17, 19, 21, 23, 27, 29, 31, 33, 37, 39, 41, 43, 47, 49,51, 53, 57, 59, 61, 63, 67, 69, 71, 73, 77, 79, 81, 83, 87, 89, 91, 93, 97, 99
ですので、φ(100)=40です。
100=4×25でgcd(4,25)=1です。
φ(4)=2,φ(25)=φ(52)=52−51=20
ですから、たしかに2×20=40で一致していますね。
皆様のコメントを下さい!
この記事が投稿されるのは5月14日の深夜だと思います。
2023年においては「母の日」ですね。
皆さんは母の日に何かプレゼントを贈りましたか?
ぜひ教えて下さい!(実は筆者はどんなプレゼントにしようかと迷っています)
結
今回は、オイラーのφ関数の性質である乗法性について解説しました。
オイラーのφ関数の性質のうち、最も基本的といえるでしょう。
この乗法性からオイラーのφ関数の積形式が証明できます(前回証明済み)。
次回もオイラーのφ関数の性質のうち重要なものを解説します!
乞うご期待!
質問、コメントなどお待ちしております!
どんな些細なことでも構いませんし、「定理〇〇の△△が分からない!」などいただければお答えします!
初等整数論について、以下の書籍をオススメします!
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